雷門の土門と吹雪に実力を認められ、
他の雷門イレブンがいる場所へ案内してもらえることになった晴矢と望。望の顔面を挺したフォローによって、晴矢へ対する土門たちの警戒心も薄れ、
晴矢たちは問題なく雷門イレブンと接触できそうだった。
「(でも、問題は瞳子姉ちゃんと――)」
雷門イレブンが集まっているという高台に続いている階段。
望の先には土門と吹雪、その2人の後には晴矢が続いており、
晴矢のその更に後ろには望がおり、最終的に望は4人の中の一番後ろの位置にいた。雷門イレブンの中には瞳子――自分の正体を知っている存在がいる。
晴矢はあまり彼女と接点が無かったこともあり、正体がバレてしまう可能性は高いとはいえないが、
望は瞳子との接点が結構あり、一目見ただけで「双樹望」だとわかってしまうぐらいの関係だった。もちろん、はじめから瞳子のことを警戒していなかったわけではない。
警戒しているからこそ、こうして一番後ろに控えているのだし、
更に万全を期して被りなれない帽子を深く被り、尻尾のように伸びているくくった髪を帽子の中にしまい、
「双樹望」の要素を極力取り除いているのだ。――ただ、無駄な抵抗でしかないような気もしたが。
「(瞳子姉ちゃんの観察力半端ないもんなぁ…。
……でも、気付いたからってすぐに『エイリア学園!』とはいかないよな)」
雷門イレブンに正体がバレるのは望たちも困るが、
瞳子もエイリア学園と繋がりがあることが雷門イレブンに知れることは困るはず。
もし、少しでも望たちからエイリアに関係する事情が漏れれば、
瞳子の鋭い観察力を理由にある程度の誤魔化しは利くが、
一切疑う余地のない状態では、瞳子も下手なことはできないはずだった。この理由と彼女の性格からいって、望の存在に気付いたからといって、
すぐさま敵対視してくることはおそらくないはず。
もし、晴矢や望が雷門イレブンに危害を加えようとしたときには、
すぐに待ったをかけてくるだろうが、ただの様子見程度の接触であれば――
見逃してくれる可能性の方が高いだろう。何事もなく晴矢と雷門イレブンのキャプテン――円堂の対決が何事もなく終わることを願いながら、
望は先に土門たちと供に階段を上がりきった晴矢の後を追った。
「キャプテンの円堂だろ?よろしくなぁ」
「…ぁあ、よろしく」
ほんの少しだけ戸惑いの混じった笑みを浮かべて晴矢に返事を返すのは、
雷門イレブンのゴールキーパーにしてキャプテンの円堂守。
彼はジェネシスのキャプテンであるグランが珍しく興味を示した存在であり、
晴矢が雷門イレブンに接触した一番の目的でもある。やはり炎のストライカーを何の根拠もなくかつてのチームメイトであった豪炎寺と思っていたようで、
円堂の顔にはわずかながらも落胆の色があった。
しかし、純粋に晴矢のサッカープレイヤーとしての実力を買ってくれている土門と吹雪は、
晴矢の存在を肯定するかのように円堂に晴矢の実力は凄いと証言してくれた。このままの流れで入団テストでも――と望は思ったが、
やはり晴矢は晴矢なわけで、残念な流れで入団テストは行われることになりそうだった。
「見せてやれよ、さっきの」
「強力なシュートだったよね」
「ただ見せるだけじゃつまんねーなぁ」
「…というと?」
「オレをテストしてくんねーか。
アンタらのチームにふさわしい強さかどうか、その目で確かめて欲しいねぇ」
完全に雲行きの怪しい空気の流れ。
晴矢や朔から常々「空気が読めない」と言われている望ですらわかるほど、
空気の流れは望のあって欲しくない方向へと流れてしまっていた。止めようと思えば晴矢を止めることは簡単。
しかし、実力行使にしろ、言葉にしろ、晴矢を止めてしまうと悪目立ちする可能性が非常に高い。
しかもこの場合、無礼な晴矢を止めたことによって、常識のある人間と思われて好意をもたれても困る。
あくまで望は足手まとい。
雷門イレブンの印象に残るのは晴矢だけでいいのだ。
「雷門イレブンVSオレ!
