早々に開始された雷門イレブンとダイヤモンドダストの試合。
しかし、ダイヤモンドダストは雷門イレブンを明らかに舐めきっていた。
雷門のキックオフで始まった試合だが、
試合開始直後にダイヤモンドダストの選手たちはまるで「打ってこい」とでも言うかのようにフィールドの左右に散り、
豪炎寺に絶好のシュートチャンスを与えた。
あからさまな挑発に、豪炎寺は憎らしげな表情を見せはしたが、
感情的に突っ込んでいくようなことはせず、その場から強烈なシュートを放った。

 

「決まったで!」

 

ゴールに向かって真っ直ぐ飛んでいたボールが急にコースを変える。
急なコース変更に相手ゴールキーパーの反応は間に合わない――そう確信したリカ。
しかし、相手も無暗に余裕を見せているわけではないようで、
シュートの軌道変更に即座に反応したダイヤモンドダストのゴールキーパー――ベルガはいとも簡単に豪炎寺のシュートをとめていた。

 

「ぬぅ!」

 

さらに驚くべきはベルガの腕力だった。
ゴールからゴールへ――早い話がフィールドの端から端へとボールを投げたにもかかわらず、
気を抜けばそのままゴールを決められるような力を、ベルガが投げたボールは保っていたのだ。
パワーとスピードを兼ね備えたベルガ。
強敵があわられた――とは誰も思わなかった。
なぜなら、驚く実力を持っていたのが、彼だけではなかったからだ。

 

「なっ…!」

 

円堂たちがベルガの実力に驚いていたほんの少しの間に、
驚くべきスピードで雷門サイドへと進行していったダイヤモンドダスト。
そのスピードには驚愕するほかできることはなく、鬼道たちはどうすることもできずにただ立ち尽くした。
しかし、これで試合の勝敗が明らかになったわけではない。
やってみなくちゃわからない――そう、円堂は心の中で自分を奮い立てると、土門にパスを出した。
円堂からのボールを受けた土門は、一之瀬にボールをつなぐためにパスを出す。
しかし、土門のパスを一之瀬が受けるよりも先に、
ダイヤモンドダストの女子ミットフィルダー――リオーネがパスをカットした。
一之瀬の驚きは一瞬で、すぐさまリオーネからボールを奪取しようとするが、
リオーネは華麗なテクニックで一之瀬をかわすと、ボールをガゼルへとつなぐ。
そして、リオーネからのアシストを受けたガゼルは、そのままゴールに向かって強力なボレーシュートを放った。
ノーマルシュートでさえ、円堂を後退させるほどの威力を秘めたガゼルのシュート。
しかし、それは雷門イレブンから自信を奪ったりするようなことはなかった。
これまで雷門イレブンは、エイリア学園の新勢力が現れるたびに、
ノーマルシュートでゴールを割られ、ボールに触れることを許されず、
一方的な試合を展開されるのが毎度だった。
しかし、今回に関しては違う。
相手が全力ではない――それにしても、雷門イレブンは十分にダイヤモンドダストの選手たちの実力に食らいつけている。
しっかりと「サッカーの試合」を成立させ、ダイヤモンドダスト陣内に攻めあがることもできている。
ジェミニストームやイプシロンとの初戦などと比べると、これは雲泥の差だった。
しかし、雷門イレブンとダイヤモンドダストの力量差は、
あくまでダイヤモンドダスト側に傾くようで、全員が恐れていた事態となった。

 

「フローズンスティール!」
「きゃあぁ!!」
「リカ!」

 

一之瀬からのパスを受け、ダイヤモンドダスト陣内へ攻め上がろうとしたリカに襲い掛かったのは、
ダイヤモンドダストの屈強なディフェンダー――ゴッカ。
ダイヤモンドダストの中でもキーパーのベルガと並んで
がたいの良いゴッカから繰り出されたディフェンス技――フローズンスティールは強力の一言。
その餌食となってしまったリカは、ゴッカのパワーに耐え切れず宙に投げ出され、
受身を取ることもままならずにフィールド投げ出された。
しかし、雷門イレブンのピンチはそれだけでは終わらない。
リカからボールを奪ったゴッカは、足を抱えてうずくまるリカを見て満足げににやりと笑うと、
雷門陣内に攻め上がっていたガゼルへロングパスを放った。

