エイリア学園との戦いが終結して、数ヶ月が経過している。
多くの被害をもたらした戦いではあったが、
数ヶ月の時を経たことによって、日本全体が落ち着きを取り戻しつつあった。そんな平穏な日常を取り戻した日本――
だが、その日本の地から離れていく存在がいた。飛行機の座席に座り、ボーっと窓の外を眺めているのは。
心ここにあらずといった様子で、どこか遠くをずっと見つめている。
おそらく、色々なことをあれやこれやと考えているのだろう。
「、もうすぐ到着だよ」
不意に頭上から降ってきた声。
反射的にが顔を上げると、そこには一之瀬の笑顔があった。
「……なんか、あっという間だったわね」
「そうかぁ?俺的には結構長いフライトに感じたぜ?」
「俺も土門と同感かな」
未だ意識がはっきりとしていないとは対照的に、
すっきりとした表情で今回のフライトについて意見を言い合う一之瀬と土門。楽しげに話している2人を眺めながら、は妙に2人が羨ましく感じた。
なにが羨ましいのか――と問われてもは明確な答えを持ち合わせてはいないが、
ただ漠然と2人の楽しげな笑顔を羨ましく感じた。
「(…こんなことすら羨ましく感じるなんて――病んでるのかなぁ…)」
自身、今の自分の精神状態が安定しているかと問われれば、その答えは否。
まったくもって安定などしていない。
エイリア学園との戦いの前半ほど不安定ではないが、
後半の頃と比べると、確実にそのときの方が精神的には安定していただろう。だが、精神的に安定していないからといって、
安静にしていたところでの精神が落ち着くわけではない。
寧ろ、じっとしていた方が不安を抱え込むことになるのだからよっぽど精神的に病んでいくだろう。これが最善――といつものように自分に言い聞かせ、は意識を覚醒させる。
自分があれやこれやと考えていたというのに、
未だに座席の背もたれに寄りかかりながら話している一之瀬と土門。先ほどまでは羨ましく感じていたというのに、
冷静になってみてみると――羨ましいよりも呆れが先にたった。
夢路たどれば
−集いのアメリカ−
日本を発ち、飛行機に乗ってがやって来たのはアメリカ。
一之瀬と土門にとっては故郷と呼べる国であり、にとっても馴染みのある国でもある。なぜ一之瀬と土門がアメリカに戻ることになったかといえば、
一之瀬が所属しているアメリカのサッカーチームのチームメイトたちから。
一之瀬と土門にアメリカへ戻ってきて欲しいという連絡を受け、
それに応える形で2人はアメリカへと戻ることになったのだった。2人はすでに彼らを呼んだチームメイトが迎えに来るということで、とは行動を別にしている。
一之瀬からは一緒に来ないかと誘われたが、明るく騒ぐ気分にはなれなかったし、
後の用件のことも考えては一之瀬の誘いを断り、一人で飛行場のロビーに留まっていた。
「(雷門も鬼道も…ちゃんとやってるか…なぁ……)」
暇つぶしにともってきた文庫本を片手に、
はふと日本にいる友人たちを思い浮かべた。エイリア学園と戦った雷門イレブン。
一部のメンバーは心の闇を利用されて一度は剣崎の手に落ちたが、
現在はそんなことがあったことが嘘のように笑顔で仲間たちとサッカーボールを追いかけ、
毎日楽しそうにサッカーの練習に励んでいた。未だ、雷門中サッカー部の監督補佐の任を解かれていない。
日本にいた間はほぼ毎日のように響木の代わりにサッカー部の活動を見守っていたが、
今の雷門イレブンは監督役なしで活動している。無茶の代名詞たる円堂がキャプテンを務める雷門イレブンだけに、
無茶な特訓でもしているのではないのはないかと、は少し不安を覚えたが――
まぁ、大丈夫だろうと考えを断ち切った。それよりも気になるのは鬼道の日常生活。
普段はが御麟家の食事をすべて管理しているが、
御麟家の台所を今管理しているのはの父親――秀信。母親――彩芽のように料理下手ではないし、
栄養バランスの崩れた食事を作ることはないだろうが――
しっかり者に見えて秀信はどこか抜けているところがある。それに慣れているは問題ないが、あれで以外にハプニングに弱い鬼道。
そんな彼ではあの奇天烈夫婦と上手くやっていけるのか――
正直、雷門イレブンのことよりもよっぱど不安がよぎる。だがしかし、このアメリカの地でいくら彼らのことを心配したところでどうこうなるものでもない。
一応程度に、「鬼道頑張れー」と心の中で祈ってはおくが、改めて「余計なお世話か」と思い直した。
「(つか、他人の心配する前に――)」
「「〜〜!!」」
「ぶおっ!」
他人の心配よりも、自分の心配をしようと考えを改めようとしたその矢先――
正面から何者かがに思いっきり突撃してくる。
思いにもよらない出来事に、さすがのも受けとめることもできずに
不恰好に座っていた椅子ごとひっくり返ってしまった。椅子ごと倒れた拍子に打った頭がじんじんと痛む。
その痛みに苛立ちを覚えながらも、はこの痛みの原因に視線を向けた。、と自分の名前を呼びながらに抱きついているのは、
明るい茶色の髪を派手に結った少女と、
強いウェーブのかかった髪をゆるくみつあみに結った少女。周りの迷惑はもちろん、の迷惑すら考えていない2人。
そんな彼女たちには深いため息をつくが――「仕方ないか」とそこで抵抗を諦めた。
様々な国の文化が存在しながらも、
個々の存在が認められている国――それがアメリカ。それによる問題もないわけではないが、
様々な人種が共生の形をとっている国としての形は、理想に近い国かもしれない――
