エイリア学園との決着が付き、
その残党である研崎一派の野望も潰えて約2日。すべてが終わった昨日の今日で雷門イレブンが解散されることはなく、
未だに吹雪や綱海といった地方から集まっているメンバーは未だ稲妻町に滞在していた。しかし、彼らもいつまでもこの稲妻町に留まっているわけには行かない。
彼らにはそれぞれの居場所があるし、家庭だってあるのだ。そういった理由から、彼らが稲妻町に滞在していられる時間はあと1日――
1日後には各々の居場所に帰ることが決まっていた。
本来であれば、今日で滞在は終了になる予定だったのだが、
とある事情によって1日だけ期間が延びたのだった。
「シロちゃんっ!っ!」
「わっ」
「がふ!」
「みんな元気だったかー?」
の自宅があるマンションの玄関先で
たちが待っていたのは、霧美と明那の到着だった。吹雪との姿を見つけるや否や、突進する勢いで2人に抱きついてくる霧美と、
気の抜けたような笑顔を浮かべて綱海たちに元気かと尋ねる明那。最北端と最南端の差なのか――と一瞬、鬼道たちは思ったが、
冷静に性格の差だと思い直すと、明那に「お久しぶりです」と挨拶を返した。
「みんなの勇姿はテレビで見てたよ。みんな――すごく頑張ったなー!」
にへらっと明那は笑顔を見せると、
「あはは〜」と笑いながらその場にいた鬼道や綱海を含めた7人を思い切り抱きしめる。わけもわからず抱きしめられ、リカは「なにすんねん!」と怒鳴り、
もみくちゃになっているらしい小暮と立向居は「つぶれる〜…!」と情けない声を上げる。
それに対して、慣れているらしい豪炎寺は涼しい顔で、
気にしていないらしい綱海と一之瀬は明那と同じように「あはは」と笑っていた。そんな状況を、鬼道は半分呆れながら分析していた。
「(…やはり性格の差か)」
地方組の保護者として稲妻町にやってきた霧美と明那の姿を見ながら、鬼道は改めてそう思った。
第115話:
「終わり」の号令
稲妻町にいられる時間はたった1日。最後の思い出作りにと、雷門イレブンは雷門中に集まってサッカーをすることになり、
鬼道や吹雪たちはマンションに霧美と明那、そしてを残して雷門中へと出かけていた。
「ほんま、万事丸く収まってよかったわぁ」
「最後の一件に関しては予想外だったみたいだけどね」
「……悪かったわね」
「まったくだ。お前が策を講じていれば、エイリア石を手に入れられたのにな」
「オイ」
御麟家のリビングで寛いでいるのは、霧美と明那と蒼介。
キッチンではが飲み物の用意をしていた。日本茶2つに紅茶が2つ。
更にお茶請けのお菓子をおぼんの上に乗せ、はリビングへと向かう。
明那と蒼介の前に日本茶を、霧美の前に紅茶の入ったカップを置き、自分の座る席に残ったカップを置いて、
最後にはテーブルの中央にお菓子を置くと、どさりとソファーに腰掛けた。
「、ちゃんと朔たちと仲直りしたんだよな?」
「……あれを仲直りとは言わないけど――和解はできた」
「そう…ほんならよかった。
朔ちゃんたちとはずっと連絡がとれていーひんかったから…心配してたんよ」
にとって大切な仲間である朔と望。
当然、彼らと同じ大切な仲間である霧美たちも、朔と望にとって大切な仲間だ。には内密に、霧美や明那たちはバラバラになった仲間たちと連絡を取り合っていたのだが、
ハイソルジャー計画うんぬんのこともあったためか、霧美たちは朔たちと連絡を取り合うことができずにいたらしい。極稀に他の仲間から朔たちの情報がもらえたことはあったらしいが、
ここ2〜3年はそれすらもなくなってしまい、音信不通状態となってしまっていたらしかった。
「それで?朔ちゃんなんて?」
「…それが、朔は私と自分の繋がりを断たないために、私を『恨んで』いただけだと」
「そら…なんちゅうか……」
「朔…らしいな…」
驚きよりも納得が勝った霧美と蒼介。仲間内でもこの2人は朔との関わり合いが特に強い。
だからこそ、2人は朔がを恨んだ理由に大きな驚きがなかったのだろう。だが、それ以上に驚いていないのは明那だった。
「望の陰に隠れがちだけど、あれでいて朔も物凄い寂しがりだからね」
「あや?明ちゃんそないに朔ちゃんの仲良かったん?」
「あ、いや、オレ、たちが沖縄来てたときに朔たちとも会ってたからそのときに色々相談されてて。
――でも、勇兄さんからたちには口を出すなって釘刺されてたから、何も言わなかったけどね」
「…………しかしまぁ…ホント今回の蒼介と勇の根回しには参ったわ」
「至れり尽くせりだっただろう」
「…………」
それがどうしたと言わんばかりの表情で嫌味をぶつけてくる蒼介に、
はこの上なく不機嫌そうな表情を見せる。
そうやって2人が無言で睨み合いを続けていると、明那が苦笑いを浮かべながら「まぁまぁ」と2人をなだめた。は明那に不満げな表情を見せたが、蒼介はすんなりと「すみません」と自分の非を詫びる。
ただし、非を詫びたのは明那に対してであって、に対してはまったく謝っているつもりなど蒼介にはない。
もちろん、それはも重々承知している。だからこそ、まだ若干イラッとするのだ。確かに、蒼介と勇の根回しのおかげで、
