快晴の蒼い空に、透き通った青い海。
美しい青に囲まれたこの場所が大海原中学校だった。
海の上に当てられた建物。
リゾート地のパンフレットや映像でしか見たことのない光景だが、その建物全てが大海原中学校で、
雷門イレブンからすれば、毎日リゾート地にいるようなものだった。

 

「サプラーイズ!」
「「「サプラーイズッ!!」」」

 

大海原中に感心ばかりしていた雷門イレブンを、
次に驚かせたのは彼らを出迎えてくれた大海原イレブンとその監督だった。
花火に横断幕にテンションの高い出迎えと、どハデな演出はまさしく「サプライズ」。
ただ、大海原の不戦敗の話を聞いていた雷門イレブンとしては、
監督のテンションに関してだけは「ああ」と納得していた。

 

「(ノリノリの大海原イレブン――なのに彼は随分物静かね…)」

 

ワーワーと盛り上がっている監督と大海原イレブンから少し離れた位置にいたのは、
大海原イレブンと同じユニフォームを着た少年。
水色の髪にヘッドフォンとメガネが特徴的で、若干大海原イレブンとは毛色の違う彼。
しかし、一定のリズムで刻まれている指を見ていると、
ベクトルは違えど彼も「ノリノリ」な人種なのかもしれない。
こういうプレーヤーが試合の中で突然、曲者になったりするんだよなぁ――
と、は心の中で苦笑いを浮かべていると、不意にガッと肩を組まれた。

 

「御麟、お前見る目あんなー」
「はい??何の話よ?」
「だから、アイツがうちのチーム一番のノリノリ男――音村楽也だ!」

 

そう言って少年――音村を指差すのは、と肩を組んだ綱海。
綱海からの紹介を受け、音村は寄りかかっていたゴールポストから離れ、
笑顔で雷門イレブンに視線を向けた。

 

「キミたちのことは聞いているよ。試合、楽しみにしているから」

 

よっぽど自分たちのサッカーに自信があるのか、
音村は萎縮した様子もなくサラリとそう言うと、試合の準備のためかその場を去っていく。
そんな音村の様子を見て、は自分が期待しているよりも面白い試合が見られそうだ――
と、内心期待していると、不意に後ろから「先に帰ってる」と言う声が聞こえた。

 

「「夏未さんっ!」」
「まぁまぁ夏未、落ち着いて落ち着いて」

 

まじめな夏未には少々酷な時間とは思いつつ、
は秋と春奈の手助け――夏未の帰宅を阻止するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第90話:
卑怯者の悪ふざけとは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門イレブンと大海原イレブンの試合。
これはが想像していた以上の成果を上げていた。
現状の雷門イレブンが抱えている問題――
決定力の不足と、立向居のブランクと実力不足が明瞭なものとなり、
行き詰っていた円堂の正義の鉄拳習得についに進展があったのだ。
決定力の不足は前々からの課題だったが、立向居の問題については思っていた以上だった。
立向居はミットフィルダーからゴールキーパーに転向したというが、
最近はずっとキーパーの練習しかしていなかったうえに、
元々のミットフィルダーとしてのポテンシャルは雷門イレブンの中で見ると群を抜いて底辺。
まぁ、天才ゲームメイカーに、フィールドの魔術師に、総理大臣警護のSPと、
元々ポテンシャルが軽く平均を超えるメンバーの中にいるからこその悪目立ちではあるのだが、
それにしても立向居がチームのパーツとして安定したプレーをできるようになるまでには、
まだそれなりの時間が必要となるだろう。

 

「(まだ、キーパーを立向居くんに任せるには――脆すぎるわね、チームが)」

 

そう心の中でつぶやきながら、は遠くに見える波立つ海へと視線を向ける。
あの海のどこかで、円堂は綱海と供にサーフィンの練習に打ち込んでいる。
だが、円堂がまたサッカーと向き合えなくなったというわけではなかった。
大海原イレブンとの試合の最後の最後で見せたパンチが、
綱海曰くサーファーが波に呑まれそうになったときに、
ボートから落ちないようにするための動きに似ている――ということで、
正義の鉄拳習得の糸口をつかむために円堂は綱海の指導の元でサーフィンの練習を行うことになったのだ。
因みに、その間他の雷門イレブンは、
大海原中のグラウンドを借りて個々が課せられたトレーニングをこなしていた。

 

「(いいなぁ…円堂……)」

 

練習の一環とはいえ、サーフィンはサーフィンなわけで。
阿夏遠島からずっとサーフィンへの思いが募っているとしては、
円堂のサーフィン特訓は正直なところ羨ましかった。
監督役として――などと適当な理由を付けて、円堂たちに同行することもできなかったわけではない。
しようと思えば、いくらでもその融通は利いた。
しかし何度も言うようだが、今のに遊んでいい理由はないのだ。

 

「そうか。よしっ、じゃあ付き合え」
「え?」
「俺と組んで練習しようや」
「あ、ありがとうございます!」
「(あ、土門にとられた)」

 

