イナズマジャパンとFFIアジア予選決勝を戦うのは、韓国代表・ファイアードラゴン。
攻めの優勝候補と呼ばれながらも、これまでの試合全てを無失点で突破している、アジア最強の名に恥じないチームだ。そして、そのファイアードラゴンの主力選手であるのが――
「――それでこそ、全力で倒す価値があるというもの」
「あ…アフロディ…?!」
――そう、円堂たちにとっては、フットボールフロンティアで優勝を争った存在であり、
先のエイリア学園との戦いでは助っ人として共に戦ってくれた強力なプレイヤー――亜風炉照美。そして彼に加えて――
「やっと会えたね」
「長くて退屈したぜ、決勝戦までの道のりは」
――アフロディの後ろから姿を見せたのは、かつてエイリア学園の選手として円堂たちを苦しめた
マスターランクチームダイヤモンドダストのキャプテン・ガゼルこと涼野風介と、
同ランクチームプロミネンスのキャプテンであったバーンこと南雲晴矢。
ダイヤモンドダストとプロミネンスの混合チームであったカオス――
その中でアフロディは、円堂たちと共にこの2人の強さにこれでもかというほどに苦しめられた。
だが、だからこそ、彼らの強さを身をもって知っているアフロディは、彼らをスカウトし、チームに引き入れたのだろう。
強烈な必殺シュートを持つ選手を3人も要するファイアードラゴン――その攻撃力は言うまでもなく強力。
だが、この強力な攻撃力だけでは無失点は成り立たない。
では、ファイアードラゴンのこれまでの試合における無失点を成立させていたものとは――
「はじめましてイナズマジャパンのみなさん――いい試合にしましょう」
黒髪のアフロヘアーに青のゴーグル――と、特徴的な容姿をしているのは、
ファイアードラゴンの絶対的司令塔――チェ・チャンスウ。
龍を操る者――そんな異名を持つ希代の天才ゲームメイカーである彼こそが、
ファイアードラゴンのこれまでの無失点を成立させる立役者だった。――ただもちろん、チャンスウの戦術を現実のものにできる優れた能力を持つ選手と、
そんな選手たちを上手く指示、指導ができる優れた判断力を持つ監督がいるからこそ、ではあるのだが。
全てにおいて高い実力を有しているファイアードラゴン。
端から苦戦を強いられることなど覚悟はしていた――が、の予想が大きく外れた事態が一つだけ起きている。
それは――ファイアードラゴンが要するコーチ陣についてだった。
韓国サイドのベンチに当然のように座っているのは――蒼介と真斗。
日本人である彼らがその場所に座っているのは不自然――ではあるが、
彼らの力はファイアードラゴンにとって欠くことのできない力となっているらしい。
選手たちはもちろん、韓国代表の監督であるイ・ジンソンも蒼介たちを嫌忌している様子はまったくなく、
それどころかチームの仲間として全幅の信頼を寄せているようにさえ見えた。
「(『龍を操る者』についた 兄妹龍――不吉この上ないわー…)」
の天敵――というか、クセの強さというか、意地の悪さは仲間内でも一、二を争う蒼介・真斗兄妹。
韓国という国柄に加えて、相当のことがない限り、取り繕うということをしないあの兄妹だけに、
たとえアフロディや涼野たちに受け入れられたとしても、チームには受け入れられないのではないかと思っていた。
しかし、あの様子を見る限り――蒼介たちがチームから嫌忌されている可能性はゼロに近い。
選手はよくても監督は――と思っても、
なにやら話し込んでいる様子のジンソンと蒼介の姿を見ては、それも無理やりな否定でしなかった。
第137話:
強敵・火龍見参
遂に試合開始となったイナズマジャパンとファイアードラゴンの一戦。
この先の激闘を物語るかのように、試合は開始早々めまぐるしく展開していた。
韓国のディフェンスを突破し、シュートを放ったヒロト。
開始早々に強烈なシュートを放った――が、改めて見てみればそれは、
チャンスウの采配によって正面から打たされた シュート、だった。
要するに、鬼道の采配を見抜いた上で、チャンスウはそれ以上の采配を披露した――ということだった。
そしてそこから攻勢に転じたファイアードラゴン。
司令塔としての能力だけではなく、一プレイヤーとしての能力も持ち合わせるチャンスウ。
