これまでの試合の中で、難攻不落といわれていたパーフェクトゾーンプレスを突破した吹雪。
得点こそできなかったものの、攻略が不可能だといわれていたモノを突破したのだから、
それだけでも十二分に評価に値するものではあるだろう。しかし、吹雪はあくまで突破しただけ――であって、
パーフェクトゾーンプレスの攻略法を見出したわけではなかった。
「(正常な思考能力を奪う――っていうのがミソ、なんだろうね)」
土方と飛鷹をパーフェクトゾーンプレスによって包囲したファイアードラゴン。
獲物をとぐろで巻き、息の根を止めんと締めあげる龍のよう――
その強烈な炎の龍のプレッシャーによって、おそらく土方と飛鷹は先ほどの綱海のように正常な思考を奪われていくことだろう。
ただ綱海のことがあった矢先だ、
鬼道の忠告どおり無茶をすることはないと思うが――いささか、飛鷹には難しいかも知れない。
羽ばたける翼 を持っていることを忘れてしまった飛べぬ鷹には。
「あーあ、参ったなぁ」
「――そう言う割に、あまり困った顔をしていないね」
「そんなことないよ――アフロディくんにマークされてるんだから」
イナズマジャパンにおいてただ一人、パーフェクトゾーンプレスが通用しない吹雪。
当然、ファイアードラゴンの警戒は吹雪に集中する――と、思われたが、実際吹雪のマークについたのはアフロディただ一人。
しかも、他の選手達はイナズマジャパンのゴールを揺らさんと、
チャンスウの指示の元で攻めに徹しており、完全に吹雪の存在を警戒している様子はなかった。
吹雪と同様に、攻守に優れた選手であるアフロディ。
そのアフロディがマークに付いたのだから、
そう易々と彼のマークを振り切りチームとの連携に戻ることはできない――そう、思っている――のか、それとも――
「蒼介さんが言っていたよ、今のイナズマジャパンの中で一番警戒が必要なのは吹雪君だって」
「うん、ボクの姉さんも言ってたよ。アフロディくんは要注意だって」
警戒を前に出しながらも、二人の間にあるのは親近感であり――相手への称賛。研ぎ澄ました牙を、爪を、揮うことが許される相手――
本気でぶつかることができる相手の登場は吹雪にとって、そしてアフロディにとっても、待ち望んだモノなのだろう。
師から受け継がれた力を存分に発揮できる――この時を。
――ただ、その時を待っていたのは、彼らだけではなかった。
「ならく落とし!」
必殺技を使い、壁山のディフェンスを突破したチャンスウ。
鬼道のチャージをかわすと同時に、ゴール間近にまで迫っていた南雲へとパスを出し、
そのチャンスウのパスを受けた南雲は自信に満ちた笑みを浮かべると――高く、ボールを蹴り上げた。ゴールを狙わんとする南雲とそのゴールを守る立向居の間に人はない――
これは完全に南雲と立向居の純粋な力比べを、真っ向勝負を意味していた。
バーンと名乗っていた時分よりも、ずっと実力を挙げた南雲。
だが、それは立向居にも言えたこと。そして、過去にバーンの必殺シュート――アトミックフレアを止めたという実績がある。
それだけに、立向居が南雲のシュートを止める可能性は十分にあった。
高く蹴り上げたボールを追い、高く跳躍する南雲。
先に蹴り上げたボールが宙でその動きを止めるか否かのところで――南雲は、ボールよりも高い位置へと至った。
「ドラゴン――フレアァ!!」
イナズマジャパンゴールめがけて放たれる紅蓮の炎を纏ったシュート――
それはまるで、紅の龍が放った灼熱の火球のようだった。
第138話:
受け継がれたもの
イナズマジャパンゴールめがけて放たれた南雲の必殺シュート――
それは、バーンであった彼が切り札としたアトミックフレアではなく、ドラゴンフレアという名の新たな必殺シュートだった。――そしてそれは、の記憶の中にあるとある人物が得意とする必殺シュートと、フォームが酷似していた。
「(ま、まさかの双子龍……)」
の脳裏によぎった存在――それは南雲たちと共にエイリア学園に所属していたフォルテ――こと、双樹望。
エイリア学園との戦いの中で望は必殺技を披露するどころか、
試合に出ることすらなかったわけだが――だからと言って、必殺技を習得していないわけではなかった。
高い打点から放たれる強烈なボレーシュート――
