燦々と太陽が輝き、澄んだ青い空が少年たちの頭上に広がっている。
まるで、この日の訪れを誰もが待ちわびていたかのようだった。
「それぞれの国の威信をかけた、熱く燃える試合――素晴らしいプレーを期待します!」
日本の総理大臣――財前総理の開会宣言に会場が沸く。
そう、遂に開催されたフットボールフロンティアインターナショナルのアジア予選が開催されたのだ。期待に沸く観客の熱狂は、異常なまでの熱さを孕んでいる。
だがそれも当然か、FFIは端的に言えば世界的な祭りなのだ。そして、開会式から少しの時間をはさんで
早々に開催国である日本の代表チーム――イナズマジャパンが第一試合に登場するのだ。熱狂的ともいえるこの会場の空気も――当然のことと言えば当然だった。
「…………」
「お姉ちゃん……だ、大丈夫…?」
「………」
心配そうにの顔を覗き込むのは春奈。
その後ろでは秋と冬花、そして目金までもが心配そうにを見ていた。本当は、苦しい笑顔でも「大丈夫」と答えたかっただったが、
自分の体にまとわりつく不快感に、とても「大丈夫」とは強がりでも言えない状況だった。
「御麟さん、試合は中で観戦してた方が……」
「………」
「ですが、試合中に倒れられでもしては迷惑ですよ」
「…………善処する」
端から見ても、とてもまともな状態とは言えない。
秋と目金が外での観戦――ベンチでの観戦を控えるようにに提案するが、
それをは受け入れようとはしなかった。それは無茶であり、自分の我侭だとはわかっているが、
それでも、ここまできて試合を間近で見守らないなんて――馬鹿なことはにはできなかった。
「ど、どこに行くの!?お姉ちゃん?!」
「………気、紛らわせて……くる」
力なく、そう春奈の声に答えると、
は重そうな体を引き摺りながら日本代表に与えられた控え室から出て行った。そのの姿を春奈たちは酷く心配そうに見守っていた。
第122話:
FFIアジア予選開会
開会式から数十分の間をおいて、
フットボールフロンティアスタジアムでは本日のメインイベントとも言える、
日本代表イナズマジャパンとオーストラリア代表ビッグウェイブスの試合が開始されようとしていた。すでにフィールドにはスターティングイレブンが立っており、
あとは審判の試合開始を待つだけの状態になっていた。
「…お姉ちゃん、本当に元気になったんだよね?」
「大丈夫よ。顔色を見れば一目瞭然でしょ?」
そんな中、未だ不安げにの顔を覗き込んでいるのは春奈。
だが、今のの顔には端から見て不調と思わしき影はなかった。しかし、数十分前までのほぼ死にかけのの姿を見ていた春奈たちからすれば、
そのの姿もどこか強がっているようにも見えた。
「本当に心配ないわよ。
それより――今はイナズマジャパンの心配してあげないとね」
そう言ってが春奈たちの視線をフィールドへ促すと、
審判が高らかとホイッスルを鳴らし――試合開始を宣言した。それを受けて一番に動き出したのは、ボールを持っていた豪炎寺。
横に控えていた吹雪にボールを渡し、吹雪が後ろに控えている鬼道にバックパスを出すと、
豪炎寺は吹雪と共にビッグウェーブス陣内へと上がって行った。そして、それを追う形で鬼道もビッグウェーブス陣内へと上がっていこうとする――
が、それを早々にビッグウェイブスのキャプテン――ミットフィルダーのニースを中心とした4人の選手が止めにかかった。
「あれが……『攻撃を封じる戦術』ってやつか…」
ボールを持った相手を中心として四方を囲み、行き着く暇もなくボールを奪いにかかる選手たち。
その上、四方を囲まれることにより、前にも後ろにもパスを出すことは許されなかった。
完全に逃げ道を塞がれた鬼道――これは確かに攻撃を封じる戦術と言っていいだろう。次々に伸びてくる足に、パスを封じられたことによる孤立感。
そして何よりも、試合開始早々に目の当たりにすることになったビッグウェイブスの必殺タクティクス――
ボックスロックディフェンスに鬼道は大きく動揺していた。
「あーっと!鬼道、ボールを奪われたー!!」
実況の角間が大きく声をあげ、鬼道がボールを奪われたことを告げる。鬼道の元を離れたボールはイナズマジャパン陣内へと戻って行き、
それに待ったをかけようと綱海と土方が走るが――
「「ぅああっ!!」」
連携の取れていなかった二人はまさかの衝突。
ボールを止められなかったどころか、ぶつかったことによってお互いに体にダメージまで負ってしまった。しかし、イナズマジャパンの悲劇はこれだけでは終わらない。
