の申し出によって、リカがキャプテンを務めるチーム――
大阪ギャルズCCCと試合をすることになった雷門イレブン。試合をするためにサッカーグラウンドに向う途中、一部のメンバーの口からは不満が漏れていた。
「なに考えてんだよ御麟っ、こんなチームと試合するなんて…」
「そうッスよぉ、御麟さんならもっと簡単に一之瀬先輩を助けられたはずッス」
「…俺たちはイプシロンとの再戦を控えているんだ。無駄な時間なんてないのに…」
「そう思うのなら、前半戦の内に相手が戦意喪失するプレーをして、さっさと試合を切り上げなさいな」
「けど〜…」
「くどいッ」
くわっとが未だに不満を漏らし続ける栗松たちを威嚇する。
の威嚇行動に気圧され「ひぃ!」と情けない声を上げて壁山と栗松は後ずさり、
塔子は相変わらずの不満げに「ぶ〜」と口を尖らせ、
風丸は何も言わなかったがやはり不満げな表情を見せていた。地元の女子サッカーチームと試合を行うなど、
エイリア学園を相手に戦いを続けている雷門イレブンにとっては相手にならない。
故に、試合などするだけ無駄――と思う彼らの考えはわかる。
冷静に考えれば彼らの意見が尤もだ。
「ここに監督がいなくてよかったね」
「…そうね、ある意味ではいてくれなくてよかったわ」
くすくすとからかうような笑みを浮かべながらの横にやってきたのは吹雪。
嫌味とも思える吹雪のど直球な意見――
無駄を嫌う瞳子の存在を上げられは思わず苦笑いを浮かべた。目的の達成を第一とする瞳子にとって、CCCとの試合は無駄なもの。
もし、瞳子がこの場にいたとしたら十中八九、却下されていたことだろう。――ただし、有無言わさずして一之瀬を救出できていただろうが。
「あのリカって子に何か感じるものがあったのかい?」
「あの子に特別を感じたわけじゃないけど――
サッカーチームとの出会いは感じるものがあったのよ」
自信を持ってそう言ったに、吹雪は「そう」と言ってどこか楽しげに笑った。
第71話:
恋する乙女の決断
やる気を持って取り組むものが少数の中で始まった雷門イレブンと大阪ギャルズCCCの試合。
その試合が始まってすぐに大多数の雷門イレブンの予想がはずれ、の予想が大当たりした。彼女たちは雷門イレブンに匹敵する身体能力を持ち、彼らを圧倒する必殺技を持っていた。
完全に意表をつかれた雷門イレブンは先制点を許し、
散々翻弄されまくった挙句にCCCにリードを許して前半戦を終える結果となっていた。とはいえ、彼女たちの実力に対する認識を改め、雷門イレブンの全力を持って挑んだ後半戦。
地力が違うとでもいうのか、後半戦がはじまって早々、
決まった吹雪のエターナルブリザードを皮切りに次々に雷門イレブンの必殺技が次々と決まり、
あっという間に逆転すると、あとは雷門イレブンの独壇場といった調子だった。
「やっぱりダーリン最高やわ〜!
あんな凄いサッカーできるやなんてぇ!もう一生放さへ〜ん!!」
「えっ、ちょっ、話が違っ…!」
最終的に雷門イレブンの勝利で幕を閉じた試合。
しかし、リカの一之瀬への想いは消えるどころか更に燃え上がってしまったようで、
言葉通りに一之瀬を放すものかと言わんばかりにガッシリと一之瀬の首根っこを押さえる。
もちろん、雷門イレブンが勝ったら自分を解放してくれるという約束だったのだから、
一之瀬は話が違うとリカに対して抵抗するが、リカには一切通用していないようだった。なにやら振り出しに戻った気がしなくもない状況に、
苦笑いが漏れる雷門イレブンだったが、ちゃんとことは前へ進んでいるようだった。
「一旦、放してもらえる?」
「………」
突然、リカと一之瀬の間に割って入ったのは。
気分が良いところに無遠慮に横槍を入れてきたに、
リカは仇にでも会ったかのような敵意の篭った視線を向けた。しかし、交わした約束はきちんと守るつもりのようで、
不服そうな表情を浮かべながらもリカは一之瀬から手を放した。
「はい、一哉は逃げない」
「はぐっ」
リカの手から開放され、即行で仲間の下へと戻ろうとした一之瀬だったが、
今度は自分を解放するようにリカに言ったに拘束されてしまった。首に腕を回され行動を制限された一之瀬。
リカのときとは違い抵抗する様子はないが、安心して大人しくしているというよりは、
抵抗するだけ無駄だと諦めて大人しくしているだけのようだ。その証拠に、の腕の中に納まっている一之瀬の表情は不安でいっぱいだ。
だが、そんな一之瀬に対してのフォローは一切なく、はリカに言葉を向けた。
「結果だけを言えば、不合格。
――でも、本人たちがよければ親の反対なんて押し切れると思うのよね」
