イナズマキャラバンの当初の目的であった、吹雪士郎のキャラバンへのスカウト。
そして、その中で新たに目的として追加されたエイリア学園――ジェミニストームの撃破。
この2つの目的を達成したイナズマキャラバンは、白恋中――北海道を後にすることになった。
エイリア学園の新たなチーム――イプシロンの出現により、
イナズマキャラバンの目的は新たに「打倒イプシロン!」に変わり、
イナズマキャラバン一行の戦いはこれからも続く。
白恋中で仲間となった吹雪は、新たなキャラバンのメンバーとして、
イプシロンを倒すために白恋中を離れることとなった。

 

「ほんま、ほんまに大丈夫なん――?」
「…だから、大丈夫だというに」

 

しかし、これから戦いの最中へと放り込まれる吹雪よりも、
を心配している残念な吹雪の義理の姉が一人。
心の底から心配そうな様子でを引き止めるようにぎゅうっと抱きしめている。
抱きしめられているは全力で苦しいのだが、抵抗するとなお絞まることを知っているは、
苦しみに耐えながら心配するなと霧美に何度も主張した。
しかし、先日のジェミニストーム戦のこともあり、
の言葉はだいぶ信頼性を失っているようで、霧美に納得する様子はなかった。

 

「…私よりも弟くんの心配したらどーなのよお姉さん」
「なにゆーてはるの?シロちゃんよりもの法が10倍心配やわ。
…この間みたいにボーっとして宇宙人にキャトられてしもたら…!
「(…否定できない……)」

 

実際にありえる可能性だけに否定もできず、はどうしたものかと迷っていると、
霧美の心配性をみかねたらしい吹雪が苦笑いを浮かべながらある提案をした。

 

「そんなに御麟さんが心配なら、霧美姉さんも一緒に来ればいいんじゃない?」

 

名案ともいえる吹雪の提案。
しかし、霧美にとってそれは最も避けたい提案だったようだ。
ふと我に返ったように、力を入れていた腕から力を抜き、落ち着いた様子でから離れる。
そして、先ほどまでの心配そうな表情が嘘だったかのように、
穏やかな笑顔を見せると、やさしく吹雪を抱きしめた。

 

「シロちゃん、無理したらあかんよ」
「霧美姉さん……。うん、心配しないで。ボクは大丈夫だから」

 

霧美を安心させるように吹雪が答えを返すと、
霧美はすっと吹雪から体を離し、最後に愛おしそうに吹雪の頭を撫でた。
そして、吹雪から本当に離れると、最後にに視線を向けた。

 

も……無理だけはあかんえ」
「…約束はしない」

 

差し出された手をパンッと叩き、はキャラバンへと乗り込む。
それを吹雪は少し戸惑った様子で見つめていたが、霧美に笑顔で背中を押され、
それが彼女たちの信頼を証なのだろうと納得すると、
霧美に「いってきます」と最後に伝えてキャラバンへと乗り込んだ。
イナズマキャラバンメンバー全員がキャラバンへ乗り込むと、キャラバンにエンジンがかかる。
そして、発進の合図であろうプップーというクラクションが響くと、
イナズマキャラバンは北の大地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第57話:
シックスセンス発動!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道を後にして、やっと本州へ帰ってきたイナズマキャラバン。
あと少しで東京――というところで、イプシロンからの襲撃予告が
京都にある中学校――漫遊寺中学に送られたという情報が入ってきた。
イプシロンよりも先に漫遊寺中にたどり着くために、予定を急遽変更して東京へは戻らず、
そのままの足でイナズマキャラバンは漫遊寺中を目指すこととなった。
漫遊寺中学校。
この中学は対抗試合を行うことを禁じられているため、フットボールフロンティアには出場していない。
だが、その実力は非常に高く、フットボールフロンティアの裏の優勝校――
と、まで呼ばれるほどの実力を秘めているらしかった。
対抗試合を行わないこともあり、ネットに出回っている漫遊寺に関する情報は極々僅か。
しかも、ほとんどが瞳子が提供してくれた情報と似通った情報ばかり。
吹雪のときと同様に、とにかく一度漫遊寺に行って
自分の目で確かめなくてはどうにもはじまらない――そんな状態だった。

