「ただの暴力――か」
「適当な表現だと思うんだけど?」
「…それに関しては否定しない。
だが、円堂たちを下手だと評価することには納得できない」

 

晴れ渡った空の下――屋上で昼食をとっている者が2人。
1人は納得いかないといった表情をしている豪炎寺。
もう1人は若干面倒くさそうな表情を見せている
その2人以外の影は屋上にはなく、2人の間に流れる空気は静かなものだった。

 

「中学生レベルから見れば十分な実力なのかもしれないけど、
プロレベルから言えば『下手』以外に適当な表現ないわよ」
「………」

 

中学生のプレー。
プロのレベルで見てしまうと下手――というか、未熟と評価されても仕方のないことだろう。
しかし、「仕方がない」と納得できるのは本物のプロから評価された場合の話。
今回の場合、プロレベルでの「下手」と評価したのはプロではなく、
自分たちの同い年の女子――なのだ。
両親に付いてまわり、多くのプロのサッカープレイヤーのプレーを見て、
は目が肥えているとはいうが、それが確かな評価だと証明するものはない。
の実力を裏付けるものがない以上、ただの自信過剰という可能性もある。
そんな、自称「プロレベルしか受け付けない人間」の言葉を、誰も受け入れられるわけがなく、
に向けられた豪炎寺の視線には厳しいものがあった。
だが、は一切自分の言葉を、自分の下した評価を取り下げるようなことはしない。
自分の選手のレベルを見極める力には自信があるし、
どう考えても雷門イレブンのプレーは下手と評価するのが適当だ。
――プロレベルでは。

 

「まったく納得してないわね」
「できる要素がない」
「まぁ、証明できるものがないものね」
「…いや、ある」
「却下」
「………」
「実力を示せって言うんでしょ?勘弁していただけると幸いです」

 

大地と大空のように――
豪炎寺との会話は平行線を辿る一方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話:
キャプテンと参謀と部外者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謀ってくれたわね、鬼道」
「なんのことだかな」

 

憤りからくる無表情を顔に貼り付け、は鬼道を睨む。
しかし、睨まれている鬼道は至って涼しい表情で――雷門中のグラウンドを眺めている。
それが当然のようにの気を逆撫でするわけで、ついにの額に青筋が走った。

 

「アンタ、私を殺したいの?確実に前半戦の前半で、私お陀仏するわよ」
「…安心しろ、誰もお前にこの試合を観ろとは言っていない」
「なら何の理由があってここに来たかな」
「なに、もうすぐわかる」

 

鬼道は意味ありげな笑みを見せるが、その鬼道の笑みから作為的なものは感じられない。
おそらく、彼の言葉に嘘偽りはなく、真実なのだろう。
確かに、状況だけ見れば鬼道の言葉は信じ難い。
だが、雷門と尾刈斗中の試合を見せて、を病院送りにしたところで鬼道に何の特もない。
鬼道が利益のないことをすることの方がよっぽど考えにくい。
――となると、真実に行き着くには大人しく鬼道に付き合うほか、に選択肢はなかった。
意図の見えない鬼道に若干の苛立ちを覚えながらも、
試合を観ることを拒絶するかのようにグラウンドに背を向け、
黙っては鬼道が自分をこの場所に呼び出した理由の解明を待つ。
すると、不意にの頭の中で、鬼道の行動の意図が読めた。

 

「……お前は…」
「お久しぶりね、佐久間君。――そーいうことだったわけね、鬼道」

 

不意にの視界に入ってきたのは、
薄水色に近い銀色の長い髪と右目に付けたアイパッチが特徴的な少年――佐久間次郎。
帝国学園サッカー部の一員であり、鬼道にとって参謀といえる存在だ。
鬼道に帝国レギュラーの顔と名前を叩き込まれた上に、
彼とは顔を合わせたこともあるため、の口からはすんなりと佐久間の名前が出た。
それとは対照的に佐久間の方はのことを覚えてはいるようだが、名前は出てこない。
だが、顔を合わせるとは微塵も思ってもいなかった存在に出会ったのだ。
咄嗟に名前が出てこないのも当然だろう。
が自分の意図を理解したと感じ取った鬼道は、グラウンドから視線を外し、
と佐久間たちに向け、を肯定するように言葉を返した。

