豪炎寺の離脱。
その真相が解明され、思い切り豪炎寺とのサッカーを楽しんでいる雷門イレブン。
そんな彼らの様子を眺めながら、は豪炎寺の離脱に関する情報を改めて勇から聞いていた。

 

「豪炎寺に接触してきたのは、総理を攫った連中と似た姿をしていたが、
そいつらは自分たちを『エイリア学園に賛同する者』と名乗っていた」
「…総帥殿の気配は」
「おそらくもうこの一件からは手を引いてる。真帝の不動を張ったがなにもなかった」
「…なら、やっぱり第三勢力があると見るべき?」
「想定しておくことにこしたことはない」

 

勇の肯定に、は納得した様子で「そう」と返事を返す。
そして、おもむろにリカとボールの取り合いをはじめた豪炎寺に視線を向けた。
イナズマキャラバンを離脱する前から飛躍的な成長を遂げた豪炎寺。
雷門イレブンのスペックなど優に越えてしまっているようで、
これでもかというほどにリカからあっさりとボールを奪取し続けた。

 

「邪魔者を排除する――だけじゃなく、仲間にしようという発想が…ねぇ……」
「合理的だが、即戦力として使うには無理が多い」
「すでに勝利を確信して、先を見据えての行動――にしては行動が早い割りに内容がゆるい。
選手の士気を削がないための配慮――にしてはエイリアの選手たちを知っていたようだし…」
「下手な小者の下克上――だといいが」
「…もう少し言葉選んだら?」

 

敵のこととはいえ、あまりに言葉を選ばない勇の一言には苦笑いを浮かべながら勇を見る。
だが、勇はの指摘を受けるつもりがないのか、思い切りから視線を逸らした。
勇の言葉のボディブローは今に始まったことではないが、
磨きのかかった言葉の鋭さに、は思わず「明日は我が身」という言葉が頭をよぎったのだった。

 

「にしても、実践を積んだ割りに目を見張る成長がない」
「…着実にレベルアップはしてるんだけど……ねぇ」
「このままだと、豪炎寺の良さが死ぬ」
「そこまで言いますか」

 

ズケズケと感じたことをそのまま言い放つ勇に、
さすがのも反論する気力もなく苦笑いだけが漏れる。
とはいえ、勇の言っていることも間違っているわけではない。
寧ろ、豪炎寺の良さが死んでしまうのというのは、
雷門イレブンが豪炎寺のレベルに追いつかなければ十分にありえる可能性だ。
大きくレベルアップして戻ってきた豪炎寺を最大限に生かすには、
雷門イレブンが豪炎寺のレベルに追いつくことが大前提。
それを短期間で達成する術が――ここ沖縄にはあった。

 

「外面の『力』ぐらいは充実させないと――さすがにまずいか」
「…このまま戻ったら蒼介が恐いぞ」
「笑えない上に末恐ろしいからやめれ」

 

そう言っては、落ち込んだ様子の吹雪を囲む雷門イレブンの元へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第93話:
曲者、一時転身

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一踏ん張りだー!」とチームを鼓舞する円堂。
それにメンバーたちも応え、雷門イレブンは練習を再開しようとする。
だが、それをは止めた。

 

「本当に――もう一踏ん張りで済むと思ってんの?
デザーム1人にチーム全体が弄ばれてたっていうのに」
「御麟……?」
「豪炎寺が間に合ったから勝てたものの、豪炎寺がこなかったら確実に負けていた――
そんなんじゃ、豪炎寺がレベルアップして帰ってきた意味がないのよ」

 

反感を買ってもおかしくないの言葉。
しかし、否定しようのない事実に、反論したいと思っても
雷門イレブンに反論できる言葉はなく、円堂たちは悔しげな表情で沈黙する。
そんな彼らには一瞬冷たい視線を向けたが、
不意に突き刺さった鬼道たちのやや面倒くさそうな表情に、思わず視線を瞳子の方へ逸らした。

 

「監督、今日から3日間だけ――雷門イレブンを貸してください」
「いいわ、あなたに任せます」

 

あっさりと瞳子から返ってきた了承の言葉。
も端から瞳子が渋るとは思っていなかったが、少なくとも理由と内容ぐらいは問われると想定したいたのだが、
予想は外れて瞳子から返ってきた言葉は本当にそれだけだった。
瞳子からの許可を得たことによって、雷門イレブンを自由に動かせる権利は手に入れた
元々、瞳子に雷門イレブンを制御する絶対的な支配力はない。
それは瞳子の傍にいるが何気に一番理解している。
だが、そうはわかっていても、には「理由」が必要だった。

 

「これから3日間、私の指示に従ってもらうわ。口答えはしてもいいけど、相手にしないから」
「…御麟、その3日間で俺たちは強くなれるんだよな!」
「さぁね、結果は本人のやる気次第でしょ」