イナズマキャラバンの打倒エイリア学園の旅は順調とは言わずとも、滞ることなく終わったとは思う。
だがしかし、海慈と月高のことについては「よかった」とは言えなかった。
「蒼介も勇も、どーいうつもりで海慈と九朗送り込んできたのよ!」
「落ち着き。おにいの事は、かいちょさんの根回しやさかいにしゃーないよ。
――せやけど、うちもくろちゃんのことは納得でけへんわ」
「そう…だよな。九朗にスパイはちょっと……無理がなー…」
に続いて霧美と明那も、月高を真・帝国へのスパイとして潜入させるという選択には否定的なようで、
やや蒼介たちを咎めるような口調で蒼介に説明を求めた。さすがの蒼介も、霧美たちにまで咎められるとは思っていなかっただろう――と、は思ったのだが、
が思う以上に蒼介は色々を想定しているようで、霧美たちに「お怒りはご尤もです」と切り出した。
「確かに九朗はまだ半人前。しかし、本人の強い希望で――」
「ちょっと待って。九朗は蒼介に提案されたって言ってたわよ」
「俺がそうするように言ったんだ。
…そうでも言わないと、またはお前は自分を責める」
「……!!!」
グサリとの胸に刺さる蒼介の言葉。
面白いぐらいにざっくりと刺さった言葉の棘に、は思わずソファーにぐったりとうなだれる。
そんな暗い影を背負ってぐったりうなだれている情けないの姿を見た霧美はちょっと嬉しそうに微笑み、
明那は「蒼介の判断は正しかったらしいね」と苦笑いを浮かべながら言った。今にも泣き出したい気持ちになりかけている。
たとえ気心が知れて、情けない姿を何度も見られている面々とはいえ、もプライドというものがある。
自分への否定の言葉をとりあえず他所へしまいこみ、なんとか顔を上げようとしたとき――更に蒼介が口を開いた。
「九朗にしろ真斗にしろ、これはお前が事実を明かさなかったことの反動だぞ」
「――ッ!!!」
「とどめだ…」
「とどめやねぇ」
蒼介の言葉のとどめがに思い切りよく突き刺さり、は完全に意気消沈する。
ぱたりとソファーに倒れこんだを、明那は申し訳なさそうに、霧美は気持ち楽しそうに見つめている。
そして、にとどめを刺した張本人――蒼介といえば、この上なく平然とした様子でお茶をすすっていた。別に、蒼介はを責めているわけではない。
端に事の真相をにありのままの形で明かしているだけ。
エイリア学園の戦いの中での心に不要な波紋を起こさないよう、秘密裏でことを進めたり、真実を明かさなかったり――
そういった「手間」をかけさせたことが「悪い」と責めるつもりも蒼介にはなかった。ただ、性懲りもなくがうじうじとヘタレるならば、
本気で説教してやるつもりは満々だが。
「――だとしても、私は間違えてない」
おそらく、これが数ヶ月前のだったなら、うじうじとネガティブな自己否定をはじめていたことだろう。
だが、今のは自らを否定することはしなかった。が自分を否定するということは、同時に自分を信じてくれている仲間たちのことも否定することになる。
だからこそ、失敗、手落ち、失策――それらの悪いものを背負ってもは前へ進まなくてはならない。それが唯一、ができる信頼してくれる仲間たちへの「応え」なのだから。
「……だから、みんなに会ってこようと思う」
そう、が言うと、急に空気が静まり返る。
沈黙が少し続いた後、そっと霧美が口を開いた。
「ほんまに、が戦うって決めたんやね?」
「今回のことで、みんなが私の号令を待っているんだってわかった。
…だから、私はそれに応えたい」
先ほどまで暗い影を背負っていた人物とは思えないほどに、
すっきりとした真剣な表情で霧美の言葉に答える。そんなの姿を見た霧美はクスリと楽しげな笑みを浮かべると、横にいる明那と蒼介に視線を向けた。
「もちろん、オレも異論はないよ。オレたちのが選んだことだからね」
「――そういうことです」
「ふふふ、ほんまに蒼ちゃんは素直やないなぁ」
「少しぐらいこと甘やかしてもバチは当たらないぞ〜」
「……お2人が甘すぎるだけです」
「「えー」」
「(蒼介が遊ばれてる…)」
今までのシリアスはどこへやら。
うふふ、あははと蒼介を相手に遊びだす霧美と明那。一生かかってもこの2人のようなことはできないな――
と、思いながら、はなんだかんだで楽しげな3人を眺めた。
「(やっぱり、1人でいたって何にも面白くない。
楽しい時間は――仲間と共有してこそね)」
そんなことを思いながら、
は飾り棚に飾られた集合写真を見つめるのだった。
■あとがき。
FFI編に続くオリキャラ話でした。エイリア編の最後にこれか!!
番外編にまわしてもいい内容でしたが、エイリア編を話数のきりよく終えたかったので、本編採用となりました(笑)
およそ2年に亘るエイリア編の連載でしたが、全体的にゲロゲロいいながらも楽しく書くことができました。
もし、この作品を楽しんでくださった方がおられたら、とても嬉しいです。
FFI編は番外編的閑話をはさんだ後、開始となります。
そんな毎度の展開ですが、これからも「曲者たちの夢のあと」をご贔屓にしていただけたら幸いです。