 

「いつまで経ってもお前が報告に来ないのでな」
「今週はトラブル続きで……。こっちの処理するだけで手一杯だったのよ。…ゴメン」

 

豪炎寺やら、円堂やら、夏未やら。
やたらとトラブル――と呼ぶのは正しいのかはわからないが、とにかく今週は忙しかった。
鬼道との約束――
鬼道のプレイについての報告を忘れるほどに。
自分の非を認めて素直にが謝ると、
鬼道は「気にするな」と言ってあっさりとのことを許した。
先程までの自分の立場を忘れているのか、は「ご寛大ね」とからかうように鬼道に言うが、
鬼道は食って掛かるようなことはなく、「まぁな」と言葉を返して楽しげな笑みを浮かべた。
帝国では見ることのできない鬼道の一面に佐久間は驚いていると、
不意に佐久間の視界はに支配された。

 

「な……な…なんだ…っ……!」
「相変わらず佐久間君は純情ね。まぁ、その方が見ていて面白いけど」

 

突然、に近づかれ、動揺を隠せずに顔を赤くして一歩後退する佐久間。
そんな佐久間の反応を見ては笑う。
相当心の底から楽しんでいるように見えるの笑顔は、
頂点を振り切りそうだった佐久間の怒りを鎮め――るというよりは、萎えさせていく。
コイツの相手をまともにするだけ無駄なんじゃないか――
そんな考えが佐久間の脳裏に浮かんだのだ。
最終的にその仮説を佐久間は採用し、
を無視して視線をグラウンドに戻している鬼道の横に立った。

 

「鬼道、どうしてアイツがここに…」
「評価は本人から聞いた方がいいかと思ってな」
「この間の試合、後半は観れる動きだったからね。鬼道の粋な計らいで」
「あんな真っ青な顔を見せられては、さすがに手を打たないわけにはいかないだろう…」
「そんなに酷かったの?」
「ああ。だから俺は『帰れ』と言ったんだ」

 

雲行きの怪しくなり始めた鬼道の声。
下手に掘り返すといつぞやのお説教が再現されそうな予感のしたは、
話を摩り替えるように、今日雷門イレブンと練習試合をする学校についての説明を求めた。
プロのサッカー以外に興味がない
なのに雷門の対戦校の詳細について聞いてきた――
らしくもない無理やりな話のすりかえを不審に思った鬼道は、一度に視線を戻す。
するとそこには、先程まで背を向けていたグラウンドに視線をやっているがいた。

 

「……、気は…確かか……?」
「大丈夫よ。この間の試合で頭のネジがぶっ飛んだわけじゃないわ」

 

信じられないといった様子でを見る鬼道。
しかし、そんな鬼道のことなどお構いなしに、はあっさりと問題ないと断言して、
様子を見ておきたかった雷門のプレイヤー――円堂と豪炎寺に視線をやった。
FFへの参加権を手に入れるか、廃部となるか、
その試合を前に気合の入ってる円堂。
雷門イレブンの一員としての初めての試合であり、
妹が事故にあってから初めての試合だが、いつもとなんら変わらない様子の豪炎寺。
だいぶ様子の違う2人の姿を見て、は素直に「面白い」と思った。

 

「…よっぽど円堂と豪炎寺が気に入ったようだな」
「あれだけのものを見せられたら――期待もするわよ」
「「?!」」

 

楽しげなの口から出た予想もしない言葉に、
鬼道と佐久間は驚きの表情を見せた。
鬼道はもちろん、佐久間ものサッカーに対する感覚のズレは理解している。
だからこそ、の言う「期待」は大きな衝撃なのだ。
帝国での「期待」を受けているのは鬼道ただ1人。
だが、雷門はの期待を受けているプレイヤーが2人も居るということになるのだから。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。
突出した選手が2人いるからって――チームが驚異的に変わるわけじゃないんだから」
「それは……そうだが………」
「大丈夫よ。まだまだこのチームはヒヨッ子――いや、まだ孵化してすらしていないから」
「…随分と分析が進んでいるようだな」

 

