「みんな!夏祭り行こうぜ!」
雷門サッカー部の練習―― 唐突な円堂の提案であったにもかかわらず、 ――とはいえ、長らくこの稲妻町で暮らす人間からすれば、
「もうそんな時期か」
思い出したようにポツリと漏らしたのは染岡。 規模としては平均的なものではあるものの、
「今年は大所帯になりそうだなっ」 「ああ!今年はもっと楽しくなるぞ!」
嬉しそうに夏祭りへの期待を膨らませるのは、半田と円堂。 もしかすると、「来年は後輩をたくさん連れて――」と希望を語っていたのかもしれない。
「…商店街の――か?」 「稲妻神社の、よ。……というか、知らなかったの?」 「…ああ、この手の行事にかまけている
自嘲まじりにそう答えるのは、私の横に立っている鬼道。 数ヶ月前まで隣町に住んでいたわけだが―― …まぁ、鬼道って結構「コレ」と決めると「コレ」しか見えなくなるタイプ…だからなぁ…。 …勝手に辺見くん辺りが主導で、遊びに来てるかと思ってたんだけど……。
「なら、今年から存分に楽しみなさいよ。 「…ああ、そうだな」
既に夏祭りの話題だけでワイワイと盛り上がっている円堂たち。 ただ、だからと言って――
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ガッチリと、雷門サッカー部に練習を課した私。 FFI以降、雷門サッカー部の監督となった久遠さん。 オレンジ色に染まる空――まだ日は沈んでおらず、
「普通の浴衣も持ってたんだ」
感心――というか意外そうな表情で、浴衣を着た私を見てそう言うのは同居人の一哉。 男子の浴衣は女子と比べるとだいぶ簡単に着られる――はずなのだが、 …因みに、一哉が「
「……お前のはともかくとして、俺たちの浴衣までよく用意できたな」
そう後ろから言葉を投げてくるのは――
「知り合いに頼んでおいたのよ――まぁ、アンタたちのはついでだけど」 「…ついで?自分の浴衣の??」 「ふーゆーかーの〜」
自分で言って、つい頬が緩む。 秋も、春奈も、夏未も――そして私も持っている浴衣。 しかし、一人だけ洋服というのもなんだ――と、いうより、 ――と、そんな感じで知り合いに冬花の写真を送って「似合いそうなの」と頼み、 …しかし、あの漠然とした情報で、
「ふふふ〜、あー冬花の浴衣姿楽しみ〜〜」 「……なにか間違ってないか、それは………」 「まぁ…楽しみは人それぞれ…かな?」
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夏祭りに繰り出すことになった雷門サッカー部。 かく言う私――というか御麟家(居候含む)も、
「ああっ…天使が…!天使がいるっ…!」
視界の奥――で、パタパタとこちらに向かって手を振っている影が一つ。 白地に桃色の花柄があしらわれた浴衣に、フワフワとした濃い桃色の兵児帯。 ――と、あまりの夕香ちゃんの可愛さに、 いやー、夕香ちゃんも一緒に――とは聞いていたからある程度の覚悟はしていたけど…… ――なんて、考えている内に、
「こんばんはっ」 「はい、こんばんは」
ニコニコと上機嫌で挨拶をしてくれる夕香ちゃん。 …その隣にいたお兄さんが微妙な顔をしていたが、そんなことはこの際無視しよう。
「ねぇねぇ!浴衣っ、夕香に似合ってる?」 「ええ、凄く似合ってるわ。夕香ちゃんの浴衣姿、すっごく可愛い」 「ホント!?あのねっ、あのねっ!この浴衣ね!お兄ちゃんが選んでくれたんだよ!」 「……へ、ぇ――ぇ?」
思いがけず持ち上がった人物の名に、 私――どころか、一哉たちも含めた、意外――というか、
「……以前、女子の浴衣について尋ねたことがあっただろう」 「…………あ」
豪炎寺に言われてふと思い出す。 …しかしそうか。
「夕香ちゃん、あとで一緒に写真、撮ろうね」 「うん!お兄ちゃんたちも一緒に撮ろうね!」 「ああ、そうだな」
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夕香ちゃんと手を繋ぎ、カラコロと下駄を鳴らしながら歩いて歩いて――今は駅前。 夕香ちゃんの歩調を合わせているので、私たちの歩みはいつもよりだいぶ遅い。
「――待った?」 「ううん、電車が遅れてたからそんなにっ」
そう言って、嬉しそうに笑うのは――隣町からやってきた虎丸。 足を伸ばせない距離ではないし――と思い、 最後の合流者であった虎丸と合流したことで、あとは目的地である稲妻神社へ向かうだけ。 夕香ちゃんの学校での話を聞きながら、
「…なんか、夕香ちゃんと親子――みたい、ですよね」 「あー、『お母さんわかーい』って、勘違いしてる人、いたいた」 「……若いどころの話ではないがな」 「…ですよね。7歳の時に産んだ――って話になっちゃいますから」 「それもそうだけど、知らない人にはいくつに見えてるんだろ?一番若くて23歳…だけど……」 「…近年の出産年齢の平均が27……だったか…」 「「………34歳??」」
やめろ。やめろバカ共。 で、でも、ささ、さすにがそれはないだろう…!?