 

「(…どーしてこう、行く先々に……)」

 

の視界に入ってきたのは、赤い屋根が印象的な高い塔。
現物を見るのは初めてだが、この建物をは知らないわけではなかった。
3年ほど前のこと。
の中学受験に関する家族会議を開いたときに、はこの建物をパンフレットで見ている。
知り合いに漫遊寺OBがおり、漫遊寺はにあっているのではないか――
と入学を勧められていた時期があったのだ。
結果的には、自宅近くにあり、親友である夏未のいる雷門に入学したわけだが、
割とギリギリまで雷門にするか漫遊寺にするかで迷っていたとしては、とても印象深い学校だった。

 

「…なんか、のんびりしてるよな……」
「襲撃予告なんてまったく気にしてない感じ」

 

不意に言葉を漏らしたのは風丸と塔子。
2人の言葉にならうように、は視線を上から下に向ける。
すると、そこにはぽっかりと開いた穴とまったく調和が取れていない、
のんびりと落ち着き払いすぎている漫遊寺の生徒たちが多くいた。
本を読んでいる者あり、談笑に興じているものあり、武道の型の練習しているものあり。
彼らにとって極々日常的なことを、巨大な穴の開いたまったくもって非日常的な道の上で行っている。
冷静を通り越して無関心なのかと疑ってしまうほどの漫遊寺中世との落ち着きぶりに、
は改めて雷門に入学してよかったと感じた。

 

「とにかく、サッカー部を探そうぜ」
「……サッカー部なら奥の道場みたいだよ」

 

仕切りなおすように、円堂が自分たちの目的であるサッカー部を探すように提案すると、
ほんの少しの間をおいてから吹雪が答えを返してくる。
反射的に吹雪の声の聞こえた方向へ視線を向けてみれば、そこには漫遊寺の女子生徒と楽しそうに会話している吹雪。
どうやら吹雪は彼女たちから漫遊寺中サッカー部の部室の情報を得たようだった。
意外に女子の扱いに長けるらしい吹雪に、一同はなんともいえない感想を抱いたが、
それよりも漫遊寺イレブンに会うことが先決だと判断すると、
サッカー部の部室があるという道場へ向かって歩き出した。

 

「…?さっきからずっと携帯気にしてるけど…どうしたんだよ?」

 

先ほどから頻繁に携帯を閉じたり開いたりしている
それがどうにも気になった一之瀬は、歩調を遅くしての横につき尋ねると、
は開いていた携帯をパチンと閉じて「ちょっとね」と切り出した。

 

「知り合いに連絡したんだけど、
いつまで経っても返事が返ってこないから、直接電話するかどうか悩んでたのよ」
「……しないの?」
「もう漫遊寺中の校内に入ってるし――そのうち会えるだろうからいいかと」
「…え、ってテレパシー使えるの…?」
「は?そんなの使えるわけないでしょうに。使えるのは私じゃなくて――相手の方よ」
「結局使えんのかよ!」

 

一之瀬の横を歩いていた土門がにツッコミを入れる。
現実主義者に見えるが、まさかテレパシーの存在を肯定するとは思っていなかった土門は、
かなり驚いた様子で「なんだそりゃ」とに真相を聞いてくる。
現状、宇宙人と戦っている自分たちの方がよっぽど現実味に欠けるだろう――と土門を見ながらは思ったが、
あえてその感想は口に出さずにはテレパシーの真相を伝えた。

 

「シックスセンスとか第六感とか――そういう虫の知らせ的なモノを敏感に感じ取る相手でね。
たぶん私が漫遊寺の校内に入った時点でなんか感じてると思うんだけど……」
「……それって霊感体質ってやつか…?」
「さぁ?でも、ここは神秘の街――京都よ?
そういう科学じゃ証明できないものがあっても何の不思議はないじゃない」
「いや、そういうものがあること自体が不思議だろ…」

 

