猛威を振るい続けたデザーム。フォワード、ミットフィルダー、ディフェンダー。
雷門イレブンの全てのフィールドプレーヤーが束になって向かって行っても、デザームはそれを簡単に跳ね除ける。
そして、雷門イレブンを叩き潰すべく、全力で必殺技を放つ。手加減のないデザームのグングニル。
未だ活路の見出せない円堂の正義の鉄拳では、グングニルをはじき返すことは叶わない。
だが、その不足分を埋めるように綱海や土門、
ミットフィルダーである鬼道と立向居までもが、体を張ってゴールを死守していた。なんとかグングニルを止めた雷門イレブンではあるが、未だ危機を完全に脱したわけではない。
体力は底をつき、体を張った代償に負った傷が痛む。
底なしと思えた雷門イレブンの気力も、これだけの悪い状況下では簡単に底をつく。
起き上がることのできない鬼道たち。雷門イレブンの中で唯一動けるのは――円堂だけだった。
「地球では、獅子は兎を全力で倒すという。
――私も、どんなに弱っていたとしても、お前たちを全力で倒す!!」
「…止める!!」
キャプテン同士での一騎打ちの構図となったこの場面。
現状、相変わらず分は悪いが、円堂の目は少しも諦めてはいなかった。ここで円堂が潰れるわけがない――いや、円堂は潰れてはいけないのだ。この苦境を乗り越えれば――雷門にまた希望の光がさす。
見守ることしか、祈ることしか、にできることはない。
だがそれでも、は信じたのだ。円堂の進化を。
「うぉおおおぉ!!正義の鉄拳!!!」
グングニルを弾き返した正義の鉄拳。
未だ、「究極」の名を冠すには及ばないが、
先ほどのまでの正義の鉄拳からは、明らかな進歩が見て取れた。思わず漏れる安堵と呆れの入り混じった苦笑い。
いつまで経っても、円堂は土壇場でばかり進化を遂げる。
見守っているこっちの身にもなれ――
なんて、悪態がの心の中で漏れるが、兎にも角にも雷門は最大の危機を脱したようだ。
「なに!?パワーアップしただと!!?」
「そうだ、これが常に進化し続ける究極奥義――正義の鉄拳だ!」
「…楽しませてくれるなァ。
…だが、技が進化しようと、我らから点を取らない限り、お前に勝ち目はない」
尤もなデザームの言葉に円堂は表情を歪める。
確かに、デザームのシュートを止められても、得点を得ないことには雷門イレブンの負けは確定。しかし、頼みの綱である鬼道たちは地に伏せている。
この場面でイプシロンからゴールを奪える存在は――
「…………」
円堂によってはじかれたボール。
フィールドを飛び出したそれを止めたのは、パーカーのフードを深く被った人物。
パッと見、不審な人物に見えるが、このシルエットを円堂たちは知っていた。ずっと待ち望んでいた存在であり、
イナズマキャラバンがこの沖縄へとやってきた理由――それが彼だと。取り払われたフードの下にあったのは、
元々の雷門イレブンメンバーには馴染み深い顔。多くの場面で雷門の攻撃の起点となった、
雷門の真のエースストライカー――
「豪炎寺!!」
「――またせたな」
豪炎寺修也――その人だった。
第92話:
帰ってきたエース
ついに長い沈黙を破り、
雷門イレブンに復帰した炎のエースストライカー――豪炎寺。
その存在は尽きかけた気力を甦らせるほどの活力を雷門イレブンに与えてくれた。豪炎寺の復帰によって完全に勢いづいた雷門イレブン。
イプシロンからボールを奪い、ディフェンスラインを越え、そして――ゴール前で豪炎寺にボールが渡った。
「爆熱ストームッ!!」
灼熱の魔神を背後に従え、豪炎寺が放ったのは、
ファイアトルネードを優に逸した強烈なシュート。デザームが鉄壁を誇るドリルスマッシャーで迎え撃つが、
豪炎寺が新たに習得した必殺シュート――爆熱ストームの圧倒的な威力の前に敗北を記した。豪炎寺によってイプシロンのゴールに叩き込まれた炎のシュートは2発。
対して、後半戦は一点も得点することができなかったイプシロン。ついに長かった雷門イレブンとイプシロンの決着がついた。
「やったあぁ――!!!」
長いホイッスルが鳴り響き、試合の終了を告げた途端、
円堂は喜びの声を上げて豪炎寺の元へと駆け出す。
それをきっかけに、フィールドに散らばっていた鬼道たちも、豪炎寺の元へと駆け出して行った。再会と勝利を喜び合う雷門イレブン。
その様子をベンチから少し眺めたあと、はおもむろに敗北を喫したイプシロンに目を向ける。
最後に立っているのは――まるでこれが最後の戦いであるかのようにチームを鼓舞していたデザーム。
だが、地に手をついた今の彼にあのときのような力強さはなかった。
「バカな…私が負けただと…!?