どーよ?アンタらから1点取ればオレの勝ち――テストに合格だ」
「(晴矢……オレ以上にスパイとかむかないなぁ…)」
思い切り場を仕切り始めた晴矢を尻目に、
望は早く入団テストなりが始まることを祈るのだった。
Side:エイリア学園
−主犯と共犯と違反者と−
高台から少し離れた場所に設置されたサッカーグラウンド。
そこで雷門イレブンと晴矢は対峙していた。残念な流れではあったものの、なんとか雷門イレブン全員での入団テストを行ってもらえることになった晴矢。
かなり目立った晴矢の失礼な態度の言動に、晴矢の存在に難色を示すメンバーもいはしたが、
新戦力の加入を雷門イレブンはかなり強く望んでいるようで、
フィールドに立つ彼らの顔には期待を示す色が浮かんでいた。
「準備はいいかねー?」
「んなもんとっくにできてるよぉ」
審判を勤めるヒゲを生やした中年の男――古株に、
晴矢は大きな声で準備はとうに完了していると返事を返すと、
「円堂、覚悟しなぁ!」と彼の自信と気迫を示すかのように円堂を名指しして宣言した。
「(やっぱり晴矢の興味は円堂にしかないんだ。
……やっぱりヒロトが気にしてるからか??)」
ホイッスルが鳴り、ついにはじまった雷門イレブンと晴矢の対決を、
ぼんやりと眺めながら、望は自分の予想を心の中でつぶやく。雷門イレブンとジェネシスの実力差は雲泥の差。
しかし、晴矢の率いるチームはジェネシスと同等の力を持ったチーム。
更に、晴矢個人の能力だけをいえば、ジェネシスの平均を超え、グランに並ぶ力を持っていた。――ということは、ジェネシスに惨敗した雷門イレブンと、
ジェネシスに勝るとも劣らない実力を持つ晴矢の試合など、
見るまでもなく晴矢の勝利で終わるに決まっていた。試合開始早々に晴矢によって天高く蹴り上げられたボール。しかしこの程度はこけおどし。
それは南雲晴矢というプレーヤーの象徴たる能力などではない。
その高さに対応できる高い身体能力こそ、晴矢の強みだ――と朔が言っていた。
「(でも、やっぱり晴矢の強みはシュート力だよなー)」
朔は晴矢のバネのある体を高く評価していたが、
望の「南雲晴矢」対する印象で強く残っているのは、なんと言っても炎のようなパワーを秘めた苛烈なシュート。グランのシュートもかなりの力を秘めた強烈なシュートではあるが、望の好奇心をくすぐるようなものはない。
だが、晴矢のシュートにはそれがあった。望の好奇心――
闘争本能を強く刺激する「魅力」が。
「ザ・タワー!!」
晴矢の侵攻を妨げるようにピンク髪の少女――塔子が必殺技を発動させる。
しかし、それを晴矢は簡単に突破して再度、
雷門ゴールへと迫ろうとするが、それを吹雪が阻止にかかった。塔子同様に必殺技を発動させ、晴矢からボールを奪わんとするが、
それをも晴矢はあっさりとかわした。
「(……なんか吹雪って…朔たちに……似てる??)」
朔のプレーとダブる部分のあった吹雪の動き。
しかし、本当に吹雪が朔と同じような動きをしているなら、晴矢が簡単に吹雪を抜けるはずがない。
なぜなら、晴矢が今まで朔のディフェンスを抜けた回数は二桁止まりで、
逆に朔が晴矢を止めた回数は4〜5桁に到達しているのだ。
二人の動きにダブる部分があるのなら、少しぐらいは晴矢の動きを制限できていただろう。「気のせいか」と結論を出し、望は再度晴矢の動きに集中する。
最後のディフェンスラインを得意の空中に移動することで突破し、晴矢は更にボールを高く蹴り上げた。
「(えぇえー!!ここで必殺技使うのー!?)」
基本、目立つ行動はNGだというのに、
