円堂、鬼道、土門のデスゾーン2がカオスのゴールを抉り、
立向居のムゲン・ザ・ハンドによってバーンのシュートを防いだ。
これによって完全に勢いづいた雷門イレブン。
それに加えてカオスのウィークポイント――
癖の強い髪とバンダナが特徴的なプロミネンスのミットフィルダー――ネッパーの存在を、
鬼道が見つけたことによって、完全に試合は雷門サイドに傾いていた。
雷門イレブン側に流れがきている――
それを決定付けたのは、開始30秒で決められたアフロディのゴッドノウズ。
それを皮切りに次々に決まる雷門の攻撃。
あっという間にスコアは7対10。
十分カオスに勝てる可能性が浮上するところにまでやってきていた。

 

「(でも、このまま――ってことはないわね)」

 

雷門の追い上げによって焦りが生じ始めているカオス。
それ故にチームは揺れ、自分にとっての「仲間」しか信用しなくなってきている。
――というより、単純に自分たちの方が優位であることを証明したいのかもしれない。
このままの状況が続けば、カオスは確実に負ける。
しかし、カオスを立ち上げた当事者たちがそれに気付かないわけもなければ、それを許し続けるわけもない。
この試合は彼らにとって重要な意味を持つ試合――絶対に勝たなくてはならない試合なのだ。
完全にチームとしてカオスが噛み合った時――
本当にカオスは「最強」のチームになるだろう。
動と静が融合し、ただ混ざり合うだけではなく調和する――
それができた時、お互いの欠点を補い合った弱点の少ないチームが完成する。
それに加えて、カオスの選手たちの方が雷門イレブンメンバーよりも若干実力は上。
実力で上回られている上に、チームとしての弱点すら克服したカオス――
正直なところ、は雷門の勝利への道が完全に閉ざされる気がしてならなかった。
しかし、今はこの作戦しかカオスに付け入る隙はない。
今の雷門には、完全に勝利への道を閉ざされる前に、
可能性の道を作っておくしか手立てはないだろう。

 

「なんとガゼルとバーン、いきなり飛び出したっ!」
「なっ」

 

心配した矢先に現実となりかけている最悪の事態。
飛びぬけて実力のあるあの2人が連携を組んだ――
おそらく、突然のこともあり誰も彼らの進攻を止めることはできないだろう。
かなり状況は悪いが、先ほどのように立向居が
ガゼルかバーンのシュートを止めることができれば、それほど悪い状況にはならないだろう。
だが、ガゼルとバーンの姿を見つめるの脳裏に、過去の望たちの姿がチラつく。
正反対の2人――だからこそ調和したときがなによりも怖い。
もし、彼らが調和――連携必殺技を放ったなら――

 

「「ファイヤブリザードッ!!」」

 

雷門の勝利は、絶望的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第105話:
混沌の終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼルとバーンの連携必殺技――ファイアブリザードによって、ひとつのチームとなったカオス。
攻撃はもちろんだが、その守備力も格段に上昇していた。

 

「イグナイトスティール!」
「フローズンスティール!」
「くっ…!」

 

カオス陣内に攻め上がって行った豪炎寺。
しかし、その巨体からなる強力なディフェンダー――
ゴッカとボンバのダブルディフェンスによって、完全に攻撃の芽は摘まれ続けていた。
立て続けに2人のディフェンダーが襲い掛かってくることによって、
パスを出すことも必殺技を使うこともできない状況が生まれ、確実にボールを奪うチャンスができる。
そのディフェンスさえ超えてしまえば、グレントが連携を伴う必殺技でも習得していない限りは、
得点すること自体は難しくはないだろう。
だが、兎にも角にもこの強固なダブルディフェンスを突破しないことには、
雷門に勝機はおろか、得点の機会すらも望めなかった。

 

「(あのディフェンスに対抗するにはスピード――)」

 

思わず視線がベンチの端に座っている吹雪に伸びる。
無い物ねだりの無茶苦茶な感情だとはわかっている。
だが、それでもあのディフェンスを尤も突破できる可能性があるのは――吹雪だった。

 

「僕に任せて――あのディフェンスは、僕が破る」

 

強い意志を持ってそう宣言したのは――アフロディ。
土門たちが容易に突破できるディフェンスではないとアフロディを止めるが、
アフロディは自信を持って「大丈夫」と言い切り、円堂たちにボールを自分の下に集めるように頼んだ。
難しいことではある。
だが、あのフィールドの上で最も可能性があるのはアフロディだろう。

