ダークエンペラーズのリードで終わった前半戦。絶対に勝たなければならない試合だというのに、
相手のリードで前半戦を終えてしまったことを悔やむ雷門イレブン。
まだ一点だ――とは意気込んでいるが、彼らの表情は明るいとはいえないものだった。
「そう悲観したものじゃないわよ。本来ならもっと点差が開いてるはずなんだから」
「…どういうことだよ御麟?」
意気を落としていた雷門イレブンに振ってきたのは、平然とした様子のの言葉。
本来なら――というの言葉に疑問を持った円堂はにどういうことかと尋ねると、
はエイリア石が人の正の感情によって抑制されていることを簡単に説明した。蒼介のことについては説明していないこともあり、雷門イレブンはすんなりとの説明に納得したが、
風丸たちが力を失っていると聞くと、円堂や一之瀬たちは少し申し訳なさそうな表情を見せた。
「なに申し訳なさそうな顔しているのよ。喜ばしいことじゃない」
「…おい」
デリカシーに欠けるの発言に、鬼道が咎めるように静止をかける。
しかし、それでもは言葉をやめはしなかった。別に、は風丸たちの力が抑制されていることを喜ばしく思っているわけではないのだから。
「エイリア石の力が抑制されているって事は、
風丸たちをエイリア石から開放できる可能性が高くなっているってことなんだから」
「ほ、本当なのか御麟!?」
「確証はないけど、理論的には間違っていない――でもね」
風丸たちをエイリア石から解放できるという希望から喜びに沸いた雷門イレブンだったが、
それに「待った」をかけたのは彼らに希望を与えた。突然真剣な表情で待ったをかけてきたに円堂たちは戸惑ったような表情を見せたが、
は真剣な表情のまま、自分の考えを明かした。
「だからといって、言葉での説得は意味がない。
半田や少林寺たちは応じるかもしれないけど――風丸と染岡にはおそらく通じない」
「勝つしかない――そういうことか?」
「そうじゃない。……正直、私の仮説でしかないんだけど――
『ジ・アース』なら、全員をエイリア石の力から解放できると…思う」
「…そうか、ジ・アースはチーム全員で連携する必殺技――みんなの気持ちをぶつけるって事か!」
パァッと表情を明るくして言う円堂に、
は少し困ったような表情を見せながら「ええ」と円堂の言葉を肯定する。
のやや不安げな表情を疑問に思った一之瀬は、
なにか不安要素でもあるのかと尋ねると、は歯切れ悪く否定の言葉を返した。
「なら、なんだというんだ」
「……仮説でしかにのに、あんまり円堂が鵜呑みにするから…。なんか、リアクションに困ったのよ」
苦笑いを浮かべてが鬼道に言葉を返すと、
不意に円堂が「なに言ってんだよ」と口を開いた。
「御麟は俺たちの大切な仲間なんだ。信じるのは当たり前だろ!」
後光が差しそうな勢いで、屈託のない笑みを浮かべてそう言う円堂。その円堂の言葉を受けたは、ぼーぜんと立ち尽くしていたかと思うと――
急にボンッと顔が真っ赤になり、猛スピードで響木の背後へと隠れてしまった。若干、空気の止まった雷門イレブンベンチ。
だが、これからの作戦を伝えるためにも、響木は「ゴホン」と咳払いをすると、
円堂たちに後半戦での戦略について伝えた。
「(ぅぅ〜〜〜……!こんなときにあれは反則だ……っ!!)」
響木の背に顔をうずめ、はやり場のない感情の処理に追われた。
第114話:
三度目の正直
響木の指示によって円堂や豪炎寺といった古株の選手たちを囮に、
風丸たちがまったくデータを持たない綱海を攻撃の起点として試合を展開していくことになった雷門イレブン。綱海を風丸たちは読みきれない――
その響木の読みは的中し、綱海は必殺のツナミブーストで超ロングシュートを放つことに成功する。
だが、相手も勝つために必死だ。
ダークエンペラーズのキーパー杉森は必殺技のダブルロケットで綱海のシュートを弾き返すことに成功していた。しかし、雷門イレブンはそれでもまだ諦めなかった。
「いくよ!豪炎寺くん!」
「おう!」
「「クロスファイア!!」」
杉森の弾いたこぼれ玉を奪取し、
吹雪と豪炎寺が放ったのは2人の連携必殺技――クロスファイア。
氷と炎が融合した強力なパワーをまとい、ボールはゴールへと向かっていった。杉森だけの力ではこのシュートを止めることはできないと判断したのか、
即座に影野がサポートに入り、杉森と影野の連携必殺技であるデュアルスマッシュでクロスファイア止めにかかる。
しかし、吹雪と豪炎寺の力の方が杉森たちの力よりも勝り、雷門とダークエンペラーズは同点となったのだった。
「やったあ!!」
「同点ですー!」
「みんな!その調子よ!」
雷門イレブンの同点ゴールに沸きあがる歓声。
人々の明るい声援が雷門の背中を押しているようだった。だが、それと打って変わって状況が悪くなってきているのはダークエンペラーズ陣営。
指導者である研崎はまったく思い通りに進まない現状に苛立ちが最高潮にまで達したのか、
ヒステリックに歓声を上げる観客たちに「黙れ!黙れ!」と声を上げていた。そんな研崎とは打って変わって、半田やマックスといった面々は焦る様子すら見せていなかった。