がボーっとしているうちに、
立向居の練習相手のポジションを埋まったのは土門。
元々、ミットフィルダーが本業の
技術的な部分は色々と指導できると思っていたのだが、
本人たちが決めたことならば、口は出さない方がいいだろう。
――そうは思っていたのだが、不意にばちりと土門と目が合った。
気を使っているのか、土門はに立向居の練習相手を代わろうかと声をかけてくれるが――

 

「代わらなくて結構よ」
「了解ー…」

 

間髪いれずに夏未の阻止が入り、土門は苦笑いを浮かべながら夏未に了解の言葉を返すと、
練習のために立向居を連れてその場を離れて行く。
それをも苦笑いで見送りながら、何も言わずに夏未の元へと近づいていった。

 

「なにもそこまで過敏にならなくても…」
「なにを言っているの。あなたこそ、最近悪ふざけが過ぎるわ」

 

完全にご立腹の夏未。
だが、夏未が怒るのも当然といえば当然だ。
度重なる勝手――なのに反省の色を見せない
いくらと親しい関係にある夏未とはいえ、我慢にも限度というものがあるだろう。
これ以上の「悪ふざけ」は、夏未との関係を壊すことにも繋がる。
大切な親友を失わないためにも――は夏未に謝るべきだった。

 

「…悪ふざけとは心外ね、私はイナズマキャラバンのためを思って動いてるのに――ねぇ?」
「その態度を改めれば、まだ信用できるんだがな」

 

ボールと供に夏未との会話に割り込んできたのは鬼道。
鬼道が蹴り放ったであろうボールを軽く止めたは、慣れた様子で鬼道に向ってボールを蹴り返す。
それを鬼道は止めると、ボールを手にたちの方へと近づいてきた。

 

「鬼道くんはに対して甘いわ。
今回のことだって、に対して思うところがないわけではないでしょう?」
「ああ、福岡に続いて、性懲りもなく沖縄でも単独行動をとったことには、思うところがないわけではない」
「なら――」
「だが、それがにとっての『最善』なら、俺たちはそれを信じるべきなのかもしれない」
「………」

 

鬼道がどんな言葉を口にするかと思えば、
その口から飛び出したのは今更な答えだった。
だが、ここにきてのこの言葉。
それだけ今までのの言葉と行動は、
鬼道たちを納得させるような結果を伴っていないということなのだろう。
「足引っ張ってるのか…」とが内心へこんで苦笑いを浮かべていると、
不意に鬼道から思ってもいないフォローが入った。

 

「真・帝国戦の時点で気付くべきだった。
俺の反対を押し切って…、大きなリスクを背負ってまで俺たちの為に戦ってくれた――あの時点で」
「鬼道…」
「ただ、お前の言動が俺たちの信用を著しく欠いていることも確かだがな

 

感動しかけたに降ってきたのは、ご尤もな事実。
引きつった笑みを浮かべて「そーですね」とは苦し紛れに返したが、
鬼道はそれ以上に追い討ちをかけることはせず、難しい顔をしている夏未に視線を移した。

 

「円堂や木野たちがを信用できないのは仕方がない。
だが――信じてやるべきじゃないか、俺たちは」

 

静かに夏未に問いかける鬼道。
御麟を知る人間同士として――夏未とは通じるものがあると鬼道は確信しているのだろう。
だが、鬼道はひとつ失念していることがある。
夏未はサッカーの世界に身を置くを知らない。
言を言わずとも深く通じることのできる「なにか」が――夏未との間には存在していないのだ。
そんな夏未に何も聞かずに黙って信じてやれというのは酷な話。
だが、だからと言って口を開けるほど、の口は軽くはない。
だからこそは――

 

ぁだあっ!!?
「ゴメン!コントロールが狂って…」

 

言葉が出る前にの頭に激突したのは一之瀬の蹴ったボール。
コントロールが狂ったと本人は言っているが、
これほど神懸りなタイミングでミスをするだろうか?
いや、するわけがない。
確実にこれは一之瀬と鬼道がグルになって仕組んだことに違いない。
話には混じっていなかったが、一之瀬もまた――
鬼道と同じつながりを共有している存在なのだから。

 

「この借りは10倍にして返す!ヒーヒー言わせてやるから覚悟しなさいよッ!」
「望むところさ!の方こそ、俺より先に根を上げないでくれよ!」
「ちょっ!ダーリン!ウチとラブラブコンビネーションの練習するんちゃうのー!?」

 

先ほどまでのシリアスな空気をぶち壊し、
夏未と鬼道を残して一之瀬の元へ向ってずんずんと足を進める
そのの後姿を鬼道は苦笑いで、夏未は呆れたような表情で見守っていた。

 

「やっぱり鬼道くんも一之瀬くんもに甘いわ」
「甘やかしているつもりはないんだがな」

 

そう一言だけを残して、鬼道はのあとを追う。
それを夏未は視線だけで見送り、わーわーと騒いでいるの姿を見ると、
諦めたようにため息をついた。

 

「(…私も大概ね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 夢主の「これ」は一種のカリスマ性みたいなものだと思ってください。言葉や理論では説明できないタイプのものなので(苦笑)
このいう「もの」を文章で表現できるものなのか――微妙なのですが、できるものならばできるようになりたいです。
文章でしかキャラを生かせない人間には、ここがキャラを生かす唯一の場なので(笑)