土壇場で強烈なシュート――タイガードライブを決めた虎丸。
それによってイナズマジャパンはデザートライオンに逆転勝利し、
アジア予選の決勝戦へと駒を進めることが叶った。
勝利できたことにイナズマジャパンは歓喜の声はあげたが、
それよりもイナズマジャパンの新たなストライカーとなった虎丸の方が彼らの興味を引いたようで、
虎丸の周りにはイナズマジャパンメンバーが集まっている。
そして、虎丸と話していくうちに、衝撃の事実を知ったようだった。

 

「だってオレ――まだ小六ですから!」
「「「小六〜!?」」」

 

ベンチまで聞こえるイナズマジャパンメンバーの驚きの声。
しかし、驚いたのは彼らだけではなく、ベンチに控えていたメンバーとマネージャー陣もだった。
しかし、意外なことに驚いていない存在もいた。

 

「……そういうことかよ…」
「ええ、そういうことだから大目に見てやってよ」

 

納得と呆れが半々に混じった視線をに向けるのは不動。
そんな不動の視線を受けたは、悪びれもせずに再度虎丸をフォローするようなセリフを言うと、
何事もなかったかのように立ち上がり、ベンチから数歩前へと進み出た。
オーストラリア戦の時、はイナズマジャパンが勝ったからといって、
ベンチから立ち上がって選手を迎えるようなことはしなかった。
今回も歓喜に沸く選手とマネージャー陣を端から見守っているのだろう――
そう思っていた面々は、の意外な行動に一瞬、反応に困ったが、
次の瞬間にはの行動の意図が理解できた。

 

姉ちゃんっ!」
「お疲れ虎丸」

 

勢いよくの胸に飛び込んだのは虎丸。
結構な勢いで虎丸が飛び込んできたにもかかわらず、
はしっかりと虎丸を抱きとめ、「よくやった」と言わんばかりに虎丸の頭を撫でていた。

 

「封印してた――とか言ってた割りに、前よりも威力上がってるじゃない」
「へへっ、一応自主練は欠かしてなかったからね!」
「そう、それはなにより」

 

そう言って再度、が虎丸の頭を撫でると、虎丸は心の底から嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第126話:
「虎」の真実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジア予選第二試合――カタール代表デザートライオンとの試合に勝利し、
決勝へと駒を進めたイナズマジャパン。
しかし、彼らはそれにおごることなく日々練習を続けていた。
しかし、先のデザートライオン戦での特訓に比べれればそれほどハードな練習ではなく、
選手によっては物足りないとまで感じるほどのものだった。
練習を早めに切り上げるように指示したのは監督である久遠。
彼曰く、決勝戦が近いということを理由としてあげていたが、それだけが理由ではないだろう。

 

「(カタール戦では消耗戦だったものね…)」

 

試合を続けられないまで消耗した選手が続出したカタール戦。
一晩休めば成長期の若い体だ、意識下に残る疲労はすぐに回復する。
だが、意識下に残らない疲労は一晩では回復することはない。
その「疲労」の存在を無視して無理に特訓を推し進めれば、
肝心の試合で選手の全力を引き出せない可能性がある。
おそらく、久遠はその可能性も踏まえて、基礎練習だけで練習を切り上げる形にしたのだろう。
――とはいえ、練習が終わったからといって即解散、即自由行動となるわけではない。
もちろん、久遠が直接選手たちに事細かな指示を与えているわけではないが、
彼らの自主性によって練習後はこれまでの試合を記録した映像を見ながら、
自分たちの弱点や改善点に関するディスカッションを行っていた。

 

「(でもほとんど鬼道のサッカー講座状態…)」

 

選手たちが集まっているモニター付近からは真逆の位置に座っている
距離を置いて円堂たちのディスカッションを見守っていたのだが、
そもそもイナズマジャパンに理論派が少ないこともあってか、
ディスカッションと言う割りには反論や異論はほぼなく、
鬼道が改善点を挙げれば、それを改善するための案がいくつかだされて、
それを鬼道がある程度吟味して当人に提示。
そしてそれを当人が受け入れるかどうか――という、ほとんど鬼道が主役というか、
鬼道のサッカー講座と言っても言い過ぎていないような状況になっていった。
もし、これに不動でも加われば、有意義な討論が行われるのだろうが、
その不動は鬼道たちの和から少し距離を置いた席から、
あくび交じりに鬼道たちのやり取りを見守っているだけ。
まぁ現状、不動がなにを言ったところで、
鬼道たちは嫌味と受け取って、まともに話し合うかは微妙。
要するところが、現状ではこれがベストのディスカッションなのだろう。

