豪炎寺が円堂に向かってボールを蹴り放つ。十分なパワーを保ったまま、豪炎寺のシュートは円堂に向かって一直線に飛んでいく。
自分に向かって飛んでくるボールから円堂が逃げることはなく、どんっと真正面からボールと対峙した。
「ふうぅっ!!」
これまでの特訓の成果が現れたのか、
見事ボールを返した円堂の額から飛び出したのは、以前ダイヤモンドダスト戦で雷門の窮地を救った黄金の拳。
数日に渡る特訓した結果、円堂のヘディング技の完成は目前にまで迫ってきているようだった。
「円堂さんっ、掴めたんですか!」
「ああ!体中熱くなってきてるんだ!」
「必殺技で試してみるか」
「おう、頼む!」
「それじゃ、本番を想定してやってみましょう。円堂、タイヤ外すわよ」
円堂のヘディング技をより完成度の高いものに仕上げるため、
必殺技を相手に仕上げを行うことになり、更に本番さながらの状況でやるべきだというの提案を受け、
今まで円堂の手の自由を――円堂のキーパー体質を押さえ込んでいたタイヤを、ついに円堂から取り外すことになった。タイヤを外したことによって身軽になった円堂は、
自分の体の感覚を確かめるように軽くトントンとジャンプしたあと、不意に背を向けると鬼道たちから距離を置く。
そして、振り返ったと思ったら急にパンッと軽く手を叩いて「さぁ、こい!」と準備が整ったと宣言した。円堂のOKサインを受けた鬼道が、豪炎寺と一之瀬に目配せすると、
2人はそれにうなずくと、フォーメーションを整えた。
「こいつを打ち返すパワーがあれば本物だ!」
そう鬼道は宣言すると、聞きなれた指笛を吹く。
それを合図に豪炎寺と一之瀬が飛び出し、それと同時に地中から5羽のペンギンが現れる。
そして、鬼道がボールをけり放つのと同時にペンギンたちも地中から飛び出し、
ボールに更にパワーを与える要領で豪炎寺と一之瀬が同時に左右から蹴った。円堂の必殺技の程を試すために鬼道が選んだのは皇帝ペンギン二号。
一瞬、は脳天が痛くなったように感じたが、本当にそれは一瞬のことで、
次の瞬間には皇帝ペンギン2号の嫌な記憶のことなど頭から吹き飛んでいた。
「だあああぁぁ!!」
円堂の額から飛び出す黄金の拳。
ダイヤモンドダスト戦で見せた拳よりも、遥かに威力を増したそれは完全にひとつの必殺技として完成されていた。ついに完成した円堂のヘディング技。
その完成を喜んで雷門イレブンがぞくぞくと円堂の周りに集まり、口々に必殺技の完成を喜ぶ声を上げる。
そして、いつの間にやら必殺技の命名係となっていた目金が完成した必殺技に「メガトンヘッド」という名前をつけ、
円堂はついにメガトンヘッドを習得したのだった。シュートとしても使え、シュートをブロックするためにも使えるメガトンヘッド。
これからリベロとしての道を歩く円堂にとって、メガトンヘッドの習得は大きな意味を持つ。
しかし、鬼道はそれを「前提」と捉えているようだった。
「円堂!まだまだパワーアップを続けるぞ!」
「おう!なんでもこい!」
だが、それは円堂も同じのようで、
鬼道の言葉に一切難色を見せることなく、二つ返事で同意の言葉を返していた。
「その意気だ。エイリア学園マスターランクチームに勝つには、俺たちに限界があってはだめだ。
お前には、もうひとつ必殺技を覚えてもらう」
「おうっ、なんでも――んっ!?その必殺技って…?」
「ふっ…鍵は帝国学園にある」
そう言って鬼道は意味ありげに笑った。
第101話:
ここは思い出の
影山の去った帝国学園。しかし、だからといってすぐにその雰囲気が変わるわけではない。
当たり前のことだが、建物自体は影山が居ようと去ろうと同じ。外観から成る独特の威圧感のようなものは、
フットボールフロンティア地区大会決勝時からなにも変わってはいなかった。
「(決意を改めたところで――この圧迫感は消えないわね…)」
新たな必殺技習得のため、雷門イレブンと共に帝国学園のフィールドにやってきた。
物珍しさからか、あたりをキョロキョロト見渡す雷門イレブンを尻目に、は早々にベンチに腰を下ろしていた。やはりどうにもこうにも、はこの帝国学園の雰囲気が好きではない。
帝国が完全に影山の手から離れたことはわかっている。
だが、それでもにはこの帝国の雰囲気が、影山そのもののようにも感じられた。おそらく、影山に対して過敏なまでの拒絶感があるだからこそ――なのだろうが。
「他のみんなもそれぞれのメニューで特訓だ!」
「「「おー!!」」」
ボーっと思考の海に沈んでいただったが、
やる気に満ちた雷門イレブンの声によって一気に思考は現実に引き戻される。いきなりのことに、頭が正常に動き出すまでには少しの時間が必要だったが、
動き出した頃には雷門イレブンはそれぞれの練習を開始していた。
「なんだかこう……悪い気がしてくるわね…」
「え?」
何の前触れもなく口を開いたに、驚いたのはタオルやスポーツドリンクの用意をしていた春奈。
それからややあってから秋がに「どうしたの?」と尋ねると、
は真剣な表情で鬼道たちの姿を見つめた後、急に大きなため息をついた。
「もう、一体なんだというの?」
「……役立てているようで、足を引っ張ってるなーって」
「そんな、そんなこと――」
