帝国の気質を強く反映したデスゾーン。
デスゾーンを生み出した帝国とは対照的な位置に居る円堂と土門を伴ってのデスゾーン完成は、
やはり難しかったようで、鬼道たちは「帝国のデスゾーン」ではなく、
雷門イレブンだからこそ撃てるデスゾーン――「雷門のデスゾーン」を完成させた。
そして、そのデスゾーンをアップグレードさせた独自の必殺技――デスゾーン2までを完成させることができていた。
凄まじい威力を誇るデスゾーン2。
これならば、エイリア学園のゴールを割ることができる――そう、雷門イレブンは喜んだ。
しかし、その喜びも長くは続かなかった。
突如として空から降ってきた黒いサッカーボール。
巻き上がった紫色の煙がその場に居た雷門イレブンと帝国イレブンの視界を遮る。
しかし、雷門イレブンはこれが示すところを既に理解していた。
ゆっくりと引いていく紫色の煙。
その奥から薄っすらと見えてきたのは二つの人影。
「誰だ」と目を凝らせば、見えてきたのは見覚えのある顔。
しかし、彼らが身にまとうユニフォームは、今までに見たことのないものだった。

 

「ガゼル!バーン!」
「「我らはカオス!」」
「猛き炎プロミネンス!」
「深淵なる冷気ダイヤモンドダストが融合した最強のチーム!」
「我らカオスの挑戦を受けろ!」
「宇宙最強が誰なのか、証明しよう!」

 

全貌を現したガゼルとバーンが率いるチーム――ザ・カオス。
先日戦ったダイヤモンドダストの選手たちに加えて始めてみる顔の選手たち――
おそらくバーンが率いるプロミネンスの選手たち。
彼らの言葉通り、このザ・カオスはダイヤモンドダストとプロミネンスから選りすぐりの選手を集めた
最強の――ジェネシスに匹敵するチームなのだろう。

 

「試合は2日後。場所はこの帝国スタジアム」
「当然、君たちに拒否権はない」

 

東京の破壊を容認すれば――拒否権はないわけではない。
だが、日本の中心である東京の破壊を容認などできるわけがない以上、
ガゼルの言うとおり雷門イレブンに試合を蹴るという選択肢――拒否権など存在していなかった。
未だ雷門の守備の要である立向居のムゲン・ザ・ハンドが完成していない今、エイリア学園と戦うのはやや危険なところ。
しかし、それを危機とは思っていないらしい円堂は、強い意志を持ってガゼルとバーンに答えを返した。

 

「……わかった。お前たちの挑戦、受けて立つ!」
「フッ…精々あがくがいいさ」

 

そう、ガゼルが言うと、いつの間にかバーンの手元に収まっていた黒いボールを、バーンは何も言わずに地面へと落とす。
そして、ボールが地面に触れたその瞬間、強い光がほとばしり――カオスは一瞬にしてその姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第103話:
「みんな」の鉄塔広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジ色に染まった稲妻町。
それを一望できるこの場所は――にとってお気に入りの場所であり、大切な場所。
大切な仲間たちと、大切な思い出を作り――
そして、幼き日のを突き動かしていた「情熱」を封じた場所でもあった。
稲妻町に居る日は、ほぼ毎日のようにはこの場所へ足を運んだ。
初めは一気に大切なものを失った喪失感を埋めるため。
だが、その喪失感は時間が経つほどに薄れていった。
忘れていった――わけではない。
その隙間を埋める存在が、の前に現れたのだ。

 

「もうすぐ――決着がつくんだろうね」

 

オレンジ色に染まった稲妻町を、鉄塔広場のベンチに座りながら眺めていた
誰に言うわけでもなく、思ったことをそのまま言葉にすると、横から「まるで他人事だな」と言う男の声が聞こえる。
反射的に視線を声の聞こえた方へと移せば、私服の蒼介と真斗がの方へ近づいて来ていた。
蒼介に何も言葉を返さず、は黙って2人が自分の元へやってくるのを待っていると、
蒼介はの横に腰を下ろし、真斗はが座っているベンチを通り過ぎて、
木に吊るされているタイヤを感慨深そうな表情で眺めていた。

 

「それはそれ、これはこれ――そう、思ってたけど、そうも――言ってられない感じよね」
「情が移ったか?」
「そうじゃない。端に『雷門イレブン』の成長を見守り続けたいってだけ」
「――それを『情が移った』と言うんだ」

 

ぴしゃりと入った真斗の指摘。
あまりにきっぱりと「情が移った」と言い切る真斗に、
は苦笑いを浮かべて「そんなつもりはないんだけど…」と控えめに真斗の言葉を否定する。
しかし、まったく否定の要素を持たないに対して真斗は下手に出ることはなく、
追い討ちをかけるように強い口調で「認めたらどうだ」とに言った。
ところが、は大人しく真斗の言葉を受け入れるつもりはないようで、肯定の言葉もなければ、首を振ることもしなかった。
素直に認めるということをしないに呆れた真斗はに対してムッとした表情を向けたが、
だからといってが下手に出るわけもなく、はただ笑う。
こうなったは自分ではどうにもできないと真斗は判断すると、の横に座っている自分の兄に視線を向ける。
すると、真斗の視線を受けた蒼介は、呆れを含んだ小さなため息をつくと――の脳天に拳骨を振り下ろした。