「ま、まぁでも!最近だと『美魔女』って言われるお母さんもいるし…ね?!」 「…それに、アイツ自身も歳相応とはいえないしな」 「「…………ぇ?」」 「…浴衣が、だ。周りを見てみろ」 「……あ〜…。確かにちょ――いや、だいぶ…大人っぽい??」 「似合ってるんですけど――ね?」 「…似合いすぎている――のかもな」
…後方にいる男子三名よ。
「…お姉ちゃんどうしたの?」 「あ、えと………」
表面上は、平静を保っていたつもり――だったのだが、 ああいっそ――
「夕香ちゃんは、お姉ちゃんとお兄ちゃん――どっちが好き?」 「…な゛……?」 「ぇ…ぇえっ…と……!…どっちも!!」 「そっかー、なら 「??」 「……は?」
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紆余曲折が(私の精神に)ありながらも、ついにたどり着いた稲妻神社――の鳥居前。 …正直、先の一件で結構精神力を根こそぎこき下ろされたような状態だったのだけれど――
「みなさーん!こっちですよー!」
こちらに向かって大きく手を振るのは―― 去年は薄ピンクの浴衣だった――ので、 して、その春奈の隣にいるのは―― 昨年は白ベースの清楚な浴衣だったけれど、 そしてその更に隣にいるのは―― 優しい色を、爽やかに調和させており、なんとも秋のイメージにぴったりで。 春奈、夏未、秋――ときて、最後に目に入ってきたのは―― ああ、やっぱり冬花は浴衣が似合う。
「わ〜夕香ちゃん、その浴衣可愛いね〜」 「えへへ、ありがとう!春奈ちゃんの浴衣も可愛いよ!」
きゃいきゃいとお互いの浴衣を褒めあう妹’s。 …まぁ、兄じゃなくてもあれは可愛いですけどね。
「…さすがに、今回ばかりはしてこなかったのね」
少し呆れたような表情で、そう言いながら私の元へ近づいてきたのは――夏未。 因みに、してこなかったのか――と、夏未がいうのは男装のこと。 …そう、いつもなら、男装はそういう意味があってすることなんだけれども――
「あー…いや、正直……したかった…のよ?」 「………何か、あったの…?」 「実は――」
さすが、お付き合いの長い夏未。私の僅か――いや、これは寧ろ露骨だったか。 ――私、外見まで老け込んでるのかなァ?!
「夏未っ…お願いだから私を見て…!というか何とか言ってぇ……!」 「…………」
夕香ちゃんと親子に間違われた――それを聞き、そろりと私から視線を逸らした夏未。 くっ…!友人にまでそう思われるとか、もう救いようがないじゃない…!
「………あなたに、言っておきたいことがあるのだけど」 「……………関白宣言?」 「……――みんな揃ったわね?なら、そこの年増は放って行きましょう」 「ちょっ…夏未ー!?」
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うっかり、夏未に「年増」認定された私。 しかも、そんなこと言ってくれちゃいやがった円堂を、 ホント、覚えとけよ円堂……!次の練習、ヒーヒーのヒーと言わせてやるからな…!
