稲妻町に染岡を残し、イナズマキャラバンは大阪へと向っている。
これまでのエイリア学園に対する調査の結果、大阪に何らかの拠点があると推測されることから、
その真偽の程を確かめるために現地――大阪へ向うことになったのだった。エイリア学園に関する情報を得るため――それが最も大きな目的。
だが目的はそれだけではなく、エイリア学園からの攻撃を享受するだけではなく、
こちらから攻撃を仕掛けるという意図もあるらしい。確かに防戦一方というのはいい状況とはいえない。
だが、今この戦力でエイリア学園に挑んだところで返り討ちにあうだけ。
大人しくイプシロン戦に備えてイナビカリ修練場で特訓していた方が、
個人の戦力を強化するという点では得策のようにもには思えた。
「(…けど、染岡の穴を埋めるFWが一人欲しいところか)」
ただでさえFW不足の雷門イレブン。
だというのに、そのFWである染岡が抜けてしまい、更に雷門イレブンの決定力は低下した。現実的な話、
補欠であった目金がチームに加わりはしたが、彼に染岡の穴を埋められるほどの実力はない。
あくまで、人数的な不足を補っているだけという感じが強かった。イナビカリ修練場で特訓していれば、個々の能力は多少なり向上する。
だが、もっと飛躍的な実力アップを狙うのであれば、新たな戦力を加えるのが最も手っ取り早い。
新たな刺激をチームに加えることによってチーム全体が活気付き、
吹雪のときのようにチーム全体のレベルが上がる可能性が高いのだ。雷門イレブンにとって刺激となる存在との出会いを求めるのであれば、
イナビカリ修練場で特訓しているより、大阪で行動を起こした方が出会いの確率は格段に高い。
やや博打要素は強いものの、チーム全体の戦力強化を狙うのであれば、この選択も悪くはなかった。
「いい出会いがあるといいんですけどね」
「…新たな戦力を加えるということかしら?」
「目金は頼れませんし、小暮はまだまだ実践不足。その上、イプシロンの実力は驚異的ですから」
「大阪に実力者がいるという情報はないけれど……」
「能ある鷹は爪を隠す――それを信じてみましょう」
出会いに対する絶対的な確証はない。
故に、から困ったような苦笑いが漏れた。
だが、今の雷門イレブンでは、その出会いに賭けてみるしかないようにには思えた。現状、今のままでは雷門イレブンに飛躍的な進化など望めない。
何か新しいモノを手に入れなければ――変化は生まれないのだから。
第69話:
宇宙人のアジト
エイリア学園へ対する調査結果として、何らかの拠点がある場所と導き出された大阪。
地道な調査の甲斐あって、その大阪の中でも、
特にエイリア学園関係者の出入りが多い場所も特定することができていた。だが、その場所はイナズマキャラバンメンバーの意表をつく場所だった。
「…ここがやつらのアジトぉ!?」
円堂が驚きの声を上げるのも当然。
エイリア学園の拠点――アジトがあると言われてやってきた場所が、
多くの人たちが楽しく遊んでいるナニワランド――遊園地だったのだから。意外――ではある。
だが、意外だからこそ、エイリア学園はこの場所を選んだのだろう。今回のようになんらかの調査結果が出ない限りは、固定観念によってこの場所は調査対象から除外される。
加えて、遊園地はアニメやSFの世界を再現していても何の不思議もない。
もし、エイリア学園のアジトが何のカモフラージュもなしに建てられていたとしても、
そういう趣向のアトラクションか建物だと判断し、その建物の存在を疑問視することはないだろう。
「エイリア学園も考えたわねぇ…」
「感心していないで探すわよ。ここでじっとしていても仕方ないわ」
エイリア学園のアジトを探すように夏未に促され、が「了解」と答える。
すると、それを号令に雷門イレブンはエイリア学園のアジトを見つけるためにナニワランドに散った。単独で動く者、グループで動く者。
各々自分にとって都合のいい状態で動いているようだが、
だけは自分の都合で動けそうにはなかった。
「…鬼道、二手に分かれない?」
単独行動をとるつもりでいた。
しかし、の単独行動を阻むかのように、の横にはしっかりと鬼道が陣取っていた。異様な鬼道の雰囲気に若干気圧されながらも、
意を決しては鬼道に二手に分かれることを提案したが、その提案はあっさり却下された。
「その必要はない」
「……そーですか」
提案を却下されただったが、鬼道に対して食い下がることはしなかった。プライドが許さない――とかいう話ではなく、
単に我侭を言ってまで単独行動をとらなくてはいけない理由がなかったから。
それについ先日、鬼道には大きな我侭に付き合ってもらったばかりだ。
少しは鬼道の言うことを聞いておかなくては、罰があたるというものだろう。が観念したことを雰囲気で察した鬼道は何も言わずに歩き出す。
