フィールドの上にへたり込む選手たち。
それは、彼らがこの試合に全力を持って挑んだことを示している。
確かに、彼らの全力に見合ったいい試合が展開されていた。
――だが、この実力で世界の強豪たちと肩を並べて戦うことができるかといえば、それは否。
彼らはまだまだ発展途上――しかも、逆境を乗り越えられる心の力をもってしても、
現実を覆すことができないほど、彼らと世界の間にある差は大きかった。
しかし、それは悲観するものではない。
そもそも、サッカーにおけるアジア圏の実力は、本場と言われるヨーロッパ圏から見れば上の下といえる実力だ。
悲観するよりも、納得するのが普通といえば普通だ。

 

「これが…お前の認めた選手たちか」

 

雷門中本校舎前に立っていたのは、
独特な髪形をした滅紫色の髪の長身の男性と、彼に似た深紫色の髪の少女。
少女の方は自分たちに近づいてきたに興味と不安を含んだ視線を向けているが、
男性の方はに言葉を投げても、視線をに向けることはしなかった。
男性のその態度を気にすることなく、は平然と「ええ」と男性に肯定の言葉を返した。

 

「このままでは初戦敗退が関の山――でも、優勝できるだけのポテンシャルが彼らにはあります」
「…にわかには信じがたいな」
「それはよかった。久遠さん、初めて会ったときと同じこと言ってますから」

 

男性――久遠道也は、とは旧知の関係にある。
腹を割って話せるほどの親交はなかったが、
お互い実力を認め合っており、実力については信頼を置ける存在ではあった。
そしてそれは久遠だけではなく、にもいえることだった。

 

「御麟」
「はい?」
「…お前は、彼らと共に世界を目指すつもりがあるのか」

 

意図の読めない久遠の問い。
一瞬、はどう答えるべきなのかを考えるが――
考えてまで答えを返す必要はないと考え直すと、あっさりと答えを返した。

 

「ないですよ、現状は」

 

それが、の本心だった。
今のには、彼らよりももっと優先すべきものがある。
それをないがしろにしてまで、は彼らのために尽力するつもりなど毛頭なかった。
友人や自分が期待している選手が多く含まれるあのチームが、世界の頂点に立つのは、確かに気持ちがいい。
だが、負けて世界のレベルを身をもって知るというのも、また一興と思ってしまうのだから、
にとって彼らが世界の舞台で活躍することは、さしたる意味を持たないことのようだ。
あっけらかんと言い放っただったが、その返事を受けた久遠の表情に変化は見られない。
の言葉の意図を読みきれていないのか、端から相手にしていないのか、それとも――

 

「ならば御麟、お前に日本代表のアドバイザー就任を要請する」
「――いいんですか?どデカい疫病神を抱え込むことになるかもしれませんよ?」
「…その程度のことが敗因になるのなら、それまでのチームだったということだ」
「手厳しいですね」

 

最後にそう一言、は久遠に言葉を返すと、
何事もなかったかのように久遠たちの前から去って行く。
自分の要請に対する答えも返さずに去って行くを、久遠は呼び止めはしなかった。

 

「…いいの?お父さん」
「ああ。――帰るぞ、冬花」

 

娘である少女――冬花にそう言うと、久遠もまた、
何事もなかったかのようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第117話:
イナズマジャパン結成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FFIにおける日本代表チーム――イナズマジャパン。
その選手選考試合も無事終了し、あとは選ばれた選手の発表を控えるだけとなっていた。
再度、雷門中の正面サッカーグラウンドに招集された代表候補の少年たち。
不安の色を見せるもの、自身の代表入りを確信しているもの――
発表を待つ少年たちの表情は、個人によってそれぞれだった。
そして、すでにイナズマジャパンのサポート要員として、
イナズマジャパンに加入が決定しているマネージャーたちも、少し緊張した表情を見せていた。
――そんな彼女たちの姿を後ろから見守っていたのは、霧美と明那だった。

 

「これも…運命やろか?」
「これまでのこと考えると、切ないけどね」

 

秋たちマネージャー陣に向けていた視線を、
霧美と明那は響木と共にやってきた久遠に向けた。
久遠とは数年前に何度か顔をあわせただけの間柄だが、彼がどういった存在かは知っている。
そして、この日本代表チームを響木から任せられるだけの能力がある指導者であることを。

 

「…長かったわぁ」
「正直、諦めてた時期もあったからね」
「ホンマ……なんやもう、うち泣きそう…」
「え゛っ、泣かないでね?霧美姉さん??」
「うちも精一杯の努力はしてるんよ…」

 

その場にいる大多数の視線が、響木から日本代表チームの監督を任された男性――久遠に集まっている中、
霧美たちの視線は久遠の隣に控えている2人の少女のうちの1人――に向かっていた。

 

「そして、日本代表専属アドバイザー――御麟だ」
「以後、よろしく」

 

響木から紹介され、は久遠の少し後ろにまで進み出てそう言うと、軽く会釈した。
しかし、少年たちの関心はよりも久遠に向いている。
日本代表の監督は響木なのだと思い込んでいた彼らにとって、
久遠の監督就任は寝耳に水の事態なのだから。

