かつての強敵アフロディ。
雷門のキャプテンである円堂や彼の加入を認めはしたが、
だからといって個々の彼に対する不信感は完全に拭い去ることのできるものではない。
その結果、アフロディとの連携がうまくいかず、試合はダイヤモンドダストが優勢な状態で進んでいた。
だが、そんな場面で大きな基点となったのは、アフロディのことなどまったく知らない綱海。
彼のパスによってアフロディへと繋がったボールは、壁山たちの不信感に小さな穴を開けた。
そして、ガゼルを前に展開された豪炎寺とのコンビネーションは、
アフロディへの不信感を完全に吹き飛ばしてしまった。
アフロディがチームの一員として認められ、完全にひとつのチームとしてまとまった雷門イレブン。
その勢いは優勢であったダイヤモンドダストの勢いをイーブンに持ち込むほどのものだった。

 

「互角っていうのは、恥ずかしーんじゃねぇの?」

 

バーンが放った言葉。
それは、ダイヤモンドダストが展開した試合への苦言だった。
盛り返した雷門イレブンをねじ伏せるように、ガゼルは1点を取り返しはしたが、
それでも前半戦は同点という形で終わりを告げていた。
これが、ジェミニストームやイプシロンならまだ許される。
だが、ダイヤモンドダストはエイリア学園のマスターランクチームのひとつ。
そんなエイリア学園の強者たる地位に就くダイヤモンドダストが雷門イレブンと互角――
本気ではない遊びの試合にしても、これは許されることではなかった。

 

「バーン、ガゼルを責めるのはお門違いだ」
「――あ?」

 

ガゼルのマスターランクチームにあるまじき失態を責めていたバーンに、
咎めるような言葉を投げたのは――私服に身を包んだサージェ。
自分が咎められたことに納得のいかないバーンは、不機嫌そうな表情でサージェを睨んだが、
バーンの睨みなど痛くも痒くもないらしいサージェは、
通路の先に見えている雷門イレブンの一人――アフロディに視線を向けた。

 

「あの男さえ雷門に加わらなければ――ダイヤモンドダストの勝利は確定だった」
「じゃあなんだ、アイツを責めろって言うのかよ?」
「違う。あの男の加入は私のミス――責められるべきは私だ」

 

アフロディの加入を自分のミスだと言い切ったサージェ。
思いにもよらないサージェの台詞にバーンはきょとんとした表情を見せていたが、
サージェの言葉の真意に気づいているグランはサージェを試すように「どうするんだい?」と尋ねた。
優位に立ったグランの威圧的な視線を尻目に、
サージェは毅然とした態度で「問題ない」と言い放つと、ガゼルに視線を向けた。

 

「私がダイヤモンドダストに加わればいい」
「確かに、それなら問題ないね」
「まっ、サージェはダイヤモンドダストみたいなも――」
「ふざけないでくれ」

 

グランもバーンもサージェの提案に賛成していたというのに――
それを真っ向から否定したのはガゼル。
サージェを見るガゼルの目には憎らしげな色がある。
強い憎しみを秘めたガゼルの視線を受けたサージェだったが、その表情を一切崩すことはなかった。
だが、ふっと目を伏せると「すまない」とガゼルに謝罪の言葉を向けた。
そのサージェの謝罪を受けたガゼルは、
それに対してなんの言葉も返すことなく、苛立った様子でその場を後にした。

 

「…ったく、なんだったんだ?」
「いいのかい、サージェ。キミのミスを挽回する場を失ってしまうよ?」
「…仕方あるまい、この試合の主導権は――アイツガゼルのものだ」

 

そう言ってサージェはきびすを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第99話
外野の見解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アフロディという歯車がはまり、チームとしてまとまりが生まれ、攻撃も守備もいいリズムができてきた雷門イレブン。
しかし、それ故にダイヤモンドダストの本気を引き出してしまったようで、戦況は振り出しに戻りつつあった。

 

「状況をひっくり返せる――ほどではなかったか…」
「虎の山での修行がなければ、そうなっていただろうがな」
「…………」

 

冷静をやや通り越して無関心――まるで他人事にも近い状況で言葉をやり取りすると真斗。
しかし、緊張感の走る試合展開が続いているため、二人の会話に注目するものはなく、また止める者もいなかった。
リカの抜けた穴をアフロディが補ったことにより、雷門イレブンのチームとしてのレベルは向上した。
だが極端な話、先の豪炎寺が戻ってきたときのほどはチームの実力の大きな向上はなかった。
しかし、真斗が言った通り、虎の山で特訓をしていなければ、
アフロディの加入はチームを大きくレベルアップさせていただろう。
――ただ、ダイヤモンドダストとの試合には確実に負けていただろうが。

