豪炎寺と巨体の少年――壁山が跳ぶ。
しかし、その途中で壁山が自身のジャンプした高さに怯えてしまい、
豪炎寺の足場になることはもちろん、着地すら満足にできていなかった。
今、彼らが特訓しているのは、円堂大介が残した秘伝書に書かれた必殺技――イナズマ落とし。
仲間を踏み台にして高く跳び、十分な高さに到達したところで、
オーバーヘッドキックでシュートを放つ――という形式らしかった。
ジャンプ力と空中で回転を行うバランス感覚を必要とするファイアトルネードを使いこなす豪炎寺にとって、
足場の悪い場所からジャンプしてオーバーヘッドキックを決めることは、
練習を積めばできる――それほど難しいことではないだろう。
実際、秘伝書を入手し、イナズマ落としの練習をはじめてから数日で、豪炎寺はある程度の形に仕上げていた。
そんな順調な豪炎寺同様、壁山も「跳ぶ」ということ事態はだいぶ形になっている。
だが、高所恐怖症という致命的な欠点は、そう簡単に改善――克服できるものではないようだ。

 

「青春ねぇ〜…」

 

帰宅ルートに組み込まれている鉄橋――雷門イレブンの練習風景の見える鉄橋で足を止め、
は呆れと羨望を含んだ笑みを洩らしながら何気なく呟いた。
これでいて、はこういった泥臭い雰囲気は嫌いではない。
寧ろ――好きと言っていい。
ただ、「好き」だと括れるのは傍から見ている場合と、限られた仲間での場合に限ったこと。
傍から見ている分には、いくらでも見ているが、巻き込まれようものなら即行でズッパリと切り捨てる。
巻き込まれたその時点で、泥臭い雰囲気はにとってこの上なく面倒くさいモノに変わる。
それがサッカーともなれば、それはもうこの上なく。

 

「夏未には理解し難い光景でしょう?」
「ええ、とってもね」
「『でも』気になる?それとも、『だからこそ』気になる?」
「…あなたはどうなの、

 

車の中から雷門イレブンの練習風景を見ている夏未に、
は質問を投げるが、その質問に対して夏未は質問で返してくる。
苦笑いを洩らしながらも、は再度雷門イレブンに視線を向けた。
先程と変わらず熱心――というか、夢中でボールを追いかける少年たち。
まさしく青春ドラマさながらで――

 

「私は知ってるから。あの雰囲気の居心地の良さを」

 

思わず笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第12話:
奇才、それは褒め言葉か否か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…、いつになったら修也君我が家にカムヒア?」

 

夕食――和風パスタを作っているに、母親が質問した。
大体の材料の下準備も終え、パスタが茹で上がるのを待つだけのに、母親を構う暇は十二分にある。
しかし、面倒な話題だけに無視したいところだが、沈黙で無視しきれるものでもないので、
喚かれることを覚悟しては正論をぶつけることにした。

 

「趣味にかまけている暇はないと思うんだけど」
わかってますー!でも、仕事が忙しくなるほど趣味に走っちゃうのが研究者って者なんですよー!!
「いやいや、単に現実逃避だろう。彩芽の場合」

 

子供のように反論する母親とは対照的に、至って冷静な父親のツッコミ。
娘と夫にずっぱり切り捨てられ、の母はテーブルに突っ伏し、「しくしく」と言いながら泣き出した。
が、わざわざそれを取り合うほどの父も暇ではなく、
は夕食の調理を再開し、父親はパソコンで行っていたデータ解析を再開した。
綺麗さっぱり自分を無視してくれる2人に、
の母は不機嫌丸出しで「なによ!」と声を上げた。

 

「この仕事、が持ち込んだんじゃない!お礼に親孝行してもいいじゃない!」
「……夏未に提案したのは私だけど、
依頼主は夏未――というか雷門中だし、雷門中が依頼してるの個人じゃなくてDeliegioでしょ」

 

軽く逆ギレしながら主張するの母だが、は酷く冷静に正論を返す。
そして、茹で上がったパスタをざるに空け、よく水気をきってからフライパンへと放り込んだ。
ここから若干調理が忙しくなるのだが、
そんなことは知ったことではないの母は、すがりつくように主張を続けた。