 

「させるかぁ!」

 

このまま行けば、ガゼルがまたシュートを放つことは明らか。
ダイヤモンドダストの攻撃の芽を摘むために土門はガゼルに向かっていくが、
ガゼルは土門をあっさりとかわすと、空中から強烈なシュートを放った。
しかし、不幸中の幸いか、ガゼルの放ったシュートコースの中には塔子と壁山。
2人が自身の必殺技を発動させ、ガゼルのシュートを妨害する。
塔子のザ・タワーは打ち破られてしまったが、
壁山のザ・ウォールはなんとかガゼルのシュートをはじき返すことに成功し、
ボールはスタジアムの客席の方へと飛んでいった。
今までよりも善戦してはいるが、
押されていることには変わりない――それが明瞭になった形だった。
虎の山での特訓で、強くなれたのだと思っていただけに、
雷門イレブンには落胆の色と焦りの色が見えた。
しかし、そんな雷門イレブンの顔色を変えたのは、
ひとりでにフィールドへと戻ってきたサッカーボールと――一人の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第98話:
援軍降臨

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い金髪の髪と整った容姿は一瞬、少女とも見違う。
だが、その肉体は少女ような華奢なものではなく、しっかりと鍛え上げられた少年のものだった。

 

「また会えたね、円堂くん」

 

そう言って笑うのは、フットボールフロンティアの決勝戦で雷門イレブンと大激闘を繰り広げた
世宇子中のキャプテンにしてエースストライカー――アフロディこと亜風炉照美。
思いがけない人物の登場に大きな同様の走る雷門イレブン。
そんな中、いち早く立ち直った円堂は、警戒はしながらもアフロディの元へゆっくりと近づいていく。
そして、アフロディの前に立った円堂は、
一切警戒を解かずに「なにしにきたんだ」とアフロディに尋ねた。

 

「戦うために来たのさ。君たちと――君たちと共にやつらを倒すために」

 

浮かべていた笑みを消し、
アフロディは真剣な表情で円堂たちが思ってもみないことを言った。
自分たちと共にエイリア学園を倒すために自分はやってきた――そう、アフロディは言った。
しかし、そのアフロディの言葉をすんなりと受け入れられるものなど、雷門イレブンにはいなかった。
特にオリジナルの雷門イレブンメンバーが持つ、アフロディへの不信感はそう簡単に拭い去れるものではない。
それだけ、アフロディは雷門イレブンに対して酷い仕打ちをしたのだから。
だが、アフロディもそれを理解していないわけではない。
自分の愚かさを、そして自身が犯した過ちをすべて理解している。
だからこそ、アフロディは引き下がるわけにはいかなった。

 

「僕は君たちの力になるためにやってきた。…雷門とエイリア学園の戦いは見ていたよ。
そして、激戦を続ける君たちの姿に、湧き上がる闘志を抑えられなくなったんだ。
……僕を――雷門の一員に加えて欲しい」

 

真剣な表情で語るアフロディ。
それを円堂は黙って聞いていたが、アフロディに対する不信感がぬぐえないのか、
一之瀬たちはアフロディに待ったをかけた。

 

「ちょっと待ってくれ!」
「いきなり何言ってんだ…わけわかんねーよ…」
「…あの世宇子中の選手が仲間になるなんて……」

 

壁山たちの明らかな拒絶。
だが、彼らがアフロディを信じられず拒絶するのも当然だ。
彼は敵だったのだ。
しかも、悪を良しとした――肯定する部分などないほどの。
肯定――信用できる要素がないことを、アフロディ自身も重々承知していた。
力を追い求めすぎたが故に手を伸ばした神のアクア。
力に溺れた愚かで弱い自分を、彼らが信用できるはずもない――

 

「でも信じて欲しい。僕は神のアクアに頼るような愚かなことは、もう二度としない。
僕は君たちに敗れて学んだんだ。再び立ち上がることの大切さを――人は倒れる度に強くなれると」

 

力強い口調で、確信を持ってそう言葉を口にしたアフロディ。
その彼の言葉に反応を見せたのは、円堂ではなく、今まで沈黙を貫いてきた豪炎寺と鬼道だった。
アフロディの変化と決意を汲んだのか、豪炎寺が「円堂」と円堂に決断を促した。

