エイリア学園との戦いが終結して――早3ヶ月。
その戦いによって大打撃を受けた日本だったが、意外にも早くその復興はなされ、
以前と同じまでとはいかないが、それでもエイリア襲撃前とほぼ同じ生活をおくれるまでになっていた。
見せしめとして一番初めにエイリア学園に破壊された雷門中。
今ではそんなことがあったとは思えないほどに完全に修繕が終わっている。
そして、その修繕の済んだ雷門中で、エイリア学園との戦いの功労者である雷門イレブンは、
自らの力で守ったサッカーを思う存分に楽しんでいた。
最後の最後に、かつての仲間と戦うという――最悪のシナリオ展開があったが、
彼らはその事実が嘘であるかのように、和気藹々とサッカーの練習に明け暮れていた。
お人好しめ――とは思ったが、それでこそ雷門イレブンというもの。
良し悪しともかく、これが雷門イレブンの「らしさ」と思えば、呆れるほどにすんなりと納得できてしまった。

 

「けど、今回のことは――雷門イレブンの話じゃないからねぇ…」

 

イナズマキャラバンに参加することを決意したあの日のように、は自宅のベランダに座っている。
だが、あの日のようにの横には情報収集用のパソコンなどはなく、
どこか緊張した空気感もない穏やかな時間がゆっくりと流れていた。
今日は休日で、いつもならばある雷門イレブンの休日練習はない。
だが、雷門イレブンメンバーのうちの数人は響木の呼び出しによって雷門中の体育館に集合することになっている。
そして、雷門イレブンのマネージャー陣も響木から手伝いを頼まれて雷門中に集合しているはずだった。
――そんな中、は響木から呼び出しを受けてはいなかった。

 

「…………」

 

お節介で――彼らの輪に加わることもできないわけではない。
だが、それをのプライドが許すわけもなく、事が進んでいると知りながらも、ただは大人しくしていた。
もし、この輪に入れなくとも、に不満はない。
輪に入れないのは、をのけ者にしたい、実力不足、といった理由ではなく、
が外側にいる必要があると判断されたから。
内側から見守るか、外側から見守るか――ただそれだけの違いだ、
それがの役目と判断されたのであれば、はその役目を受けるつもりでいた。

 

「まぁ……霧美も明那もいるわけだし…ね……」

 

そうつぶやいて、は床に仰向けに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第116話:
最後の「ギャラリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな賑わいを見せている――雷門中正面サッカーグラウンド。
雷門中生徒はもちろん、帝国学園から木戸川清修、地区の違う白恋中や漫遊寺中の生徒たちまでが集まっており、
これから大きな事が起こるということは、誰の目にも明らかだった。
今、これから繰り広げられようとしているのは、世界最強の中学生サッカーチームを決定する
フットボールフロンティアインターナショナル――FFIに参加する日本代表選手を選別するための選考試合。
日本屈指のスター選手がこの雷門中グラウンドに集結し、Aチーム、Bチームに分かれての試合を行うこととなっていた。
初めて顔を合わせる人間、
仲間としてプレーしてきた人間、
知ってはいるが初めて一緒にプレーする人間などなど、
いきなり結成されたチームだけあってプレーヤー間の関係性はバラバラだ。
だが、彼らは日本一流のプレーヤー。
選考試合前日に行われた練習だけで、チームをある程度までに調整する程度わけもない。
遠目からチームの様子を見るだけでも、ある程度のまとまりがあることは窺い知ることができた。

 

「(これは――わざとか?)」

 

ガヤガヤと賑わう観客席から距離を置き、
は人の少ない校門近くからこの選考試合を見守ろうとしていた。
そんな中、どうしても気になったのはチーム編成の意図。
特に鬼道と不動を同じチームにというのは、中々に趣味が悪い。
鬼道と同じチームであることを不動は大して気にしないだろうが、
鬼道の方は思い出したくもないドロドロとした部分をほじくり返されて精神的に乱されることになる。
ただ、鬼道はBチームのキャプテンを任されているので、
自然に自分の感情にストッパーをかけることができているはずなので、目に見えて酷いことにはないだろう。
趣味は悪い――だが、これは鬼道に必要なひとつの試練だとも言える。
不動を受け入れることができれば、鬼道はまたひとつ影山の影から開放される。
そもそも、鬼道が不動を敬遠するのは、不動の背後に影山の影がちらつくから。
そんな不動を受け入れられるようになれば、鬼道にとってそれは大きな一歩だろう。

 

「(…でも、不動くんは捻くれるからなぁ……)」

 

未だ不動と影山が繋がっているのでは――
少なからず誰しもが抱く疑念だろう。
だが、にそんな疑念は少したりともなかった。
響木が自らの目で不動を見て、純粋にサッカー選手としての才能と実力を見込んで、
日本代表候補として選んだのであれば、そこに疑いの余地はない。
影山の存在に敏感な響木が選んだのだから。
そして、さらに不動がシロであることを証明するのは、
真・帝国学園にスパイとして潜入していた九朗の証言だった。
真・帝国学園が壊滅した後も、危険因子予備軍ということで不動の監視は続いており、
その監視役として九朗はずっと不動と行動を共にしていた。
その中で九朗は不動の人となりを知り、友情とも違うある種の絆を築き――不動に危険な要素はないと宣言していた。
ボケているようで九朗は聡い。
不動に騙されている可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近い可能性だ。
不動は響木と九朗が推薦する逸材。
にとっては疑ってかかるのも阿呆らしいぐらいだった。
 
