イナズマキャラバンを離脱した豪炎寺。
円堂たちと別れた奈良から戻り、稲妻町にある自宅へと戻っていた。
豪炎寺が通っている雷門中は、校舎が破壊されてしまったため休校となり、
なにをすることもなく、豪炎寺はただ暇を持て余し――悔しさと不安に駆られていた。

 

「(夕香……)」

 

大切な実妹――夕香。
エイリア学園に夕香の身柄を拘束されては、豪炎寺に選べる選択肢は多くない。
エイリアの誘いを受けるか、
イナズマキャラバンから離れるか。
その2つの選択肢の中から豪炎寺は、イナズマキャラバンを離れるという選択をした。
あの状況で選べる選択肢としては最善だったとは思う。
だが、それでも夕香も助けられなければ、大切な仲間たちも助けることができない。
豪炎寺にとって、これほどの苦痛はなかった。
ネガティブに思考が沈む豪炎寺だったが、
不意に聞こえたコンコンという自室のドアがノックされた音でハッと我に返る。
平静を装って「はい」と豪炎寺が答えると、ドアの向こうから女性の声が聞こえた。

 

「修也さん、お客様がお見えですよ」
「客…?」

 

女性――家政婦のフクから返ってきた言葉に心当たりのなかった豪炎寺は思わず首をかしげる。
しかし、ここで留まっていても仕方がないと判断すると、
自室を出て「こちらです」と言うフクのあとに何も言わずに続いた。
フクに案内されるまま、リビングへと足を踏み入れてみれば、
そこには知った顔がまるで当然かのようにソファーに座っていた。

 

「あなたは……」
「こんにちは、豪炎寺修也君」

 

決まりきった挨拶を豪炎寺に向けたのは、
奈良で出会ったSPフィクサーズの補欠選手――堵火那勇。
しかし、奈良で会ったときのような黒のスーツは着ておらず、私服であろうラフな服装をしていた。
状況が読めず豪炎寺は戸惑ったが、
それを知ってか知らずか勇はとりあえず座るように豪炎寺を促した。
勇に促されるまま豪炎寺は勇の正面に腰を下ろす。
すると、フクがペコリと一礼してキッチンの方へと下がって行く。
それを気配で感じながらも、豪炎寺の視線は勇に向いていた。
ニュースでは財前総理がエイリア学園から開放されたと報道されている。
実際にそうなのであれば、補欠要員とはいえ、
総理大臣専属のSPである勇がこの場所にいるのはおかしいだろう。
冷静に考えても勇がこの場所に――自分を尋ねてきた理由がわからない。
自分の頭では考えるだけ時間の無駄だと感じた豪炎寺は、勇に質問をぶつけようとした――
が、それよりも先に勇が口を開いた。

 

「男旅しよう」
「…………」

 

真顔でそう言う勇に、豪炎寺は返す言葉がないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

也の男旅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんとん拍子でことは進み、
気付けば豪炎寺は自宅から飛行場、飛行場から――沖縄へとやってきていた。
恐ろしいほどに一気に進んだ状況。
わけもわからず勢いに押されて豪炎寺は流されてしまったが、ふと我に返って思う。
自分は夕香から距離を置くべきだったのか――と。
だが、そう思ったところで豪炎寺は考えを止める。
夕香から離れてしまったことについて考えたところで、
東京から遠く離れた南の土地――沖縄まで来てしまっては、あまりにも今更すぎる後悔だ。
更に言えば、この勇という人物が考えもなしに自分を沖縄に連れてきたとは考えにくい。
財前総理の根回しか、それとも誰かの根回しか――
いずれにせよエイリア学園の回し者という可能性は考えられなかった。
しかし、だからといっていつまでも黙って従っているには限界があった。

 

「…そろそろ、状況を説明してもらえませんか」

 

勇の運転するレンタカーの助手席で、豪炎寺は徐に切り出した。
すると、勇は携帯を少しいじったあと、改まった様子もなく豪炎寺に事情の説明を始めた。

 

「お前の離脱後、色々調べて妹さん――豪炎寺夕香がエイリア学園の影響下にあることがわかった。
人命のかかったことなので慎重にことを進める必要があり、長期にわたる調査と準備期間が必要とされる。
が、その間にお前がエイリアに誘拐でもされたら洒落にならん――
と、いうことで、お前の存在をエイリア学園から隠すことになった」
「……それで沖縄に?」

 