 

「どうして響木監督が代表監督じゃないんですか?」

 

が挨拶を終え、元の位置に下がってすぐ――耐え切れずに疑問を投じたのは円堂。
響きに全幅の信頼を寄せているからこそ、円堂にとってこの突然の監督交代には驚きと不満があるのだろう。
だが、それを響木も分かっているようで、静かに円堂に答えを返した。

 

「…久遠なら、今まで以上にお前たちの力を引き出してくれる――そう判断したからだ」

 

響木の一言を受けた円堂。
だが、完全には戸惑いを吹っ切ることはできなかったようで、未だに少し戸惑いの色が見える。
それでも響木は円堂の目を見て深くうなずくと、円堂は響木の強い意思を感じ取ったのか、
やや強張っているものの、「わかりました」とでも言うかのように、響木に向かってうなずき返していた。

 

「では、代表メンバーを発表する」

 

そう、久遠が言った瞬間――当たり一帯に緊張感が走る。
これで――運命が決まるのだ。

 

「鬼道有人」
「はい!」

 

まず、一番最初に名前を呼ばれたのは、
元帝国学園キャプテンにして、現雷門イレブンの司令塔――鬼道有人。

 

「豪炎寺修也」
「はい!」

 

次に呼ばれたのは、雷門イレブンの絶対的エースストライカー――豪炎寺修也。
彼らを皮切りに、代表に選ばれた選手の名が次々に呼ばれていく。
名前が挙がる度に、「はい!」と返される少年たちの返事。
時々違う返事が混じっていたり、返事がないものもあったが、それはまぁご愛嬌だろう。
そして、最後に名前を呼ばれたのは――

 

「最後に――円堂守」
「はい!」

 

数々のピンチをその熱い情熱で乗り越えてきた
雷門イレブンの守護神にして精神的主柱――円堂守。
彼を最後に、控えを含めた全16名の日本代表チーム――イナズマジャパンメンバーが決定した。
落選したことを落ち込む者、代表に選ばれて歓喜に沸く者――
そして、自分の思いを選ばれた者に引き継ぐ者。
様々な感情が交じり合う中、不意に響木が彼らに背を向ける。
そう、彼もまた――

 

「今日からお前たちは日本代表――イナズマジャパンだ。
選ばれたものは、選ばれなかったものの思いを背負うのだ!」
「「「「はい!」」」」

 

少年たちの力の篭った返事に、
背を向けたままの響木は満足げにうなずくと、そのままその場から去って行った。
響木の後姿を、彼の後を引き継いだ日本代表監督――久遠は敬意を払うような真剣な表情で見送ったあと、
これから自分と共に世界を目指す選手たちに視線を向けた。

 

「いいか、世界への道は険しいぞ。――覚悟はいいか」
「「「「はいっ!」」」」

 

勢いよく久遠に答える日本代表――イナズマジャパン。
そんな彼らの姿を見て、はうっすらと笑みを浮かべると、霧美たちの元へ近づいて行った。

 

「これからよろしく」
「ふふふ、こちらこそ」
「頑張っていこうな」

 

あげられていたの手を、霧美と明那がパンッと叩く。
これが、たちのチームでの信頼を確かめ合う儀式のようなもの。
それを当たり前のように交わすことができる――それだけ自分たちをつなぐ絆は強固だということなのだろう。
そう思うと――は楽しくて仕方なかった。

 

「ほんま、が中々出てきぃひんからちょっと不安やったんよ?」
「しかたないでしょ?ギリギリまで要請がかからなかったんだから」
「響木さんも、久遠さんも…のことを思ってギリギリまで言わなかったんだろうけどね」

 

チームに関わることを、チームに加わることをずっと拒み続けていた
その理由を、響木と久遠は知っている。
だからこそ、のイナズマジャパン加入を慎重に考えてくれていたのだろう。
それを、もありがたいことだとは思っている。
ギリギリまでイナズマジャパン加入の要請がかからなかったのと同じく、
も他のチームに加わることへの拒絶感もギリギリまで拭いきれてはいなかったのだから。

 

「でも、最終的には合流したわけだし――思いっきり楽しんでやるわよ」
「サッカーは全力で楽しめ――チームの決まりだもんな」
「うふふ、楽しみやわぁ」

 

心から楽しそうに笑いながら、
たちは円陣を組んでいる円堂たちに視線を向けた。
彼らの前に立ちはだかる世界の壁は厚く硬い。
だが、自分たちが認めたプレーヤーが集まって結成されたチームだ。
そんな彼らが、この壁を打ち破れないはずはない。
今のままでは打ち破れないかもしれないが――

 

「勝てるようにするのが――私たちの戦いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 夢主がイナズマジャパンに合流(?)しましたー。およそキャラとの絡みがなくて申し訳ない!
 毎度のことといえば毎度のことですが、今回も夢主は円堂たちと目指すところは一緒でも、目的は別です。
ただ、イナズマジャパンの一員という自覚はあるので、なにか変わるかもしれません…多分(目逸らし)