団体生活の中で団体の和を乱せば、当然それに対する罰が下される。
悪いことをしたのだから、受けるべき罰は抵抗せずに受け入れるべきだ。そう思い、は今まで黙って罰――
というか制裁を受けてきたが、今後もそれを甘んじて受けようとは思わなくなっていた。鬼道と一之瀬によって放たれたツインブースト。
世宇子戦の為に急ピッチで習得した技だったが、得点の有無はともかくとして、
ここまで前線の中で活躍してくれるとはも想像していなかった。習得した当初から比べて段違いに成長した鬼道と一之瀬。
2人の努力のほどを示すかのように、ツインブーストも大きく成長し――威力を増していた。
「(痛い……)」
自らの体を張って二人の成長を体感した。
ツインブーストを受けた足がジンジンと痛み、
オーバーリアクションとはわかっていながらも思わずうずくまる。以前であれば、この程度痛くも痒くも無かったのだが、
成長を遂げたツインブーストは、今のでは完全にはさばききれないレベルにまで至ったようだった。
「……随分と気が立ってるわね、なにかあったの?」
痛みから立ち直ったは、傍に転がったサッカーボールを拾い上げると、
何事もなかったかのように鬼道たち――雷門イレブンに接近していく。
が「反抗」するなどとは思ってもいなかったようで、雷門イレブンは酷く動揺していたが、
逸早く動揺から立ち直ったらしい瞳子がイナズマキャラバンに――
エイリア学園のスパイ潜入未遂が起きたことをに説明した。南雲晴矢と加藤勝。
確実にそれは望たちのことだとには想像がついた。そして、彼らがあれほどに慌てていた理由も容易に想像できた。
「(ある意味で私と同じよねぇ…)」
団体から外れて勝手な行動をとり、団体の中心人物から制裁を受ける――
まさしく、今さっきの身に起きたことをなんら変わりない。ただ、彼らは抵抗できないかもしれないが、は抵抗できた。
これはかなり大きな差異ではあるが。
「…ところで、お前は今までどこで何をしていた」
「街の方で炎のストライカーについての情報収集、ついでに知り合いに会ってきた」
「収穫はあったのかしら?」
「見ての通り、野菜とお菓子だけ」
そう言っては手に持っていた野菜の入ったビニール袋と
お菓子の入った紙袋を近くにいた壁山たちに手渡した。実際のところは、手がかりどころか大本命と対面してきたわけだが、
炎のストライカー本人は雷門イレブンにはまだ自分の存在を伝えないで欲しいとのご所望だ。
当然、彼のためにもここは何事もなくやり過ごすのが絶対だった。
「そっちもエイリアに邪魔されて、大した情報は得てないんでしょう?」
「…ああ、有力な情報は得られていない」
「なら明日は――」
「情報収集は春奈たちに任せるつもりでいる。
お前には俺たちの実力アップのために力を貸してもらいたい」
「…了解です」
ここはさすがに従う以外に選択肢はなかった。
第89話:
再・海の男
「今日も張り切って特訓だー!」
「「「おぉー!!」」」
円堂のかけ声に元気よく答える雷門イレブン。
それをやや遠目から眺めながら、珍しくはストレッチをこなしていた。普段であれば、ストレッチなどしなくても済む程度の相手しかしないのだが、
今日に限っては雷門イレブンが根を上げるまで付き合うぐらいの心持ちでいた。昨日は勝手をしたから――という罪の意識からではない。
端にの嫌な予感――エイリア学園の襲撃に対抗するため。
はったりかどうかはわからないが、望が「本隊」と言っていたということは、
エイリア学園が沖縄で何らかの行動を起こそうとしている可能性が高い。ジェネシスや、昨日雷門イレブンに接触してきた南雲が率いるプロミネンスが襲撃してくることはないだろうが、
イプシロン以下のチームを送り込んでくる可能性はゼロに等しい。
決定力を大きく欠いている雷門イレブンにとって、デザーム率いるイプシロンは未だに脅威だ。
「(土門…ザ・フェニックスが打てるくらいだし、皇帝ペンギン2号も習得できる気がするんだけど……)」
「…?なんだよ御麟」
ジィーっと土門に視線を向けていた。
さすがにそれには土門も気付いたようで、意外そうな表情を浮かべながらの元へと近づいてくた。自分の元へとやってきた土門をは再度、確かめるように全体を眺めた後、
