急いで雷門中へと戻ってきたイナズマキャラバン――雷門イレブンの目に飛び込んできた光景は、
彼らの重苦しい想像を笑ってしまうくらいひっくり返すものだった。雷門中のグラウンドに立つのは、青を基調としたエイリア学園を思わせるユニフォームに身を包み、
やや人相が変わってしまった――風丸や染岡をはじめとした懐かしい仲間たち。覚悟を決めた雷門イレブンだ。
彼らだけが、雷門中のグラウンドに立っていたなら、誰も驚くことはなかっただろう。だが驚くことに、グラウンドの上には彼らとは違うユニフォームを着た選手の姿がある。
そして、グラウンドを囲むように設置された観客席には応援に駆けつけた多くの人たちの姿があった。だいぶ訳のわからない状況に、雷門イレブンをはじめ、も響木も呆然と立ち尽くしていると、
不意に「やっときたか」と言う男の声が聞こえた。
「蒼介……一体なんなの、この状況は…」
平然としている蒼介に、は未だ混乱している頭を何とか働かせて状況を説明するように言う。
しかし、だからといって蒼介が快く状況を説明する――わけもなく、何の説明もなく「来い」とだけ言って歩き出した。そんな蒼介に待ったをかけるように「ちょっと!!」とは声を上げるが、
その程度で蒼介は足止めるどころか振り返ることもしない。
まったくもって聞く耳持たんといった様子の蒼介は、無言でスタスタと手前のベンチへと行ってしまった。
「雷門イレブンだ!」
「真打登場だー!」
蒼介を呼び止めたの声によって、観客たちが雷門イレブンの存在を認識する。
すると、盛り上がっていた観客たちの声援が更に大きな盛り上がりを見せた。観客たちの盛り上がりに若干気圧されながらも、
雷門イレブンは蒼介の後を追って手前にあるベンチへと急ぐ。
そして、そのベンチにいたメンバーは、想像もしない面々だった。
「佐久間!?それにどうして辺見たちまでいるんだ?!」
「…女川に茂木…?どうしてお前たちがここに…」
「そ、それに、そっちにいるのは御影専農の…!」
ベンチに詰め掛けていたのは、帝国イレブンに木戸川イレブン。そして更に御影イレブン。
想像もしない状況に相変わらず雷門イレブンが混乱していると、
不意に蒼介が冷静に「見ろ」と言ってグラウンドを指差した。グラウンドの上で戦っているのは、風丸や染岡を初めとする雷門イレブンメンバー。
それに加えて御影専農の杉森と、木戸川清修の西垣。
そして、彼らと戦っているのは、帝国、御影、木戸川の選手たちと真斗と月高だった。戦況はややこちらが押されているが、十分に風丸たちの攻撃を凌ぐことができている。
1人1人の力は微々たるものだが、彼らは上手く連携して風丸たちの攻撃を防ぎ、守備を突破していた。
「武方!」
宍戸と少林寺のディフェンスを突破した真斗が前線へと上がっていた武方へとパスをだす。
それを武方三兄弟の長男である勝がしっかり受け取ると、すぐにシュート体勢に入った。
「「「トライアングルZッ―――!!」」」
第113話:
最高の予想外
研崎の手によって編成されたダークエンペラーズ――それが風丸たちのチームだった。見事にの「最悪」の予想はあたり、
雷門イレブンは風丸たちダークエンペラーズを戦うことになった――
が、誰も想像しない「最高」の予想外が起きていた。
「俺たちだって、お前たちの仲間!みたいな!」
「サッカーを守りたい気持ちも、仲間を助けたい気持ちも、お前たちと同じだからな」
そう言ったのは、木戸川清修の勝と御影の下鶴。
「雷門イレブンのおかげで、俺と佐久間は間違いに気付くことができた。
お前たちにも、そして彼らにも恩がある――」
「それに、鬼道さんにとってあいつらが仲間なら、俺たちにとっても仲間ですから!」
下鶴たちの言葉に更に続いたのは、帝国の源田と成神。そう、彼らは自分たちの仲間を、そして雷門イレブンの助けになるために雷門中に集合し、
雷門イレブンが雷門中に到着するまでダークエンペラーズと戦っていてくれたのだった。
「大してあいつらの体力はほとんど削れなかったが――精神的にはだいぶ弱っているはずだ」
「…でも、風丸と染岡って人はあんまり……」
「エイリア学園との戦いの中で挫折している分、力への執着が強いんだろう」
そして、目的は同じだが、チームがバラバラの彼らを1つのチームに纏め上げ、
実力の不足を補っていたのは真斗と月高の2人。真斗の的確な指示と、月高の鼓舞によって、実力差のあるダークエンペラーズに苦戦しながらも戦い、
ダークエンペラーズとイーブンの状態――とまではいかないものの、
雷門イレブンにとって絶対的に不利な状況を回避するという大きな成果をあげたのだった。真斗の言うとおり、前半戦分を戦い終えたダークエンペラーズに疲れの色はほとんど見えないが、
彼らの精神が揺らいでいることは雰囲気でわかる。そして、場の流れが大きく雷門イレブンに傾いていることも明瞭だった。
「武方、下鶴、源田、それにみんな!