土方のスライディングをいとも簡単にかわし、そのチャンスウのセンタリングに合わせて
イナズマジャパン陣内へと攻め上がっていた――アフロディが、強烈なシュートを放った。
ゴッドノウズ――ネオジャパンの砂木沼が放ったソレと、アフロディのソレは比べ物にならなかった。
本家本元――とでも言うのか、その強力な威力は誰が見てもわかるクラスのもの。
だが、その強力なアフロディのシュートを、イナズマジャパンのキーパーである――立向居が、確りと止めてみせた。
「みんな…頑張ってくれよ……」
そうの横でつぶやくのは――イナズマジャパンの正GKにしてキャプテンである円堂。実のところ、この試合は試合がはじまる前から一波乱が起きていた
――イナズマジャパンの精神的主柱である円堂がベンチスタートという大波乱が。
この誰もが予想もしていなかった円堂がベンチスタートという展開――
もちろん、こんな展開にしたのはイナズマジャパンの監督である久遠。「イナズマジャパンは勝てるか」という久遠の問いに、「勝てる」と答えた円堂。
――が、その答えが円堂がベンチスタートとなる決定打。
そして、その答えを聞いた久遠は円堂をキャプテン失格だと――このチームには必要ないと言い、
久遠は円堂をフィールドへ送り出すことをしなかったのだった。
誰もがこの円堂のベンチに居るという非常事態に動揺する中――
一部の選手たちも、チームに不穏な空気を招くプレーを見せていた。
今の今までファールなどもらったことのない豪炎寺――だというのに、
ファイアードラゴンのMFパク・ペクヨンへのスライディングの際にファールを貰っていた。
そして更に、ここ最近になってようやくプレイヤーとして機能するようになってきた飛鷹は、
それ故か仲間との連携をとらずに一人で強行した結果、
涼野と南雲のコンビにボールを奪われ――イナズマジャパン失点のピンチを招いていた。
――そんなぐたぐたな状態のイナズマジャパンメンバーの中で、キラリと輝く活躍を見せている者が一人いた。
「――スノーエンジェル」
見事なコンビネーションで立向居の守るゴールまで攻めあがってきた涼野と南雲。
しかし、それを阻止したのは、前線から自陣の底まで戻ってきた――吹雪だった。
おそらく霧美との特訓の中で習得したのであろう吹雪の新たなディフェンス技――スノーエンジェル。
それはいとも簡単にイナズマジャパンのディフェンス陣を突破してきた涼野たちを、それこそいとも簡単に止めてみせる。
だが、そこで吹雪の活躍は終わらない。
取り返したボールをキープしてファイアードラゴン陣内へと攻めあがる――が、
「行かせないよ…!」
「さすがだね、アフロディくん…!」
先ほどの再現をみせられているかのように、
ファイアードラゴン陣内へと攻めあがる吹雪の前に立ちふさがったのは――アフロディ。
はじめから吹雪の動きを警戒していたのか――アフロディの反応は、ほかのプレイヤーよりもワンテンポ早かった。
カウンターアタックはなにはなくともスピードが命。
いかに速くディフェンスの整っていない相手陣内へと切り込むか――
――受けた 側から言えば、いかに相手を足止めし、ディフェンス陣が整うまでの時間を稼ぐか――それが基本。だが、不意を付いたカウンターは――圧倒的に、仕掛けた方に分があった。
「土方くん!」
「おう!あの技だな――よっしゃあ!!」
いつの間にか自陣から上がってきていた土方にボールをパスし、彼との連携によってアフロディを突破する吹雪。さすがのアフロディと言えど、2人を相手では時間稼ぎすら難しく――
ファイアードラゴンのディフェンスが整う前に吹雪と土方は相手陣内へと深く切り込んで行く。
そして――
「「サンダービーストォ!!」」
雷撃を纏い、獲物へ向かって一直線に走る獣――。
それを思わせる強靭なパワーとスピードを兼ね備えた吹雪と土方の連携必殺技――サンダービースト。試合の中での初披露となったその技は、
一度はヒロトの流星ブレードを止めたファイアードラゴンのキーパー――
――チョ・ジョンスの必殺技・大爆発張り手をものともせず打ち破り――イナズマジャパンの先制ゴールとなったのだった。
吹雪と土方の連携必殺技の完成、
そして強敵であるファイアードラゴンを相手に先制点を決めたことに歓喜するイナズマジャパン。
