数日の後、エイリア学園は予告通りに白恋中へと現れた。
もちろん、白恋中サッカー部と試合をし、学校を破壊するために。
だが、エイリア学園の目論みもここで大番狂わせとなることだろう。
エイリア学園ジェミニストームのキャプテン――レーゼと、茶髪の少年フォワード――ディアム。
彼らは同時にボールを蹴り上げると、ボールを追って飛び上がる。
そして、また同時にボールを蹴り――彼らの連携必殺技ユニバースブラストを発動させた。
レーゼとディアムによって強大な力を得たボールは、
塔子と壁山のダブルディフェンスを突破しても勢いが衰える様子はなく、
ゴールへと真っ直ぐ向かっていく。
止められるか、止められないか。
そういう問題ではない。
なんとしても――止めなくてはいけないのだ。
「マジン・ザ・ハンド!!」
必殺技の発動と同時に円堂の背後に現れた黄金の魔神。
ゴールを割らんとするボール――それを止めるため、
円堂と魔神がボールに向かって手を伸ばし、待ったをかけるようにガシリと掴む。
シュートの勢いに押され、ジリジリと後退して行く円堂。
だが、円堂の目に諦めの色は少しばかりもない。
その目に宿っているのは、たくさんの人々の思いを背負った円堂の強い思いだった。
「ほんま、若い子の爆発力は何にも勝る武器やわぁ」
「感情のコントロールができていない――だからこそできる芸当ではあるけどね」
ユニバースブラストを止めた円堂の姿をニコニコと笑顔を眺めている霧美に、
は彼女の言葉を否定するような言葉を返す。
しかし、の言葉を受けても霧美は相変わらず笑顔を見せるだけで、
肯定することも、反論することもしなかった。
感情によって実力に誤差が生じる。
プロ――確実な勝利を求められる立場であれば、それは致命的な欠点と言える。
更に言えば、完璧に組み立てられた戦略の中で
「イレギュラー」となった日には、もう試合はめちゃくちゃだ。
「まぁ、イレギュラーばっかりの雷門じゃ、『いいぞ、もっとやれ』――なんだけど」
「個性のぶつかり合いから生まれるモノ――それも若い子の武器やもんねぇ」
「…ホント、これから生み出されるモノが……楽しみよ…」
そう言っては小さなため息をついた。
第56話:
「始まり」の終わり
試合終了ギリギリに決まった吹雪のシュート――エターナルブリザード。
エイリア学園のゴールキーパー――ゴルレオが必殺技を発動させる暇もなく、
エターナルブリザードはエイリア学園のゴールを割り、
シュートの強力さを物語るように、ゴールはボールと共に凍り付いていた。
鳴り響く試合終了を告げるホイッスル。
慌てて面々がスコアボードに視線を移し見てれば、エイリアの文字の下には1。
雷門の文字の下には2と書かれていた。
それから導き出せる結果は単純。
けれど、雷門イレブン――そして多くの人類が持ち望んでいたものだった。
「やったぞ―――!!!!」
雷門イレブンから沸きあがる勝利を喜ぶ歓声。
それに呼応するようにマネージャー陣と白恋イレブンからも歓声が上がる。
そして、中継のために白恋中のグラウンドにやってきていたテレビ局のスタッフたちも、
雷門イレブンの勝利を――宇宙人侵攻の終焉の時に喜びの声を上げていた。
大きな喜びに沸く白恋中のグラウンド。
しかし、まったく喜んでいない者もいる。それは当然のようにエイリア学園の選手たち。
人間に敗北を記すなど夢にも思っていなかった彼らの顔には、驚きと絶望の色があった。
「(やっぱり――か…)」
そして、彼らと同様に喜びの表情を浮かべていないのはと霧美。
雷門イレブンが勝利したというのに、その顔には安堵の色すらなく、厳しい表情が浮かんでいた。
レーゼたちの顔に浮かんでいたものが驚きだけであれば、
雷門イレブンと一緒にこの勝利を喜ぶことはできた。
だが、彼らの顔に浮かんでいるのは驚きと絶望。
圧倒的な敗北を記しての絶望であれば納得できる。
だが、土壇場での逆転勝利―実力差が僅差だということは明らかだというに、彼らはこの敗北に絶望している。
それは、彼らが使い捨ての先兵――だからではないだろうか?