 

姉ちゃん、なにしてるの?」

 

カタール戦でのデータと、今日の練習で収集できたデータを、
すでに出来上がっているイナズマジャパンのオリジナルデータベースに反映する――
その作業を行っていたのもとへやって来たのは虎丸だった。
話し合いに飽きてしまったのか、の行動に興味がわいたのかは分からないが、
を見る虎丸の顔には好奇心が浮かんでいる。
しかし、理由ともかく、自主的な話し合いとはいえ、チームの輪から外れてしまうのはよくはないだろう。
小学生――とはいえ、それを甘やかしていいという理由にはならないのだし。

 

「虎丸、話し合いに戻りなさい」
「えー…鬼道さんの話難しいし、議題に全然オレ関わってないし…」
「関わってなくてもチームの問題なんだから虎丸も当事者よ。
直接関わっていないからといって、虎丸に関係のない議題じゃないの」
「そーは言うけどさぁ…」

 

チームの輪に戻るよう虎丸を諭しただったが、当の虎丸の反応はイマイチ。
虎丸は単独行動を好むタイプではない。
だがそんな虎丸でさえ、チームの輪を離れてのもとへやって来てしまうほど、
鬼道の講義は難しい――つまらないのかもしれない。
改めて鬼道を中心に行われている討論の輪を確認してみると――
ヒロトや目金、風丸たちは積極的に話し合いに参加しているが、
他のメンバーは適当な相槌は打っているが、
鬼道たちの話し合いの内容を半分も理解しているか怪しいところ。
これでは虎丸が自分ののもとへやってきても仕方がない――
そう心の中で思いながらはどうしたものかと考えていると、
虎丸が突然「ふぇっ?!」と間抜けな声をあげた。

 

「なにやってんだ虎丸。お前のチームメイトはあっちだろ」

 

虎丸の頭をガシリと掴んでそう言ったのは、
虎丸と同じ錆鼠色の髪と鉄色の瞳を持った青年。
やや彼の顔には不満げな色が浮かんでおり、
虎丸がチームの輪を外れてのもとにいることをよく思っていないようだ。
虎丸の声によって、イナズマジャパンメンバーの視線はたち――
と、いうかすでに虎丸の頭を掴んでいる青年に向かっている。
この場面で一番に動き出すのは虎丸だろうな――と誰もが思っていたのだが、
その虎丸を上回って行動に出たものがいた。

 

「幸――」
「「幸虎さん!?」」
「よっ、久しぶりだな、風丸に栗松」

 

虎丸の声を遮って、驚きの声をあげたのは風丸と栗松。
心の底から驚いている風丸たちとは対照的に、
青年――幸虎は虎丸の頭を掴んでいる方とは反対の手で、暢気に風丸たちに向かって手を振っている。
しかし、そんな青年の反応に風丸たちは感化されることはなく、
動揺を一切隠さずに幸虎の元へ駆け寄ってきていた。

 

「……兄ちゃん、風丸さんたちと知り合いだったの?」
「まあな」
「兄ちゃんってことは……虎丸と幸虎さんは兄弟なんでヤンスか?!」
「ああ、歳はちょっと離れてるが、俺と虎丸は正真正銘の兄弟だぞ」
「…というか、苗字一緒の時点で想像つくでしょうに」
「い、いや、俺たち幸虎さんのフルネームまでは聞いてなくて…」
「…………」
「ある意味で結果オーライだろ?」
「………」
「ぐふっ」

 

虎丸の実の兄――宇都宮幸虎のみぞおちに直撃するの裏拳。
見事クリーンヒットだったようで、幸虎はくぐもった声をあげてその場にひざを付く。
風丸と栗松はしゃがみこんだ幸虎を心配して彼の元へ駆け寄るが、
彼の弟である虎丸は「あーあ」と言いたげな残念そうな視線を幸虎に向けていた。
そして、幸虎に攻撃を加えた張本人であるといえば――
若干、イラだったような表情を幸虎に向けていた。

 

