イプシロンと再戦へ向けて、ナニワランドの特訓施設で特訓を続けていたイナズマキャラバン。
そんな彼らの元に、雷門中でエイリア学園の情報を集めている総一郎から新たな情報が届いた。しかし、その情報はエイリア学園に関する情報ではなく、
円堂のレベルアップに関係ある情報だった。
「(円堂大介の残したノート――か)」
円堂のレベルアップに関係ある情報――
それは、円堂大介が残したと思われるノートの存在だった。円堂大介のノートには、キーパー技だけではなく、
シュート技などのキーパー以外のポジションの技も記載されている。
円堂だけではなく、チーム全体のレベルアップを図るためにも、
イナズマキャラバンは円堂大介のノートを求めて、ノートが発見されたという福岡県の陽花戸中学校へと向っていた。窓を流れる町並みは、どこか懐かしさがあふれる――良き昭和を連想させるもの。
初めて訪れた場所だというのに、なぜか懐かしい感覚を覚える不思議な町。
思えば、どことなく雷門イレブンのホームである稲妻町と雰囲気が似ている気がしなくもない。だから――
こんなにも懐かしい気持ちになってしまうのだろうか。
「車止めて!!」
突如、血相を変えて声を上げたのは。
のただならぬ様子に気圧されたのか、わけもわからず古株はブレーキを踏み、キャラバンは急停止する。
急ブレーキをかけた反動がキャラバンに返り、
その衝撃によって雷門イレブンは思わず「わー!」やら「ぎゃー!」やらと声を上げた。突然の衝撃にやや混乱している雷門イレブン。
しかし、自分の前を走り抜けて行った影に鬼道は慌てて顔を上げた。
「おい、!」
「先に陽花戸中に向って!!」
鬼道の制止の声を振り切り、心配するなとでもいうかのように、
は目的地である陽花戸中へ先に向うように鬼道に言葉を返す。
当然のようにの言葉に納得しない鬼道が再度に待ったをかけるが、それを無視しては走った。稲妻町と似た雰囲気を持つ町。
その雰囲気によって、昔の記憶を現実と勘違いしただけなのかもしれない。
だが、先ほどの光景が現実ではないという確証もなかった。過去の幻影か、現実の影か――
それを確かめるためにはただがむしゃらに走った。
「…………」
どれほど走ったか――そんなことは覚えてはいない。
だが、やっとの中で収まりがついた気がした。
「(…動く。良くも悪くも――絶対に)」
ざわざわと騒ぐ胸。
嫌な予感もする。だが、良い予感もする。
これまでのことを考えれば、おそらくどちらの予感も当たることになるのだろう。キャラバンの中から見た影――それはおそらく現実。
でなければここまでの胸騒ぎを覚えるわけがない。
の弱さを嘲笑うかのような――精神を掻き乱す胸騒ぎ。胸に溜め込んでいた息を一気に吐き出す。
それによっての胸騒ぎはゆっくりと落ち着いていく。そして、冷静かつ客観的に自分のおかれている状況を見つめなおした。
「ここどこ?」
第75話:
それは予兆
携帯に表示されている地図を眺めながら、はゆっくりと歩みを進めている。
幸い、は方向音痴ではない上に、持っている携帯にはGPSが搭載されているおかげで、
見知らぬ土地で迷子になる――という最悪の状況には陥っていなかった。とりあえず、瞳子と鬼道には陽花戸中に向っている最中だとメールを入れている。
突然飛び出したことに関しては、またお説教を受けるかもしれないが、
とりあえず現状は心配させ続けている状況にはないので、には焦りの色はなかった。更にいえば、この町の懐かしくて穏やかな雰囲気のせいもあるのかもしれない。
なんとなくではあるが、町を歩いているうちに「早く戻らなくては」という気持ちが薄れてしまい、
はのんびりと町の雰囲気を楽しみながら陽花戸中へと向っていた。――が、のんびりと穏やかな気持ちになっていたのはだけだったらしい。
「そんなに過敏にならなくともいいと思うのですが」
「前科持ちが言うセリフか」
抗議するをあっさりと一蹴したのは鬼道。
彼の言葉を受けたは、痛いところをつかれて観念したように黙った。前科――それは世宇子戦当日に起きた、影山の配下の人間によって拉致されたという一件。
単なるアドバイザーとしてイナズマキャラバンについて回っているだけならば、
エイリア側もをそれほど警戒しないだろうが、
真・帝国戦で発揮されたプレーヤーとしての実力を危険視されれば――
世宇子戦のときのように拉致されてもさしたる不思議はない。
それが頭にある鬼道たちは、が思っている以上にのことを心配しているようだった。心配してもらえることは嬉しいが、その心配によって行動の制限をされるのはにとって都合が悪い。