無言で絶望しているレーゼたちの前へ歩み出る。
そんなに向けられる彼らの視線には強い敵意が宿っていた。
と彼らは敵同士なのだから敵意を持つのは当然のことではある。
だが、今の彼らの敵意は虚勢に見える。
精一杯、自分たちの弱さを見せないように強がっている――弱々しい虚勢に。
「ひとつ聞いておく。――キミたちにサッカーを教えたのは誰?」
虚勢――それは、はりぼての強さ。
それを分かっていながらも、は攻めの姿勢を崩すことはしなかった。
もし、彼らが鍛えられた戦士であるならば、こちらが下手に出たところで何の特もない。
だが、弱っている今こそ、こちらが攻勢に出れば、
エイリア学園に関する重要な情報を得ることができる可能性が出てくる。
仮に、ただの子供であったのであれば、
完全に萎縮する前に霧美に説得させれば問題ないだろう。
その考えの下、は質問を投げながらレーゼたちを威圧する。
完全に彼らはに気圧されているようで、彼らの顔には怯えの色がうかがえる。
もう一押しか――そう思ったの肩にポンと霧美の手が乗った。
反射的に振り返ってみれば、そこには穏やかな笑みを浮かべた霧美の顔。
どうやら彼らは鍛えられた戦士ではなく、ただの子供だったらしい。
早々に方針変更となり、は霧美にこの場を任せるように小さく後ろに後退した。
「怖がらんといてね、あんさんらを責めるつもりはありやしまへん。
ただ、あんさんらにサッカーを教えた人のことを教えて欲しいだけなんよ」
「…洩らして困るようなことじゃないでしょ?」
「、あんたは黙っといて」
レーゼたちの返答を急かすような言葉を選ぶに霧美がぴしゃりと言うと、
はやや不機嫌そうな表情を浮かべながらも黙った。
優しい微笑みを浮かべて、霧美はレーゼたちが口を開くのを待つ。
既に折れかけている心に更に追い討ちをかけては、
折れるを通り越して心が崩壊してしまう可能性もある。
それを防ぐためにも、ここは黙って彼らが自らの意志で口を開くことを待つしかなかった。
沈黙が続くこと数分。
不意に「お前たちは…」とレーゼが口を開いた。
「知らないのだ。エイリア学園の本当の恐ろしさを。
…我々はセカンドランクに過ぎない。我々の力などイプシロンに比べれば…」
怯えた様子で人類にとっての新たな脅威であり、
雷門イレブンにとっての新たな敵となる存在――イプシロンの名を口にするレーゼ。
彼の口ぶりからいって、ジェミニストームとイプシロンの実力差は半端なものではないようだ。
しかし、彼の言葉はの質問の答えも兼ねているのだろうか?
「…イプシロン。……それが質問の答え?」
「……そう思う?」
「――ッ!?」
レーゼの言葉が終わるや否や、エイリア学園に向かって飛んできた黒いサッカーボール。
だが、彼らの使っていたものとは違い、五角形の部分が紫色ではなくえんじ色。
そんなことをは妙に冷静に思っていると、何かによって体が後方へと引っ張られる。
なぜ体が後方へと引っ張られたのか、それも気にはなったが、
それ以上に気になっていたのは――レーゼだった。
黒いサッカーボールによる発光の中、無意識にレーゼに視線をやれば、
チームメイトたちが黒いサッカーボールを見て恐怖に慄いているというのに、
彼だけはなぜか穏やかだが悲しげな表情を――に向けてた。
光が止み、黒いサッカーボールが消える。
それと同時に、レーゼたち――ジェミニストームの姿も消え失せた。
「…所詮はセカンドランク――そんなところか」
突如として紫色の光を背に現れたのは、赤いユニフォームを着た少年と少女たち。彼らの纏う威圧感はジェミニストームの比ではない。
まったくの別格、そういっても過言ではないほどの違いが――目に見えて彼らにはあった。
「我らはエイリア学園ファーストランクチームイプシロン。
地球の民たちよ、やがてエイリア学園の真の力を知るだろう」
そう言ったのは彼ら――
イプシロンのキャプテンであろう黒いマフラーと黒髪が印象的な少年。
しかし、彼は雷門イレブンにさしたる興味もないようで、
お決まりの台詞をひとつ口にして早々に去って行く。
それを誰一人として止めることもできず、
ただ黙って彼らが去っていく様子を見守ることしかできなかった。
「!しっかりしぃ!」
「…………。……ゴメン…ちょっとボーっと…」
「この阿呆!心配かけんといて…!」
の存在を確かめるように強く抱きしめるのは、を引っ張った霧美。
どうやら、よほどの様子はおかしかったらしい。
だが、それも当然か。
危機的状況が迫れば、反射的に危険から身を退く――
危機感知能力に優れたが、危険を目の前にしながら退く様子を見せなかったのだ。
心配するなという方が難しいし、心配して霧美が手を出さなければ、
今頃どうなっていたか――考えたくもない話だ。
軽い調子では霧美に「ゴメン」と謝るが、
自分の心配の度合いをわかっていないに怒りを覚えたらしい霧美は、
ネチネチとに向かって小言をもらし始める。
うっかり霧美の地雷を踏んでしまった。
それを「ぅわー…」と心の中で思いながらも、の思考は違うところにあった。
「(彼は私に何を……)」
の脳裏に焼きつくのは、最後に見せたレーゼの自然な表情だった。
■あとがき
負けたジェミニとイプシロンは直接、他勢のエイリアメンバーが処断を下していましたが、
カオス――というかプロミとダイヤのメンバーはどうなっていたのか疑問です…。
若干、反乱分子みたいなことにもなってましたし、ジェミニとかと同じようなことになっていたんでしょうかね??