豪炎寺とは相性が悪いんじゃないか――そう、は思った。
出会いも悪ければ、別れも悪い。
挙句の果てに、再会は悪いを通り越して最悪だ。
「……お、おはよう、豪炎寺君…」
「あ、ああ…おはよう…。…御麟……」
お互い、いつもどおりの登校だった。
そう、それはもう完璧ないつもどおり。
普段となんら変わらない「日常」「通例」と括っても過言ではないぐらい――いつもどおりの登校だった。
――が、ある意味それが悪かったのかもしれない。
自分の席からまっすぐ豪炎寺を見ると、自分の席から後ろを向いてを見る豪炎寺。
因みに、2人の間にはまったく障害物はない。
要するに、の前の席に豪炎寺が座り、豪炎寺の後ろの席には座っているのだ。
初めて知り合ったのは一昨日だと思っていた相手。
言葉を交わしてみると、意外なことにクラスメイトであることが判明。
「席はどこなんだろう?」と頭の片隅で思っていたが、まさか――
「物凄いご近所さんだったね…」
「ああ…」
第7話:
再会パレード
今のたちの状況を「灯台下暗し」と言い表すのであれば、どんだけ足元が暗いんだとつっこまずにはいられない。
というか、どれだけお互いにクラスメイトに興味がないんだという話だ。
…まぁ、豪炎寺の場合は仕方ないのだが。
「…気配を消している?」
「ええ、そうでもしないと悪目立ちする可能性があるから…」
この雷門中の理事である雷門総一郎。
彼の娘でありの友達である雷門夏未は、この雷門中の生徒会長にして理事長代理。
そんな彼女と関わりの深いが普通に学園生活を送っては、悪目立ちすることは確定だ。
もし、が夏未の友達というだけならそんなこともないのだが、
友達のよしみと言うか、なんというかではよく夏未から生徒会の雑用やらを任せられることがあり、
その関係でこの学園の有力な生徒などには顔が知られていた。こうなると、特に目立った行動をしなくとも、
ただ夏未に頼まれた雑用をこなしているだけでも存在が知られ、
面倒が起きないとも考えられなくはないのだ。
自由を愛するとしては、自由を侵されるということは、
素人サッカーを見せられるぐらい我慢ならないものなのだ。
「確実にこのクラスの大半が私のことを認知してないから気にしないでね」
「……それもまたどうなんだ…」
「大丈夫だよ?一年の頃も気配を消してすごしてきたから」
「………」
ニッコリと笑顔で言ってよこすに対して渋面の豪炎寺。が、当然だ。
の学校でのスタンスはあまりに常識から外れているのだから。
そもそも、小中学校で生徒たちが学ぶことのひとつは集団生活でのイロハ。
なのに、はそれを学ぶことを放棄している。
それを放置するのは不味いことだろう。
――そんなことを言いたげな豪炎寺の視線をは受けているが、
今更自分のスタンスを変えるつもりのないは、豪炎寺の痛いところを付いた。
「豪炎寺君もクラスのみんなと一線引いてるよね」
「………」
「大きく分類したら、きっと私たちは同じグループだよ」
笑顔で言ったの言葉に対して、否定もしなければ肯定もしない豪炎寺。
しかし、この沈黙は肯定と受け取っても問題ないだろう。
バツの悪そうな表情を見せる豪炎寺に対して、勝ち誇るかのようにキラキラとした微笑みを浮かべる。
そんな彼女の笑顔を見て豪炎寺は、かなりの曲者と関わりを持ってしまったのではないかと心の片隅で思った。
なんやかんやで再会の悪い雰囲気を解消した豪炎寺と。
だが、必要以上に干渉しようとすれば、確実に豪炎寺は離れていく。
それを心得ているは、この学園にまだ馴染んでいない豪炎寺に、この学園についての説明役を申し出る。
の申し出に、豪炎寺は少しの間をおいて「頼む」と返事を返した。
校舎や校風についてはパンフレットと自分の足で確かめたが、
この学園の教師陣の傾向や諸事情についてはまったく情報がない。
だが、豪炎寺の勘でははそういった情報を大量に持っている気がしたので、
せっかくの厚意を断る理由はなかった。
「このクラス担当の英語教師は、小テストはメジャーな問題を出すんだけど、
本テストとなると教科書の端から問題を出してくるの」
「……詳しいな」
「この先生に受け持たれたことのある先輩から教えてもらったの。あと注意が必要なのは――」
「よ!豪炎寺、おはよう!」
の言葉を遮って豪炎寺に声をかけてきたのは円堂。
彼もまたいつもの調子で登校してきたようだ。
クラスメイトの豪炎寺に声をかけるのは極自然なこと。
豪炎寺も特に円堂のことを鬱陶しがることはせず、「おはよう」と言葉を返した。
豪炎寺から返事を返してもらい、いつもであればそのまま自分の席へ移動する。
だが、いつも1人で窓の外を眺めているはずの豪炎寺が、今日は窓とは真逆の方向を向いている。
それが気になり、豪炎寺の隣に――厳密には後ろの席に座っている生徒に目をやった。
「あ、あああぁぁぁ――――!?!!」
「あら、これまた意外」
円堂の目に飛び込んできたのは、鉄塔広場でまたにアドバイスをくれるあの少女。
鉄塔広場で顔を合わせているときとだいぶ印象は違うが、間違いなく今目の前に居るのはあの少女だ。
「な、なんでお前がここに!?」
「失礼ね、ここは私のクラスでもあるんだけど?」
「うそォ!?」
「…まぁ、私も今キミとクラスメイトってこと知ったんだけど」
「うそォ!?!?」
まさかの再会に大パニックの円堂に対して、驚くほど冷静な。
両極端な2人を目の前に、さすがの豪炎寺も円堂を不憫に思ったのか、
落ち着くように円堂に言うと、にわかりやすく状況を説明するように頼んだ。
すると、はコクリと頷き、簡潔に状況を解説した。
「鉄塔広場では会っていたけど、学校ではお互いに存在を認識していなかった。――それだけよ」
「で、でも、そんなことって…」
「今現実に起きてるでしょ」
「う゛っ…」
に正論を突きつけられ、思わず言葉を飲み込む円堂。
だが、よく考えると円堂の反応が普通だ。
何度も顔を合わせているのに、クラスメイトであるということに気づかないなど、
普通に考えてありえる話ではない。
だが、の気配を消す技術と、クラスメイトへの究極的な無関心をもってすれば、
全然ありえない事態ではないようだ。
すでにの事情を知っている豪炎寺はと同様に落ち着いている。
だが、それがなお円堂の混乱を煽っているようだ。
「豪炎寺!お前もおかしいと思うだろ!?普通気づくよな!?」
「い、いや、御麟の場合はありえると思うが…」
「って!豪炎寺、コイツと知り合い!?」
新たなパニックの種が芽を出し、
更にパニック状態に陥る円堂に豪炎寺とは深いため息をつくのだった。
■いいわけ
豪炎寺&円堂との再会話でした。
実にありえない話なのですが、興味のない人間はジャガイモにしか見えない+
「お前は忍者か」とツッコミたくなるぐらい気配を消すのが上手い夢主なので、ありえてしまっています。