一気に話し終えた勇に豪炎寺が確かめるように尋ねると、勇は「ああ」と短く答える。
その勇の答えを聞いた豪炎寺は、胸に詰まっていた息を一気に吐き出した。
勇が自分にとって害になる人物だとは思っていない。
だが、だからといって不安が1%もなかったわけではない。
やっとこの状況に対する不安が0%となり、豪炎寺は安堵の息をついたのだった。

 

「お前の身の回りの世話は、鬼瓦の親父の知り合いが面倒見てくれる」
「鬼瓦……警察の知り合いですか?」
「いや、単なる『友達』だそうだ。
一般人の家だが、安全は保障されている。心配は要らない」

 

今、豪炎寺と勇が向っている場所は、鬼瓦の古い友人が暮らしている家。
一般人の家ではあるが、根っからの一般人ではないというので、
安全は保障されているため心配は要らないと勇からは言われていたが、
豪炎寺は心配よりも申し訳なさが先立っているようだった。

 

「…しかし、関係のない人たちを巻き込むわけには……」
「日本――それどころか世界の存亡がかかっている戦いだ。関係ない人間なんていない。
それと、相手も色々を承知した上でお前の面倒を見てくれると言っている。
せっかくの厚意だ、素直に甘えろ」

 

勇の言葉を受け、豪炎寺は黙った。
素直に勇の言葉を受け入れたわけではない。
だが、勇の言葉を拒絶することもなかった。
そもそも、豪炎寺に勇の言葉を――鬼瓦が用意してくれた場所を拒否することなどできはしない。
抗議はできても、拒否はできない。
今の豪炎寺に頼ることのできる存在はない。
かといって、自分ひとりでできることになど限界がある。
故に、豪炎寺は鬼瓦によって用意されたモノを受け入れるほかないのだ。

 

「そう、悲観するな。恩は返せないものじゃない」
「………」
「それよりも――だ。
お前は、イナズマキャラバンに戻るつもりがあるんだろうな?」

 

豪炎寺が最も気にかけていたことを、
平然と口にした勇に血相を変えて豪炎寺は視線を向ける。
しかし、そんな豪炎寺の視線を受けても勇は少しも表情を変えることはなく、
落ち着いた様子でハンドルをきった。

 

「…俺は……戻っていいんでしょうか」
「妹さんの身の安全さえ確保できれば、お前の行動を制限するものはなにもない。
なにをするもお前の自由だ」

 

夕香の安全が確保される――それまでには多くの時間が必要になると勇は言った。
だが、鬼瓦ならば時間がかかったとしても、必ず夕香をエイリア学園の手から救い出してくれるはずだ。
夕香の安全さえ確保できれば、豪炎寺の行動を縛るものはない。
イナズマキャラバンへと戻り、雷門イレブンと共にエイリア学園と戦っても、
全力でエイリア学園とぶつかっても――誰かに迷惑をかけることはないのだ。

 

「俺は戻ります。イナズマキャラバン――円堂たちの下へ」

 

しっかりとした意思と決意を持って豪炎寺は勇に答えを返す。
豪炎寺の真剣な眼差しを横目に見ていた勇は、豪炎寺の選択を当然のことと思っているのか、
少し表情を変えずに「そうか」と当たり前のやり取りをしているかのように平然と言葉を返した。
だが、その選択に対して協力的であることは間違いないようだった。

 

「…なら、俺の知り合いを紹介する。
お前と同じく『炎のストライカー』と呼ばれたヤツだ。得るものも多いだろう」
「俺と同じ…」
「だが、確実に今のお前より、中二時代のそいつの方が強かった」

 

対抗心なのか、それとも単に豪炎寺の闘争心を煽るためなのか、
今までずっと無表情だった勇が急に自慢げに笑みを浮かべて言う。
自分の実力を否定されたことに対する感情よりも、勇が感情を含んだ表情を見せたことに驚いた豪炎寺。
驚きのあまり、言葉も返せずに呆然と勇を見つめていた。

 

「……対抗意識ってものはないのか、お前に」
「いや…その……」

 

どうやら勇は豪炎寺の闘争心――対抗意識を煽ったつもりだったらしい。
だが、先ほど顔に浮かんでいた表情は演技のものではなく、彼の本心を語るものだろう。
それを肯定するかのように、勇は豪炎寺の言葉も聞かずに、
かつて「炎のストライカー」と呼ばれていた存在について思い返し始めていた。

 

「…そういえば、あいつもフォワードに対する対抗意識は希薄だった…か。
……炎のストライカーのくせに、表面上は熱くない――そういうところまで一緒らしいな」

 