目立つ行動の代表格である必殺技を惜しげもなく披露する晴矢。
大胆を通り越して「アホなの!?」と思ってしまうほどの行動に出た晴矢に思わず望も身を乗り出す。だが、すでに地面を蹴って宙へと浮いた――
必殺技を放つ体勢に移った晴矢を今更止めるすべはない。
「ぁあ〜…」と青ざめた表情で望が見守る中、晴矢は円堂に向って自身の必殺技を放った。
「アトミックフレアッ!!」
遥か高い上空から放たれる強烈なオーバーヘッドキック――アトミックフレア。紅蓮の炎を纏ったボールは、迷いなく円堂の待ち構えるゴールへ向う。
多少離れた位置から放ったこともあり、
円堂は冷静に必殺技――マジン・ザ・ハンドを発動させ、アトミックフレアを止めようと手を出した。しかし、端から望が想像していたとおりに円堂の必殺技はあっけなく破られ、
晴矢のシュートは円堂ごとゴールを決めていた。勢いがまだ余っていたのか、ゴールから離れて晴矢の元へと戻ってくるボール。
そして、そのボールと同様に、勢いが余ったものがもうひとつあった。
「晴矢ー!!」
「ぅおっ?!」
「なに!?今のどういうこと!!?」
猛ダッシュで晴矢に詰め寄ったのは、当然のように望。
相当動揺しているのか、力任せに望は晴矢を揺する。
ガクガクと望に揺さぶられながらも、晴矢は「落ち着けッ!」と一言怒鳴って望の頭を押さえ込んだ。
「(ノーマルシュートで必殺技破った方が目立つだろーが)」
「…あ、そういうことか。なんだ、あービックリした」
「ったく…」
「スッゲーな!南雲!」
不意に晴矢にかかったのは、会ったばかりの時からは想像もできない好意的な笑顔を浮かべた円堂の声。
その円堂に晴矢は自信満ちた笑みを浮かべて「当たり前だ」と切り返した。
「オレが入れば、宇宙人なんかイチコロなんだよ」
「(…ちゃんと晴矢、色々考えて行動してたんだ……)」
先ほどまでのトゲトゲしていた空気から一転、雷門イレブンの晴矢へ対する警戒心が消える。
おそらく、晴矢のずば抜けた実力に全てを飲み込まれたのだろう。
そこまで想定して晴矢が行動していたとしたら、やはり晴矢は策士のようだ。…物凄く意外ではあるが。
「テストは合格か?」
「もちろん!うちのチームで一緒に戦おうぜ!よろしくな、南雲!」
晴矢にテストの合否を問われ、円堂は笑顔で合格であることを告げる。
そして、その証だとでも言うかのように、晴矢に向って手をさしだした。考えずともそれは握手を求める印。
どうやら心の底から円堂は晴矢とチームの一員として歓迎しているようだった。当然、この流れは握手をするのが普通。
雷門イレブンに加わるつもりなど、晴矢には毛の先ほどもないが、
とりあえずの形で晴矢は円堂と握手を交わそうとする――が、それを良しとしない者がいた。
「ダメだよ、円堂くん」
聞きなれた冷静な声――その直後に円堂と晴矢の間に割って入ってきたのは黒いサッカーボール。
自分たちに向ってきた不吉なボールに、円堂は回避を選択したが、
晴矢は回避ではなく――迎撃を選択していた。向ってきたボールを胸でトラップし、
慣れた様子でボールにスピンをかければ、その勢いによってあっという間に竜巻ができる。
そして、その竜巻を破って姿を見せたのは――エイリア学園のバーン。苛立った様子でバーンは標的を確認すると、
その標的に向ってボールを力任せに蹴り放った。
「ったく……邪魔すんなよグラン」
「雷門イレブンに入り込んで、なにをするつもりだったんだ」
「ハッ、オレはグランのお気に入りがどんなヤツか、見に来ただけよ」
バーンの放ったボールを止めたのは、