「足を引っ張っていると思うなら、それ以外の部分でそれ以上にチームに貢献なさい。
そうやってただ愚痴をこぼしているだけでは、あなたは足を引っ張る一方よ」
足を引っ張っている――そう愚痴をもらしたをフォローしようとした秋――
だったが、その秋の台詞を遮ってを叱責したのは夏未。夏未の厳しい言葉に、秋と春奈、そして少し離れた場所に居る吹雪までもが一瞬驚いたような表情を見せたが、
秋と春奈はあの厳しい言葉が夏未なりのに対する励ましなのだと理解すると、顔を見合わせて小さな苦笑いを浮かべた。
「はぁ〜…夏未は厳しいわねぇ……」
「………あなたを信じているからこそでしょ」
「…………」
「な、なんとか言いなさいよっ!」
「夏未可愛い」
そう――言った瞬間、に向かって飛んできたのは無数のドリンクボトル。
避けるという選択肢も浮かんだが、はそれを選択せずに受け止めることを選択した。
――といっても、無抵抗に受けるというわけではない。すべてキャッチするということだ。夏未によって投げられたドリングボトルをすべてキャッチしたは、ボトルを自分の座っていた場所にすべて下ろす。
そして、何も言わずにベンチから離れたかと思うと、不意に夏未の方へ振り返った。
「ありがとう、元気でた」
「……初めからそう言いなさいっ」
「…やっぱりな――」
一瞬走ったデジャブ感あふれる空気に危険を察したは、
それ以上のことを言う前に練習を行っている豪炎寺たちのへ方へと走っていく。そんなの背中を夏未は不機嫌そうな表情で見つめていたが、
秋と春奈は笑顔でそれを見送っていた。
「なるほど――デスゾーンね」
そう言いながらはボールを拾い上げると、一之瀬へとボールを渡した。先ほどまでほとんど人の言葉が耳に入っていなかった。
当然、円堂たちが習得しようとしている必殺技についても知っているわけがなく、
それがなんなのかと尋ねたところ、帰ってきた答えが――デスゾーンだった。デスゾーン習得のためにわざわざ帝国学園とやってきた鬼道。
何故場所を変える必要があるのか――疑問を持ってはいたが、
デスゾーン習得のためとなればそれもありかとは思った。それだけ、このデスゾーンという必殺技は、
帝国学園と強い結びつきがある必殺技だとは知っていた。
「…しかし、鬼道と土門はともかく、円堂にデスゾーンって…」
「?…何かあるのか?」
「何って……。似合わないじゃない、円堂にデスゾーンって」
「いや、似合わないって…」
的を射ているようで的を射ていないの指摘。
確かに明るい印象の強い円堂に、暗い印象の強いデスゾーンは似合わないといえば似合わない。
だが、今に限っては似合う似合わないうんぬんは問題ではなかった。ふざけているとしか思えないの発言に、一之瀬たちが呆れたような表情を見せていると、
不意に「そうだね」とアフロディがの言葉を肯定した。
「えっ…アフロディ?」
「御麟さんの言うとおり、円堂くんにデスゾーンは似合わない――相性が悪いかもしれないね」
「ああ、照美くんもそう思う?」
「ボクもデスゾーンについて知識を持ち合わせていないわけではないからね」
「ん?」
苦笑いしながらそう言うアフロディ。
何か引っかかるものを感じてが一之瀬たちの方を見てみれば、
そこにはわけがわからないといった様子の雷門イレブン。しかし、よく考えたら当然か。
今となっては帝国イレブンと試合をしたことがあるのは円堂と豪炎寺、そして土門、壁山、目金の5人だけ。
それ以外のメンバーにいたってはデスゾーンを見たことがないメンバーばかり。
それに豪炎寺たちはデスゾーンを見たことはあっても、
のようにデスゾーンについて詳しい情報を持っているわけではない。そんな彼らがの言葉の意図を理解できるわけがないといえばなかった。
「デスゾーンは『THE帝国』。
帝国イレブンだからこそできる必殺技っていう印象が私的には強いから、
その帝国イレブンとある意味で対極にある雷門イレブンの主幹を成す円堂にそれはいかがなの?って思ってたのよ」
「雷門イレブンと対極…ッスか??」
「別に悪い意味じゃないわよ?
むしろ、プロクラスになった時には帝国イレブンの特徴の方が強みだからね」
「…ん?それって、プロクラスになったら御麟の言う雷門の特徴ってのは弱点になるって事だよな?」
「プロクラスならね。けど今に関しては最高の強みよ」
「――それで、御麟さんの言う『特徴』とはなんなんです?」
「答える義理はない」
「なっ!!」
結論を問うように目金がに尋ねるが、
はこの上ない綺麗な笑顔でニッコリと微笑むと、すっぱり目金の問いを切り捨てた。あまりにもすっぱり答えることを拒否したに一之瀬たちは呆れとも諦めとも取れる苦笑いをもらすと、
目金の二の舞を逃れるためか、にそれ以上のことを聞こうとはしなかった。
「でも、円堂が使うデスゾーンっていうのも――面白そうではあるわね」
「……本調子に戻ってくれたのはいいけど…ね…」
そう言う一之瀬の顔には苦笑いが浮かんでいた。
■あとがき。
相変わらず、「帝国学園」が苦手な夢主。まぁ、結局は影山の影に怯えているからなのですが。
それでも、FF編の初期を思えば、自キャラながらだいぶ成長したと思います(苦笑)
因みに、夢主が帝国のデスゾーンついて詳しいのは、鬼道から色々聞いていたからです。