困惑した様子で、にツッコミを入れ続ける土門。
確かに土門の言うことも尤もだが、やはり宇宙人うんぬんを目の前にしているたちにとっては、
この程度の虫の知らせ――精神呼応など不思議と感じるほどのものではないだろう。
しかし、宇宙人うんぬんに関してはすでに感覚が麻痺してしまっているらしい土門には、
どうしてもテレパシーは不思議要素らしい。
普段はノリが軽いのに対し、変なところで真面目というか慎重な土門。
少し呆れた様子でが「頭固いわねぇ」と土門に言うと、
土門は「いや、俺の反応が普通だろ!?」と反論してくる。
想像通りの土門の返答に、は「固いな」と土門の頭の固さを再確認すると、
話を摩り替えるように一之瀬に意見を求めた。

 

「んー、自分で使えたら便利だよね!」
「「そうじゃない」」

 

土門とのステレオツッコミに「え?」と驚いたような表情を見せる一之瀬。
思い切りの質問の意図から外れた答えを返しているのだが、本人的には答えたつもりだったようで、
そうではないと否定された意味がわからず、一之瀬の頭上には疑問符が乱舞していた。
そんな疑問符乱舞状態の一之瀬を見かねた土門が「だから」と一之瀬に説明を始める。
それを横目で眺めながら、は本当にこの二人はいいコンビとだと心の中で笑った。
熱心な土門のテレパシー解説を聞きながら足を進めていくと、
少し先のところに「蹴球道場」と書かれた看板が設置された扉が見えた。
やっと見つけた漫遊寺イレブンがいるであろう部室を発見した円堂は、
興奮した様子で「行くぞみんな!」と声を上げて、道場へ向かって走り出した。
――が

 

「だあ?」
「ぅおっ!?」
「ふぁ?!」
「おうっ」
「ふぎぃ!」
「うおおぉぉ!!?」
「うわああぁ?!」
「す、すまんっ!」

 

円堂、染岡、塔子、土門、栗松、目金、壁山、風丸。
なんの障害物もない廊下で盛大に事故を起こしている雷門メンバー。
将棋倒し――ではなく、スリップ事故のようで、円堂がこけた床の一部が妙にピカピカと光っていた。
あまりにも不自然過ぎるその床は、おそらく誰かの仕掛けた悪戯。
円堂たちを引っ掛けようとしたのか、それとも他の人間を引っ掛けようとしたのかは定かではないが、
兎にも角にも雷門イレブンに与えた害は小さいとはいえなかった。

 

「大丈夫――」
大丈夫じゃないですよ!
「ですよね…」
「グキって言いましたよ!グキって!!
「す、すみませんッス……」

 

程度のほどはわからないが、当分のあいだ目金を試合に出すことはできないことは確かなようだ。
控えメンバーのいないカツカツのメンバー構成だというのに、ここで負傷者が出てくるのは正直痛い。
メンバーが足りなくてはエイリア学園に勝つどころか、試合を開始することすらできない。
イプシロンの力を肌で感じることができるかもしれない――そう思っていただけに、目金の怪我は大きな問題だった。

 

「(うーん…漫遊寺で選手を適当に見繕うか……でも、三重に行ったら戦国伊賀島が――)」
「ウッシッシッシ!ざまあみろ!
フットボールフロンティアで優勝したからっていい気になって!」

 

の思考を不意に中断させたのは、雷門イレブンを罵倒する少年の声。
反射的に声のする方向へ視線を向けてみれば、そこにはサイドに大きく跳ねた藍色の髪が特徴的な少年が、
床磨きのワックスを持って意地の悪い笑みを浮かべている。
どうやら彼が目金が怪我をした大本の原因のようだ。
見るからに悪戯をさせたら右に出るもののなさそうな、
天性のものであろう悪戯っ子オーラが漂っている少年に、
思わずは心の中で「うわぁ…」と面倒くさそうに洩らす。
これはあれだ。
無策で相手にしてはいけないタイプの人間だ。

 

「お前ぇ〜!!よくもやったな!」

 