 

「本気なんだな」
「ああ」

 

円堂の問いに、アフロディは力強く答える。
すると、円堂は真剣だった表情をふと柔らかなものに変えた。

 

「わかった、その目に嘘はない」

 

アフロディの変化と決意を受け入れた円堂。
それを示すかのように、円堂はアフロディに手を差し出した。
アフロディの前に差し出された円堂の手。
それは円堂がアフロディを雷門の一員と認めてくれた証拠。
その円堂の手をアフロディは握り返すと、アフロディは自信に満ちた表情で
「ありがとう、円堂くん」と円堂に礼を言った。
円堂に認められ、雷門イレブンの一員としてフィールドの上に立つこととなったアフロディ。
しかし彼が今、着ているユニフォームは世宇子中のもの。
さすがにそのままでは試合を再開するわけにもいかず、試合は一時中断となった。

 

「…まったく、バカな連中だ。自分たちがある状況をわかっていないらしいな」

 

雷門ユニフォームに着替えるためにフィールドを後にしたアフロディと入れ替わるように現れたのは、
セミロングの紺青の髪が目を惹く少女――真斗。
彼女の言うバカ――とは雷門イレブンのことを言っているようで、彼女の視線は雷門イレブンに向けられたいた。
アフロディ以上に、何の前触れもなく現れた真斗。
立て続けに起きたハプニングに雷門イレブンのリアクションは追いついていないようで、
真斗の嫌味に切り返してくるような者はない。
しかし、彼女の登場にまったく驚いていない存在もいた。

 

「真斗、バカは言いすぎ」
「言い過ぎなものか。自分たちがある状況を理解しているなら、選り好みなどしないはずだ」
「…意外と雷門は冷静なのよ」

 

あまりにきっぱりと言ってよこす真斗には思わず苦笑いをもらす。
確かに、真斗の言い分も間違っているわけではない。
先程の接触で負傷したリカ。その穴を埋めるのは控え選手である目金。
しかし、目金の実力ではリカの抜けた穴を塞ぐことはできず、チームの防衛力も攻撃力も不足する。
その上、雷門イレブンが今戦っているのは、万全の状態で戦っても押されている強敵ダイヤモンドダスト。
このまま目金がチームに入っても、戦況は苦しくなる一方だ。
そんなときに現れたかつての強敵――アフロディ。
もし、いきなり攻撃的な態度をとったのであれば、信用できずに拒絶しても仕方ない。
だが、アフロディは誠意を持って雷門イレブンに接触してきたのだ。
ダイヤモンドダストに勝利する――
それを一番の目的とするのであれば、わざわざアフロディを拒絶する理由はない。
アフロディの処遇は後からでも話し合って決めればいい――
それが真斗の言う最良であり、が選択したであろう「選択肢」だった。

 

「考えすぎのヘタれどもというわけか。――お前の悪い病気がうつったらしいな」
「あーあー、悪ぅございましたよ」
「ふん、悪いとわかっているなら――それでいい」
「う゛……」

 

満足そうな小さな笑みを浮かべての横に腰を下ろす真斗。
あまりにもあっさりと引き下がった真斗にがリアクションに困っていると、
後方から「待たせたね」という声が聞こえる。
反射的に振り返ってみれば、そこには青と黄色の雷門ユニフォームに身を包んだアフロディ。
数ヶ月前には想像もつかなかっただろうアフロディの姿だったが、
としては抵抗感よりも期待値の方がずっと大きかった。
躊躇なくフィールドへ上がっていくアフロディ。
先程までリカが立っていたポジションに立ち、アフロディはぐるりとあたりを見回していた途中、
不意にと目が合った。
アフロディと目が合ったは一瞬は驚いたような表情を見せたが、
その次の瞬間にはアフロディに対して試すような視線を向けていた。
お前の進化を見せてみろ――
まるでそう言っているかのようなの視線に、内心は苦笑いを浮かべながらも、
アフロディは自信に満ちた表情を崩すことなく、力強くうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 はい、そんな展開でした。ええ、そんな展開なんです。申し訳ない。
ここに至るまでにも、「裏話」があるのですが、公開するのは次回分更新以降になります。
じゃないと、話の区切りが悪いので…(苦笑)