 

明確な答えは避け、は円堂を軽くあしらうような返事を返す。
だが、にあしらわれたにもかかわらず、円堂の目は期待に輝いていた。
がしようとしていることに期待しているのか、それとも強くなった自分に期待しているのか――
だが、どちらであれにとってはどうでもいいこと。
今、円堂たちに求められているのは身体的な強さであり――3日後の結果だ。
はじめこそ、の態度に否定的だった雷門イレブンだが、
円堂の「強くなれる」という言葉に、先ほどのの態度の意味を察したのか、
先ほどまでの険悪な雰囲気が嘘のように盛り上がっていた。
としては、反骨精神で乗り切って欲しかったところなのだが、
雷門イレブンにそれは無茶な注文のようだった。
勝手に盛り上がる雷門イレブンに、
心の中でため息をついていると、不意に豪炎寺がの名を呼んだ。

 

「いいのか」
「…よくはないけど、必要なことでしょ」

 

改まった様子で一言だけを投げてきた豪炎寺に、はやや不満が混じった表情で答えを返す。
それを受けた豪炎寺はどこか申し訳なさそうな表情で「そうか」と納得したような答えを返した。
別には誰かを責めたいわけではない。
だがもし、仮にが誰かを責めたいと思っていても、豪炎寺だけは絶対にない。
豪炎寺は成果を上げて――結果を伴ってイナズマキャラバンに戻ってきたのだ。
雷門イレブンや自身を責める理由はあっても、豪炎寺だけは絶対になかった。
気にするな――と豪炎寺に言葉をかけようとしただったが、
不意に増えた気配に、反射的に視線を向けた。

 

「豪炎寺の離脱には、やはりお前も噛んでいたのか」
「噛んでません。どっかのSPが噛んでただけで、私は一切噛んでません」

 

確信を持った様子で言った鬼道だったが、それをはあっさりと否定した。
豪炎寺の復帰を喜びはしても、驚きはしなかった
鬼道がに対して豪炎寺離脱の一件への関与を疑うのも当然のこと。
だが、本当にはこの件に関してはノータッチだった。
「何か」を察して瞳子のフォローを考えたり、探ったりすることは避けるようにしたが、
事実を知っていて行動していたわけではなかった。

 

「そもそも、知っていたら止めてたわよ――その時の私なら」

 

情けない自分を思い出し、思わず漏れるため息。
本当に当時のがこの一件を知っていたら、確実に待ったをかけていたことだろう。
だが、それを見越して勇は黙ってことを推し進めたのだろう。
そして、今にして思えばこの裏に海慈たちも一枚噛んでいる気がするからなお更に情けない。
しかし、情けないと落ち込んでいる場合ではない。
情けない醜態をさらしたからこそ、は結果を出さなければならないのだ。

 

「詳しいことはあとでまとめて説明するから――まずは移動するわよ」
「よし、それじゃ――」
「監督とマネージャー陣はイナズマキャラバンで移動。他は全員ランニングで移動よ」

 

完全にキャラバンで移動するつもりでいた
雷門イレブンの首根っこを掴んだのは有無を言わせないの一言。
思わず面々から「え゛っ」という声が漏れるが、
戸惑う雷門イレブンを綺麗に無視してはランニングの準備をするように指示する。
はじめから口答えしても相手にしないと言っていたこともあってか、
ぶつくさと文句は言いながらもぞろぞろとランニングの準備を始める雷門イレブン。
そんな彼らの後姿をが見守っていると、またしても豪炎寺から「待った」がかかった。

 

「いきなりはきついと思うんだが」
「ちゃんと、園で休憩兼昼食を挟むわよ」
「ならいいが――それ以降はどうするつもりだ」
「今日は丸一日様子見に使う。――地獄は明日からよ」

 

ニヤリと楽しそうに笑みを浮かべる
その笑みにはどこか嗜虐の色がある。
――おそらく、自分の言葉を現実のものにするつもりなのだろう。
豪炎寺こそ、今までの慣れがあるので「地獄」を見ることはないと思うが、
円堂たちは見てしまうことになるのだろう。
の言う――地獄を。
だが、豪炎寺に不安や心配はない。
身を以て体験しているからこそわかるのだ。
円堂たちならば、この特訓を耐えて更に強くなると。

 

「豪炎寺には先導を頼むわ。私は後ろの面倒見るから」
「……走るのか?」
「久々の『特訓』だもの」

 

そう言って先ほどと同じ笑みを見せるに、
思わず豪炎寺はきょとんとした表情を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 個人的に、豪炎寺加入後に大した特訓もしていないのに、
ダイヤモンドダストと対等に渡り合う雷門イレブンがどうしても腑に落ちなかったので、オリジナルエピソードをぶっこんでみました。
これから少しの間、楽しくトンデモ設定が飛び出しますので、ご注意ください(滝汗)