それはフィールドの上も、ベンチでも同じ――かと思われたが、ベンチの監督にまったく納得している様子はなく、
アドバイザーであるも吹雪たちの連携必殺技の完成に対する喜びはあれど、先制ゴールに対する喜びはおよそなかった。
今の攻撃は相手を不意を付いた上で、相手の力を上回った攻撃だった。
だが、不意を突いた――だけに、この戦法におそらく二度目はない。
加えて言えば、これからの試合で吹雪はファイアードラゴンの強い警戒に合う。
そして、その吹雪との連携が警戒される豪炎寺、土方も警戒の対象におそらくなるだろう。
おそらく、先ほどの攻撃は不意を突いたカウンター――
イナズマジャパン側に大きなアドバンテージがあったからこそ、成功した。
だが、これからはここまでの不意を突くことは愚か、吹雪が敵陣の奥深くまで入り込むことさえも難しくなる。
あれだけ強烈なシュートを見せつけられた上に、
チームの主要選手であるアフロディが初めから警戒していた相手――ともなれば、意識せずとも警戒が傾くのが道理だ。
さて、ここからの展開はどうなるか――と、思考を巡らせようとした。
だが、不意にちょいちょいと肩を突かれ、反射的に突かれた方向へと視線を向ければ、
そこにはなぜだか苦笑いでから目を逸らした円堂。らしくない円堂の様子に首をかしげる――よりも先に円堂の指が前方を差す。
それに導かれる形で視線をやれば――
「……御麟…………」
――完全にご立腹の我らが監督のお姿が。
久遠が、なにに腹を立てているのか――もわかっている。
だが、その怒りの矛先をに向けるのは全力でお門違いだ。
「指導 は霧美の勝手。そして使うことを決めたのは士郎くん――私の指示じゃないんですが」
ストライカーとしての才能、類稀なる俊敏性――そういった吹雪の個性は常に輝いている。
だが今のDFとしての活躍の中で吹雪が僅かに見せた「個性」は、
強烈であるにもかかわらず、僅かしか輝かない――だが、それがある意味で当然だった。
それも含めて、この「個性」の特徴の一つなのだから。
「……まさか、余計なところまで似るとはな………」
「素質――あったんでしょうねぇ……」
吹雪が僅かに見せたDFとしての「個性」――それは霧美の個性 と酷似している。
吹雪のFWとしての個性に合わせてか、違うところも少なくはないが、
それでも根本にある本質は変化していない――かつて、久遠とを苦しめたあの性質 は。
「抑えるなら今ですよ」
「……………」
苦笑いを浮かべがそう久遠に言うと、
久遠は小さなため息は漏らしたものの、それ以上なにを言うことなくフィールドへと向き直る。どうやら「ソレ」が吹雪の自主的な判断、決定であるというのであれば、
それはプレイヤー の個性として受け入れるつもりらしい。
…ただ、久遠の性格的にそれは難しい――というか、既に一度懲りているはずなのだが――
「(まださすがに士郎くんじゃ、今の久遠さんを超えるのは無理か…)」
そうして、フィールドの選手に久遠の指示が飛ぶことなく――
――試合はファイアードラゴンの攻撃から再開されるのだった。
イナズマジャパンとファイアードラゴンが顔を会わせた時、
チャンスウは去り際にこう言った――今日のフィールドには龍がいる、と。
しかし、要領を得ない漠然とした言葉だっただけに、チャンスウの言葉の意味を理解できるものなどいはしなかった。
が、チャンスウの警告の通りに、このFFIアジア予選決勝のフィールドに――龍はいた。
「龍の雄叫びを聞け!我らが必殺タクティクス――パーフェクトゾーンプレス!」
そう、高らかに宣言したのはチャンスウ。
そのチャンスウの宣言を合図に、ボールを持ってファイアードラゴン陣内へと攻めあがっていた綱海をMF陣が、
そして直前に綱海にパスを出した吹雪をDF陣が取り囲む形で包囲する――だが、それは静止の包囲ではなかった。
綱海と吹雪の周りを取り囲むようにして、
目にもとまらぬ速さで走り続けるファイアードラゴンディフェンス陣。
一見、奇天烈な技――にも見えるが、これは列記とした戦術だった。
高速回転によって、鋼鉄と錯覚するほどの強固さを持った人の壁は、包囲された者を完全に孤立へと追いやる。
そして、僅かにだが、確実に狭められていく包囲の輪は強烈なプレッシャーとなり、孤立へと追いやられた者を更に追い詰める。