そう勇は言うと、ゆっくりと車を停車させる。
そしてエンジンを切ると、豪炎寺に車から降りるように告げた。
車から降りた豪炎寺の目に入ってきたのは、
東京では絶対に目にすることはできない特徴的なデザインを持つ茅葺き屋根の古民家。
テレビや本で目にすることはあったが、実際に本物を見るのが初めてだった豪炎寺は、
感心した様子でまじまじと古民家を眺めていた。
ところが、不意に後方から「荷物ー」と勇に自分の荷物を持って行くことを急かされ、
豪炎寺は慌てて車のトランクにしまっていたバッグをトランクから取り出す。
豪炎寺がトランクから荷物を取り出すと、勇は自分の荷物をそのままにして車のトランクをバタンと閉じた。
「行くぞ」という勇の言葉に促され、豪炎寺は勇のあとに続いて、
これから自分が世話になるのであろう古民家へと足を踏み入れる。
すると、家を囲っている塀の向こうには、5人の小さな子供たちと、
その子供たちに囲まれたがたいのいい少年がいた。

 

「いらっしゃい!アンタが鬼瓦のおやっさんの言ってた堵火那さんかい?」
「ああ。――ならここは土方さんの家で間違いないか?」
「おう、正真正銘、うちは土方だ!」

 

勇の言葉に威勢よく少年は答えを返すと、不意にずぃと豪炎寺の前に姿を見せる。
近くで見ると自分よりも遥かに体格のいい少年――土方に豪炎寺は思わずたじろいだ。
ハッと我に返って今の自分の反応に彼が気を悪くしたのでは――
と、豪炎寺は危惧したが、土方の心はその体と同じように大きいようで、
少しも豪炎寺の反応を気にした素振りもなく、
豪炎寺の来訪を歓迎するように屈託のない笑顔を見せていた。

 

「お前が豪炎寺だな。オレは土方雷電!
家に来たからは、お前も今日からうちの家族だ。気兼ねなく寛いでくれよ!」
「…ああ、ありがとう」

 

土方が純粋な厚意から言っていることは、豪炎寺もわかっているだろう。
しかし、それでも未だに申し訳なさが残っているのか、
土方への豪炎寺の返事は歯切れのいいものではなかった。
そんな豪炎寺の複雑な心境を察したのか、
土方はそれ以上なにを言うことはせず、豪炎寺に自分に荷物預けるように言った。
突然、荷物を手渡すように言われ、そこまで気を使ってもらう必要は――
と荷物を渡すことを渋った豪炎寺だったが、勇に「渡せ」と土方にバッグを渡すように促されると、
豪炎寺が考えているような意図がないことを察し、豪炎寺は「頼む」と言って土方にバッグを手渡した。
豪炎寺からバッグを受け取った土方は、
豪炎寺に「おう」と返事を返してから、勇に視線を向けた。

 

「親父たちが帰ってきたら連絡するよ」
「ああ、頼む」

 

そう言って勇は土方に背を向けると、豪炎寺に「行くぞ」と声をかけて車へ向って歩き出す。
そのあとを追うように豪炎寺も土方たちに背を向けた。
すると、不意に後ろから「またあとでな」と土方が声をかけてくる。
一瞬は面食らった豪炎寺だったが、
すぐに我に返ると「ああ」と土方に返事を返して再度、車に向って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土方宅から車を走らせやってきたのは、木々に囲まれた一軒の古民家。
古民家だけに外装はなかなかにみすぼらしい。
更にそのみすぼらしさに拍車をかけるのは、
手入れされているとは思えないずさんな花壇――と思わしき草花の密集域だった。
空き家なのかと思ってしまうほどに、
人が住んでいる気配の感じられない環境に豪炎寺は眉間にしわを寄せたが、
勇はこの家に泊まる気満々のようで、停めた車のトランクから自分の荷物を詰め込んだバッグを取りだしていた。

 

「俺から離れないように」
「?」

 