先程まで驚いていた鬼道から一変――今のを見る鬼道は随分と楽しげだ。
かなり楽しい想像をしているようだが、鬼道の想像は確実に現実のものになることはない。
変に期待されても困るので、は「勘違いしてるわよ」と鬼道の想像を知りもしないのに否定した。

 

「雷門イレブンで帝国と戦おうなんて考えてないわよ?」
「それは残念だ。…面白いと思ったんだがな」
「鬼道は面白くても、私には苦痛の方が多すぎるわよ」

 

からかいの色が圧倒的に強いのだが、鬼道の口ぶりからするに、
若干ではあるが本当に自分の想像が外れたことを残念に思っているようだ。
は当然だが、円堂や豪炎寺に対しても、鬼道はライバル心を抱き始めているようだ。
それをうっすらとは感じとったが、あえてそれを表には出さずに胸のうちにしまっておく。
男同士のライバル意識に、女がどうこう関わるのは、あまりにも無粋すぎる。
がらにもなく「楽しくなってきたなー」と鬼道たちの成長に期待していると、
突然佐久間が不機嫌そうな声でを呼んだ。

 

「お前が指揮すれば、あの雷門が俺たち帝国と渡り合えると言うのか」
「おそらく――ね。チームとしてのスペックは帝国が圧倒的に有利だとは思うんだけど、
丁度よく攻撃と守備に期待できる選手が1人ずついるから、帝国とも十分渡り合えると思うわ」
「…希望的観測が多すぎるんじゃないか。俺たちは前回の試合で雷門に20点も入れているんだぞ」

 

帝国は他を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っている――
そう自負している佐久間にとって、の仮説はあまりにも馬鹿げたものに思えた。
もし、こんな仮説を以外の誰かが立てたとしたら、佐久間は気に留めすらしなかっただろう。
だが、立てたのがとなると黙ってはいられない。
認めたくはないが、の指導者とゲームメイカーとしての実力は、鬼道が認めるほど高い。
そんなが、雷門イレブンと帝国イレブンが渡り合えると言うのだ。
馬鹿げている――と、一蹴することはできなかった。
むきになっている佐久間を心の中で「可愛いなぁ」と思いながら、
は笑顔でこの仮設の根拠とも言える点を上げた。

 

「雷門、デスゾーンを止めた上に、源田君から1点とったじゃない。
これ、十分に可能性を感じられると思わない?」
「それは…」
「だが、俺たち帝国は日々成長している。とても雷門が追いつけるとは思えないが?」
「多少なら追いつけなくても問題ないわ。勢いで押し切れることもあるし――
なにより、雷門イレブンの一番の怖いところは土壇場での爆発力だもの」

 

の言葉に鬼道も佐久間も返す言葉はない。
前回の試合で、雷門が帝国の必殺シュートからゴールを守ったのも、
帝国のゴールを破ったのも、試合終了間際――土壇場だ。
目の前で目にした光景だからこそ、簡単に否定する事はできなかった。

 

「――でも、佐久間君の言うとおり、希望的観測が多すぎるって意見も尤もかもしれないわ。
この試合、真剣に観戦しようものなら、きっと5分で逝けるレベルだもの」
「……するなよ」

 

じと目で釘を刺してくる鬼道に、は「しないわよ」ときっぱり言い返すと、
芽吹きの時を迎えた興味の種――ピンク色の坊主頭の少年に視線を向けた。
の期待通り、彼は強力なシュート技を放つ。
まだ改善の余地はいくらでもあるが、構想を練り、練習を重ね、
形にしたということだけでも十分に評価に値する兆しだ。
らしくもなく素人に興味を抱いている自分をは笑い、
不意に揺らいだ視界に「ッチ」と舌を打った。

 

「もう無理…頭ぐらぐらしてきた……」
「……この様子じゃ、雷門に力を貸すのは無理そうだな」
「…ああ」

 

少しだけ雷門に脅威を感じなくなった鬼道と佐久間なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 この話、若干の夢主の行動に矛盾が生じているように見えるのですが、そうじゃないんです。
尾刈斗中戦を見るつもりは毛頭なかったのですが、気にはなっていたので、
連行された時点で初めから文句言いつつ観るつもりだったのです。
ただ、「試合観ながら雑談しようぜ!」なノリだったらぶん殴ろうと考えただけで。