東京へ戻るイナズマキャラバンの元へ飛び込んできた悪いニュース。
それは、フットボールフロンティアの事件で逮捕された影山が脱走し、
愛媛に真・帝国学園を立ち上げたというものだった。
その一報を聞いた雷門イレブンは、すぐに愛媛に向かおうと声を上げた。
影山のしようとしていることを潰すべきだ。影山のしたことを許してはいけない。
そう彼らは口々に愛媛に向かうことを肯定する。
影山が行ってきた多くの悪事を目の当たりにしている雷門イレブンだ。
影山を野放しにできないと意気が揚がってしまうのもわからなくはない。
だが、だからといっては彼らの選択を肯定する気になれなかった。
走行中にもかかわらず、シートベルトをはずしては立ち上がる。
後ろから「危ない」だの「戻れ」だのとの行動を咎める声が聞こえるが、
から言わせれば、彼らが選択しようとしている行動の方こそ「危ない」だ。
そんな思いがあり、冷静を保てそうになかったは、
振り向きもしなければ言葉も返すこともせずに自分の定位置――瞳子の隣の席に腰を下ろした。

 

「監督、向かうんですか?愛媛に」
「……あなたは反対みたいね」
「それはもちろん」

 

どんな状況であれ、影山とは関わりたくない――それがの本音。
フットボールフロンティアのことは、影山の元にいた鬼道の存在と、
鬼瓦が行ってきた長きに亘る捜査があったからこそ、協力することを決めたが、
今回に関しては協力することはできない。
丸腰で影山の牙城に乗り込むなど、好きにしてくださいと言っているようなものだ。

 

「そのメール、明らかに誘っているとしか思えませんし」
「誘っている…?…このメールが偽物だというの?」
「…響木さんに限って、彼らに影山をけしかけるようなことはしません。
――となると、このメールは影山側からの『誘い』です」

 

雷門イレブン、そして以上に影山が行ってきた悪事を知っている響木に限って、
わざわざ危険要素の塊である影山と雷門イレブンをぶつけあおうとするはずがない。
仮に、世宇子戦のようにある程度の影山と戦う準備ができていれば、
GOサインを出されてもあまり違和感はない。
だが、この丸腰の状況下でのGOサインはあまりにも不自然すぎた。
確信を持った様子で瞳子に送られた響木からのメールを偽物だと断言する
その言葉を受けた瞳子は、少し自分の携帯を見つめたあと、徐に携帯を操作してから携帯を耳に当てた。
それから数秒の沈黙が続いた後、瞳子は「響木さんですか?」と口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第61話:
後悔プレリュード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メールの真偽の程を確かめるために響木に連絡をとった結果、
やはり瞳子に送られてきたメールは偽物であることがわかった。
わざわざ響木の名を騙って送ってきた以上、
このメールは影山が仕掛けてきた罠である可能性が濃厚。
このイナズマキャラバンにはエイリア学園という強敵もいる以上、
この場面で影山の罠にかかっている暇も余裕もない。
ここは警察等に任せて――となるはずだったのだが、
影山の脱走現場で発見された黒いサッカーボール――エイリア学園と関わっている可能性の浮上によって、
イナズマキャラバンの目的地は大きく変更された。

 

「(納得できない…)」

 

最終的にイナズマキャラバンの目的地となったのは愛媛。
要するに、影山の誘いにのるということとなったのだ。
響木も総一郎も瞳子もも、影山と関わることに対して否定的だったというのに、
影山がエイリア学園と関わっている可能性――それが浮上した途端に瞳子は影山の誘いに乗ることを肯定した。
エイリア学園に関する情報が得られるのであれば、影山と関わることも致し方ない。
それに、今影山と関わらずに済んだとしても、影山は再度イナズマキャラバンにアプローチをかけてくる。
そのアプローチがエスカレートしないうちに叩く必要がある。
加えて、脱走したばかりであれば、影山の組織した真・帝国学園という組織の統率も完全には取れていない。
影山側にほころびのあるうち――早い段階で叩いた方がいいはずだ。
――そう、瞳子に説得され、響木と総一郎が納得し、
最初から最後まで否定的だったも、最終的には折れる形になっていた。
だが、最終的には多数決の部分と、
瞳子の選択を肯定すると決めた自分の中での「決まり」で折れたものの、
未だには影山と関わることを肯定するつもりはなかった。

 

「(…でも、手を打つなら早い方がいいっていうのは……)」

 

影山が完全に真・帝国学園を一組織として土台を作り上げる前に叩く。
それは確かに肯定できる理由ではある。
執念深い影山のことだ。
今、真・帝国との試合を逃れたとしても、
雷門イレブンを潰すためならば何度でものアプローチをしてくるだろう。
影山が痺れを切らせて暴力的な措置を取ってくるようになってからでは遅い。
自分たちから距離を置いている仲間たち――
病院にいる半田やマックスたち、それにチームを離れた豪炎寺のこともある。
長い目で見れば、今影山を叩くことは最善なのかもしれない。
しかし、そうであったとしても、は心から納得することはできなかった。

 

「(あ〜…我ながら臆病になったものね…)」

 