一度、豪炎寺の方を見てそう言うと、勇は何の説明もなしに家の敷地内へと乗り込んでいく。
「離れるな」その言葉が頭にあった豪炎寺は慌てて勇のあとを追って勇の後に続こうとしたが、
玄関ではなく庭につながっているのであろう木々によって作られたアーチを進んでいく勇の姿に思わず足を止めた。
豪炎寺の足が止まったことに気配で気づいたのか、勇は無表情で後ろを振り返る。
振り向けばそこにあるのは、やや不審げな表情を見せている豪炎寺。
両者無言の我慢大会が数分行われたが、
当然のように豪炎寺の負けで勝敗は決まり、観念した様子で豪炎寺は勇の後に続いた。
木とツル科の植物によって作り上げられたアーチ。
適度な日光だけを取り込み、暑すぎず、涼しすぎずで、
思っていたよりもこのアーチの中は快適な空間になっている。
どうやらこの家は手入れがされていない――わけではなく、自然の形を尊重しているだけのようだった。
乱雑に配置されているように見える草木も、
ほかの植物と共存できるよう調和が保たれているのだろう。
この家の持ち主は自然の形を尊重する人物なのだろうかと思いながら
豪炎寺は勇の後に続いて歩みを進めていくと、不意に一気に視野が広くなった。

 

「ッ?!」
「っと――」

 

開けた視界を一気に奪っていったのは黒い影。
しかし、視界を奪われたのはほんの一瞬のことで、冷静に周りの状況を見てみれば、
広がっているのは今通ってきた道と同様に自然の形を残しながらも整えられた木々と草花だった。
先ほど自分たちを襲った黒い影はなんだったのだろう――と豪炎寺は考えてみたが、
答えは思った以上に早く見つかった。

 

「紅霞ー、それは勇兄さんだろー?」

 

不意に耳に入ってきた穏やか――というか暢気な声。
反射的に声の聞こえた方向へ豪炎寺が視線を向けると、
そこには韓紅の短髪とオレンジ色のエプロンが印象的な青年が立っていた。
そして、少しの間があってから「ピィ――」と高い綺麗な鳥の声が聞こえたかと思うと、
青年の腕に一羽のタカが止まった。

 

「…相変わらず、紅霞の扱いに苦労しているらしいな」
「あはは…面目ない……」
「インプリントとは思えない荒々しさだ」

 

そう言って勇が青年の下へと近づいて行くと、
青年の腕に止まったタカ――紅霞がブルブルっと震えて羽を膨らませた。
鳥類におけるこの行動は警戒。
どうやらこの紅霞はあまり人に慣れていないらしい。
だが、勇が近づいて行っても暴れたり襲ってきたりしないということは、
手がつけられないほど人馴れしていないわけではないのだろう。
青年の腕に乗る紅霞に対して少しの恐怖心を持ちながらも、豪炎寺はゆっくりと勇たちの元へと向かう。
紅霞の警戒心を煽らないように注意しながら豪炎寺は勇の横に立つ。
しかし、よっぽど紅霞と豪炎寺の相性は悪いのか、
急に紅霞はバタバタと暴れたかと思うと、あっという間に飛び去って行った。
悪いことをしたつもりはなかったのだが、
なにか紅霞の恐怖心を煽ることでもしてしまったのではと豪炎寺は不安に思ったが、
紅霞の主人である青年が「照れ屋さんだなぁ」と笑った。

 

「あれは気に入った人間だけにする行動だ。嫌われたわけじゃない」
「驚かせてゴメンな。うちの紅霞は凄い照れ屋さんなんだ」
「い、いえ…」

 

タカに照れ屋とかあるのか――と豪炎寺は一瞬疑問に思ったが、
おそらく飼っている人間にしかわからない、その固体固有の性格というものがあるのだろうと結論付けた。
未だに飛んで行った愛鳥を想っているのか、のほほんと穏やかな笑みを浮かべている青年。
おそらく彼が、かつては豪炎寺と同じように「炎のストライカー」と呼ばれていたプレーヤーなのだろう。
しかし、サッカーをやめてから相当な時間が経過しているのか、
彼から「炎のストライカー」という異名をつけられるような気迫や存在感というものは一切感じられなかった。

 

「…明那、自己紹介」

 

トンっと勇に小突かれ、青年――明那は「へ?」と間抜けな声を出す。
不思議そうな表情で勇の顔を眺めていたが、不意に思い出したかのように豪炎寺へと視線を向ける。
そして、豪炎寺と目が合った瞬間、笑顔で「ああ」とうなずくと、スッと豪炎寺の前に手を差し出した。

 

「オレの名前は火室明那。これからよろしく」
「…豪炎寺修也です。よろしくおねがいします」

 

名を名乗られ、豪炎寺も自分の名を名乗り、
差し出された手をとり、明那と握手を交わした――その瞬間だった。
言葉では言い表すことのできない感情――
それがマグマのような熱さを帯びて豪炎寺の体を駆け抜けて行く。
熱が体を駆け抜け、無意識で豪炎寺は明那に視線を向ける。
すると、先ほどまでは少しも感じなかった明那のオーラ――とでもいうのか、
それが存在感となって明那の存在を強く強調していた。
炎のストライカー――そう呼ばれていた理由が今ならばわかる。
この熱を帯びた存在感を目の前にすれば、誰しもが「炎」という言葉を連想しても何の不思議はなかった。