そんなことを思いながらは運ばれてきた紅茶を口に含んだ。
「は紅茶好きね〜」
「でも、私は絶対コーヒー派だわ。――アメリカンは好きではないけれど」
「よね〜。アメリカンは薄いっ。こう、ピリリとしたコーヒーの苦味がないわ〜」
を間に挟んで、なぜかコーヒー談議に花を咲かせる少女2人。
中身があるのかないのか怪しい会話を続ける2人に、の我慢袋が満タン手前までに迫る。ここで怒鳴るのも大人気ないので、はとりあえず今、
自分が一番に突っ込みをいれなくてはいけない部分に突っ込みを入れた。
「アス、なんで女装」
そう言ってが目を向けるのは、
の左横に座っている黒髪の少女――に見える少年のアストル。突然が自分の女装についてツッコミを入れてきたことがよほど以外だったのか、
アストルは酷く驚いた表情でを凝視する。そんなアストルを前に、「こっちの方がびっくりだよ」とは突っ込みを更に入れたくなったが、
なんとなく面倒くさそうなことになりそうな予感がしたので、
その突っ込みは飲み込んでは黙ってアストルの答えを待った。すると、不意にアストルは妙に納得した表情で「うんうん」とうなずくと、スッとの手を取った。
「そんなに私を想ってくれていたのですね…!」
キラキラと輝く笑顔を見せながらそう言うのはアストル。
表情と雰囲気からするに、彼が何かを勘違いしていることは確か。彼が思っているような思いを、絶対には毛の先ほどすらも抱いてはいない。
だが、アストルの雰囲気からいって、がいくら弁明したところで
「照れているのですね…」と話を聞いてもらえない可能性が高い。容易にそんな展開に想像のついたは、
自分の右隣にいる明るい茶色髪の少女に助けを求めるように視線を向けると、
少女は笑顔でニッコリとに答えた。――そして、彼女は何も言わずにアストルの顔を右手で鷲掴みした。
「い゛だだだだだ!!痛い!痛いですッ、シエラ!」
「アス、抜け駆けは禁止と何度言ったらわかるのか〜?」
「ぬ、抜け駆けなどではありませんっ!の方から――ぎゃあ!」
「はあ〜??」
「……シエラ、アスの顔つぶれる」
またしてもを置いてきぼりに、
アスと茶髪の少女――シエラでヒートアップしていった展開に、
は強制的にそれを中断させる形でシエラにアスの顔から手を放すように言う。そんなからの静止を受けたシエラは、に少しつまらなそうな表情を向けたが、
の言葉に反抗するつもりはないらしく、スッとアスの顔から手を放した。
「――それで、結局アスの女装の理由はなんなのよ?」
「それはね?これでもアスはこっちのサッカー界では有名だから――変装の一環よ」
「……ここまでしないとダメなくらいの知名度なわけ?」
「まぁ、正しくはアスの過剰なファンサービスを抑える一環?」
「過剰とはなんですかっ。皆、喜んでくれていますよ!」
「チームメイトないがしろにしてファンにサービスしてどーする」
呆れた様子でシエラが反論すると、
アストルはそれがチームの中での自分の仕事の一環でもあると主張する。
だが、それをシエラは当然のように「どうだか〜」とあしらう。
しかし、それでもアストルは食い下がり、ファンサービスは自分の仕事だと主張する。そうしてまたしても内容があるんだかないんだか分からない会話を始めようとしている
シエラとアストルに、今度ばかりはの我慢袋の緒が切れた。
「アンタたち、ここに何しに来た…!!」
ずん、と重くなった空気。
感じ慣れた空気の重さに、アストルとシエラはバッとに視線を向ける。薄っすらとの背後に何かが見えそうな気もする――
が、気がしただけで何もない。2人はきょとんとして顔を見合わせるが、
不意に困ったような苦笑いを漏らすと、そのままの方へ顔を向けた。
「お茶しにきたよ」
「懐かしいメンバーで――ですね」
「う゛…!」
2人のセリフに思わず言葉を詰まらせる。普通ならシエラたちのセリフで言葉を詰まらせる要素などない。
だが、2人の言葉には「ゆっくり話そう」という意図が含まれている。
それは、が焦って早く本題に入ろうとしていたということを明らかにするものだった。不安に駆られて焦っていたこと、2人に余計な気を使わせてしまったこと――
自分の情けない格好に思わず両手で顔を押さえて縮こまる。
そんなの姿を見たアストルとシエラはまた顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、
ポンポンとの肩を叩きながらに声をかけた。
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃない」
「そうですよ、これからゆっくり私たちに付き合ってくだされば、それでいいのですから」
をフォローする言葉を選ぶシエラとアストル。
しかし、は顔を上げることもしなければ、顔を覆う手をどけることすらしなかった。がすぐに復活すると思っていた2人は、
「アレ?」と首をかしげていると、不意にが口を開いた。
「……2人にイライラしない自信がない…!」
「「…それは……まぁ………」」
■あとがき
FFI編本編前話になります。
115話(エイリア編最終話)を読んでいる方はわかったと思いますが、この話は、夢主がかつての仲間に会いに行く話です。
オリキャラオンリー場面も多々あったりしますが、版権キャラともちゃっかり絡みます(笑)
読まなくても本編に差し障りないように努力するのですが、読んでいただいた方がちょっと楽しいかもです(苦笑)