決戦当日早朝――昨夜の雨の影響か、
稲妻町はいつもより濃い朝もやに覆われていた。
決断を迷わせるような不透明さを持ったもや。
自分と違い、瞳子に拒絶の色を見せた一之瀬や土門の様子を考えると、
豪炎寺にはこのもやが少し縁起が悪く感じられた。
しかし、それでも仲間たちの決断を信じて前へ進むしか選ぶ道はないだろう。
自宅を出て、さらにマンションのエントランスホールから外へと出る。
いつもとなんら変わらないことだが、いつもと違う部分が2つ。
ひとつはいつもより濃い朝もや。
そしてもうひとつは――

 

「おはよう、豪炎寺」
「…ああ、おはよう」

 

朝もやの中から姿を見せただった。
豪炎寺もよく知る、不敵な笑みを浮かべて声をかけてくるに、
豪炎寺もが自分の下へやってきた理由に大体の察しはつく。
偶然のことではあったが、それでも豪炎寺はエイリア学園との戦いにおけるの「目的」を知っている。
――おそらく、それに関することで話があるのだろう。

 

「歩きながら話すから」
「…いいのか」

 

重要な話なんじゃないのか――そういう意図をこめて豪炎寺は尋ねるが、
は笑みを浮かべて「ええ」と問題ないことを告げる。
本当にが豪炎寺の言葉を意図を理解しているのか微妙なところだが、
すでには先に歩き出してしまっており、豪炎寺は彼女を止める間をなくし、少し釈然としないながらもの後に続いた。
相変わらず晴れない朝もやにつつまれた稲妻町の町並みを眺めながら、
豪炎寺はと共に雷門中への道を歩いていると、不意にが口を開いた。

 

「たぶん私、みんなと分断されることになると思う」
「……それを回避するつもりはないのか」
「ない。決着を付ける最初で最後のチャンスだから」

 

分断される――それはおそらくエイリア学園の本拠地で起きるだろう。
普通であれば、どうあっても分断されることは回避するべきだが、
それを事の中心にいるであろうが拒否している以上、回避は絶対に無理だろう。
だが、初めから豪炎寺もを止めようとは思っていなかった。
エイリア学園との戦いが自分たちにとって大きな目的であるように、
にとってもこれから直面するであろう「目的」はとても大きなもの。
エイリア学園との決着を付ける自分たちを誰も止められないように、もまた誰にも止められないのだ。

 

「お前の気が済むようにやってくればいい。――みんな、待っている」

 

ポン――との頭に手を乗せ、小さな笑みを見せる豪炎寺。
思っても見ない豪炎寺の行動に、はきょとんとした表情で豪炎寺の顔を見ていると――
不意に豪炎寺がいつもの表情に戻った。

 

「――と、明那さんが」
「なっ…!ちょ、うっかり豪炎寺に感動しちゃったじゃない!」

 

まさか、明那からの伝言とは知らず、本当にうっかり豪炎寺に感動してしまった
恥ずかしいから、ややこしさに対する怒りやらで、頭が若干パニックになりながらも豪炎寺の手を払って抗議する。
しかし、その抗議を受けた豪炎寺といえばやや困惑した表情を見せるだけ。
正直、困惑しているのはの方なのだが。

 

「あ〜っ!次に明那に会ったら殴ってやる…!」
「お前を受け入れてくれる、大切な人を殴るのか?」

 

少し呆れたような表情でに訪ねてくる豪炎寺。
そんな豪炎寺には「フンッ」と鼻を鳴らすと、はっきりと言い放った。

 

「殴ったぐらいで壊れるような繋がりじゃないのよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第107話:
決着の地へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山麓に向けて走る青色のバス――イナズマキャラバン。
その中には、雷門イレブン全員の姿があった。
瞳子を信じた円堂たち。
判断しかねていた鬼道たち。
そして、瞳子にはついていけないと言い切った一之瀬たち。
一度はバラバラになった雷門イレブンだったが、
エイリア学園との戦いの意味を知りたい――その思いは誰しも同じだったようだ。
エイリア学園との最終決戦――
それを前にしているというのに、まるで遠足にでも来ているかのように明るい車内。
中には緊張しているものもいるようだったが、それは極少数だった。