「…ゴメン、なさい……」
稲妻神社の境内に開かれた出店を見て回る中、 ちょっとの仕返しのつもりで言っただけで――
「いいのよ。元を正せば――ついノリで 「もう…またそうやって……」 「それよりいいわけ?せっかくの夏祭り――また、お兄さんとまわりたいのかな?」 「っ〜〜〜バカっ!!」
男装した体で、口説き文句の調子で言う――と、 かつかつと一人で先に進んでいく夏未。 …怪我の功名でなにかあったら――…秋と冬花になんか申し訳ないな!
「ぅうむ……難しいわねぇ………」 「…なにが、だよ……」
呆れたような口調でそう言いながら、私の横にやってくるのは――風丸。 ふむ、来年は無理やり着せてやるものアリかもしれない――
「……な、なにかある…のか?」 「んー?ただ風丸に浴衣、着せたかったなーと」 「…………はぁ…。そんな調子で、雷門のことからかってたのか?」 「失礼ね、からかってないわよ――風丸のことは」 「…なら、雷門のことはからかってたんだな……」 「そりゃあねぇ?あんな可愛い夏未を前に、からかうなって方が無理な相談よ――
本音を言えば、からかった――というよりは、 …しかし、モテる割に、色恋に疎いらしい風丸は私の言葉の裏を疑うこともせず――
「……怒ってた――のか?」
――と、新たな話題をふってくる。 …女子限定の
「ああ、聞こえてた?でも、怒ってないわよ――夏未のことは」 「…は?」 「円堂に対しては、割と怒ってるわね――特訓で扱き倒してやろうと思うぐらいには」 「ああ……確かに…アレは………なぁ……」
私が口を滑らせた――確かに、それがそもそもの原因ではある。 ……でも、
「…なんか、無性に腹が立ってきたわ――染岡に対して」
あの野郎、自分のこと棚に上げて大爆笑してくれおって…! アイツの方こそ大概に中学生の外見じゃないってのよ…!
「ねー!お姉ちゃん見て見てー!」 「――あら、可愛い金魚。上手に掬えたのね」 「うんっ、空介くんがねっ、教えてくれたの!」
どうもこうもない怒りの矛先が染岡に向いた――ところで、 あまりも絶妙なタイミングでの登場に、わずかに作為的なものを感じなくはない――が、 …命拾いしたな、染岡よ。
「…いい、のか?」 「ええ、いいわよ――もうどーでも〜」 「……結構安いよな、お前…」 「ふふふ、可愛い子の笑顔は金よりも価値があるものなのよ〜」
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出店の並んだ境内を抜け、人もまばらになり、賑やかさとは少し距離を置いた――拝殿前。 他愛もない会話をしながら拝殿前まで来たところで、 普段であれば設置されている鈴も、
「ちゃんとお願いできた?」 「うん!お友達がたくさんできますよーに、って!」 「そう、きっと叶うわ。夕香ちゃんなら」 「うん!」 「…お前はいいのか?」
預かっていた金魚を夕香ちゃんに返していると、不意に豪炎寺が「いいのか」と尋ねてくる。
「いいのよ、私は」
神様なんて信じてないから――なんて、理由じゃない。 罰当たりだが――明日、色々奉納するからいいじゃない。
「夕香ちゃん、鷹に興味ある?」 「…鷹?」 「茶色の大きな鳥だ――沖縄の写真で見せたことがあるだろう?」 「あ!お兄ちゃんの手に乗ってた大きな鳥さん?!」 「そうそう。その鳥さんのショーを明日のお昼にここで 「…見に来てって……、…出るのか?」 「ええ、数合わせと客引きに――って、駆り出されるのよ」
あまり、知られていないけれど、稲妻神社では毎年、地元の鷹匠による …実のところ、これも列記とした神事の一つなのだが―― ――とは思っても、鷹――我が愛鷹・紅尾を飼うにあたって
「…じゃあ、明日の練習は?」 「朝から欠席よ」 「…昼の実演だけ、なのにか?」
…まぁ、普通思うだろう――フルで休み必要があるのか、と。
「ふふふ、そういうなら―― 「「いえ、遠慮しておきます…」」
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「…意外に、
ある屋台の一角――食事スペースでポツリと漏らしたのは鬼道。 …まぁでも、それもそうか。一度も――鬼道を誘ったことなかったし。
「師匠が神主なこともあるけど、遠めの親戚やら、知人やら――に加えて、 「……手広く、やっているな…」
