彼是、3日ほど雷門イレブンと距離を置いていた吹雪と
しかし、そんな2人に緊張している様子はまったく見受けられず、なんらいつもと変わらない様子で、
瞳子と供に陽花戸中のグラウンドへと足を踏み入れていた。
練習に集中している雷門イレブンと、その練習風景を見守るに集中しているマネージャー陣。
どうにも吹雪たちの存在には気付いていないようなので、
は吹雪にとりあえずマネージャー陣に声をかけるように促す。
にうながされ、吹雪は何の躊躇もなく「ただいま」と秋たちに声をかける。
すると、吹雪の声を聞いた秋たちは慌てて吹雪たちの方を振り向くと、
「吹雪くん!」と驚きと嬉しさの混じった声で吹雪の名を呼んだ。
秋たちの声によって、雷門イレブンにも吹雪が戻ってきたということが伝わっていく。
雷門イレブンの視線が徐々に吹雪の下に集まってきたかと思うと、
あっという間に吹雪の周りには雷門イレブンが集合していた。

 

「もう…大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。みんなには心配かけちゃったね」

 

心配そうに自分を見つめる円堂たちに、吹雪は安心させるように笑顔で問題ないことを告げる。
吹雪の笑顔を信じた円堂は、「そっか」と吹雪の雷門イレブン復帰を笑顔で喜んだ。
そして、自身の決意を改めるように吹雪に言葉を向けた。

 

「んじゃ、これからも頑張ろうな!」
「うん」

 

円堂の言葉に吹雪も笑顔で答える。
すると、その吹雪の答えに雷門イレブンは笑顔を見せて喜んだ。
一気に雰囲気が明るくなった雷門イレブン。
それを嬉しそうで気まずそうな――苦笑いを浮かべながら見守っている
だが、それも当然か。
真意はともかくとして、雷門イレブンとはわだかまりが残ったまま、逃げるようにして距離を取ったのだ。
雷門イレブンの明るく和気藹々とした雰囲気を、居心地が悪いと感じても何の不思議はないだろう。
しかしこの状況。雷門イレブンとの関係を元に戻すには多くの労力を要するだろう。
――というか、正直言って無理に程近い気がしてならない。
雷門イレブンにとって、タブーにも近いことをはしたのだ。
それによって失った信用を取り戻すには、多くの努力――チームへの貢献や反省が必要になる。
だが、はチームへの直接的貢献はできないし、今回のことを反省するつもりも毛頭ない。
そんなだ。雷門イレブンの信用を取り戻す可能性は究極的に低くて当然だった。
「キャラバンに居辛くなるなぁ…」と心の中でが苦笑いをしていると、
突然「御麟さん」と秋が改まった様子での名を呼ぶ。
ハッとして声の聞こえた方を向こうとしただったが、秋はすでにの目の前まで来ており、
が頭の中を整理する暇もなく秋が口を開いた。

 

「ごめんなさい!」
「…………はい?」

 

なぜか全力で秋に謝られた
責められたなら心当たりもあるが、謝られる事に関してはまったく心当たりがない。
本気で秋の謝罪の意味がわからない
思わず秋にが聞き返すと、秋は「聞いたの」とに切り出した。

 

「『見守って欲しい』って言われていたって…。…なのに私、御麟さんを責めて……」

 

秋の言葉を聞き、やっとの中で話が繋がる。
どうやら海慈を通して、霧美から吹雪を見守るようにが頼まれていたことが秋に伝わったようだ。
このことが伝わっているのは秋だけではなく、雷門イレブン全員に伝わっているようで、
彼らの目にを責めるような、敵視するような色はなかった。
思わぬ海慈の「置土産」には面食らったが、ふと冷静な思考回路が復活すると、
また何処かへと旅立った海慈に感謝しつつ、秋に言葉を返した。

 

「木野さんは謝らなくていいのよ。責められて当然だったんだから」
「でも、御麟さんは……」
「覚悟していたこと――
だから木野さんが思っているほど、私は責められたことについては苦痛に感じてなかった。
――寧ろ、そうやって木野さんが自分を責めるのを見ている方が心苦しいかな」

 

