無事に、エイリア学園本拠地から脱出することができたイナズマキャラバン。
誰一人として欠けることなく、全員が全員、無事に外に出ることができていた。

 

「……本当に…使えた…」
「俺も…半信半疑だったが……」
「契約はあいつらにとって、俺たちとの『繋がり』だ。
破れば断たれるが、守れば繋がる」

 

雷門イレブンとも、ジェネシスとも、
少し距離を置いたところに集まっているのは、フォルテとサージェと勇と、
意図してこの4人が集まったわけではない。
ただ、がひとりになっているところに、3人が集まってきただけだった。
当人としては、勇はともかく、
サージェとフォルテはジェネシスイレブンのところへ行くべきなのでは?と思っているのだが、
あえて口を出すことはしなかった。

 

「――ところで勇、さっき話にあがっていた研崎っていうのは?」
「それは俺が」

 

の問いに答えたのは、が問いを投げた勇ではなくサージェ。
勇よりもサージェの方がエイリアの内情を知っていることは考えなくともわかる。
は「ん」とサージェに説明を促すと、
サージェは施設の自爆装置を起動した人物――研崎について説明を始めた。

 

「研崎は吉良星二郎の秘書であり、ハイソルジャー計画の責任者でもあった男だ。
普段は吉良の手足となって計画を進めていたが――
裏ではエイリア学園をのっとるために色々と根回しをしていたようだ」
「……本当に『第三勢力』がでてくるとは…、……」
「…下手な小者だといいな」
「……アンタ…ねぇ……」

 

エイリア学園の中に第三勢力があるのでは――すでにそれは想定していたことではある。
が、本当にそれが的中するとは思っていなかった。
というより、的中して欲しくなかった――というのがの本音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第111話:
戦いの終点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネシスを廃し、エイリア学園の野望もここに潰えたか――
と、思ったところに、エイリア学園から派生する第三勢力。
首謀者が変わる以上、おそらく目的は変わるだろう。
だが、エイリア学園から派生しているということは、根本的なやり方や技術はおそらく変わらない。
――となると、またジェネシスのような超人的な身体能力を持ったチームと、
雷門イレブンが戦うことに可能性が濃厚だった。

 

「はぁ〜…今度こそ、落ち着けると思ったのに…」
「…おそらく研崎は間を空けずに雷門イレブンに攻撃を仕掛けてくる。
どれほどに強いチームも、連戦では満足な力は発揮できないからな」
「…よかったな。下手な小者だ」

 

本当に「よかった」と言いたげな勇に、は黙って不機嫌丸出しの視線を向ける。
普通であれば「よかないわっ!」とでも怒鳴りだすところだというのに、は沈黙を保っていた。
思ってもみないの反応に、フォルテとサージェは顔を見合わせたが、
亀の甲より年の功なのか、不意に勇が「あぁ〜」と納得した様子で声を漏らした。

 

「誰も自己中が戻ってきた――なんて思ってないぞ」
「「は?」」
「………」

 

サージェたちの斜め上をかっ飛んだ勇の言葉に、
サージェとフォルテは思わず間抜けな声をあげた。
しかし、勇の言葉はしっかりの図星をついているようで、
は酷く迷惑そうな表情を浮かべて勇たちから顔を思い切り背けていた。

 

「そんな度量の狭いやつはいないし、あいつらの大半が雷門以外の『仲間』がいる。
仮に、自己中と避難するヤツがいても、擁護してくれる人間の方が多いぞ」
っ、なんならオレたちが事情せ――」
「あぁ…もぉ…!惨めになるから優しくしないでぇ…!!」
「えぇー!」

 

フォルテに心配されながら、ぐたぐたと岩に寄りかかる
そんなのどうしようもなく惨めな姿を眺めながらサージェは思う。
こんな、こんな頼りない「」もいたのか――と。
今、サージェの目に映っているのは、彼の知る「御麟」とはまったく違う。
サージェの知るは、こんなことで悩んだり、臆病になったり、取り乱したりはしない。
ましてや、他人の拒絶を恐れたりなんてしなかった。

 

「――望、行くぞ」
「へ?」
「今の俺たちの居場所は――ここじゃない」

 

そう言ってサージェが指差したのは、
鬼瓦に促されて護送車へと乗り込んでいくジェネシスイレブンの面々。
すでに吉良はパトカーで連行されおり、その姿はなかった。
「父さん」がいなくなった彼らの背中は酷く不安げで心細い。
不安や寂しさは、いずれ時間が解決してくれるのかもしれない――
だが、それを黙ってみていられるものではなかった。

 

「うぉっ!?望っ?!」
「しょぼくれるなよっ、みんなで待てば寂しくなんてないって!」
「あの人はお前たちのために罪を償うと決めたんだ。
…それなのに、お前たちが折れるわけにはないだろう」
「クポ?」
「朔…兄さん…?」

 

ウィーズの背中に抱きついて明るく笑うフォルテと、クィールとネロの手を引いて歩くサージェ。
彼らの視線は真っ直ぐ前を――自分たちが今、大切にしたい存在に向いていた。
これまでも、そしてこれからも、苦楽を共にする――家族という存在に。

 

「…フラれたな」
「……だから言葉を選べというに…」

 

