暗い部屋の中心に立っている三本の円柱。
その柱の上には、楕円をくりぬいた形の無機質ながらも威圧感を持った椅子がひとつずつ置かれている。
そして、その椅子の前には少年の影があった。

 

「おもしろかったか、グラン」
「なんのことだい」
「とぼけちゃってよぉ」
「…雷門とやりあったみたいだね。――ザ・ジェネシスの名の下に」

 

柱の上で言葉を交わすのは白と赤と青の光をそれぞれ背負った少年たち。
しかし、彼らの言葉に親しみや馴れ合いの色はなく、
あるのはお互いを牽制しあうような刺々しい空気だった。

 

「……あそこ、しゃべりにくくないの?」
「…独り言が聞こえないという点ではしゃべりやすいかもしれない」
「でもさ、普通のことまで声張ってしゃべらないといけないのはめんどくね?」
「…関係ないだろう。お前には」
「そうだけどさぁ」

 

ライトの当たる柱の上から遥か下――
光の当たらない暗がりで、内容のない会話をする少年の姿が2つ。
光源のない暗がりに彼らはいたが、その位置と環境は彼らにとって常。
故にその場所に対する不満や疑問は今更ない。
それに、彼らがこの場所にいる理由は、実のない会話をするためではなかった。
あくまで目的は柱の上で言葉を交わす――エイリア学園の3TOPの会話内容を聞くため。
――といっても、彼らの会話をまじめに聞いているのは、
質問に答えを返している少年の方だけだが。

 

「だからさ――」
っだぁー!いい加減に口閉じろフォルテ!」
「えー、んだよバーンー、オレちゃんとボリューム調整してたぞー」
「そういう問題じゃねぇよ」

 

暗がりにいた白髪の少年――フォルテの頭上に降ってきたのは、
赤い光を浴びている少年――バーンの怒鳴り声。
頭の上から怒鳴れたフォルテだったが、バーンの怒鳴り声など慣れたものなのか、
怒りを露にするバーンに対して怯える様子はまったくない。
しかし、バーンにとってもフォルテの反応は予想するまでもないもののようで、
新たに怒りを爆発させることもなく、フォルテの横に立っている黒髪の少年に視線を移した。

 

「サージェっ、お前も何とか言ったらどうだ!」
「…フォルテの相手をしながらお前たちの話を聞く程度、造作もない」

 

冷静にキッパリと言い放つ黒髪の少年――サージェ。
本気で造作もないことだと言いたげなサージェの様子に、バーンは疲れたようなため息をつく。
そんなバーンをよそに、柱の上で白い光を浴びている少年――グランが「さすがだね」とサージェを褒めた。

 

「サージェはエイリアの聖徳太子だね」
「…上手くねぇよ」

 

こんなオチも、彼らにとっては案外毎度のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ide:エイリア学園
−3TOPとジェネシスの双子−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球を侵略する宇宙人の集団――エイリア学園。
彼らはサッカーという秩序を以て自分たちの力を示し、地球を侵略しようとしていた。
だが、エイリアの戦士として人類と戦っている彼らにとって、地球侵略など案外どうでもいいことだった。
故に、常日頃から侵略や征服について考えているものなどいない。
ほとんどが、食事ことだったり、サッカーのことだったりと、
普通の人間と大差ない――極々ありふれたことを考えていた。
そんな彼らに対して、地球侵略に躍起になっているのがエイリア皇帝。
エイリア皇帝はエイリア学園を統率する支配者であり、無償の信頼を受ける指導者。
エイリア皇帝の望みならば――
それを胸にエイリア学園は「地球侵略」という大きな目的に向って戦い続けているわけだった。

 

「グラン」
「なんだいサー――」
「グラン」

 

そんな皇帝の絶対的な支配力で機能しているエイリア学園。
だが、彼らを支配するものはもうひとつあった。
それは、エイリア学園最強のチーム、ザ・ジェネシスのキャプテンであるグラン――
ではなく、ジェネシスの控え選手のサージェだ。
しかし、サージェもただの控え選手ではない。
皇帝からの信頼を受け、チームの編成やトレーニングメニューなど、
司令官的な役割を選手の1人でありながら任された存在でもある。
故に、ジェネシスのキャプテンであるグランでさえも、彼には多少の敬意は払わなくてはならなかった。
ガタンと音を立ててゆっくりと低くなっていくのは、グランが乗っている柱。
安全を期しているのか、グランは柱が完全に動きを止め、地面と同じ高さになったところで柱から降りる。
そして、少しも急いだ様子もなくサージェの元へと近づいていった。

 

「なんだいサージェ」

 

へらっと笑みを見せてサージェに改めて用件を尋ねるグラン。
おそらく、10人中7人ぐらいはイラッとするであろうグランの対応。
だが、慣れているのか諦めているのか――どうでもいいのか、
サージェも隣にいたフォルテもグランに対するリアクションはまったくない。
本当に何事もなかったかのように、
サージェは淀みのない声で「謹慎だ」とグランに言い放った。

 

「…それはサージェの独断?」
「あの方に任されての決定だ」
「そう、なら仕方ないかな」

 