 

「緊張感のかけらもないですねぇ」
「…それは、あなたもよ」

 

少し緊張した様子で、にそう言葉を返したのは瞳子。
余裕を湛えたの態度を咎めるつもりはないようだが、彼女の視線には少し不機嫌そうな色が伺えた。
緊張している自分に対して、余裕さえ伺える――
に対して憤りを感じているというよりは、緊張している情けない自分に対して憤りを感じているといったところだろう。
まるでかつての自分を見ているかのような感覚に、は心の中で苦笑いをもらす。
責任感の強さ故に生まれる憤り。それを押さえ込みながら、それでも前へ進もうとする姿。
――きっと、蒼介たちも今ののような思いでいたのだろう。

 

「自分の意志で選んだ道を、自分の信じた人と一緒に行くんです。
…もちろん、不安がないわけではないですが、大丈夫だっていう自信もあります」

 

勘違いしてはいけない。
自分ひとりでこの道を歩いていると。
前に誰かがいなくとも、後ろには自分を支えてくれている誰かがいる。
それを忘れて独り善がりに前へ進んでも、事は好転などしない。
――それは、が経験者であるからこそわかることだった。
を見る瞳子の顔に浮かんでいるのは怪訝そうな表情。
今の状況では、の言葉は重みのない励ましの言葉でしかないかもしれない。
だが、いずれ瞳子も気付いてくれるだろう。
雷門イレブンを通して――。

 

「みんな!富士山だ!」

 

不意に声を上げたのは円堂。
彼の言葉をきっかけに視線を窓へと移せば、窓の向こうにあったのは色の悪い空を背負った富士山。
日本の象徴ともいえる山だというのに、今の富士山にその面影は微塵もなく、ただただ不気味なだけだった。
物々しい雰囲気に若干気おされつつも、イナズマキャラバンは臆することなく富士山へと近づいていく。
さすがにここまで来るとキャラバン内にも緊張感がはしるようになり、車内は沈黙に包まれていた。
そして、その沈黙を破ったのは――想像もできない光景だった。

 

「な、なんスかあれは!!?」
「どうしてこんなところに…?!」

 

雷門イレブンの目に飛び込んできたのは、黒い建物――と思わしきもの。
通俗に言えば――UFOと呼べるものだった。
エイリア学園――宇宙からの侵略者の本拠地と思えば、
このUFOというものはそれほど不思議に感じるものではない。
だが、実際にそれを目にして冷静でいられるかといえば、それは否だった。
UFOの存在を確かめるように、イナズマキャラバンから外へと出て行く雷門イレブン。
自らの目で見たそれは、キャラバンの中で見たときよりも心なしか威圧感を放っているように感じられる。
少しの恐怖心を覚えながらも、それを受け止めた上で円堂は「みんな、行くぞ!」と進軍を宣言した。

 

「待て」
「ぇっ…響木監督!」

 

エイリア学園の本拠地へ乗り込もうとした雷門イレブンに待ったをかけたのは、前雷門イレブンの監督である響木。
まさかこの場面で響木の待ったがかかるとは思っていなかった円堂たちは、突然の響木の制止に動揺を隠せずにざわつく。
それは瞳子も同じのようで、その顔には少しだけ驚きの色があった。

 

「俺はこれまで、エイリア学園の謎を探っていた。そして、やっと答えにたどり着いた。
エイリア学園の黒幕は――お前だ!」
「「「ええぇぇっ!!」」」

 