 

「よし、みんな!アフロディにボールを集めるんだ!」
「「「おう!」」」

 

アフロディの可能性を買ったのか、端にアフロディの熱意を買ったのか――
それはわからないが、鬼道の一声によって雷門イレブンの命運はアフロディに託されることになった。
フィールド上の雷門イレブンメンバーの中で最もスピードのあるアフロディ。
それに加えて、蒼介たちとの特訓で培われたであろう判断力が彼の背中を押すだろう。
しかし、それでも2度や3度、挑戦したところで突破できるものではなかった。

 

「(突破口を見つけるのが先か、照美くんの消耗が先か)」

 

冷静な言葉を吐く自分の頭が憎い。
こんな時ぐらい、理性もサボってくれればいいものを――
だが、こんな時だからこそか、の体を縛る理性は生真面目に働いた。
何度も、何度もゴッカとボンバのダブルディフェンスに向かっていくアフロディ。
その度、彼らのディフェンス技に進攻を阻まれ、彼の体は消耗し、傷が増えていく。
――だが、それでもアフロディは諦めなかった。
再び立ち上がることの大切さ――それを円堂たちから学んだと彼は言った。
そして、それを認められてアフロディは雷門イレブンの一員と認められ、こうして彼ら共に大きな力に立ち向かっている。
ここで諦めれば、それは自分を信じてくれた円堂たちを裏切ることになる。
だから、彼は自分が傷付こうとも前へ進んでいくのか――
――それとも、彼は自分たちに道を示そうとしている?
ハッとしてが思考を現実に引き戻す――
その瞬間、アフロディとゴッカたちの間に黒いサッカーボールが割って入った。

 

「うわぁあ!」
「ぐおっ」
「がぁっ!」

 

光を放つサッカーボール。
それは強い衝撃波も伴っていたらしく、
アフロディ、そしてエイリアの一員であるゴッカとボンバさえも吹き飛ばした。
カオスに対するエイリアの粛清――そんな解釈がの頭をよぎったが、
不意に聞こえた「みんな楽しそうだね」という少年の声に視線を上げた。
帝国スタジアムの屋根の上、そこにいたのは赤色の髪の少年――グラン。
円堂に「ヒロト」と人間として名乗っていた名を呼ばれ、グランは円堂に挨拶を返すと平然と円堂たちの前へと降りてきた。

 

「お前……一体なにしに…」
「今日はキミに用があって来たんじゃないんだ――一体なにをしている」

 

円堂に向けていた温和的な空気は一転――
グランがガゼルとバーンに視線を移した瞬間、一気に空気はピリピリと張り詰めたものに変わった。

 

「俺は認めない!お前がジェネシスに選ばれたことなど!」
「我々は証明してみせる!雷門を倒して――誰がジェネシスに相応しいのか!」

 

エイリアの頂点に立つ存在――おそらくそれがザ・ジェネシス。
そして、グランがそれに選ばれたということは、それと同時に彼の率いるチームもエイリア最強となったということ。
エイリアの中で「最強」が選定されたことにより、それ以外の存在は必要性をなくし――排除される。
だから、ダイヤモンドダストとプロミネンスが手を組んでまでも「最強」の座を求めたのだろう。
どうやら、今のエイリアには「最強」以外のものは必要ないようだ。
やはり――決着が近いようだ。

 

「――往生際が悪いな」

 

苛立った様子でガゼルたちにそう言い放ったグラン。
彼らの諦めの悪さに苛立っている――ようには見えない。
ならば、彼を苛立たせている要素はなんなのか――しかし、その答えが出るよりも先に黒いサッカーボールが光を放った。
円堂がグランを「待てヒロト!」と声を上げるが、
その声にグランは少し申し訳なさそうな表情を見せるだけで言葉が返ってくることはなく、
次の瞬間には光と共にグランとカオスのメンバーは帝国スタジアムから姿を消していた。
グランの介入によって決着が付かずに終わったカオスとの試合。
不穏なことの終わりにネガティブな想像が浮かぶ――が、それよりも先に対処しなくてはいけないことがあった。

 

「照美くんっ!」

 

緊張の糸が切れたのか――アフロディは崩れるようにフィールドに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき。
 ビックリするぐらい短い上に、内容がなくてすみません…(滝汗)
本当に試合回は難しくて……。もっと上手に描写と絡みを書きたいものです…。
 次回も変わらず空気重いです!(ヲイ)