地球へとやってきた脅威の侵略者――エイリア学園。
その侵略者とサッカーで戦っているのは漫遊寺イレブン。
戦いを好まない彼らではあるが、さすがに大切な校舎を破壊されては、
黙っていることなどできるはずもなく、エイリア学園――イプシロンの挑戦を受ける流れとなっていた。

 

「(くだらんな)」

 

漫遊寺イレブンとイプシロンの試合を横目に、
少年を装った少女――真斗は漫遊寺の校舎を進んだ。
真斗にとって漫遊寺の校舎は昔から馴染みのある自分の庭ともいえる場所ではある。
しかし、それを破壊されたところで、真斗の心に怒りや憎しみは湧き上がらず、
まるで他人ごとかのように振舞うことができた。
イプシロンとの試合で傷ついていく見知った顔を無感情で一瞥し、
真斗は「野暮用」に目を向けた。

 

「弱っ。イプシロンでも話になんないのかよ」
「…期待はずれだったね」

 

漫遊寺の校舎から漫遊寺イレブンとイプシロンの試合を眺めているのは、3人の少年たち。
1人は手すりに寄りかかって、1人は柱に寄りかかって、1人は――真っ直ぐ真斗を見つめていた。

 

「さすが――と言っておきます。真斗さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノ森真斗の野暮用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真斗を見つめていた黒髪の少年がそう言うと、
手すりに寄りかかっていた白髪の少年と、柱に寄りかかっていた赤髪の少年が、
ハッと慌てた様子で真斗に視線を向けた。
黒髪の少年と違い、彼らは真斗が自分たちの近くまでやってきていたことに気付くことができなかったようで、
彼らの表情には驚きだけが色濃く浮かんでいた。

 

「お前もだいぶ精進したようだな。――朔」

 

しかし、あくまで真斗の興味は彼らではなく、黒髪の少年――朔。
試すような笑みを浮かべながら、真斗が朔のことを褒めてやれば、
顔色一つ変えずに朔は真斗に向かってペコリと頭を下げると、
「お褒めに預かり光栄です」と対して心の篭っていない言葉を真斗に返した。
もちろん、朔の言葉になんの心も篭っていないことに気付いている真斗は、
不意に楽しげに「ふっ」と笑うと「相変わらずだな」と朔を評価した。

 

「…朔……」

 

朔と真斗のやり取りを不審に思ったのか、
赤髪の少年が確かめるような、牽制するか咎めるような声で朔の名を呼ぶ。
彼に名前を呼ばれ、朔は面倒くさそうなため息をひとつつくと、
スッと彼に視線を向けて「心配しなくていい」と言葉を投げた。

 

「ここで行動を起こすような愚かな人ではない」
「でも朔…!」

 

続いて朔に待ったをかけたのは白髪の少年。
赤髪の少年とは違い、彼の顔には不安の色がありありと浮かんでいる。
それを見た朔は彼の言いたいことをわかっているようだったが、
あえて彼の疑問に答えることはせず、彼を一番に安心させることができる存在に視線を向けた。
確信を持った表情で自分を見る朔に、真斗は「ほぅ」と関した声を漏らす。
そこまで分かっていながら――
こんなに面倒な道を選ぶとは、彼の心に開いた穴はよっぽど大きいようだ。

 

「安心しろ、俺たちは中立だ。お前たちのことに関してはな」
「……しかし、エイリアと雷門に関してはその限りではないと」
「不服か?」
「…いえ」

 

真斗の問いに否定の言葉を返す朔だが、その声にはあからさまに面倒そうな色がある。
だが、それをあえて真斗は取り合うことはせずに、平然と「そうか」と返した。

 

「…朔、やはり彼はいずれオレたちの脅威になるんじゃないのかい?」
「それはないと言っているだろう。
それに、仮に我々の敵になったとしても――脅威にはならない」
ちょ!?朔?!朔ぅ〜?!?!

 

真斗の存在は自分たちにとって脅威にはならないと言い捨てた朔に、
白髪の少年は大慌てですがりつくと、だいぶ混乱した様子で
訂正!訂正ー!!」と叫びながらゆさゆさと朔を揺さぶった。
自分を思い切り揺する少年に、朔は心底から呆れた様子でため息をつく、
すると真斗が不意に笑いながら「なめられたものだな」と言葉を放った。

 

「俺があの低脳な連中とつるむとわけがないだろう?」
「え、あ、そういうこと??」
「……どういうこと?」
「だから、マコ兄に限って、雷門の連中と一緒に――ってことは絶対にないってこと」

 

一気に落ち着いた白髪の少年は、状況の飲み込めていない赤髪の少年に事情を説明する。
白髪の少年の説明に、一応納得した赤髪の少年は、確かめるように真斗に視線を向けた。
彼を見る真斗の目はどこまでも冷たい。
先ほどの雷門を低脳だと言ったときも、その目に冗談の色はなく、
本気で雷門を低脳と思っていることは確か。
だが、だからと言ってそれが自分たちの敵にならないと言う確証となるかは微妙なところだ。
雷門イレブンなどただのかませ犬――と思っていた自分が彼らに興味を抱き始めている。
雷門イレブンが――いや、円堂守が持つ不思議な力は人の心をひきつける。
そして、その力に真斗が惹かれないと言う確証も、また無かった。

 

「仮にマコ兄が雷門に加わっても、内側から潰すか、のし付けて突っ返されんじゃね?」
「…否定はしないが――相変わらず頭に血が巡っていないようだな、望…?
ぴぎぃい!

 

ギロリと真斗に睨まれ、白髪の少年――望は情けない声を上げて朔の後ろに隠れる。
そんな望の姿を見た朔は呆れ果てたような視線を望に向けた。
しかし、そんな朔の視線よりも自分を睨む真斗の方が、望にとっては万倍気になるわけで。
ガタガタと震えながら望は真斗の怒りが治まることを待つかのように黙った。
そんな望の姿を真斗は「フン」と鼻で笑うと、突然朔に向って一通の手紙を投げた。

 

「今のお前たちがなにを知ったところで、考えも行動も変わるとは思っていない。
だが、お前たちは『真実』を知る義務がある」
「…『義務』は果たします。
――ですが、あれが我々を裏切ったことを忘れないでもらいたい」
「わかっている。アイツがしたことは『裏切り』でしかないことはな」

 

少しだけ――ほんの少しだけ、真斗の瞳の奥に見えた憂い。
だが、それは極々僅かに一瞬だけ姿を見せるとすぐに姿を消した。
そして、真斗は朔たちに背を向けると「ではな」と言って
何事もなかったかのように3人の前から去っていった。

 

「……一体、朔たちにとってなんなんだい?あの人は」
「旧知の仲――だが、お前が心配するようなものではない。
お前も聞いていただろう。――私たちは裏切られたと」

 

赤髪の少年の背中にゾクリと悪寒が走る。
「裏切り」によって朔の心に芽生えた憎悪は、どこまでも深い黒を湛えている。
ほんの少しだけしか触れていないというのに――
その黒は彼の中で異様な存在感と威圧感を放っていた。

 

「全ては『報復』の為――お前もわかっているだろう?――ヒロト?」

 

朔に問われ、赤髪の少年――ヒロトは不意に無表情になる。
しかし、朔の言葉に静かに「ああ」と同意の言葉を返す彼の瞳には固い意志があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 漫遊寺中でガヤガヤやっていたときの真斗の野暮用はこんな用でした。
因みに、夢主はこんなことになっているとはまったく知りません。「野暮用」も、小暮のための嘘だろうと思っております。
 ヘタレな夢主のために裏で結構オリキャラたちが遁走しているというね(笑)