 

「しかし、あの小暮がここまで成長するとはな。――『戦場』は、こうも人を成長させるか」
「…なんか、嬉しそうね」
「………喜んでなどいない。端に『戦いの場』の成長速度の速さに感心していただけだ」

 

急激に不機嫌になる真斗。
小暮の成長を喜んでいることを指摘されての照れ隠し――とも解釈できるが、
真斗の背後に揺らめく負のオーラがそれを完全に否定していた。
下手に真斗を茶化せば、待っているのは痛い目。
それを理解しているはそれ以上を言うことはせず、
未だ緊張した試合が続いているフィールドに視線を戻した。

 

「統率の取れた安定感のあるチームよね、ダイヤモンドダストは」
「ああ、だが逆にそれがやつらの『限界』でもある。実力が勝る相手であれば勝利は固いが――同等では分が悪い」

 

しかし、真斗はそう言うが、雷門イレブンに訪れているのはチャンスではなくピンチだった。
ゴッカによって奪われたボールは、長い藤色の髪をなびかせた女子ミットフィルダー――
アイシーが逆立った緑の髪とマスクが特徴的なミットフィルダー――ドロルへとつなぐ。
そして、ドロルは彼の侵攻を阻む塔子の必殺技を、
彼の必殺技――ウォーターベールで打ち崩すと、ゴール前にまで迫っていたガゼルにパスを出した。
その一連の光景は、前半戦でダイヤモンドダストが雷門から一点を奪ったときとほとんど同じ。
それ故に、この後の結末も大体の予想はついた。

 

「ノーザン――インパクトッ」

 

またしても放たれたガゼルの必殺技シュート――ノーザンインパクト。
身を刺すような冷気をまとったボールが雷門ゴールを襲う。
円堂は進化を続ける究極奥義――正義の鉄拳で迎え撃つが、
未だガゼルと円堂の力量差は覆せるものではないのか、先ほどよりは抵抗できたものの、
最後にはガゼルのシュートが雷門ゴールに決まっていた。

 

「さて、雷門の攻撃をダイヤモンドダストが押さえ込めるか――見ものだな」
「…真斗、アンタどっちの味方よ…」
「………。照美のミスを願う身としては――仕方あるまい」
「真顔でわけのわからないこと言わないでもらえます?」
「…まぁとにかく、照美がこれ以上活躍しなければそれでいい」
「…………」

 

アフロディと真斗。
この2人の間に「何か」があった――それは確定だが、
その「何か」に見当がつかなかったはやや呆れた表情で真斗を見る。
そんなの呆れの含んだ視線を受けながらも、真斗はに対して反論も暴力も振るってくることはなかった。
しかし、ある意味では真斗が自分に暴力を振るってくれた方がいい気がした。
――というのも、まるで呪いでもかけているかのように――真斗がアフロディを見つめ続けているからだった。
蒼介と違って真斗にそういった類の才能はない。
本人ら曰く、まったくのゼロ――とまで言っていた。
しかし、あまりにも鬼気迫った表情で、食い入るようにアフロディを見続ける真斗に、
何かしらの力が発言するのでは?――とは気が気ではなかった。
真斗の怨念が実を結んだのか――
鬼道からのパスを受けたアフロディの前に立ちはだかったのは、
ゴッカとアイシーと眼鏡をかけた長身のディフェンダー――アイキュー。
アフロディで攻撃の芽が潰えるか――と思ったが、端からアフロディは囮だったのか、
ゴッカたちのチェックが入った瞬間、アフロディは豪炎寺へパスを出した。
そして、アフロディからのパスを受けた豪炎寺は、
手薄になったダイヤモンドダスト陣内へ深く切り込み――爆熱ストームを放った。
ベルガは必殺技――アイスブロックで爆熱ストームを止める。
――だがそれは一時的なもので、豪炎寺のシュートはダイヤモンドダストのゴールをえぐり、
ここにきて雷門イレブンはダイヤモンドダストに食らいついたのだった。

 

「今の連携、まるで――ひぅっ?!」

 

「 そ れ 以 上 言 っ た ら 殺 す … ! 」

 