「!?な、なに言って…!!?」
「結婚うんぬんはご自由に」
そう言っては一之瀬を開放する。
に自身と一之瀬の関係を肯定され、リカはパァッと表情を明るくすると、
開放された一之瀬に一目散で飛びつこうとする。しかし、リカが一之瀬に飛びつくよりも先に、
一之瀬がに飛びついて――いや、しがみついていた。
「ダーリン!なにしてんっ!なんでウチじゃなくてソイツに抱きつくねん!?」
「お、お、俺はが好きなんだ!!」
「……一哉、それ乗ってくるの遅い」
何とかして一之瀬をから引っぺがそうと一之瀬を引っ張るリカ。
リカに抵抗して必死での背にしがみついている一之瀬。
その2人の攻防を背中で感じながら、は今更すぎる一之瀬のウソに呆れた様子でため息をついた。だが元はといえば、なんの事情も説明せずにリカの好意だけを肯定した自分が悪いのか――とは一考する。
一応肯定してすぐ色々を説明するつもりだったのだが、にとって一之瀬の行動はさすがに想定外だった。
「はい、一旦ブレイクッ」
一之瀬を背負ったままは強引にリカの方へと振り返った。一之瀬と引き離され、リカはまたに不機嫌な視線を向ける。
そして、が口を開くよりも先に「まだ文句あるんか!?」と噛み付いた。
「文句はないけど、あなたに一哉を渡す謂れもない」
「なっ!?さっきアンタ『ご自由に〜』ゆーたやんか!」
「結婚うんぬんは――よ。
でも、一哉の身柄は試合に勝った雷門が預かるのが道理でしょう?」
「むっ…!」
「それに、一哉も大阪に留まるつもりないみたいだしね」
「…リカに悪いとは思うけど……
俺はエイリア学園と戦うためにみんなと旅を続けたいんだ…!だから俺――」
「ならウチがダーリンについてく!」
「「「「えぇえええぇぇええぇ〜〜〜〜!!?!?」」」」
一之瀬の言葉を遮って思い切った宣言をしたリカ。思っても見ないリカの台詞に雷門イレブンは驚きの大絶叫だったが、
CCCメンバーはリカらしい決断と思っているのか、ただ単にリカの恋路を応援しているのかはよくわからないが、
リカが自分たちのチームを離れて雷門イレブン加わることに対して肯定的なようで、
リカの雷門イレブン加入が決定してもいないのにリカに激励の言葉を向けていた。
「…エイリア学園との戦いは生半可なものじゃない。
エイリアとの試合では入院クラスの怪我を負うこともざら。国レベルの大事、心にかかる負担も相当のものよ。
――傷つくことも承知で言ってるんでしょうね?」
ワイワイと騒ぐ空気の中、嫌に重いの静かな声が響く。
それによって一気に空気が重苦しいものへと変化した。イナズマキャラバンの旅は気楽な道楽の旅ではない。
この旅は、エイリア学園の侵略を阻止するための戦いの旅なのだ。戦いの旅――その中で肉体も精神も傷つくことは必至。
平凡な肉体では、凡庸な精神では、生半可な覚悟では――この旅に参加することは絶対に許されない。
本人を守るためにも、チーム全体を守るためにも、中途半端な人間をチームに加えることはできないのだ。冷静なの視線を受けるリカ。
しかし、先ほどのようにに対して噛み付くようなことはしない。
その代わりに、リカはニヤリと不敵な笑みをに見せた。
「甘く見んといて。ウチのガッツは天下一やで?」
「――よね。無駄な心配だったわ」
「…本気なのか?彼女をチームに……!」
リカのキャラバン参加を認めたに背後から待ったがかかる。
声のした方に視線を向ければ、そこには真剣な表情をした一之瀬。
リカの存在を鬱陶しく思って――ではない。
彼女のことを心配しているからこそ、に待ったをかけたのだろう。真剣な一之瀬に応えるように、は冷静な声音で答えを返した。
「彼女は実力もポテンシャルも十分。
精神に関しては今いるメンバーよりタフなようだし――なによりフォワードの参加は願ったり叶ったりよ」
「それは…そうだけど……」
「心配せんといて!ウチは大丈夫や!だって――ダーリンがおるからなぁ〜」
満面の笑みでそう一之瀬に宣言するリカ。
リカのその一言によって一気に空気がなんとも言えないゆるいものに変わった。安心して良いのか悪いのか、
かなり微妙なところだが――恋する乙女の強さを信じるしかない。それと同様に、一之瀬の忍耐力も信じて――
「雷門初の女子ストライカー誕生ね」
大阪ギャルズCCCのエースストライカー――
浦部リカを雷門のストライカーに迎えて前へ進むのが最良の選択だった。
■あとがき
本来であれば、リカの加入はもう少し後なのですが、
色々やっているうちにオチがつかなくなってしまったので、早い段階での加入となりました(滝汗)
次からはちょっと吹雪の存在が主軸になってきまーす。