事実を受け止め、自分の非を認めることのできる素直さは秋の美徳。
そんな秋を自分の勝手で振り回しておいて、最後の最後に秋を苦しめる――それはにとってなによりの苦痛だった。
根本として、がだんまりを決め込んでいることが悪いのだが、
分かっていても口を開くわけにはいかず、は秋の優しさにつけ込むしかなかった。
そんなの「卑怯」な考えなどしらない秋は、
苦笑いを浮かべながら「ありがとう」と自分を許してくれたに感謝の言葉を伝える。
それがまたの心にある良心にドッスドスと刺さるが、
その痛みに耐えながらは「お互い様よ」と苦笑いで秋に言葉を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第83話:
向かう先は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門イレブンへの吹雪の合流。
そして、と雷門イレブンの和解。
それが終わった頃、不意に瞳子の携帯が着信を告げた。
十中八九、総一郎か響木からの新たな指示か情報だと確信した雷門イレブンは瞳子に視線を向ける。
雷門イレブンに見守られる中、通話を終えた瞳子。
携帯をしまってから一呼吸置くと、雷門イレブンに響木から送られてきた情報を伝えた。

 

「沖縄に『炎のストライカー』と呼ばれる人がいるそうよ」

 

瞳子から伝えられた情報は、限りなくシンプルな内容だが、
雷門イレブンにとってはなによりも重要な情報だった。
「炎のストライカー」それを、彼らはずっと待ち続けていたのだから。

 

「豪炎寺!」
「あぁ、行こう!」

 

嬉々とした様子で円堂が豪炎寺の名を呼べば、鬼道はすぐに沖縄へ向うことを肯定した。
もちろん、まわりの豪炎寺を知る雷門イレブンも、彼らと同様に豪炎寺に会うために沖縄へ向うことに賛成している。
最近加入した小暮やリカはやや彼らの喜び具合についていけていないようだが、
それでも沖縄へ向うことに関しては肯定的なようだった。
しかしそんな中、ただ一人酷く難しい表情を浮かべているものがいた。

 

「沖縄……炎のストライカー………」
「御麟さん?何か心当たりがあるの??」
「心当たりというか……。ほら、真・帝国と戦った後に――」
あ!堵火那のサーターアンダギー!」
「そう、それなのよ」
「……いや、なんの説明にもなってないから」
「ふっふっふ、察しが悪いですね土門君。サーターアンダギーは沖縄伝統のお菓子。
それを堵火那さんが持っていたということは、彼が沖縄を訪れた可能性が非常に高いということです!」

 

まるでテレビに出てくる探偵のように自分の推理を口にする目金。
その目金の推理に対して素直に感心した土門は、さらに目金に対して彼の推理を促すが、
目金もその先には見当がついていないようで、引きつった笑みを浮かべながら、
「この先は御麟さんに譲りますよ」とに全てを放り投げた。
それを受け取ったは目金に対して苦笑いを浮かべはしたが、
目金に対して何も言うことはせずに自分の見解について説明した。

 

「勇は今、鬼瓦刑事――警察の協力者として動いてる。けど、それを知っているのは極々限られた人間だけ。
このことを考慮すると、おそらく勇が沖縄へ向ったのは、警察が表沙汰ってできない『仕事』をするためと推測できる」
「……沖縄で『何か』があったことは確かだということか」

 

確かめるように言う鬼道の言葉に、はうなずいて肯定の意を返す。
「何か」があった沖縄にいるという「炎のストライカー」。
その炎のストライカーが、雷門イレブンが求める豪炎寺である可能性は非常に高い。
しかし、豪炎寺の後ろにあるであろう黒い影の存在を考えると、
こちらから豪炎寺に近づいて行ってもいいのか――それがの懸念要素だった。

 

「俺はなにがあったって行く!豪炎寺がいるなら――俺はどこへだって!」

 

が懸念しているようなことなど一切考えていない様子の円堂。
まるでそれは当然の使命であるかのように、円堂は躊躇いもなく沖縄へ――豪炎寺の元へ向おうとしていた。
これを向こう見ずと言うのか、前向きと言うのか、それはにはわからない。
だが、円堂の選択は正しいように思えた。
響木のことだ、炎のストライカー――
豪炎寺の存在をちらつかせれば、絶対に円堂が食いつくことを分かっているはず。
それを理解していながら「炎のストライカー」と言う単語を持ち出したのだから、
これは響木や鬼瓦が連携を組んで仕組んだこと――公式的なGOサインと解釈していいだろう。
であれば、小難しいことなど考えず、
我らがエースを迎えに行くのが最良だ。