鉄塔の上に作られた球体の上に立っている少年――ヒロト。自分のお気に入りである円堂にバーンがちょっかいを出したことがおもしろくないのか、
それともバーンが勝手な行動に出たことを咎めているのか、珍しいことに彼からは怒りの感情が見えた。しかし、そんなヒロトの反応がおもしろいのか、
バーンは下手に出るどころか挑発するような調子で言葉を返していた。
「…南雲……お前………」
「オレかぁ?……コッチが本当のオレ――バーンってんだ。覚えときな」
「……バーン…?」
「エイリア学園、プロミネンスのキャプテンだ」
もうすでに開き直ってしまっているのか、
エイリア学園に所属していることだけではなく、チーム名とキャプテンであることまで明かしてしまうバーン。新たなチームの出現に恐怖しているのか、雷門イレブンの反応は鈍い。
しかし、今のバーンにとって雷門イレブンの反応などどうでもいい。
今の彼にとっての一番の興味は――沈黙で憤りを殺しているヒロトだった。
「グランよぉ、コイツらはジェミニストームを倒した、イプシロンとも引き分けた。
お前らとやった後、まだまだ強くなるかもしれねぇ。
――だから、どれだけ面白い奴らか近くで見てやろうと思った」
「――それで?どうするつもりなんだ」
「お前に言う筋合いはねぇよ。ただ、オレはオレのやりたいようにやる。
もし、オレらの邪魔になるようなら――潰すぜ」
敵意だけを込めた視線で円堂の目を射抜くバーン。
しかし、バーンの敵意を受けても円堂に怯んだ様子は見られず、
バーンと同様に強い敵意を含んだ視線をバーンに向けている。
それを見たバーンは面白そうにニヤリと一瞬だけ笑みを浮かべると、
円堂時以上の敵息を含んだ視線をヒロトに向け、「お前よりも先になぁ!!」と大声で宣言した。それがヒロトの怒りの引き金を引いたのか、何も言わずにヒロトはバーンの元へと突っ込んでくる。
かなりの高さから飛んできたヒロト。
その高さを物語るように、ヒロトの着地は強い衝撃と烈風を伴った。
「潰すと言ったね――でも、それは得策じゃない。
強い奴は俺たちの仲間にしてもいい――違うか?」
「仲間ァ?こんなやつらをか?」
ボールを中心に対峙するバーンとヒロト。
明らかにこの2人は周りが見えなくなっている。いや、雷門イレブンの存在はしっかり認識しているが、沖縄がどういった状況にあるかを絶対に失念している。
意外にこの2人は生命の危機感知能力が低いのかと望は思ったが、
それよりも先に命の安全を確保することが何より最優先だった。
「晴矢、ゴメン…!」
「ぁッ…?」
音もなくバーンの背後へと周り、彼の首筋に手刀を下ろした望。
急所を突いた望むの一撃に、バーンはなすすべもなく意識を奪われ、
小さな声を漏らしながらぐったりを崩れ落ちるた。完全に意識を失ったバーンを肩に背負い、
望は有無を言わせない威圧感をまとってヒロトにこの場を離れることを告げる。
すると、ヒロトは望が危惧していることに察しがついたのか、大人しく「ああ」と同意の言葉を返した。
「オレたちのことはあんまり言いふらさない方がいいぞ。本隊が気付いたら――」
望の台詞を遮って、黒いサッカーボールが光を放った。
■あとがき
エイリア学園うんぬんなど超どうでもいい望ですが、兎にも角にも朔が怖いんですよ。
厳密には、朔に見放されるのが怖いんですが。離別を恐れるあまり、無意識で依存しているのかと…。
そんな望が内側に抱えているものを、南雲は本人以上にわかっていそうな気がします。
というか、茂人(ヒート)の言葉を聞いて気付いたって感じですが(笑)