 

「けど〜大変だし、創作イメージが湧かないし……」
「確かに彩芽の創作イメージが湧かないのは、社として問題なんだよな」
「ほらっ、趣味で気分転換して創作意欲が湧くかもしれないじゃない!?」
「お母さんは趣味に走りすぎて本題忘れるタイプでしょうに」

 

取り付く島もないといった様子で母親に言葉を返す
どうやら母親の相手をするよりも料理に神経がいっているようで、
その声に優しさなどは一切なく、絵に描いたような「切って捨てる」の構図だった。
実の娘に見事に切り捨てられ、ガックリとうなだれるの母。
その姿に親としての威厳はなかった。
もちろん、そんなことに構っている余裕のないは手早く料理を仕上げる。
パスタと野菜と豚肉を炒め、最後に味付け。
母親好みの味付けに仕上がったところで、先に用意してあった皿にパスタを盛りつけ、
仕上げに彩りと風味付けの大葉を散らした。
両親に料理が出来上がったことを告げ、テーブルの上を片付けてもらい、
はパスタの盛りつけられた皿と、
先に用意しておいたサラダとスープを3つテーブルに置いた。

 

「………」
「拗ねちゃったな」

 

どれだけ不機嫌だったり、眠かったりしても、
の料理を前にすると上機嫌になるの母。
しかし、今回は相当深みにはまってしまったようで、
の料理を前にしても、少しも機嫌はよくならなかった。
いつもであれば、ここでが折れるのだが、今回に限ってはが折れる必要はない。
が折れずとも、母親の元気を回復させる策がはじめからの頭の中にはあるのだから。

 

「今、お母さんが手直しを頼まれてる機材。あれ、全部雷門中のサッカー部が使うの」
「………」
「要するに、うちに豪炎寺君を呼ばなくても、
豪炎寺君のデータを得ることはいくらでも可能なの。――お母さんの頑張り次第で」
「急いで社に戻るわよー!!」

 

嬉々とした笑顔を浮かべてパスタをかきこむ母親の手元に、
はそっと水の入ったコップを置くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並んでいるのは巨大な機材の数々。
一歩間違えると兵器のようにも見えてしまうから恐ろしい。
まぁ、この地下という薄暗い空間で見ているからなお、兵器のように見えてしまうのだろう。
搬入された機材の数々を眺めながら、は他人事のように呟いた。

 

「こいつぁまた派手にやったもんだ……」
「……やったのはあなたのご両親なんだけど?」
「………」

 

の呟きに言葉を返してきたのは夏未。
何一つとして間違っていない夏未の言葉に、思わずは顔を背けた。
別に夏未はを責めているわけではない。寧ろ、には感謝をしている。
これだけの立派な機材を格安で引き受けてくれた存在――
Deliegioの協力を得られたのはのおかげなのだから。
しかし、Deliegioが格安で引き受けてくれるよう動いた一番の功労者――
の両親を否定するようなの言葉が、気になっただけだった。

 

「トレーニングマシンとしての性能は、私も認めてる。…けど、この外観はいかがなのよ……」
「しかたないわ。元々あったマシンがこういう感じだったんだもの」
「……あれかしらね、男子特有の巨大ロボットとか戦車とかを好む感じ…」

 

に言われ、夏未は設置された機材に再度目をやった。
確かに、よく機材を見ていると、アニメやSFマンガに出てきそうな、
ロボットや兵器のようなデザインをしているといえばしている。
そういう風に解釈すると、このデザインは男子が好みそうなデザインといえるかもしれない。

 

「でもまぁ……最終的にはうちのお母さんのセンスなのよ…ね……」
「…のお母様、芸術家としての才能もある方だものね」
「奇才ですけどね」

 

自虐的な笑みを浮かべて言うに、
夏未は苦笑いを浮かべるしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
ほぼ、夢要素なしでございました…。できればちゃんとキャラと絡む話を投稿したかったです…。
でも、こればかりは連載なのでご容赦いただければ幸いに思います。
 次回はちょっといつもより絡むキャラが多めです!