影山が去り、しんと静まり返った空気。
鬼道と円堂の顔には驚きと悲しみが入り混じった表情が浮かんでいる。
それに対して、佐久間と源田の顔には驚きなど何一つとしてなく、自信に満ちた表情を浮かべていた。
また、その2人の表情を不動は、
嗜虐的な色を含んだ笑みを浮かべて楽しげに眺めていた。
「なぜだ…なぜだ!なぜお前たちがアイツに従う!!」
自分の目の前にある現実を拒絶するかのように鬼道が叫ぶ。
だが、それに対して平然とした様子で、
源田は「強さだ」とまるで当たり前のことのように言葉を返す。
だが、彼らは過去の事件によって気づいたはずだ。
影山の強さの求め方は間違っていると。
だからこそ彼らは影山に反抗し、影山と決別して新たな帝国イレブンとして踏み出した。
――だが、次の佐久間の言葉には妙に納得してしまった。
「俺たちを見捨てて雷門に行ったお前になにがわかる」
帝国イレブンが世宇子中から受けた屈辱を晴らすため。
守ることができなかった仲間の仇を討つため。
そんな鬼道の言葉など、今の佐久間たちには都合のいい言い訳にしか聞こえない。
病院のベッドの上で、世宇子から受けた傷の痛みと、
プライドを傷つけられた悔しさを噛み締めるしかなかった彼らに、
雷門イレブンとして世宇子に勝利した鬼道の言葉などただの綺麗事。
自分たちを理由にして、結局のところ――
「お前が欲しかったのも強さだ!」
強さが欲しい。勝利が欲しい。
その気持ちを鬼道もわかっているつもりだ。
彼らと同様に、自分も世宇子に敗北を記し、屈辱を覚えたのだから。
だが、だからといってその屈辱を晴らすためならば、
影山についてもいいということにならないはずだ。
「……そのために…あの影山についてもいいのか!影山がなにをやったか覚えているだろう!」
勝利のためならば、相手を傷つけることも、陥れることも躊躇しない影山。
故に、常に帝国を勝利させるために彼は多くの非道を通した。
だが、勝利のためであろうと、非道を行うことが肯定されるは絶対にありはしない。
真の強さ――新たな帝国のサッカーを手に入れるために、
帝国イレブンは影山との決別を決意したのだ。
強さが欲しいなら、勝利が欲しいなら、自分たちと一緒に来ればいい。
影山の力に頼らすとも、強くなれる――また、昔のように最強の誇りを取り戻すことができる。
そう佐久間たちに訴えかける鬼道に返ってきたのは、残酷な答えだった。
「あの時…俺たちが病院のベッドの上でどれほど悔しい思いをしたか……お前にはわからないさ」
鬼道が差し出した手を、なんの躊躇なく叩き退けた佐久間。
それは明からな鬼道への拒絶だった。
第63話:
シリアスな茶番
「動けないベッドの上で俺たちがどんな思いだったか……」
「雷門イレブンに入り勝利を掴んだお前には、絶対にわからない」
「お前には勝利の喜びがあったろうが、俺たちには敗北の屈辱しかなかったんだよ!」
怒りと憎しみをぶつけるように言葉を吐き捨てる源田。
だが、鬼道をただ拒絶するだけの佐久間と源田に
怒りのを覚えた円堂が鬼道のフォローに入るが、バッとそれを鬼道は手で制した。
驚いた様子の円堂に言葉を返すことはせず、鬼道は無言で佐久間と源田の前に進み出る。
そして、深々と佐久間たちに向かって頭を下げ、「すまなかった…」と2人に謝罪の言葉を向けた。
無敗を誇った帝国学園サッカー部のキャプテンにして、
天才ゲームメイカーと呼ばれる鬼道。
その鬼道が頭を下げた。
しかも、チームメイトに向かって。
その滑稽な姿がおかしかったのだろう。
不動は遠慮もなくゲラゲラと笑った。
それを尻目に、は鬼道らしい選択だと感じていた。
正義感が強くて、自分の間違いに対して正直で誠実な――鬼道らしい。
「お前たちの気持ちも考えず、自分だけの考えで行動してしまった。
何度でも謝る。だから、影山に従うのはやめてくれ!」
「遅いんだよッ!!」
鬼道の言葉に返ってきたのは、やはり拒絶の言葉。
それだけならばまだよかったが、今度は鬼道の存在までも拒絶するかのように、
佐久間は渾身の力で鬼道に向かってボールを蹴り放った。
佐久間の放ったボールを、鬼道は無抵抗に受ける。
ボールが命中したのは腹部。
佐久間の怒りや憎しみの程を表すかのように、鬼道の腹部に激痛が走る。
その痛みを噛み締めれば噛み締めるほどに、鬼道は自分の選択を誤ったように感じた。
「敗北の屈辱は、勝利の喜びで拭うしかないんだよ」
また、鬼道に向かってボールが放たれた。
だが、鬼道を傷つけることが彼らにとっての勝利なのだろうか?