コンビニで昼食やおやつを購入してリラックスしている雷門イレブンを、
キャラバンの屋根の上から眺めながら、は改めて自分が臆病になっていることを痛感した。
これから影山と戦うことになるというのに、
彼らに緊張している様子も、怯えている様子もない。
きっと、彼らは影山の野望を打ち砕けると信じているのだろう。
絶対に勝てる――ではなく、絶対に勝たなくてはならない。
そんな強い意志があるからこそ、
どんな困難が待ち構えていようとも、彼らはこうして前へ進んでいける。
後ろを見ることを覚えてしまった自分と違って――

 

「なんだよいきなり!」
「愛媛まで時間がかかりすぎじゃねぇの?――ってこと」

 

深いため息をついた矢先、聞こえてきたのは怒りを含んだ円堂の声と聞きなれない少年の声。
反射的に声が聞こえた方へと視線を向ければ、
そこにはボールを持った円堂とその円堂を心配して駆けつけたであろう秋と夏未。
そして、最もの目を惹いたのは、モヒカン風の髪が特徴的な私服の少年だった。
彼の雷門イレブンに向ける挑発的な態度を見る限り、
おそらく彼は影山の指示て送られてきた案内係なのだろう。
雷門イレブンを特定の場所に誘導するにはメールでは事足りない。
やりようは色々とあるが、自ら誘導するのが最も手っ取り早い方法だ。
響木の名を騙り、イナズマキャラバンをこの場所まで誘導したのは少年――不動明王。
彼と瞳子のやり取りを適当に聞きながら、はキャラバンの屋根から下りる。
そして、あえて彼らの輪にはまることはせずに遠目から黙って事の成り行きを見守った。

 

「アンタ、鬼道有人だろ。うちにはさ、アンタにとってのスペシャルゲストがいるぜ」
「スペシャルゲスト…」
「ああ、かつての帝国学園のお仲間だ」
ッ?!

 

不動の口から出た鬼道へのスペシャルゲストのヒント。
それは必ず一度は想像するが、絶対に考えられない――考えたくもない存在の名前だった。

 

「…ありえないっ…!影山の汚さを身をもって知っている帝国イレブンが、アイツに従うはずがない…!!」

 

鬼道と同じく、影山の指示の下で戦ってきた帝国イレブン。
影山の悪事を目にしてきた彼らに限って、影山に従うはずがない。
拳を震わせながら、鬼道は帝国イレブンが影山に従うはずがないと言い切る。
それを肯定するように、円堂や染岡も帝国イレブンが影山に従うわけがないと不動に反論した。
そんな敵意剥き出しの雷門イレブンに対し、
不動は「俺の目がおかしいのかなぁ?」と笑いながら挑発的な言葉を返した。

 

「貴様…!誰が居るっていうんだ!誰――」
「誰だって一緒でしょ。もし本当に居るというなら――誰だって。
問うべきは『誰がいるか』ではなく、『案内するつもりがあるのか』」

 

面白いぐらいに不動に遊ばれる鬼道に苛立ちを覚えた
口は出すまいと思っていたが、あまりにも残念な鬼道のありように口を出さすにはいられなかった。
不動の嫌味にいちいち反応してしまう。
それは鬼道が冷静を保つことができていないから。
こんな状態では、影山と対峙したとき、もし本当に帝国イレブンの誰かがいたとき――
鬼道はもっと酷い動揺を見せることになるだろう。
十中八九、否応無しに雷門イレブンは真・帝国と試合をさせられることになる。
その試合の中で、司令塔である鬼道が機能しなくなっては困るのだ。
最悪の状況を考えれば考えるほどに。
よく言えば冷静。悪く言えば薄情なの言葉に凍りつく空気。
だが、必要以上に熱くなった雷門イレブンの不動への敵対心には丁度よかったかもしれない。

 

「真偽の程は、自分たちの目で確かめるとしましょう」

 

だいぶ落ち着きを取り戻した様子の雷門イレブンに、はキャラバンへ乗り込むように促す。
ここで話していても埒が明かない――と。
のその言葉に促される形で、雷門イレブンはキャラバンへと乗り込んでいった。

 

「さすが『バケモノ』の親玉。コイツら丸め込む程度、わけもねェか」
「…キミの相手もね」

 

しれっと不動の嫌味に嫌味で返した
その次の瞬間、小さな殺気のこもった不動の視線がの目を射抜く。
しかし、それにたいしてが怯むことはなく、平然とした様子で不動にキャラバンへ乗り込むよう促した。
落ち着き払ったの反応が、不動の気に障ったようで、
苛立った様子で不動は「チッ」と舌を打ったが、
それ以上口を開くことはせずにキャラバンへと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 ついに突入しやがりましたエイリア編カオス四天王の一角――真・帝国戦です。
どうにもこうにもカオスってやんややんやといった感じです(結局はぐっちゃぐちゃ)
鬼道さんがヘタれたりしますが、場面が場面なので、ご理解のほどをよろしくお願いします…。
でも、影山絡みでおもしろおかしいことになる鬼道さんも嫌いじゃないんだぜ…(笑)