エイリア学園の黒幕――そう言って響木が指差したのは瞳子。
まさかと言えばまさか。
だが、懸念していたといえば懸念していたこと。
様々な思いが雷門イレブンの中に流れる中、
事実を確かめるように円堂と鬼道が響木に「瞳子が黒幕」というのはどういうことなのかと尋ねると、
響木は2人へ直接答えを返さずに、瞳子に2人の質問に答えるように言った。
――しかし、それでも瞳子はすべてを語ることはしなかった。
すべての答えはあの中にある――そう言ってただ、黒いUFOのような建物を見据えるだけ。
だが、そんな瞳子の反応に、反抗するものはいなかった。
既に彼らの中で決まっているのだろう――真実を知るために、瞳子について行くのだと。
それを、響木も感じ取ったのか、瞳子に対してそれ以上を言及することはしなかった。
誰が言うでもなく雷門イレブンはキャラバンへと戻っていく。
そして、更に瞳子たちが乗り込み、イナズマキャラバンはUFOに向かって更に進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

認証コード――それを瞳子が入力することで開いたエイリア学園への扉。
それは瞳子の悲願を達成するための大きな一歩であり、エイリア学園と瞳子のつながりを明確なものにするものだった。
だが、初めからすべてを話すつもりの瞳子に、罪悪感や抵抗感は今更なかった。
人気のない道を進むイナズマキャラバン。
何事もなく前進できるのはありがたいが、この静けさは逆に気味が悪い。
進入できたと言うよりは、進入させてもらった――そう解釈する方が適当な程に。
キャラバン内を沈黙が支配する中、大きく開けた場所にやってきたところでキャラバンが停車する。
前方には扉がひとつ。キャラバンのまま突入することもできなくはないだろう。
だが、そこからは人の足で歩くことを前提にしているということは雰囲気でわかった。
「みんな、降りて」という瞳子の言葉を号令に、
雷門イレブンはキャラバンを降り――ついにエイリア学園の本拠地に足を踏み入れた。

 

「…監督、一体この施設はなんのための施設なんですか?」
「……吉良財閥の兵器研究施設よ」

 

鬼道の問いに返ってきたのは、瞳子からの明確な答え。
本当に瞳子はこの場所で雷門イレブンにすべてを打ち明けるつもりなのだろう。
そんな瞳子の決意を感じながら、は心の中で苦笑いを浮かべる。
瞳子はすべてを打ち明けることを決めたというのに、自分にはまったくそんなつもりがない。
元々ない雷門イレブンからの信用が、更に転げ落ちて行きそうな気もするが、
それでもの心の天秤は、まったく揺らぐことがなかった。

 

「私の父の名は、吉良星二郎。吉良財閥の総帥よ」
「…自らの作った兵器で、世界を支配しようと企んでいる男だ」

 

吉良財閥――表向きはただの巨大な企業。
その裏で黒い噂が度々流れているが、その権力によって黒い噂はもみ消され、
世間一般的には真っ当な企業として浸透している。
しかし、黒い噂は真実だったようで、世界の支配という野望が調査によって浮かび上がったようだ。
世界征服を企む吉良星二郎――その娘である吉良瞳子に雷門イレブンの視線が集まる。
少しの沈黙の後、夏未は瞳子に雷門イレブン全員の疑問をぶつけた。

 

「エイリア学園はただの宇宙人じゃない――監督はそう言いましたね」
「ええ」
「兵器開発とエイリア学園……。一体どんな関係があるんですか」

 

夏未の問いに、瞳子は憂いを秘めた表情を見せる。
だが、夏未の問いに答えるつもりはあるようで、悲しげな表情を見せながらも口を開いた。

 

「…すべては――エイリア石からはじまったの」

 