おそらくそれは違う。勝利の喜び――それはきっと自分たちと同じもの。
ならば、こんな茶番は続けさせるのも、見ているのも無駄だ。
一直線に鬼道に向かって行くボール。
また、無抵抗に鬼道は佐久間のボールを受ける――かと思われたが、
鬼道とボールの間に割り込んだが「待て」をかけるように足でボールを止めた。
止めたボールに足をかけ、そのボールを少し眺めた後、
はやや呆れたような表情で佐久間たち視線を向けると、
動揺した様子もなく平然と彼らに言葉を向けた。
「勝利でしか傷を癒せないのなら、こんなことしてないで試合でも何でもすればいいじゃない。
それともなに?イーブンじゃ天才ゲームメーカーと張り合う自信がない?」
「なに…?!」
「やめろ。口を出すなっ…!これは俺とこいつらの問題――ぶっ」
鬼道の顔面に命中したボール。
当然、当てたのは佐久間ではなく。
絶妙なコントロールで放たれた一撃だったようで、
鬼道の顔面に当たったボールはぶつかった反動での足元へと戻ってくる。
突然のの暴挙に、鬼道は「なにをするんだ」と抗議しかけたが、
再度ボールに足をかけているの姿を見た瞬間、思わず言葉を飲み込んでしまった。
「いつまで一人で粋がってるのよ。八方塞でどうにもできないくせに」
「だが、お前や円堂たちを…っ」
「なに水臭いこと言ってんだよ鬼道。俺たちだってお前の仲間だろ!」
「仲間の問題はみんなで解決する――それが雷門流でしょうに」
鬼道に背を向け、は再度、佐久間たちと向き合う。
自分に突き刺さっているのは彼らの怒り――憎しみや妬みといった感情はなようだ。
が想像していたよりも、この戦いの背後に渦巻く人の思惑は単純なのかもしれない。
だが、こちらの考え過ぎ――というわけでもないだろう。いずれにせよ、あーだこーだと思考はめぐらせるだけ無駄だとには思えた。
そんな結論に至ったの横を、不意に円堂が通り抜けていく。
そして、佐久間と源田に向かって真っ直ぐ視線を向けて宣言した。
「お前たちの間違いを気づかせるためには戦って、絶対に勝ってみせる!」
「おーおー、威勢がいいねェ」
「だが、威勢だけでは俺たちに勝つことはできない。俺たちには――」
「秘策があるからな」
そう言って佐久間たちは不敵な笑みを残して去って行く。
それを無言でたちは見送り、完全に彼らの姿を見えなくなったところで、
円堂とは鬼道に手を差し伸べた。
自分に差し伸べられた手に、鬼道は少し驚いたような様子を見せたが、
ややあってから2人の手を確りと取った。
「…鬼道くん、手が痛いのだけど」
「…奇遇だな、俺も手が痛い」
「ははっ、ホントに2人とも仲がいいよな!」
「「…………」」
「違うだろう」と心の中では思ったが、あえて鬼道もも口に出すことはしなかった。
その言葉を口に出せは、高確率で面倒なことになる。
否定の言葉を2人でハモるという、否定しようにも否定できない状況に。
円堂に毒気を抜かれ、はため息をひとつついて鬼道の手を放す。
すると、それに倣うように円堂も鬼道の手を放した。
そして、円堂は鬼道を励ますようにポンと鬼道の肩に手を置いた。
「鬼道、この試合必ず勝って、佐久間と源田に間違いを気づかせてやろうぜ!」
「ああ、必ず…!」
佐久間と源田を影山の手から救い出すため、決意を固める円堂と鬼道。
その2人の姿を見ながらは思う。
チームを背負ったことがあるキャプテン同士であり、
欠けている部分を補い合っているからこそ、こうして強く支えあえるのだろうと。
ただ、キャプテンという役職の職業病とはいえ、
責任を背負いすぎて一人で走り出すのはどうにかして欲しいが。
「(今にして思えば、ストッパーだったのは案外豪炎寺だったのかもしれないわね…)」
色の悪い空を見上げながら、はそんなことを思った。
■あとがき
夢主に花を持たせたところ、オリジナルとはちょいと違う流れとなりました。
元々「夢小説」なので、オリジナルと違って当然と言えば当然なんですけども…(汗)
というか、もっと夢主にとって都合のいい(恋愛的意味で)展開が普通なら起きるはずなんですが(滝汗)
やっぱり、それはメインを絞らないとキツいですね!!逆ハーにそれは無茶!