いつのまにかイナズマジャパン陣内へと深く入り込んでいたビッグウェイブスの体格のいいフォワード――ジョー。彼は綱海と土方が取り損ねたボールを拾い、
手薄となったディフェンスラインを突破し――そのまま必殺シュートを放った。
「メガロドン!」
巨大な鮫が突っ込んていくかのような勢いをもったシュート――メガロドンをジョーは放つ。それを円堂は正義の鉄拳で迎え撃つ。
だが、最後の最後にはパワー負けしてしまい――
「ゴール!先制したのはビッグウェイブスだぁー!!」
イナズマジャパンはビッグウェイブスの先制点を許すことになってしまったのだった。
「(……まぁ、想像通りね)」
優勝候補――とはいえ、
こうもあっさり先制を許すことになるとは思っていなかった様子のイナズマジャパンメンバー。
しかし、世界と、そして彼らの実力を知るからすれば驚くようなことではなく、当然の結果とすら思えていた。ディフェンスをベースに試合のリズムを組み立てていくはずのビッグウェイブス。
だというのに、こうも早々に攻勢に出たのというのは、には少々腑に落ちなかった。確かに、綱海と土方の接触はまたとないチャンスではあったが――
初めから攻めていくという方針がチーム内で固まっていなければ、あれほど早く攻撃に転じることは難しい。
ということは、初めから早々に攻撃を仕掛けて行くことを彼らは頭においていたということになる。守りに重点を置くはずの――ビッグウェイブスがだ。
「(これは明那が何か言ったとしか思えない……)」
対して申し訳なさそうな表情も浮かべず、
知った顔がいるというビッグウェイブスのキャンプ地へ行ってきたことを白状した明那。当然のように、イナズマジャパンの情報をリークしてくるようなことはなかったが、
彼の口ぶりからするに、無意識でビッグウェイブスに発破をかけていているような感じがあったのだが――
と霧美の予想は違うことなく当たったようだった。
「――でも、これは逆に好都合か」
「失点を『好都合』――ねぇ」
ニヤリと笑ってに視線を向けたのは不動。
その不動から向こうにいる立向居たち、
そして更には隣にいる春奈たちからは不信とも恐れとも受け取れる視線が送られていた。またしても、うっかり漏れた要らない独り言に、は心の中で舌を打ったが、
だんまりを決め込むわけでもなく、素直に弁明した。
「早々に相手が手の内を明かしてくれれば、
相手への対抗策を講じる時間が増える――そういう意味では好都合でしょ」
「…それは確かにそうですが、この試合が一点勝負の試合だったら――」
「それはないわね」
目金の言葉を遮って、結論を言い放った。
しかし、多くは語らずに視線をフィールドに戻した。ビッグウェイブスは確かに守りの堅いチームだ。
特に守りの要である必殺タクティクスのボックスロックディフェンスによって、
ビッグウェイブスの守備力は容易には突破できないものになっている。
だが、イナズマジャパンにはそれを突破する術がすでに身についているはずだ。それによって、このディフェンスを突破できれば――最後に残るはゴールキーパーのみ。
もちろん、ビッグウェイブスの選手たちの身体能力が高い以上、
容易にゴールまで攻めることはできないかもしれない。
だが、この試合に限って一点勝負ということはない――そうの勘が確かに告げていた。そんな、の思惑とは裏腹に、
自分たちの前に高くそびえたった世界の壁に圧倒されている様子のフィールドメンバー。しかし、そんなメンバーの弱気を容易に吹き飛ばすのが――
「凄いな!」
「「え…?」」
「こんな凄い奴らとやれるなんて、燃えてきた!」
無邪気に、ただ純粋にサッカーを――強い相手との戦いを楽しんでいる円堂。
プレッシャーや恐怖などはなく、強い相手を前にして、萎縮するどころか逆に燃え上がっている。人によっては、無謀だの、酔狂だと受け取る人間もいるだろう。
だが、イナズマジャパンにとって、この円堂の逆境で燃え上がる闘志は、
なによりも大きなパワーの源だった。
「みんな!試合は始まったばかりだ!まずは一点!追いつこうぜ!!」
「「「おおー!!」」」
先ほどよりも勢いを増して燃え出したイナズマジャパンの闘志。
その様子をベンチで眺めたあと――はおもむろに視線を鬼道に向けた。
「(さぁ、次はアンタの仕事よ鬼道)」
■あとがき
ついにFFIアジア予選開幕となりましたー。し、試合描写が鬼門過ぎるんだぜ…?
試合部分はイナズマの醍醐味ではありますが、原作沿いを書くに当たっては天敵でしかねーです。
ただ、夢主が試合に加わらない分、まだ楽な方とは思うのですが、やっぱり大変だよ!