そう、瞳子が答えた瞬間――閉ざされていた扉がゆっくりと開かれていく。
完全にお前たちの動きは把握している――そう言われているも同然の格好。
だが、それがわかったとしても、前へ進むという選択肢しか雷門イレブンにはない。
逃げることを良しとしない――それもあるだろうが、
やはりここで引き下がったところでなんの解決にもならないということを、
全員が理解し、前へ進むということを決断しているからこそなのだろう。
イナズマキャラバンと古株をその場に残し、雷門イレブンは扉の向こうへ足を踏み入れる。
先が見えないほどに続いているのは無機質な通路。
金属質の床と壁に加えて、一定間隔で設置されているライトがなおさらに機械的な――
人間味を感じさせない無機質さをかもし出していた。
足を進めても前へ進んでいる感覚がしない通路に、不安感を煽られ余計なことが雷門イレブンの頭をめぐる。
雷門イレブンの意識がバラバラになっていることをは感覚的に感じ取りながらも、なにを言うことはせずに黙って前へと進む。
注意力が散漫し始めている――そこが奇襲の絶好のチャンス。
だが、全員が気を張っていずとも、誰かひとりが気付くことができれば、大きな被害はもたらされない。
ならば、その役目を自分が担うことが――が雷門イレブンに対して最後にできる協力だった。

 

「監督たちとマネージャーは下がって!出迎えがきたわよ!」

 

当然のの警告に動揺のはしる雷門イレブン。
だが、それを無視しては先頭へと飛び出し、弾丸のようなスピードで飛んできたサッカーボールを蹴り返した。

 

「シンニュウシャ、ハイジョ」
「ハイジョ」
「ハイジョ」

 

が蹴り返したボールを軽く止めたのは銀色のロボット。
おそらく、このロボットたちはエイリア学園の警備システムのひとつなのだろう。
こんなロボットで雷門イレブンの進攻を止められると思っているのか――
そんな言葉がの脳裏を掠めたが、それよりも自分の前にある現実を処理するのが最善だろう。

 

「みんな!とにかくボールを止めるんだ!」
「はいッス!」
「でも鬼道!それだけじゃどうにもなんないぞ!」
「おそらくコイツらに指示を伝えている電波塔があるはずだ!それを破壊すれば…!」
「なら、ボールを止めながら前へ進むんだ!」

 

円堂の決定に雷門イレブンは「おう!」と了解の返事を返し、
鬼道の指示で綱海、土門、小暮、円堂を先頭にロボットたちの蹴り放つボールを止めながら前へと前進して行く。
ロボットたちのシュートをしのぎつつ前へ進んでいくと、
黒いロボットが円堂たちに向かってボールを蹴り放ち続ける銀色のロボットと同じロボットたちに守られていた。

 

「あれが鬼道の言う『電波塔』ってやつか!」
「豪炎寺、いけるか」
「ああ、任せろ」
「よし!小暮、ボールをカットして円堂に渡せ!土門と綱海は小暮をガードだ!」
「「「了解!」」」

 

鬼道の指示を受け、土門と綱海は小暮の前に立ち、
無数に飛んでくるボールをひとつだけ残してほかすべてを排除する。
ひとつだけ小暮の下へ飛んできたボールを小暮は旋風陣で完璧にカットし、
そのままの流れで鬼道の指示通り円堂へとボールをつないだ。

 

「豪炎寺!」
「おう!――はぁっ!!」

 

円堂のアシストで蹴り上げられたボールを、豪炎寺は思いっきり蹴り放つ。
パワーの凝縮されたボールは黒いロボットを守る銀色のロボットたちを蹴散らし、
最後には十分なパワーを保ったまま黒いロボットの頭に命中する。
それを証明するように、黒いロボットは言葉と思わしき電子音を鳴らしながら機能を停止した。
それと同時に、銀色のロボットたちもガシャンと音を立てて機能を停止する。
どうやら、鬼道の読みは正しかったようだ。警備ロボットたちの迎撃を退けることに成功した雷門イレブン。
「やったー!」と喜んだのは一瞬で、
第二波がやってこないという確信はない以上、今のうちにできるだけ前へ進んだ方がいい。
そう瞳子に促され、雷門イレブンはロボットたちの残骸を後に、奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき。
 ずっと書けなかった分を取り戻すかのように、豪炎寺さんとの絡みが多くなっております(笑)
単純に、豪炎寺が夢主の事情を知っているというだけなんですが――作者は楽しいぜ!(ヲイ)
 次回は全力残念賞のオリキャラ回です!(逃)