それを追うようにしても歩き出そうとした――が、不意に目に入ったポスターに思わず足を止めた。
「どうした?そのポスターがどうかしたのか?」
ついてこないを急かそうと振り向いた鬼道だったが、
真剣な表情でサーカスの公演を告知するポスターを見つけているを見て、口に出す言葉を急遽変えた。
しかし、鬼道が声をかけてもからの返答は何もない。
それどころか鬼道の存在を無視して、勝手にポスターの貼られている建物に向かっていた。完全にポスターのことしか眼中にないに、小さなため息をもらす鬼道。
仕方なしに鬼道ものあとを追ってポスターに近づき、ポスターの内容を確かめてみると――
「…もう公演は終わっているな」
「惜しい…」
現在公演しているサーカスかと思いきや、サーカスは3日前に最終公演を終えて撤退している。
真偽の程を確かめるためにサーカスのテントが張られていた方角に視線を向けてみるが、
2人の視界にテントらしき影は映らない。やはりサーカス団はすでに撤退してしまっているようだった。
「このサーカスになにかあるのか?」
「このサーカスってわけじゃないけど、サーカスを隠れ蓑にしていた可能性も考えられなくはないでしょう?」
「…確かに、サーカスの人間であれば奇抜な格好をしていても何の疑問をもたれないからな」
ピエロやダンサーといった派手な格好が仕事服のような人間を多く抱えるサーカス団。
もし、その中にイプシロンやジェミニストームなどのプレイヤーたちが紛れ込んでいても、
彼らと何の接触もない人間であれば簡単に騙せてしまうことだろう。加えて、身体の力の高さも、曲芸師の身体能力の高さを考えれば、凄いとは思っても怪しいとは思わない。
考えれば考えるほど、エイリア学園にとってこのサーカスという存在は、都合のいい隠れ蓑に思えた。
「すぐにこのサーカス団の行方を追うべきだな」
「その必要はないわ。このサーカス団、海外の結構大きいところで歴史もあるところだし…。
それにココ、『今年も』って書いてるってことは、年単位で計画されていた公演だろうから――」
「エイリアの隠れ蓑である可能性は低い――か」
「でも、エイリアの潜伏期間が長いとすれば、否定はできないし、一応現場には行っておきましょうか」
現場――サーカスのテントが張られていた場所へ向うことをが提案すると、
鬼道は「ああ」と言っての提案を受け入れる。
その鬼道の答えを受けて、は再度ポスターに表記された公演会場を確かめ、
入場時に貰ったパンフレットに描かれた地図で向うべき方向を確認した。
「…なにもないといいんだけど……」
「…何もない方がいいのか?」
「このサーカス団、個人的に好きなの。…だから、エイリアとつながっていたら嫌だなぁ――と」
「意外な趣味だな」
歩き出したの口から漏れだしたのは思っても見ない台詞。
疑問に思い鬼道が事情の説明を求めれば、不特定多数の人間が集まる環境を好まないにしては意外な趣味。
不特定多数の人間に囲まれる環境になるサーカスの公演を見たことがあるというだけでも意外だというのに、
がサーカス団を好きだというのは鬼道にとってかなり意外な事実だった。鬼道がの趣味を意外に思っていると、
も意外に思われても仕方ないと思っているようで、苦笑いを浮かべながら鬼道に言葉を返した。
「小さい時に海外での公演を見て好きになってね。ホント、初めて見た時のあの衝撃は忘れられないわ」
「よっぽど気に入っているらしいな」
「まぁね。――そうだ鬼道、来年もここで公演があったら一緒に見に来ない?」
「…ああ、俺もお前が気に入ったサーカスというのは気になるからな」
「期待していいわよ、本当に凄いから。あ、どうせから春奈も連れてこようか」
「なら全員で――」
「十数人分のチケット代と旅費はいずこから出てくるのよ」
「………」
突然現実的な意見を口にしたに思わず鬼道は苦笑いをもらす。
ここが稲妻町近辺にある遊園地であればともかく、
稲妻町――それどころか東京からも遠く離れたこの大阪に向うとなれば、
どうあっても中学生の小遣いを優に超える金額が動く。
個々に負担させるわけにもいかない以上、計画の首謀者が負担を負うのが道理。
だが、十数名に及ぶ雷門イレブン全員分を負担するとなると個人では厳しいクラスだろう。まぁ、鬼道クラスの家庭であれば負担できない額ではないし、
夏未に協力を求めれば応じてくれそうなものだが――
「(3人で――というのも面白そうだな)」
そんなことを思いながら、鬼道は早く現場へ向うようを促した。
「まずはエイリアとの決着をつけるのが先決だからな」
「まったくね」
■あとがき
突然の閑話休題的な話でした。
真・帝国での一悶着があった後だったので、鬼道さんと一度絡んでおきたかった所存です(笑)
何気に、鬼道さんは過保護だといいです。というか、夢主と一緒で考えすぎっ子(笑)
だからこそ、円堂の真っ直ぐな姿勢に惹かれるんだと思います。