お前たちの気持ちは俺たちが引き継ぐ!そして必ず勝って、風丸たちの目を覚まさせる!」
「ああ、ここにいる全員のために!」
「ボクたちを応援してくれる人たちのために!」
「そして、エイリア石に取り付かれた風丸や西垣たちのためにもだ!」
この流れで、この勢いで戦えば、
きっと雷門イレブンはダークエンペラーズに勝つことができる――そんな空気が流れ始めている。
それは雷門のプラスになり、ダークエンペラーズにとってはマイナスになる。改めて自分の想像とは思い切り逆となっている状況に、は思わず小さなため息をついた。
「…言っておくが、お前がヘタレていると思ってやったことだ。感謝するなよ」
「――あぁ…そう……」
「ちょ、真斗兄!?そうじゃないって!俺たちは『雷門のために』って頑張ったんだよ!
雷門にはこんな形で負けて欲しくない――って!ね?!蒼介兄!?」
「……『雷門イレブン』は特別だからな。俺たちにとって」
そう言って蒼介はダークエンペラーズとの試合に向けて、
気合を入れるために円陣を組んでいる雷門イレブンに視線を向けた。キャプテンである円堂が「さぁいくぞ!みんな!」と声をあげると、それに答える形で仲間たちが「おう!」と声を上げる。
そして、仲間であり敵である風丸たちダークエンペラーズと戦うために、円堂たちはフィールドに散っていった。和気藹々とした雷門イレブンとは対照的に、
ダークエンペラーズは研崎に雷門イレブンを倒すように命令されると、
それをきっかけにチームメイト同士でも声を掛け合うことはせずに無言でフィールドへと散っていく。
雷門イレブンメンバーをメインとはしているが、
やはりダークエンペラーズも根幹としてあるのはエイリア学園のサッカー――サッカーもどきのようだった。エイリア石が人の体をどこまで成長させるかはわからない。
だが、人間を魅了してしまうのほどの力がある以上は、警戒するに越したことはないだろう。さて、どう打って出てくるか――
そんなことをが思っていると、古株のホイッスルで雷門イレブンとダークエンペラーズの試合がついに開始された。
「……ん?」
雷門イレブンからのキックオフで始まった試合。
まず初めに鬼道がボールをキープしながらダークエンペラーズ陣内に攻めあがって行く。
その後ろから円堂も上がってきており、鬼道は円堂のその気合を買ったのか、円堂にバックパスを出した。鬼道からのパスを受け、円堂はそのまま前線へと上がっていく。
しかし、その円堂の進攻を容易に許す者はなく、すぐに風丸が円堂の前に立ち塞がった。
「来い、俺の力を見せてやるっ」
そう風丸は言うと、驚くほどあっさり円堂からボールを奪う。
更に、鬼道と土門のディフェンスを得意の必殺技――疾風ダッシュでこれまたあっさりと抜き去った。そして、よほど自分の力に自信があるのか、目の前に壁山が立ち塞がっているにもかかわらず、
それ以上攻め上がらずにそのままノーマルシュートを放った。
「ぅ……ザ・ウォール!!」
目の前に迫った風丸のシュート。自分の好きだった風丸の面影すらない、今の風丸の姿は壁山にとってショックなものだった。
だが、自分が今、風丸を止めなくてはいけない。
大切な仲間たちを、風丸を助けるために、このシュートは自分が止めなくてはいけない――
そう壁山は自分に言い聞かせ、壁山は心を鬼にして自らの必殺技を発動させた。壁山の背後に現れた巨大な岩の壁が、風丸のシュートとぶつかり合う。
風丸のシュートはこれにまでにない程の力を宿している――だが、壁山はここで負けるわけにはいかなかった。
「…なに?!」
バンッ!と音を立てて弾かれるボール。
それは、風丸のシュートが壁山によって防がれたことを示していた。思っても見ない状況に呆然とする風丸。
しかし、こぼれ球を拾った塔子の姿を確認すると、すぐにボールの奪取に走った。
「……蒼介、なにをした?」
「気付くか?」
「『何か』してることぐらいはね。
あの程度で世界をどうにかできるとか、思い上がりもいいところよ」
の想定を大きく下回った風丸たちの身体能力。
もっと驚異的な力の差を見せ付けられることを想定していただけに、とってこの事態は肩透かしだった。
とはいえ、更に雷門イレブンの勝利の可能性が濃厚になったのだから、そこは喜ぶべき部分だった。しかし、相手は今は敵だが戦いが終われば仲間に戻る予定の相手。
彼らの身に害の及ぶようなことを、蒼介が何らかの形で行っているのであれば、それは絶対に止めなくてはならない。
ダークエンペラーズに勝たなくてはならないことは確かだが、
彼らを助けることが一番の目的なのだから、その彼らを傷つけてしまっては本末転倒だった。
「安心しろ。俺が『何か』しているのは、あの男の持っている石だ」
「……風丸たちのではなく?」
「あの石は、メインとなる原石があって初めて効果がもたらされる。小さな石を排除しても抜本的な解決にはならん。