振り返ることなく、サージェたちはジェネシスイレブンと共に護送車の中へと消えていく。
それを感慨深くが見守っていると、不意に隣にあった影がゆらりと動いた。
それは言うまでもなく勇。
だが、一度だけを見ただけで、なにを言うこともせずに勇は警察の車に乗り込んでいった。

 

――さすがに、こうまでされるとも3人の意図はわかる。
要は逃げ道を塞いで、今の自分たちの「居場所」を再認識させようとしたということだ。
ああ、背中に刺さる視線が痛い。
怒り、期待、興味、同情――やらなんやらかんやら。
振り向けば、確実にこの視線すべてが自分に刺さるだろう。
もしかすると、皇帝ペンギン2号――を通り越して、ジ・アースが飛んでくるかもしれない。
しかしまぁ、今回ばかりはそれもまた仕方ないかもしれない。
今回は本当に自分のためだけに――彼らを切り捨てたのだから。
――なんて、ネガティブな考えがぐるぐるとの頭をめぐる。
いくら考えたところで、自分を肯定する要素も言葉も生まれはしない。
だが、そうはわかっていても、踏ん切りがつかないのが現実だった。

 

「御麟さん」

 

「はぁ〜…」と吐き出しかけたのため息を止めたのは瞳子の声。
反射的にが瞳子の声が聞こえた方向に視線を向ければ、
そこにいたのはしっかりとグランと手をつないだ瞳子だった。
「ああ」と瞳子の気持ちを理解して、
は思わず「よかった」と心の中で思いながら笑みを漏らした。

 

「ありがとう、御麟さん。あなたにも、私はたくさん助けられたわ」
「助けになっていたならよかったです。後半、職務怠慢気味だったように思っていたので」
「…いいえ、雷門の監督としても、あの子たちの家族としても――私はあなたに感謝しているわ」

 

思いがけない瞳子の感謝の言葉に、おもわずは泣きそうになった。
雷門イレブンのためにやったことだけではなく、
の勝手」でやったことも、瞳子にとって助けになっていた――
それはにとってなによりの救い――何よりの肯定だった。

 

「――でも、御麟さんにはもうひとつ、お願いされて欲しいことがあるの」
「――………!!な、ば、あ――ひ、瞳ちゃんずるい!!」
「最後まで――イナズマキャラバンをお願いね」

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべて瞳子はそうに言うと、
苦笑いを浮かべているグランの手を引いて護送車へと乗り込んだ。
サージェとフォルテ、ジェネシスイレブンと瞳子を乗せた護送車のドアが閉まる。
そして、彼らを乗せた護送車と、数台のパトカーは静かにその場を後にした。
聞こえていた車の音が、いつの間にやら聞こえなくなっている。
しんと静まり返った空気。張り詰めているわけではない。ただ、静かなだけ――
だが、人々の視線が背中に刺さる後ろめたい人間には、妙にその静寂が重く感じられた。

 

「…誰も、振り向きざまにジ・アースは打たないぞ」
「皇帝ペンギン2号もやらないよ」
「ファイアトルネードもな」

 

静寂を破ったのは恒例の3人。
まぁ、確かにもそれについて懸念がなかったわけではない。
むしろ、それは受け入れるぐらいの気持ちがあった。
だが、彼らもが一番懸念している部分をわかっているからこそ、こんなことを言ってくれたのだろう。
現段階で、もう既にの情けなさは限界点を突破している。
――だというのに、まだこの上があるのだから酷い。
振り向けば、確実にもっと情けないことになることは確実。
しかし、それが今回の一件についての罰ということにしよう。
プライドやらメンツやら、色々なものがボロボロになるだろうが――自業自得だ。

 

おわっ!?ちょっ、ちょ、な――なあ゛っ!?な、夏ぅ゛っ…!」

 

雷門イレブンのいる方向へと振り返ったに、にの一番に抱きついてきたのは夏未。
しかし、抱きしめるだけならよかったものの、それを通り越して夏未はの首を絞めだした。
これはおそらくあれだ。
夏未の心配が、心配の向こう側に行ってしまったのだろう。

 

「バカ、バカっ、バカ!バカ―――!!
「く、首は…ダメじゃないが…っ!!」
「私の心配に比べたら大したことないわよっ!信じていたけど……心配したんだから…っ!」
ぐぇっ!!(…あ、……気が遠く…なってきた……)」
「夏未さん!おちちゃいます!お姉ちゃんがおちちゃいますっ!!」

 

を絞殺しかけている夏未。
それを必死で止めている春奈。
そして、の夏未からの愛されっぷりを笑顔で見守っている円堂たち。
が懸念していた要素など、まったくのゼロな世界を眺めながら、
鬼道が苦笑いを浮かべてため息をついた。

 

「雷門も、大概に甘いな」
「それは、この場にいる全員に言えることじゃないのか?」
「…まぁな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき。
 ジェネシスの件が終わりましたー!これで終わりではないですが、一区切りついた感じです…!
でも、次はエイリア編カオス四天王の最強の件、ダークエンペラーズ…!!今回にも増してカオスりますよ…!
つか、最後の最後で原作からちょいと離れることになるので――反応がとっても不安です(滝汗)