しかし、彼らの心配を過敏と一蹴することはできず、
は今後も単独行動に走っては、鬼道の説教を受けなくてはいけないようだった。が正座で鬼道のお叱りを黙って受けていると、
陽花戸中の校舎から円堂と夏未、そして瞳子と眼鏡をかけた小太りの初老の男性がこちらへとやってくる。
それに気づいた一之瀬が、未だに説教を続けている鬼道に円堂たちが戻ってきたことを伝えると、
鬼道は少し不満げな表情を見せたが、小さなため息をひとつついてからに視線を向けた。
「少しは反省しろ」
「…すみませんでした」
相変わらずの不満げな表情でに言葉を向けた鬼道。
そんな鬼道には苦笑いで言葉を返した。の苦笑いを受けた鬼道は、顔に浮かべていた不満の色を濃くする。
だが、困ったような苦笑いを浮かべながら自分の肩を叩く一之瀬を見て、
鬼道は諦めたような様子で深いため息をついた。そんなやり取りをしていると、イナズマキャラバンに合流した円堂が嬉しそうな声を上げた。
「御麟!戻ってきたんだな!」
「突然飛び出して悪かったわね」
「本当よ!私たちをどれだけ心配させたかわかっているんでしょうね!」
「鬼道からしっかりお叱りを受けました…」
苦笑いを浮かべながらは怒りを露にする夏未を宥めるように言葉をかける。
だが、当然のように夏未の怒りはそう簡単には収まってくれないようで、
は第2回目のお説教を食らわなくてはならない――
ところだったが、説教を始めようとした夏未を鬼道が止めた。
「説教ならいつでもできる。先に円堂のお祖父さんのノートについて聞きたいんだが」
「……そうね、ごめんなさい鬼道くん」
「(あ、止めたんじゃなくて、保留にしただけなのね)」
止めた――のではなく、あくまで保留とするあたり、さすが鬼道といったところ。
鬼道の保留案に納得した夏未はあっさりとへの説教を保留にすると、
「立ちなさい」と言って未だに正座しているに手を差し伸べた。差し伸べられた夏未の手を借り、は立ち上がる。
適当に足についた汚れを払ったあと、これから話の中心に立つ円堂に視線を向けた。
「じーちゃんのノートにはマジン・ザ・ハンドを超える究極奥義っていうのが書かれてたんだ!」
「究極奥義…!なんか凄そうッスね!」
「キャプテンが究極奥義を使えるようになったら、鬼に金棒でヤンス!」
最強のキーパー技と呼ばれているマジン・ザ・ハンドを超える究極奥義。
その存在に――更に広がった自分たちの可能性に意気の揚がる雷門イレブン。新たな希望に湧き上がる雷門イレブンを眺めながらは、
円堂にその究極奥義と呼ばれる技が一体どんな技なのか尋ねると――
ある意味で当たり前の答えが返ってきた。
「パッと開かず、グッと握って、ダンッ、ギューン、ドカン!!」
「……、…まったくぶれてないわね…円堂語……」
ほとんどを擬音で構成された説明。
それを聞いた雷門中組の反応は呆れと諦めの入り混じった「やっぱりかい」と言った様子の反応。それに対して、塔子や小暮といった初めて円堂大介の特訓ノートの内容に触れたメンバーは、
簡潔というか、言葉が不足しすぎている説明に、あんぐりと口を開いていた。
「これはマジン・ザ・ハンドよりも長丁場になりそうね」
「なんといっても、究極奥義だからな」
思ったとおりのヒントの少なさに苦笑いをもらしながらが鬼道に話題を振る。
それを受けた鬼道は当然だと言わんばかりの笑みを浮かべて言葉を返した。鬼道の言うとおり、究極奥義という大層な名称をつけられるだけあって、
その技の習得には多くの時間と経験を必要とするだろう。円堂に――雷門イレブンに与えられている時間は多いとはいえない。
だが、そんな状況でも、円堂が見据える先には、不安はないようだった。
「絶対に俺はこの究極奥義――正義の鉄拳を身につけてみせる!」
自信満々といった様子で言い切った円堂。
その強い言葉に雷門イレブン全員の表情が明るくなった。その様子を眺めながら、はよっぽどのことがない限り、雷門イレブンは何度でも立ち上がれると確信する。
そして、自分が感じている「嫌な予感」も乗り越えて、いずれはエイリア学園の野望も――打ち砕くと。
■あとがき
アニメとゲームで福岡編はだいぶ話の内容が違いますよね。私個人としては、アニメ編の方が好きだったりします。
雷門イレブンに訪れたかつてこれまでにない危機――その一波乱が物語的にすごく好きです。
それに、ラストのことを考えると、こっちの方が違和感ないですし(苦笑)