……まぁ、あの男の持っている石もある程度の歳月が経過すれば、ただの石になるだろうがな」
「…詳しいわね?」
「勇兄さんと朔が命がけでとってきた情報のおかげだ」
ゾクリとの背中に悪寒が走る。軽くなにかがわかった気がしなくもない――が、わからなかったことにしたかった。
これは首を突っ込んではいけない「話題」だ。
やっとのことでを縛るものが少なくなってきたというのに、また縛られるのは真っ平ゴメンだった。もエイリア石について感心がないわけではないが、今は関わるべきではないと結論を出すと、
意識を一進一退の攻防を繰り広げる雷門イレブンとダークエンペラーズに戻した。
「アイスグランド!」
円堂と壁山を吹き飛ばし、雷門のゴールを割らんと攻め上がって行った染岡を止めたのは吹雪。
アイスグランドで染岡の動きは止めたものの、
ボールを奪取するまでにはいたらず、ボールはタッチラインを超えてしまった。進攻を止められ、染岡は不機嫌そうに舌を打つと早々に自陣近くへと戻っていく。
その後姿を吹雪が悲しげに見つめていると、鬼道がポンと肩を叩いて「大丈夫だ」と吹雪を励ます。
そしてその鬼道の言葉を肯定するように、
円堂は「勝つしかない」と強い意思のこもった声ではっきりと言った。鬼道と円堂の言葉によって、吹雪だけではなく、
塔子や壁山も自信を取り戻したように笑顔を見せる。
すると、ピクリとマックスが微かに動いた。
「今の反応も、『何か』の影響?」
「ああ、エイリア石の抑制が進行している証拠だ」
「…今更だけど、なんで蒼介がエイリア石の抑制やらができるの?」
「エイリア石は負の感情に比例して、正の感情には反比例して使用者に力を与える。
だからこの場に正の感情――歓喜や安楽が満ちるように細工をして、
直接ではなく間接的にエイリア石の力を抑え込んでいる」
「じゃあ、この観客は…」
「正の感情を増幅するため触媒だ」
雷門イレブンに向けられる応援の声。
それは雷門イレブンの力にもなり、エイリア石の力まで抑制するという。下手な戦力強化や戦術を使うよりもよっぽど簡単で効果的だとには感じられた。
だが、結局のところは風丸たちに試合で勝利しなくてはならないことには変わりはなかった。円堂たちの良いところも悪いところも知り尽くした風丸たちは、
上手く雷門イレブンの攻撃の芽を摘み、雷門イレブンの守備の穴を衝いて攻撃してくる。
身体能力の差がまだ影響しているのか、未だ雷門イレブンはダークエンペラーズのペースに嵌ったままだった。――しかし、ダークエンペラーズのペースに嵌って得点はできていないものの、
それと同時に雷門イレブンは未だに失点もしていなかった。白熱した試合展開に観客たちのボルテージは限界知らずな勢いで上がっていく。
それによって正の感情が増幅し、エイリア石の力が抑制されているのか、半田やマックスたちの動きが若干鈍りはじめた。本人たちも先ほどまでの力が出せないことに気付きはじめたらしく、その表情には焦りや不安の色が見える。
だが、風丸と染岡はエイリア石抑制の影響を強くは受けていないらしく、
試合開始時とまったく変わらない動きで円堂たちを翻弄していた。
「染岡!マックス!いくぞ!!」
「「おう!」」
彼らの動きは確かに変わらないが、前半戦も後半に近づいているのに未だ無得点――
その事実が彼らを焦らせていることは確かなようだった。行く手を阻む鬼道と円堂を突破し、風丸は自分に追いついてきた染岡とマックスと共に連携必殺技の体勢に入る。
風丸、染岡、マックスによって同時に蹴り上げられたボールは天高く舞い上がり、
その力の程を示すかのようにボールを中心に紫色の不死鳥の姿が現れた。
「「「ダークフェニックスッ!!」」」
空中から3人同時に放たれるオーバーヘッドキック。
その強烈さは今までダークエンペラーズが繰り出してきた必殺シュートの比ではなかった。猛烈な勢いで雷門ゴールを割らんとする紫色の不死鳥。
しかし、その不死鳥の進攻を阻むものは立向居たった1人だった。
「ムゲン・ザ・ハンドーッ!!」
襲い来る紫の不死鳥に怯むことなく立ち向かっていく立向居。
必殺技の発動と同時に立向居の背後から無数の手がボールへ伸びてシュートを止めようとする。
しかし、ダークフェニックスのパワーは驚異的で、立向居はそのパワーになんとか抵抗してみるものの、
最後には堪えきれず風丸たちのゴールを許してしまった。ダークエンペラーズのシュートが決まるとほぼ同時に鳴り響くホイッスル。
それは前半戦の終わりを告げるものだった。
■あとがき。
ゲームでは、ダークエンペラーズ戦前に、洗脳された雷門OBと戦うことになりますが――
この連載ではDEが混同チームと戦うこととなりました(笑)
かなり無茶な流れですが、イナズマキャラバンが孤独に戦い続けていたわけではない――ということを書きたかったんです(苦笑)