素直に自分の考えを土門に伝えた。
「んー…土門をディフェンスに据えておくのは勿体無い気がしてね」
「そうか?オレはこのままディフェンスに回っていた方がいいと思うが…」
「攻め手を欠いている現状、少しでも攻撃手段が欲しいじゃない?」
「…でも、ザ・フェニックスはリスクが大きすぎるだろ」
「だから、土門に皇帝ペンギン2号を習得してもらいたいのよ」
土門の尤もな指摘を受け、はため息をつきながら、
塔子になにやら指示している鬼道に視線を向けた。ザ・フェニックスは現在、雷門イレブンが使うことのできる必殺技の中でも高威力を誇る必殺技ではある。
円堂がゴールから離れなくてはいけないという、前々からの欠点は立向居の加入によって解消できる。
だが、まだ立向居のレベルでは円堂の実力に追いつくことはできないため、
雷門のディフェンス力は一気に低下するだろう。これでザ・フェニックスがデザームのドリルスマッシャーを破れれば、多少のリスクも目をつぶることができるが、
ドリルスマッシャーを破ることができない可能性の方が高い以上は、下手な賭けに出るわけにもいかない。
そこで行き着く可能性が、やはり鬼道、一之瀬、土門の皇帝ペンギン2号だった。
「いや、それを覚えるのオレじゃなくて、リカでいいんじゃないのか?」
「時間があるならそれでいいけど、早期習得には土門が適任でしょ?」
「それは…まぁ……」
土門の言うとおり、鬼道と一之瀬のコンビにリカを加えたトリオで皇帝ペンギン2号を習得すれば、
無理に土門がディフェンスを離れずとも皇帝ペンギン2号を放つことはできる。
しかし、あのトリオでは完璧なものに仕上げるには多くの時間が必要になる可能性が高かった。確信はないが、次のエイリアとの戦いまでにそう日にちはない。
皇帝ペンギン2号を早く実践で使えるレベルに到達させるには、
一之瀬と幼馴染で親友であり、皇帝ペンギン2号を生み出した帝国に身を置き、
なおかつ鬼道とも親しい土門が最も適役だった。
「――とはいっても、
皇帝ペンギン2号が習得できたからって劇的になにかが変わるってわけじゃないのよねぇ」
「だよなぁ」
苦笑いを浮かべながら言うにつられてか、
土門も苦笑いを浮かべての言葉を肯定した。皇帝ペンギンは確かに強力な必殺技だが、ザ・フェニックスと同程度の威力。
となると、皇帝ペンギン2号の決定力もデザームの前では絶対的なものとはいえない。
ザ・フェニックスよりはリスクの少ない賭けだが、分の悪い賭けには変わりなかった。結局、振り出しに戻った話に、思わずがため息をついていると、
突然「オーッス!」という野太い大声が聞こえた。
「…誰、あれ」
「ん?ああ、御麟は初めてか。アイツは土方っていって、この辺に住んでるだとさ」
「へぇ〜…サッカー経験者なの?」
「らしい。円堂たちが言うには、凄いディフェンス技を持ってる――んだけど、
兄弟の世話が忙しくて仲間にはなれないんだってさ」
また「へぇ〜」と相槌を打ちながら、
は円堂と話しているがたいのいい少年――土方に視線を向けた。籠に詰め込まれた大量の野菜。あれは意外に見かけより重い。
それを悠々と背負ってきたということは、彼は見かけに違わずかなりの力と体力の持ち主なのだろう。その力と体力から生み出されるディフェンス技――
雷門のディフェンスを更に高める存在をとなってくれそうだが、
そういった家庭の事情では諦めるしかないだろう。
「でも、欲を言うとフォワードが…」
「そういえば、打っても凄いらしいぞ」
「これみよがしに!」
悪質な嫌がらせとも思える状況に思わずも声を上げる。
そんなの反応を、土門は苦笑いを浮かべながら「まぁまぁ」と宥める。
の気持ちもわからなくはないが、土方が悪いどころか誰が悪いわけでもない。
致し方のない事情なのだから、ここは我慢するしかないだろう。そうして土門がを宥めていると、不意に後方――
海から「えーんどぉ〜〜〜」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。反射的に声の聞こえた方へ視線を向けてみれば、そこには大きな波に乗った1人のサーファー。