 

「ふごっ!」
「傍から見れば、お前はもう既に『雷門イレブン』の一員だ。
お前が今更繋がりを否定したところでどうにもなりはしない」
「それは…そうだけど……気持ち的には、さぁ……」
「では聞くが、勇兄さんや九朗たちが新しいチームでプレーしていたことを――お前はどう思った」
「………ホッとした」
「なら、お前も俺たちをホッとさせたらどうだ」

 

静かな蒼介の言葉にの言葉が止まった。
あっという間にを黙らせた蒼介。
やはり自分が目標とする実兄は史上最高の人物だと真斗が心の中で頷いていると、
不意にが真顔で「ヤダ」と蒼介に返事を返した。
まさかここでが反抗してくると思っては思っていなかった真斗は驚いた表情でを見つめていたが、
拒否の言葉を向けられた蒼介はずっと顔に貼り付けていた無表情を不意に解くと、
小馬鹿にしたように「フッ」と笑うとベンチから立ち上がった。

 

「まったく――世話のかかる子供だ」
「兄様っ、待ってください!」
「俺たちの役目は既に終わった。あとはお前が決着をつけろ。――それが条件だ」

 

そう言って蒼介は鉄塔広場から去って行く。
それを慌てて真斗が追いかけて行き――あっという間に鉄塔広場は、ひとりだけの空間になった。
誰も居なくなった鉄塔広場。
物悲しい雰囲気が漂っているように見えるが、実際はそれほど悲しくも寂しくもなかった。
ここにひとりでいることが今のにとっての「普通」。
ただ端に、先ほどまでの時間がにとって幸福すぎただけ。
今が普通で、さっきまでが異例――そうは心の中で自己暗示のように唱える。
思考が沈まないように、
ひとりで前へ進まないように、
情けない自分を否定しないように――。

 

「おぉっ!ここが鉄塔広場か!思ったとおりのとこだぜ!」
「そんなに来たかったんなら、早く言ってくれりゃよかったのに」
「バカ野郎、それぐらい言わなくてもわかる――それがダチってもんだろ?」
「ん……悪い悪い」
「――お?御麟??」

 

騒がしく鉄塔広場にやって来たのは円堂と綱海。
先客が居るとは思っていなかったらしい2人は、少し驚いたような表情でを見ていた。
なんともタイミングの悪い2人の登場に、は心の中で苦笑いをもらす。
グルグルとめぐらせていた考えを頭の中の引き出しに仕舞い込み、はいつもの調子で思ったことを口にした。

 

「奇遇ね」
「ははっ、そうだな」
「にしても意外だな、御麟がここにくるなんてよ」
「はい?」

 

が鉄塔広場にいることが意外――寧ろ、そう思う方が意外というか予想外。
綱海の言う「意外」の意味が分からずが眉間にしわを寄せると、
苦笑いを浮かべながら円堂は綱海に鉄塔広場が自分にとって「特別な場所」という風に教えたのだとに説明した。

 

「――なるほど、それなら意外に思われてもしかたないわね」
「なんだ?ここは御麟にとってもそーいう場所じゃねーのかよ?」

 

自分が思っている事実と食い違ったの反応に綱海が疑問の声を上げる。
今までを知らない綱海にとっては当然の疑問だろう。

 

「私にとっても、ここは特別な場所。
――でも、思いを共有している人間が違うのよ」

 

そう言っては円堂たちを鉄塔広場に残してその場を後にした。
彼らとは同じ年代だが――自分は既に過去の人間。
ならば、過去の思い出に浸りたいだけの自分が去り、次代の新たな思い出が生まれた方が生産的。
今更、自分があの場所で掴めるものなど――

 

「…?」
「ん?」

 

不意に自分の名を呼ばれ、
はまた反射的に声の聞こえた方向へと視線を向ける。
すると、そこには鬼道と豪炎寺の姿。
思いがけない人物といえば、それもそうかもしれない。
だが、彼らの行き先とその場所に居る先客にことを考えると――案外、必然なのかも知れない。

 

「2人とも、明日は試合なんだから――あんまり長居しないでよ」
「あ、ああ…」

 

急に楽しげな笑みを浮かべてそう言うに面食らったのか、
自分の横を通り過ぎていくに鬼道は歯切れの悪い返事を返す。
そんな鬼道たちに背を向けて、は一度も振り返ることもなく軽く手を振って2人の前から去って行く。
それをやや不満げな表情で鬼道は見つめていたが、
すでに毎度のことと諦めているらしい豪炎寺は平然とした表情で「行こう」と鬼道に歩みを進めることを促した。

 

「……豪炎寺、お前のそれは元々か?」
「?なんの話だ?」
「…いや、わからないならいい」

 

そう豪炎寺に言葉を返すと鬼道は――鉄塔広場へと繋がる階段を上っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき。
 何気に、夢主は自分を過去の人間と括っています。事実、過去の人なんですけれども。
 ある意味で、夢主が雷門イレブンの中にいるというのは、中々に酷なことだと、今更ながら思います。
でも、その「辛さ」よりも、得られるプラスの気持ちの方が大きいから、夢主は雷門イレブンの傍にいられるんだとおもいます。