すでに開始されている選考試合を尻目に、は足を進める。
だが、近くで試合を見ようとしているわけではなく、別の目的を果たすために、
はフィールドからも、観戦スペースからも離れた場所にやってきていた。

 

「久しぶりね」
「――ああ」

 

木陰にいた2人の少年――そのうちの浅黒い肌の日本人の少年がの言葉に答える。
もう1人の白人の少年は、とは初対面のようで、不思議そうな表情で少年とを交互に見比べていた。

 

「古巣に帰ってきた――ってわけじゃないんでしょ」

 

笑みもなければ、怒りもない。
ただただ無表情で言葉を続けるに、少年は「ああ」と答えながら苦笑いを漏らす。
だが、それを不意に笑みに変えると、
「彼を見に来たんだ」と言って、激しい試合が繰り広げられているフィールドを指差した。

 

「海慈さんが『最高の刺激』と称した――円堂守を」

 

少年に促されるまま、は円堂に視線を向けた。
円堂の前にはボールをキープした豪炎寺。
豪炎寺はボールを蹴り上げ、気によって構築された炎の魔人の力を借りて高く跳び上がる。
そして、ボールが最も高く上がった位置から、渾身の必殺技――爆熱ストームを放った。
ゴール前に立つ円堂は、豪炎寺の必殺シュートを自身の必殺技で迎え撃つべく体勢を整える。
片足を高く上げ、踏み出すときに拳に回転をつけ、抉るようにして拳を放つ。
そうして円堂の拳から放たれたのは、気で構築された黄金の拳――正義の鉄拳。
しかし、豪炎寺のパワーの方が円堂よりも勝るようで、
少しの拮抗はあったものの、最後には豪炎寺の爆熱ストームがAチームのゴールを抉っていた。

 

「……やっぱり、カイジの勘違いじゃないのかい?彼のどこが『刺激』になんだい?」

 

あっさりと豪炎寺にパワー負けした円堂になんの「刺激」があるのか――白人の彼の指摘はご尤も。
日本人の彼も、今のことで若干の懸念を抱いたようで、
苦笑いを浮かべて、まるでにフォローを頼むかのような視線を向けた。
そんな彼の視線を受けたは、この上なく面倒くさそうな表情を見せる。
面倒くさい――その一言が頭の中の9割を占めている中、不意にの視界に楽しげな円堂の笑みが映った。

 

「逆境でこそ光る――それが円堂。…私たちにはない部分かもね」
「彼にあって、俺たちにないのなら――それは確かに『刺激』だな」

 

逆境でこそ光る――筆頭は円堂だが、
あのフィールドにいるものの大多数がこの性質を持っているだろう。
実力が満足なものではないからこそ逆境が訪れるわけだが、
それを成長するための糧として吸収できるのいうのは、どんな強さにも代えがたい。
どこまでも進化を続けるプレーヤーとチーム――これに刺激を受けないものなどいはしないだろう。

 

「やはり彼は面白いな。
ずっと頑なだったお前を――ここまで変化させたんだからな」

 

ふっと笑って、少年は木陰から離れてに近づいていく。
彼のその表情は穏やかだが、近づかれているの表情はどこか強張っていた。
それに少年は気付きながらも、にペースをあわせることはしない。
ここでにペースをあわせても、それはのためにはならないし、
本人もそれを望みはしないと知っているからだ。
少年はの前に立つ。
そしておもむろに自分のズボンのポケットへと手を入れ――
黒と赤の糸で細かく結われた一本の紐を取り出し、へと手渡した。

 

「持ち主の元へ帰る時だろう?」
「ヒデ…」
「…彼らとのゲームも楽しみだが――親友との再会も楽しみだよ」

 

ぽんっとの肩を叩いて浅黒い肌の少年――ヒデは、
「行こうルカ」と言って白人の少年――ルカと一緒にその場をあとにした。
ヒデから手渡された紐を手に、は黙ってヒデたちの去って行った方向を見つめる。
面白いぐらいに心はざわめき立ち、先ほどまですっきりしていたはずの頭はグチャグチャだ。
これでは、鬼道のことをどうこう言えた立場ではない――そう思うと、思わずの顔に苦笑いが浮かんだ。

 

「また大きな後悔をする可能性があったとしても、私は進まなければいけない――
みんなの期待を背負うキャプテンだから」

 

仲間たちからの期待――それはにとってプレッシャーではない。
信頼している仲間たちだからこそ、彼らの期待はにとって信頼の証であり、
自分がチームに必要されている証明でもあった。
チームに必要とされている――
仲間たちが自分を信じてくれている――
その信頼を背負い前へと進むことが、なりの仲間たちへの信頼の「応え」なのだ。
かつては当たり前だった仲間を信頼するということ。
しかし、「恐怖」と「後悔」を覚えたにとって、それは当たり前にするには難しいもの――
だが、だとしても、はそれを当たり前にする必要があった。

 

「信頼には応えなくてはいけない。私が――『御麟』であるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 ついに、FFI編始動となりましたー!わー今回ばかりは完結する気がしないー!
正直、これまで程の速度では連載ができなくなるのですが、それでもなんとか頑張ってまいります。
 …毎度のことですが、前半は版権キャラとの絡みがほぼない展開です……(汗)