呆れと諦め混じりに、そう面白くなさそうに言う鬼道。 わかりやすく私が――
「ま、我が家の武器はコネとツテですから? 「……実践的だな…」 「ある種、英才教育よね―― 「…好きで、か?」 「そ、好きで――ね」
幼少期、お母さんに連れられて、 大切な仲間たちと、このお祭りで思い出を作ったことも事実――だが、 だから――私は好きで、このお祭りに関わっている。
「……なら、実行委員としてもっと宣伝するべきじゃないか?」 「隣町の人間にわざわざ宣伝する必要があるほど、 「…………」 「明日でも、明後日でも――佐久間くんたち、誘ってみれば?」
そう、鬼道に提案すれば、鬼道は観念した様子で「ああ」と返してくる。 残念だが、こればかりは私は悪くない。 ――さすがに、
「来年は、鬼道も手伝いなさいよ――ハードだけど」 「…それも、いい人生経験かもな」
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「ふふ、やっぱり眠っちゃったわねぇ」
豪炎寺の腕の中で、幸せそうに眠っているのは――夕香ちゃん。 夕香ちゃん一人抱えて店を回ることはできなくもない――が、
「……いいのか?」 「いいも何も乗り切らないし――私が夕香ちゃんを家に届けるっていうのも変じゃない」
帰宅する――にあたり、 おそらく、実行委員のおじさんたちの絡み酒に辟易していた蒼介――を、
「…お前が夕香を連れて行ってくれてもかまわないんだが……」 「気を使ってくれるのはありがたいけど―― 「………」 「満足そうな顔――…こんな顔見ちゃったら、ねぇ?」
年上に囲まれて――と、少し心配したけれど、そんな心配はまったくの杞憂に終わり―― ああ、そうであるなら、色々と我慢した甲斐も、あったというものだ。 後ろで「寒っ」と声を上げている約二名を無視して、
「明日、雷門イレブンのことお願いね」 「…うん、任せておいてっ」
自信を持って答えてくれた春奈に「ありがとう」と礼を言って、車のドアを静かに閉める。 春奈たちを乗せた車を見送り終え、体の向きを改めれば――
「2人とも、気をつけて帰ってよ」 「うんっ――それじゃ、失礼します!」
サイドカーに乗った状態でペコリと虎丸は頭を下げる。
「――さて、私たちも帰るわよ」
そう、残った雷門イレブンの面々に帰宅を促すと、 他愛もない会話をしながら歩を進める彼らの姿を見送りながら、
「…なに?」 「ボク、気づいたんだけどさー」
頭の後ろで手を組み、さもさもともったいぶって先を進んでいく松野。 なにを気づいたんだ――と、思いながらも、あえて急かすことはせず、
「所作に、問題があると思うんだよね――大人っぽく 「……所、作……ね…。……問題ない、と思ってたけど……」 「うん、だからそれが 「……は?」
松野が、意味の分からんことを言った。 私が老け――じゃない、大人っぽく見えすぎるのは、 …問題がないのが問題とはこれ如何に??
「わっかんなかなー?」 「わっかんないわねー」 「ふーん、そ――じゃあ、もう手の施しようがないかもね」 「ぇ、な…?!ちょっ……!」 「だーかーらっ、所作が堂に入りすぎてるんだよ――中学生にあるまじき色気付きで」 「「「ブッ!?!」」」
松野の指摘が、バラバラだった情報を一気に一つの答えに繋げた――
「……あ゛ー……これはもう…外面をどーにかするしかないわねぇ…」 「染み付いちゃってるわけ?それ」 「そーゆー部分を 「あー、やっぱり日舞なんだ、
ああ、ああ、ああ…。流派が違えば、まだ印象…違ったのかな……。 …というか、ある意味で最悪の組み合わせ、だったんだろうな……。
「……来年は、男装しようかな…」 「オカマと一緒に夏祭りには行きたくないなー」 「大丈夫よ…私の男装スキルは生半可なものじゃないから――ね!鬼道!」 「……………知らん……」
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〜 北 の 国 よ り 〜 「ボクもみんなと一緒に夏祭り、行きたかったな〜……」
阿呆なネタへのお付き合い、ありがとうございました!
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14/08/ 〜 14/10/04