「明那に続いてアンタまで…。
…なんなのよ、この結果オーライシリーズは」
「いや、いきなり明兄のこと持ち出されても…」
「いいから黙って怒られとけ」
「(理不尽だ…)」
「(理不尽でヤンス…)」

 

誰がどう見ても理不尽極まりないの言動。
しかし、それに対して幸虎は文句を言うことも、反抗することもなく、
本当にの言うがまま、黙って怒られる。
年上故の余裕――というよりも、この2人の間にある信頼と絆があるからこそのように見えた。
が幸虎を怒って――というか、ほぼ愚痴をぶつけていると、
モニターの前に集まっていたはずの円堂たちがわらわらと集まってきていた。
しかし、よっぽどの胸の中に鬱憤がたまったいたのか、
円堂たちがやってきてもはそのまま幸虎に愚痴をこぼし続けている。
そんなを前に、彼女から幸虎を紹介してもらうことは無理だと判断した円堂は、
苦笑いを浮かべて幸虎を見守っている――風丸に声をかけた。

 

「風丸、虎丸のお兄さんと知り合いなのか?」
「……ああ、幸虎さんには色々…助けてもらったんだ」

 

円堂が風丸に問うと、急に風丸の表情に陰りが差す。
それは風丸の横にいた栗松も同様だった。
2人の表情に陰りが差した理由が分からないメンバーもいる。
だが、円堂や鬼道たちは風丸たちの表情が翳った理由におおよその見当はついた。
風丸たちに事情の説明を急かす者はいない。
ましてや、答えることを強要する者もいなかった。
だが、そんな彼らの好意に甘えて、いつまでも黙っているほど――
風丸たちも弱くはなかった。

 

「イナズマキャラバンを離れて稲妻町に戻ってきたときに……幸虎さんと出会ったんだ」
「落ち込んでいたオレたちを励ましてくれるだけじゃなくて、
入院していた染岡さんたちも励ましたり、サッカーについて教えに来てれてたんでヤンス…」
「そう…だったのか」

 

福岡でのジェネシスとの戦いの後、円堂たちのもとから離れていった風丸と栗松。
サッカーから離れていく2人に、自己嫌悪に苛まれていた2人に手を差し伸べたのが――幸虎だった。
の愚痴を本当に黙って聞いている今の幸虎に、
2人の本心――仲間のためになりたいという気持ちを汲み取って、
励ますことができるようなしっかりとした人物には見えない。
だが、風丸と栗松が2人揃って「助けてもらった」と言っているのだから、
本当に幸虎は風丸たちの心を支えてくれた陰の功労者なのだろう。

 

「幸虎さん!」
「!」

 

なんの前触れもなく、突然幸虎の名前を呼んだ円堂。
あまりにも突然のことに、は幸虎へぶつけるはずの愚痴を思わず飲み込む。
そして、「なんだ」と自分が口を開いていい状況ではないと早々に理解すると、
いつの間にか幸虎の前に立っていた円堂、そして豪炎寺たち雷門イレブンメンバーに視線を向けた。

 

「風丸たちを助けてくれて、ありがとうございました!!」

 

大きく頭を下げた円堂。
それに習うかたちで「ありがとうございました!」と言って円堂同様に頭を下げる豪炎寺たち。
当然、礼を言われた幸虎は一瞬、「へ?」とでも言うような表情で固まったが、
傍にいた風丸たちの姿が目に入ると、すぐに円堂たちが自分に礼を言った理由を察したようだった。
頭を下げていた円堂の肩に、幸虎はポンと手を置くと、
「顔をあげな」と言って円堂たちに顔を上げるように促し、
彼らの顔が上がったところで笑顔で「当然なんだよ」と切り出した。

 

「風丸も栗松も、そして円堂くんたちも――俺にとってはみんなかわいい後輩だからな!」
「…え………?!」
「「ええぇぇええぇええぇぇぇ!!?!」」

 

絶叫にも近い驚きの声をあげる円堂と壁山を尻目に、
ニコニコと楽しげな笑顔を見せる幸虎に、は深いため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 虎丸と絡みつつ、新オリキャラの登場でございました。夢主と虎丸が親しい理由はこのオリキャラによるところでした(笑)
因みにですが、こやつFF編で一度登場してたりします。しかも、セリフ付きで。
登場こそ最近ですが、結構お気に入りのキャラなので、アジア予選中はちょいちょい出てくるかもしれません(苦笑)