サージェに謹慎を言い渡されたグランだが、特に不服とは思っていないようで、
文句も言わずにしかるべき罰を受けるつもりの様子だった。
サージェもグランが反省しないことは端からわかっている。
というより、反省させるためにサージェはグランに謹慎を言い渡したわけではない。
単純に、自分にとっての予定調和を崩す異分子――それを排除したいだけだった。
もし本当にグランの反省を促すのであれば、謹慎などよりももっと簡単な方法がある。
しかし、サージェにしてみれば、グランが反省しようがしまいがどうでもいいことだった。
どうあっても、彼が自分の指示下に収まることはないのだから。

 

「ハッ、キャプテンが謹慎とあっちゃぁ、ザ・ジェネシスも謹慎みたいなもんだな」
「それはどうかな。オレのチームはオレが抜けたところで、大きな問題にはならないよ」
「…戦力的にはフォルテ、役割的にはウルビダが補ってくれる――
案外、キミがいない方が強いんじゃないのかい?」
「ヒドいなぁ、ガゼルは」

 

いつの間にか柱から降りてきたのは、
バーンと柱の上で青い光を浴びていた少年――ガゼル。
バーンの嫌味は上手く切り返したが、
ガゼルの否定したくても否定しきれない嫌味には、さすがのグランも苦笑いを浮かべるしかなかった。
グランと同じくフォワードであるフォルテ。
その並々外れた身体能力から繰り出されるシュートは強力としかいいようがなく、
エイリア学園の中でもトップクラスの威力を誇っている。
そして、ジェネシスの副キャプテンであるウルビダは、
グランに比べて冷静沈着な性格で、結果を求めすぎて「冷徹」になることもあるが、
エイリア学園の強さの頂点に立つジェネシスのキャプテンとしては悪い素質ではなかった。

 

「だが、手本となるべきプレイヤーという意味では、グランの存在は必要不可欠だ」
「…珍しいな、アンタが人を褒めるなんてよ」
「褒めてはいない。ただの事実だ」

 

あまりにもキッパリ言ってくれるサージェに、
バーンは興味を失ったかのように「そうかよ」と引きつった表情で適当な言葉を返す。
すると、サージェもバーンたちとの会話に興味を失ったようで、
何も言わずに背を向けると早々にその場から去って行った。
常にサージェと行動を供にしているフォルテも、彼を追って去るのかとバーンはフォルテに視線を向けたが、
フォルテもガゼルたちと同様に黙ってサージェの背中を見守るだけだった。
そして、完全にサージェの姿がなくなったところで、フォルテは「あ、そうだ」と突然声を漏らした。

 

「んだよフォルテ」
「雷門が沖縄に向ってるんだってさ」
「沖縄……か、バーンにうってつけの場所じゃないか」
「逆にガゼルには向かなそうだよな」
「ああ、私は遠慮するよ。あまり強い日差しを受けると――溶けるのでね」
オイ

 

呆れたような表情でガゼルの最後の一言に
ツッコミを入れるバーンだったが、それを無視してガゼルは去って行く。
明らかに沖縄へ行くことを拒んでいる――というか、ガゼルは面倒くさがっているようだ。
ガゼルはサージェと非常に仲がいい。
確実にサージェの一存で、ガゼルは沖縄行きを免れることは確実だろう。
バーンの頭の片隅で「職権乱用」という単語が浮かび上がる。
だが、これもまた今更だったし、
自分が沖縄にいける確率が上がると思えば、それほど気になることではなかった。

 

「ところでフォルテ、雷門が沖縄へ向った理由は聞いていないのかい?」
「えーと、あれだ、炎のストライカーが沖縄にいるからだって」
「炎のストライカー……たしか雷門にいたな、なんだったか…高円寺だか高天寺だか…」
「豪炎寺修也。雷門の元エースストライカーだよ。
どうやら研崎が仲間に引き入れようとして――雷門から離れることになったらしいね」
「…そいつがうちに来たらバーンのお株奪われるか――」
んだとフォルテぇ…!!
いででででで!いでーよバーンー!!
「自業自得だよフォルテ。フォルテはバーンのハートを傷つけたんだから」
「アンタに言われるとスゲェむかつく」
「バーンはフォルテとヒートくんにしか優しくないからねー」
「このっグランてめっ…!!
「ぐえっ、マ、マジきついってバーンッ…!!」

 

クスクスと笑みを浮かべて、バーンをからかうような台詞を言ったグラン。
そのグランにバーンは怒りの篭った視線を向けるが、
物理的怒りは未だバーンのチョークスリーパーの餌食となっていたフォルテに向っていた。
ギリギリと締められ続ける気管に、フォルテも生命の危機を感じたのか
「パンパン」と無心でバーンの腕をタップする。
必至のフォルテの主張に気付いたバーンは「おおっ!?」と驚きの声を上げると、即座にフォルテを解放した。
が、それと同時にグランも解放してしまったわけで、
グランに文句を言う暇もなく、部屋にはバーンとフォルテだけが残っていた。

 

「…ったく、お前が悪いんだからな」
「えー、ちょっとした冗談だったのに…。器がちっちぇぞーバー――ンンン〜〜!!!
「ちったぁ成長しろよオメーはッ!」

 

またしてもバーンのチョークスリーパーの餌食となったフォルテ。
しかし、フォルテの顔にも、バーンの顔にも、怒りの色はなく――楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 小さい頃から一緒にいる仲なので、ピリピリはしてもギスギスはしないんだろうなぁ…と。
そして、その中和剤としてオリキャラを投入してみたら、ただのギャグになりました。想像以上でした。
 捏造エイリア学園(おひさま園)話で他愛もない話とか書いてみたいです。確実にバーンがバーンってなりますね(笑)