とても今さっきコンビを組んだとは思えないほどに息があっていた豪炎寺とアフロディ。
それを素直に褒めようとしただったが、突如として自分に殺気まで感じられる真斗の威圧感に、
思わず情けない声を上げて自らの言葉を飲み込んだ。
本気で自分を殺しかねない真斗の雰囲気には恐怖を覚えながらも、
真斗がここまでアフロディの存在を嫌煙する理由がわかった気がした。
しかし、真斗の気が立っているこの状況で、更に真斗の機嫌を損ねるような話題を持ち出した日には、
生きて帰れる気がしなかったはその疑問も飲み込むと、「まぁまぁ」と真斗を落ち着けてから意識をフィールドに戻した。
これ以上の失点を許されないダイヤモンドダスト。
確実に雷門イレブンの攻撃の芽を摘むため豪炎寺とアフロディをマークし、彼らを自由にさせはしなかった。
しかし、勢いで攻めきりたい雷門イレブンは攻撃の手を緩めることはしない。
豪炎寺とアフロディがマークされているからこそ、それ以外の攻撃手段を選ぶ余地があったのだ。

 

「一之瀬ー!」

 

鬼道が一之瀬へとボールをつなぐ。
それを受けた一之瀬は、土門と円堂を呼んだ。
言わずともこれはザ・フェニックスの態勢。
この1点が決まれば勝てる――だが、ダイヤモンドダストの選手からすれば、
この1点が決まれば――負けるのだ。

 

「フローズンスティール!」

 

攻め上がった一之瀬を妨害したのは、ショートカットの女子ディフェンダー――クララ。
絶好のシュートチャンスを阻まれたうえに、がら空きのゴール。
優勢だったはずの雷門が一気に劣勢となった。
この一瞬の隙を狙っていたのか、
雷門陣内へと上がっていたガゼルが「こっちだ!」とクララに指示を出す。
その指示に受けたクララは、即座にガゼルへとパスを出した。
絶望的な状況――それを救ったのは意外な人物だった。

 

「うおおぉぉ――――!!」

 

クララからガゼルへのパスを弾き飛ばしたのは――綱海。
綱海の驚異的な跳躍力によってなんとか難を逃れた雷門イレブン。
しかし、この綱海のプレーに二度目があるとは限らない。
確実に相手は綱海の動きもマークしてくる。
――となれば、綱海のプレーを当てにするのはあまりにも楽観的だった。

 

「しかし、相手も焦っていることは確かだな。
あの場面、ガゼルとかいうのを囮にするれば――勝てただろうに」
「…まぁ……ねぇ…」

 

味方とは思えない真斗の発言には苦笑いを浮かべる。
自分も大概なものだと思っていたが、嬉しいやら悲しいやら上には上がいるようだった。
雷門イレブンに勝って欲しい――
と、思っているようには思えない真斗を尻目に、は再開された試合に視線を戻した。
ダイヤモンドダストからボールを奪取した鬼道が、ダイヤモンドダスト陣内へと深く切り込んで行く。
その途中で鬼道が豪炎寺と円堂を呼ぶと、それに答えた2人がダイヤモンドダスト陣内へと上がってくる。
今度はイナズマブレイクか――そうが思っていると、鬼道がシュート態勢に入った。
――が、そのシュートを妨害したのはアイシー。
鬼道の蹴り上げたボールをトラップするとすぐに態勢を立て直し、雷門陣内へと上がって行く。
だが、それを雷門イレブンがそう易々と許すわけがなく、アフロディがアイシーの足止めに入った。
その間に円堂がペナルティーエリア内に戻ることができれば――!
だが、その希望は――ガゼルによって打ち砕かれるようだった。

 

「思い知れ――凍てつく闇の恐怖を!!」

 

アイシーのパスを受け、雷門ゴールへと向かっていくガゼル。
そして、ダメ押しだとでも言うかのように――ノーザンインパクトを放った。

 

「終わった…か」
「――なに言ってるのよ、ここからが『見物』じゃない」

 

雷門ゴールに襲い掛かる脅威。
だが、その脅威とゴールの間に円堂のはあった。
しかし、円堂がいる場所はペナルティーエリア外。
キーパーとはいえ、ここで手でボールに触れればハンド――反則になってしまう。
この状況は、完全に万事休す――しかし、はここからが見物だという。
ほぼ100%の確立で、ガゼルのシュートが決まるであろうこの状況だが、
は「0.」の展開を期待しているようだった。
確立の悪い期待だが――その可能性を真っ向からは否定できなかった。

 

「『何か』――出たな」
「ね?『何か』出たでしょ」

 

円堂の額から飛び出した拳に――は満足げな笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 勇を天然暴言マシーンというならば、真斗は人為的暴言マシーンと言ったところでしょうか。
ただ、相手を傷つけたくて暴言を吐いているわけではないです。反骨精神を煽る――という意図もあります。たぶん。
そして、これよりも酷いのが兄の蒼介で、その暴言を受け続けたのが夢主なのです(笑)