徹底した孤立感とプレッシャー――それはさしずめとぐろ巻く龍の様。
考えずとも、チャンスウの言っていた「龍」とは、パーフェクトゾーンプレス だったのだろう。
朱色の龍に包囲された選手は、徐々に冷静な思考能力を――いや、まともな精神状態ではなくなっていく。
締めつけられるようなプレッシャーに加えて、僅かな隙を突かれて奪われたボールを見せ付けるように弄ばれては、
焦りや苛立ちなどによってまともな思考状態を保つことなど、できるわけがなかった。
パーフェクトゾーンプレス――選手の動きだけではなく、
精神状態までも掌握するその支配力こそ、その必殺タクティクスが「完璧な戦術」と呼ばれる所以なのだろう。
「でも――相性が悪かったわね」
パーフェクトゾーンプレスの生み出す人の壁に無闇に突っ込んだのか、フィールドへ投げ出される綱海。
そして、パーフェクトゾーンプレスの外側の渦に包囲されていたはずの吹雪は――
いつの間にか、その包囲からボールを奪って抜け出していた。
沸きあがる歓声。
フィールドから上がるファイアードラゴンの驚きの声。
そして韓国サイドベンチから上がる――「やっぱり?!」という素っ頓狂な声。しかし、そんなあちこちから上がる声などに気をとられることなく、
吹雪は勢いそのままにファイアードラゴンのゴール近くにまで単身で切り込んで行く。
そして、ファイアードラゴンのディフェンス陣が追いつくより先に――
「ウルフレジェンドォオ!!」
――必殺のシュート・ウルフレジェンドを吹雪は放つ。
だが、相手もここまで勝ちあがってきたチームのGKだけあり、
土方との連携必殺技では簡単に割ることができたゴールも、吹雪単身ではゴールを割ることは叶わず、
ジョンスの大爆発張り手によって、ファイアードラゴンのゴールネットが揺れることはなかった。
しかし、点を入れられなかった――とはいえ、吹雪は単身でパーフェクトゾーンプレスを破ったのだ。
ただでさえ警戒していた吹雪という存在は、
ファイアードラゴンにとって輪をかけて警戒するべき存在になったことは――まず間違いない。――ただ、ここで眠れる龍が片目でも開こうものなら話は変わってくるが。
「(…でもこれじゃあ、痛みわけか)」
吹雪と目金の肩を借り、フィールドからベンチへと戻ってくるのは綱海。
どうやら先ほどのパーフェクトゾーンプレスを無理に突破しようとした際に、足を負傷してしまったようだった。
秋が綱海の足にアイシングを行う中、久遠は綱海に代わって小暮にフィールドへ出るように指示を下す。
その久遠の交代の指示に、綱海はまだ自分は大丈夫だと食い下がるが、
フィールドからベンチに戻るだけのことも自力だけではままならなかっただけに、
それは綱海の意地でしかないことは明白――当然、久遠が綱海の言葉を聞き入れることはなく、
綱海に代わってDFとして小暮がフィールドへと向かうこととなった。
綱海の激励の言葉を受けフィールドへと上がっていった小暮。
しかし、フィールドへと戻るべきはずの吹雪はなぜかまだベンチに――というか、久遠の前に立っていた。しかも笑顔で。
「監督」
「…なんだ」
「指示がないということは、それはボクの勝手を許容してくれた――そう、受け取っていいんですか?」
久遠に対して尋ねている――割に、既になにやら確信を持った様子の吹雪。
それは尋ねられている久遠の方もひしひしと感じているらしく――
気を抜けば見逃すほど小さなため息をつくと、久遠はいつもの毅然とした調子で吹雪に答えを返した。
「ああ、頼むぞ吹雪」
「はい!」
久遠の言葉に、吹雪は自信を持って了解の意を示し、フィールドへと戻っていく。
だがその間際――吹雪はほんの一瞬、ベンチへと視線を向けた。
「吹雪………」
ベンチから、フィールドに立つ吹雪を姿を見た円堂は――吹雪 の姿になにを感じるのだろうか。
■あとがき
原作と、だいぶ試合の流れが変わっております。吹雪、大活躍です。
義理の姉の存在を考えると、この連載の吹雪は、これぐらいのことやってくれないと不自然っていうかなんていうか…(苦笑)
次の活躍する予定の吹雪さんですが、…ちゃんと(?)試合後には離脱します。……個人的にはずっとレギュラーであった欲しかったんだが…な!!