考えるまでもなくそれは誰かわかったが、次にとった彼の行動に思わずはあんぐりと口を上げた。
「いやっほぉ〜〜!!!」
波に乗った状態から空へと飛び出した少年――綱海。
そしてその勢いのまま雷門イレブンの前に着地する。そして、それから少し遅れて彼のサーフボードも着地した。
「(…『空から飛んできた』ってこういうことね…)」
いつぞやつぶやいていた円堂の言葉を思い出しながら、は呆れと納得の混じった苦笑いを浮かべる。
確かにこれは、空から飛んできた――と言ってもおかしくはないだろう。この綱海の、文字通りぶっ飛んだ登場を、
すでに円堂は綱海の個性として受け入れているのか、笑顔で綱海を迎えようとした――
が、それを遮ってこちらも文字通り目の前でサーフボードの着地を拝んだ目金が、
綱海に「危ないじゃないですか!」と猛抗議。しかし、やはりというかで綱海は少しだけ申し訳なさそうな表情を見せはしたが、
さして目金の抗議を気にしていないようで、
ウキウキとした様子で自分が急いで円堂たちの前にやってきた理由を告げた。
「オレたちのチームとサッカーやらねーか?」
「…オレたちのチーム??」
「オレ、サッカー部に入ってよ」
「……え?」
正常に綱海の言葉は円堂たちの頭に入ってはきた。
だが、その言葉は円堂たちの右斜め上をかっ飛んだもので、完全に飲み込めても――
「「「「サッカー部にィ!?!」」」」
「この前、なんかおもしろかったしな。まぁノリだよ、ノリ」
「ノリって…」
あっけらかんと「ノリ」の一言で全てを片付ける綱海。
だが、「ノリ」の一言では解決できない事実に、
秋をはじめとした雷門イレブンの面々は苦笑いを浮かべていた。兎にも角にも、綱海は自身が通う大海原中学校のサッカー部に入部し、
そのサッカー部の面々に円堂たちのことを話したところ、円堂たちとの試合を熱望されたようだった。綱海からの試合の申し出に、
円堂や塔子たちはかなり乗り気のようで、笑顔で「もちろん」と綱海に答えている。
だが、ちらりとが瞳子の表情を伺ってみれば、
その顔には明らかに円堂たちの考えに対して否定的な色が浮かんでいた。このまま放っておけば、瞳子は確実に大海原中との試合を蹴るだろう。
しかし、今後の雷門イレブンの為にも、大海原中との試合はぜひ受けておくべきだとは考えていた。
「大海原中――私も気にはなってたのよね」
「御麟?」
「沖縄随一のサッカーチームとの呼び声も高かったのにも関わらず、地区大会決勝での不戦敗。
――なにがあったのかって」
不意に口を開いたの一言で雷門イレブンに緊張が奔った。不戦敗――その単語は酷く円堂たちの胸をざわつかせる。
しかし、綱海は円堂たちの雰囲気の変化に気付いていないようで、
「ああ、それか」と、まるでなんでもないことのように、大海原中の不戦敗について説明し始めた。
「その決勝戦当日、村祭りがあってよ。
ノリまくって踊ってた監督が、試合のこと忘れてたらしいんだ」
「え゛っ」
「で、気がついたときには、集合時間がとっくに過ぎてて不戦敗――ってわけだ」
「マ、マジッスか…」
「まっ、そういうこともあるわなぁ!」
「「「「「ありませんっ!!」」」」」
予想を遥かに下回った大海原中の不戦敗の原因。
止め処なく呆れ果てる内容の理由だったが、にとってはある意味で安心できる内容ではあった。この末端の地までは影山の魔の手は伸びていない――
その肯定といえば肯定だった。
「ま、まぁ、監督は気の抜けた人のようだけど、実力は確かなはずだし――いいですよね、監督」
「…好きにすればいいわ」
「「「やったー!」」」
「そんじゃ、さっそく行くか!みんな待ってるからよ!」
なんとか瞳子の却下を回避し、晴れて大海原中との練習試合をすることになった雷門イレブン。
そんな彼らを眺めながら、もほっと息をついた。
「(この試合をベースに――新生雷門イレブンの方向性を考えましょうかね)」
■あとがき
なんか、土門氏と絡ませてみたかったので絡ませてみました。意外とスラスラ会話が成立してビックリでした。
一之瀬の保護者同士、なにか通じるものがあるのでしょうか(笑)土門氏がお母さんで、夢主がお父さんだと思います。
因みに、第三期の土門氏はディランのマミーだと信じて疑わないよ!