 

「頭が働きするぎるのも考えものね」
「かもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イナズマキャラバンにおいて、基本となる移動手段はキャラバン――車での移動。
それは東京であろうが、大阪であろうが、海を越えた先にあった北海道でも同じこと。
当然、福岡から遠く離れた沖縄へ向ってもその基本は変わらないだろう。

 

「古株さん、御麟さん、みんなのことをよろしくお願いします」
「ええ、任せといてください。監督も沖縄への道中、お気をつけて」
「移動状況については随時、メールで連絡します」

 

古株とが心配は無用だと瞳子に伝えると、
瞳子は安心したような笑みを薄く浮かべると、待たせていたタクシーへと乗り込む。
そして、タクシーの窓を開けて再度、古株たちに「よろしくお願いします」と小さく頭を下げると、
運転手に「出してください」と出発の指示を出した。
瞳子の言葉を受け、タクシーはゆっくりと走り出す。
それを古株とは視線だけで見送っていると、
あっという間に瞳子を乗せた車はあっという間に見えなくなってしまった。
炎のストライカーを求めて沖縄へ向おうとしているイナズマキャラバン。
体ひとつで移動できるのであれば、瞳子のように飛行場へ向うところなのだが、
キャラバンの移動もしなくてはならないため、雷門イレブンとキャラバンはフェリーでの沖縄上陸を余儀なくされていた。
フェリーでの移動は二度目となるが、今回は船の上で一日をすごさなくてはならない。
前回の移動で船酔いで体調を崩したメンバーは出なかったが、今回初めてフェリーでの移動を体験するものもいる。
大型船舶は基本的にそう揺れるものではないが、船に対する固定観念や先入観で酔う人間もいる。
雷門イレブンが万全の状態で沖縄に上陸すためにも、
こういった不安要素等はすべて排除するのが――の仕事だった。

 

「(沖縄なら、北海道の時のようなことにはならないしねぇ…)」

 

前回のフェリー移動時。
船酔いよりも酷いことになっていたのは言うまでもなく自身。
極度の寒がり――というか寒さに弱い体質によって、
フェリーでの移動中の時点ですでには意識を失っていた。
ただ、本能(?)だけでは行動していたので、実際に「倒れた」と認識されたのは白恋中でだったが。
寒さに弱くて倒れた――ではなく、船酔いで倒れたと勘違いされ、
今回のフェリー移動に関して塔子や土門たちからは「大丈夫なのか?」と心配されたが、
あくまでは寒さに弱いのであって、船酔い体質ではないことを伝え、
自分に関してはまったく問題ないと公言した。
フェリーの出向時間も迫り、続々と雷門イレブンはフェリーに乗船していく。
それにならう形でもフェリーへと乗り込んだ。
それから数十分の時間を置いてフェリーは沖縄へ向けて出向した。

 

「沖縄――か…」
「…ずっと何かを気にかけているようだな」

 

動き出したデッキの上でつぶやいた独り言――
だったはずなのだが、不意に返ってきたのは鬼道の声だった。
思考の海から引き上げられ、反射的には鬼道の声が聞こえた方へと視線を向ける。
すると、そこには鬼道だけではなく、夏未の姿もあった。
思いがけないペアに一瞬ビックリしたが、すぐには平静を取り戻し、「まぁね」と返事を返した。

 

「心配なことがある――というわけではないんでしょう?」
「…ないわけじゃないけど、『今更』って感じね」
「なら、なにをそんなに気にしている」

 

心ここに在らずといった様子のに、鬼道が核心を尋ねる。
だが、の反応は鈍く、鬼道たちに答えも返さずに空を見上げた。
それがの答えなのかと鬼道と夏未も空を見上げるが、空はただただ快晴。
なんらの考えを指示するような物は存在していない。
いつも以上に意図の見えないの反応に、思わず首をかしげた鬼道たちだったが、不意にが口を開いた。

 

「豪炎寺の成長」

 

そう言うの顔には酷く楽しげな色があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 長かった福岡編も、これにて終了です。次回からはこれまた長い沖縄編だよ!
福岡編は4本の番外編を含んだわけですが、沖縄編はオリジナルエピソードを含むため、本編自体の話数が増えます。
さらに、いくつか番外編が解禁されるので、それの公開にも時間をとるかもです(苦笑)