というより、試合の展開状況よりも別のことが気になっているという様子だった。ホイッスルを合図にダークエンペラーズから再開された試合。
染岡から風丸へとパスが渡り、風丸は猛然と雷門ゴールへ向かって走っていった。
「こんなものじゃない……俺たちの力はこんなものじゃない!!」
半田たちが揺らぎを見せる中、風丸はその自分の心に生じた揺らぎを打ち消すかのように声を張り上げる。
そして、染岡とマックスを呼ぶと、二度目となるダークフェニックスのシュート体勢に入った。たましても大空に羽を広げる紫色の不死鳥。
それを風丸たちは渾身の力で蹴りはなった。
「「「ダークフェニックスッ!!」」」
「絶対に止める――ムゲン・ザ・ハンドォ!!!」
立向居のムゲン・ザ・ハンドと風丸たちのダークフェニックスが激突する。
力は同等か、拮抗する2つの力は激しくぶつかりあう。
――だが、軍配は立向居に上がった。紫の不死鳥を、立向居の背後から更に伸びてきた手が押し潰す。
それによってボールは力を失い、立向居の手に大人しく収まった。一度は防ぐことができなかったダークフェニックス。
だが、土壇場で進化を遂げた立向居のムゲン・ザ・ハンドがシュートを止めた。それによって、また観客たちの喜びに沸く声が上がった。
「…頃合ですね」
「よし!みんな、いけ!」
「「「「はい!!」」」」
響木の指示によって動き出す雷門イレブン。
ダークエンペラーズ最強の必殺技であるダークフェニックスを止められ、完全に意気消沈している半田や宍戸たち。
一応程度に一之瀬や鬼道たちを止めには入るが、その動きに試合開始当初のような動きのキレはなく、
あっという間に雷門イレブンの進攻を許してしまっていた。雷門イレブン全員でつないだボールをキープしながら、円堂はダークエンペラーズ陣内へと深く切り込んでいく。
だが、その行く手を自陣まで戻ってきた風丸が阻んだ。
「俺は強くなったんだ!円堂――お前のように!分身ディフェ――なにっ?!」
風丸の新たな必殺技――分身ディフェンスで、風丸は円堂を止めようとするが、
それを円堂は自力でかわし、そのままダークエンペラーズゴールへと駆け上がる。
「みんな思い出せ!俺たちのサッカーを!」
飛び出す円堂に追いついたのは豪炎寺と吹雪。
円堂が2人に視線を向ければ、2人は自信に満ちた表情でうなずいた。
「「「ジ・アース!!」」」
放たれたジ・アース。強大だが暖かい力に包まれたボールが、杉森と影野を吹き飛ばしてダークエンペラーズのゴールを抉る。
その瞬間――円堂たち、雷門イレブンの思いが解き放たれたかのようだった。微かに聞こえた何かが砕ける音。はっとしてが視線を風丸たちに向けると、
そこにいた風丸は先ほどまでの荒々しい姿とはまったく違う――穏やかな表情を浮かべていた。おもむろに円堂に近づいていく風丸。
少し円堂は緊張したような様子だったが、その表情に不安の色は見えなかった。
「…効いたよ、お前たちの力」
「……!!風丸ー!!」
「うわっ!?」
感極まって思い切り風丸に抱きつく円堂。
いきなり飛びついてきた円堂に驚いた風丸は、
円堂を受けとめることができずにそのまま後方へと倒れていく。だが、それを駆けつけてきていた豪炎寺と染岡が受けとめていた。
「…なんだ……これはどういう――な、なにをするっ!!」
エイリア石の呪縛から解き放たれ、正気に戻った風丸たち。
考えもしない事態に戸惑っていた研崎を、
更に戸惑わせたのは乱暴に研崎の手からアタッシュケースを奪い取った蒼介だった。研崎はなんとか蒼介からアタッシュケースを取り戻そうとするが、
それよりも先に真斗と月高が研崎の体を拘束する。身動きを封じられてパニックに陥りながらも、
研崎は護衛として連れてきていたキラーエージェントたちにこの状況を打破するように命令するが、
仁王立ちの勇を前にしたキラーエージェントたちはその命令に従うことはなかった。
「……やりすぎたか…」
蒼介が研崎の持っていたアタッシュケースを開けると、
中にあったであろうエイリア石は粉々に砕けて見るも無残な状態になっていた。
「ふむ…いい呪術の素材になると思ったんだが…」
「え、ちょ、ダメだよ蒼介兄!」「ぐあっ!!」
「いえ!すばらしい向上心です兄様!」「げおぉっ!!」
「お前たち、研崎には訊かなけりゃいけないことが山ほどあるんだ、気絶はさせるなよ」
「…意外に鬼瓦の親父も鬼だな」
「これだけの騒動を起こしたことを考えろ、甘いぐらいだ」
風丸たちがエイリア石から開放され、
すべての元凶である研崎も捕まり、
事の発端であるエイリア石も失われた。これが三度目の正直なのか――
少し不安に思ったが、雷門中のグラウンドを取り巻く暖かい空気に、
はやっと安堵の息をついた。
■あとがき。
終わりました。原作沿い連載エイリア編――最後の最後に原作に沿わずに終わりました!どうしてこうなった!
ですが、この終わり方を私は後悔はしておりません。この連載における終わりとしては、これがよかったと思っています。
エイリア編、実はもう一話あるのですが、これまた残念オリキャラ回になっております(汗)
それでも、最後までお付き合いいただけたら幸いです。