ことの原因がすべてあの少年だと理解した塔子は、彼を捕まえるべく身を乗り出す。
少年を捕まえるつもり満々の塔子の様子に、捕まっていいことがあるはずがない少年は、
素早く塔子たちに背を向けると逃げ出した。
当然、彼を追うために塔子は手すりを跳び越えて外へと飛び出した。
が、塔子は少年を追うことはできなかった。

 

ぅわあぁ!?
「やーい!引っかかってやんのー!」

 

塔子が少年を追えなかった理由。
それは彼が仕掛けた落とし穴に塔子がお見事に引っかかってしまったから。
の思ったとおりに、あの少年は無策で対応するには厄介なタイプの人間だ。
特に相手にとってここはホームグラウンド。
本気で相手をしようものならば、仏様張りの広い心を持ってことにあたらなくてはならないだろう。
できれば関わりたくないのがの本音だが、
どうにもこうにも「フットボールフロンティア」という単語を口にしていた時点で、
彼が漫遊寺サッカー部の関係者であることは絶対だった。

 

「小暮ー!」

 

遠くから響く若干怒気を含んだ声。
その声に少年はピクリと反応すると、声の主の存在を確かめるように声の聞こえた方へと視線を向ける。
幸い、まだ少年――小暮のそばまではやってきていないようで、声の聞こえる方向に人影は見えなかった。
それでも、さっさと逃げなければ捕まるリスクが上昇する一方。
小暮は早々にこの場を立ち去ろうとしたが、それを許さないものがいた。
いつの間にやら、小暮のすぐそばにまで迫っていた人影――それは
隠密張りに気配を消すことに長けたからすれば、気づかれずに小暮に迫る程度わけもない。
だが、さすがに捕まえるとなるとそれは難しかった。

 

「おおっと!」
「おしい!」

 

雷門イレブン一同全員の心境を代弁するように声を上げる土門。
寸前のところで小暮を取り逃がした
しかし、取り逃がした当の本人は、
おしいとも思っていなければ、悔しいとも思ってはいなかった。

 

「へへっ、そんなんで捕まるか――フギャッ!
「…捕まったな、小暮」

 

音もなく、気配もなく。
突如すぅっと現れたのは、紺青色の髪をセミロングに整えた一人の少年。
彼の登場にも驚いたが、それよりも驚いたのは、彼の小暮の捕らえ方だった。
ぐわしと左手で小暮の顔面を掴む少年。
しかも、その表情に浮かんでいるのが怒りではなく無表情。だからなおさらに怖い。
小暮のせいで痛い目にあった雷門イレブンだったが、
思わず彼の無事を心の中で祈ってしまうほどだった。

 

「これで三度目。お前の我侭に付き合うのもここまでだ」
はばふぇほの!はばふぇ〜〜!!放せこの!放せ〜〜!!
「黙る」

 

小暮の抵抗虚しく、小暮の首筋に完璧に決まった少年の手刀。
その効果によって小暮の口から魂がひょろりと――出てきたような錯覚を覚える。
これが漫遊寺流なのかと思うと雷門イレブンメンバーはゾッとしたが、
再度聞こえた「小暮ー!」という声に少年が面倒そうに「チッ」と舌を打ったところを見ると、
どうやら彼も小暮と同様にイレギュラーな存在のようだ。
最後に少年はを一瞥したあと、何事もなかったかのように小暮を小脇に抱えなおし、
何も言わずにひょいと塀の上へと跳び上がってあっという間に一行の前から姿を消してしまった。
突然出てきたと思ったら、早々に姿を消した少年。
なんとも言えず、は苦笑いを浮かべていると、不意に一之瀬が質問を投げてきた。

 

「彼がの知り合い?」

 

突如発現した一之瀬のシックスセンスに、思わずビックリするだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 神秘の町、京都。いいですよね。もう一度じっくりと観光したいものです。
そんな町ですから、雷門イレブンのみなさんのシックスセンスも、
研ぎ澄まされてるんじゃないかと言うことで、あんなオチになりました(笑)
でも、のせさんや円堂少年は、素でおもきし勘が働く方だと思いますが(笑)