 

「ところで、エイリア学園の程度ってどれくらい?漠然と強くなろうとしてもダメだろうし」
「これが今のところわかっているエイリア学園の実力だ」

 

明那の質問に、勇は言葉では明確な答えは返さずに、バッグから取り出した書類の束を明那に手渡す。
それを受け取った明那は、明るい表情のまま書類に一通り目を通したが、
最後には苦笑いを浮かべて「う〜ん…」と呻った。
難しいと感じるほど、自分たちとエイリア学園の実力差は開いているのかと
豪炎寺は危惧したが、明那が危惧している問題はそこではないらしい。
確かめるように再度、書類に目を通す明那。
しかし、明那の不安は解消されないようで、先ほどと同じく「う〜ん…」と呻った。

 

「今後のエイリア学園の情報は随時データベースに入ってくる。それを参考しろ」
「あ、そういうことか。なら納得。これじゃあ、あんまりに人間の底力なめきってるからねー」
「…その人間の底力をなめきった宇宙人に、雷門イレブンは手も足も出なかったわけだがな」
ほはぁあっ!!

 

明那がハッとして豪炎寺に視線を向けたときには、時すでに遅しだった。
平静を装っているつもりのようだが、完全に落ち込んでいることを隠せずに下を向いている豪炎寺。
何気ない明那の言葉が随分と彼の心に刺さったようだ。
豪炎寺も、明那に悪気がないことはわかっている。
自分よりも強い――と言われていた彼の実力からすれば、
エイリア学園は脅威と思える存在と感じられなくとも何の不思議はない。
しかし、面と向って実力の不足を指摘されているようなものなのだから、何も思わないわけがなかった。

 

「ぁああぁぁあ…!ぜ、全然責めてるわけじゃないんだよ!?
ほ、ほら!お兄さんから見るとそう感じちゃうだけでね!?」
「…総理大臣専属SPはそんな雷門イレブンに負けたんがな」
「えっ、ウソ?!勇兄さんに勝ったの!!?
「俺は補欠」
「なんだ、ビックリした〜。――ってSP?大人に勝ったの??」

 

明那の疑問に勇は「ああ」と答え、
雷門イレブンがSPフィクサーズに人数のハンデを負いながらも勝利したことを伝える。
それを聞いた明那は目を丸くして「スゴいねぇ〜」と感心した風に言う。
しかし、自分の言っていることが辻褄があっていないことに気づくと――

 

「オレのフォロー、フォローになってないね」
「…そもそも、フォローがいらない。
ぬるま湯につけるために、コイツをここに連れてきたわけじゃない」

 

そう言って、不意に勇は豪炎寺の背をポンと叩く。
反射的に豪炎寺は勇の顔を見上げるが、
勇の見ている方向は豪炎寺ではなく、遠くに広がっている青い空だった。

 

「エイリアに勝てなかったのも、俺たちに遠く及ばないのも、すべて事実。
だが、あいつがお前を見込んだこともまた事実――なら、強くなれる可能性はいくらでもある」
「…そう――だね。強くなれるなら、フォローなんていらないか」

 

先ほどまで豪炎寺を傷つけたのでは――と焦っていた明那。
しかし、勇の冷静な言葉を受けると、
明那は一気に冷静な思考を取り戻し、不意に楽しげな笑みを豪炎寺に向けた。

 

「アイツが見込んだ『炎のストライカー』――鍛え甲斐がありそうだ」

 

明那の目に走る好奇心と闘争心が入り混じったような色――
この色に限りなく近い色を、豪炎寺はここではない別の場所で見た気がした。
一瞬――ほんの一時だというのに、それは強烈に豪炎寺の脳裏に残っている。
それをいつどこで――と考えれば、答えは出てこない。
だが、誰が――と考えれば答えは明瞭だった。

 

「ぬるま湯であいつの目が腐っていないといいがな」
「………」
「勇兄さん…。それ、ただの暴言だよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 裏ではこんなことになっていた豪炎寺さん。公式で触れられていなかった分、捏造し放題だぜ!
 無口と無口の組み合わせだったのでものすごーく間を埋めるのに苦労しそうだったのですが、
その間に土方や明那が入ってくれたおかげでそれほど苦労はしませんでした。……まぁ、2人だけのときはアレでしたが(苦笑)