…ありえんな…あってはならん…!我々はエイリア…!イプシロン改なのだ…!!」
自らの敗北を認めず、這いずりながらも立ち上がろうとするデザーム。
彼の姿を、無様と感じるか、健気と感じるか――それは人それぞれだろう。だが、デザームの姿を無様とも、健気とも思っていない人間もいた。
「地球では、試合が終われば敵も味方もない」
そう言ってデザームに手を差し伸べたのは――円堂だった。敵対している自分に手を差し伸べてきた円堂に、
デザームは驚いた表情を見せたが、すぐに我に返ると自らの力で立ち上がった。
「お前たちのしていることは許せないけど……
俺はサッカーの楽しさを、お前たちにもわかって欲しいんだ」
円堂の言葉を受け、デザームは渋い表情を見せる。
敗北者に対する慰め、同情――そんなことをデザームは円堂に対して思っているのかもしれない。だが、そんなデザームの疑惑の心を、
円堂は屈託のない笑顔で簡単に打ち砕いたようだった。
「…次は――必ず勝つ…!」
そう円堂に宣言し、求められた握手に応えようとしたデザーム。
しかし、和解にも似たそれを遮ったのは、既視感のある青白い光だった。光の中から姿を見せたのは1人の少年。
白に近い水色の髪に、特徴的な髪型。
だが、なによりも目を引いたのは、彼の持つ身も凍るような冷たい存在感だった。
「ガゼル様!」
「私はエイリア学園マスターランクチーム、ダイアモンドダストを率いるガゼル」
改めて名乗った少年――ガゼル。
デザームに「ガゼル様」と呼ばれていたところをみると、
マスターランクとはファーストランクを超えるクラス――新たな雷門イレブンの目標となる存在なのだろう。だが、それはガゼルたちにとっても近いものがあるようで、
ふっと伏せていた目を上げると、ガゼルは冷たい視線を円堂は向けた。
「…君が円堂か。……新しい練習相手が見つかった。
――今回の負けでイプシロンは完全に用済みだ」
さらりとイプシロンの存在を否定するガゼル。
一瞬、デザームは悔しげな表情をガゼルに向けたが、
やはり初めからある程度の覚悟はしていたようで、円堂を一瞥すると黙って円堂の傍から離れていった。エイリアとしての誇り、
一サッカープレーヤーとしての誇り――
そして、チームを任されたキャプテンとしての責任。
それらを総じて、彼は身を引いたのかもしれない。自分から離れていったデザームにはっとして、円堂は慌ててデザームを見る。
戸惑ったような表情見せている円堂に対して、満足げな笑みを見せるデザーム。
そして、円堂が行動を起こすよりも先に――エイリアの審判が下された。爆発した青白い光。
反射的に目をつぶれば、もうデザームたちの姿はない。
ガゼルの手によって、用済みとなったイプシロンは処分されたのだった。
「そんな…、……くっ!」
「円堂守。君と戦える日を――楽しみにしているよ」
そう、言葉だけを残してあっという間に去っていったガゼル。新たに現れた新勢力――ダイアモンドダスト。
すでに自分たちよりも力を持ったチームが2つもあるというのに、
更に現れたエイリアのチームに「まだ他にも…」と懸念を抱く方が正常。暗い影が雷門イレブンに落ちたが、それを吹き飛ばすものが今の彼らにはあった。
「豪炎寺!」
不意に飛んだボールの行き先は豪炎寺。突然のことではあったが、受けなれたボールを豪炎寺はなんとめると、
自分に向ってボールを投げた存在――円堂に視線を向けた。
「円堂…」
「わかってるって」
申し訳なさそうな表情で円堂――そして、チームメイトたちに視線を向ける豪炎寺。
だが、円堂たちは豪炎寺の不安をすべて吹き飛ばすかのように、明るい表情で豪炎寺を迎えていた。その表情に背中を押されるように、豪炎寺は円堂にボールを蹴り返す。
そして、そのボールをしっかりとキャッチした円堂は、
二カッと嬉しそうな笑顔を見せると大きな声で豪炎寺を向かえた。
「おかえり!豪炎寺!」
「みんな…」
「待たせやがって!」
「ほんとッスよ…っ」
心の底から嬉しそうに豪炎寺の帰還を喜ぶメンバーたち。
そんな彼らの反応に、豪炎寺も嬉しそうに「ありがとう」と礼の言葉を返す。だが、彼が礼を言わなくてはいけない存在はまだ他にいるようで、
不意に豪炎寺は瞳子の方へと向き返った。
「監督」
「――おかえりなさい、豪炎寺君」
豪炎寺にイナズマキャラバンの離脱を言い渡した瞳子。
だが、彼女もまた豪炎寺の帰還を喜んでいるようで、
笑顔こそ見せはしなかったものの、豪炎寺に返した言葉には明るさがあった。瞳子が豪炎寺の帰還を受け入れ、正式にイナズマキャラバンメンバーとして復帰した豪炎寺。
それを無邪気に雷門イレブンが喜んでいると、突然豪炎寺が瞳子にむかって頭を下げた。
「ありがとうございました!!」
突然の豪炎寺の行動に、どよめきの走る雷門イレブン。
しかし、豪炎寺は本当に瞳子に対して感謝しているようで、頭を上げると感謝の言葉を更に続けた。
「あのとき、監督が行かせてくれなかったら、
俺はアイツらの仲間に引き込まれていたかもしれません」
「……さぁ、なんのことかしら」
あえてとぼける瞳子を、相変わらずフィールドから離れたベンチから眺めていた。豪炎寺が復帰した今、わざわざ真実を誤魔化さずともいい気もするが、
不意に自分の前を通り過ぎて行った鬼瓦の姿に「ああ」と納得した。
「首尾は?」
「鬼瓦のオヤジの詰めの甘さが露呈」
「そのサポートが役目だと思うんだけど――勇?」
そう言いながらも、は差し出された勇の手に応えるのだった。
■あとがき
帰ってきました!雷門の不動のエースストライカー豪炎寺さんです!
この連載では、ちょいと前の話ですでに出てきちゃってるので、喜び半減(?)ですが(笑)
もう少ししたら、豪炎寺の捏造沖縄話を公開予定です。