それが望の必殺シュートであり、おそらく南雲の必殺技の元となった技――ドラゴン・レイ。
それはずば抜けた身体能力――特に、しなやかにして強靭な体のバネを活かした望だけが使うことができた必殺技だ。
類は友を呼ぶ――か、望と同様に優れた身体能力を持つ南雲。
だが、その彼をもってしても、ドラゴン・レイは習得できるものではなかったのだろう。
――いや、というか、アレを普通の人間がやると確実に体を壊すので、端から習得する気もなかったかもしれない。
しかし、アトミックフレアを越える新たな必殺技――と考えが至った時、
望 の技を発展させ、新たな技として習得させるという流れは案外、自然だった。
――技の改良を十八番とする蒼介 を抱えるファイアードラゴンだけに。
「(あの技…オリジナルよりもよっぽど強力ね。…早さ は劣るけど)」
アフロディのゴッドノウズを止めた立向居のムゲン・ザ・ハンド
――だがそれを、南雲のドラゴンフレアはいとも簡単に打ち破り、ゴールを抉った。
その様子は誰が見ても――明らかに立向居側のパワーが不足していると一目でわかるほどだ。ただ、ボールを蹴り放つまで、そしてシュート自体のスピードは、オリジナルよりも劣っている。
なので、ディフェンス陣のシュートブロックなどでフォローすれば、また簡単に得点を許す――可能性は、下がるだろう。
とはいえ、またパーフェクトゾーンプレスで陣形を乱されてしまっては、
ディフェンス陣を突破した状態――先ほどと同様、立向居と南雲のタイマン勝負となってしまうだろう。
――かといって、南雲にマークを集中するのはいささか早計だ。
ファイアードラゴンには、南雲のほかにもアフロディ、そして涼野という強力な決定力を持ったストライカーがいるのだから。
「(まぁとにかく、あの必殺タクティクスをどうにかしないことには、どーにもならないわね)」
パーフェクトゾーンプレスから、流れるような連携で攻勢へと転じたファイアードラゴン。
その動きは文字通りに流れるような――滞ることのない自然な動きだった。
それだけ彼らはこの必殺タクティクスを練習し、さらにそこからの連携も特訓してきたのだろう。――それらの努力があるからこそ、パーフェクトゾーンプレスは「完璧な戦術」と呼ばれ、今まで鉄壁を誇ってきたのだろう。
しかし逆に言えば、この戦術はそういった「努力」がなければ完璧な戦術ではない――とも言えた。
パーフェクトゾーンプレス――この必殺タクティクスには弱点がある。
その点を突かれれば、容易に攻略されてしまうほどの――致命的な。
だが、それを理解しているからこその努力であり、フィールドだけではなく、選手の精神まで支配するという形になったのだろう。
「(泥のフィールドって、これを想定してのことだったのか……)」
なにか確信を持った様子で久遠に視線を向けた鬼道。
その鬼道に対して久遠は「練習の成果を見せてくれ」と言葉を返していた。
対韓国戦にあたり、久遠が鬼道たち選手に行った練習――それは泥のフィールドでの基礎練習。
足元の悪いぬかるむフィールドの上で特訓は、たとえ基礎練習――ドリブルやパスであっても簡単なものではなかった。ボールが泥に浸かれば、ボールが前進するときに泥の抵抗がかかってしまう。
そして、ボールが地面に落ちれば泥が跳ね、反射的に怯んでしまい反応が遅れる。
そんな、フィールドの上ではまともにプレーができない中での練習。
その成果は――ファイアードラゴンに試合されたフィールドの上で披露されようとしていた。
「さぁ――奪ってみろッ!」
パーフェクトゾーンプレスによって包囲された鬼道と緑川――だったが、
久遠の一声によってパーフェクトゾーンプレス攻略の解を見出したらしい鬼道は、
奪ってみろと挑発的に宣言すると、ボールを天高く蹴り上げた。
意表をつく鬼道の行動に、ファイアードラゴンのパーフェクトゾーンプレスはその力を発揮する前に解体となり――不発に終わる。
だが彼らもボールを奪うことを諦めたわけではなく、蹴り上げられたボールを追って南雲が跳躍する――が、
それよりも先に、南雲よりも高く跳躍するものがいた。
「なっ――」
跳躍した南雲の目の前で、ボールを蹴り放ったのは――彼よりも高い位置に飛んでいた風丸。
そして、風丸の蹴り放ったボールは緑川へと送られる。
だが、そこでイナズマジャパンのパスワークは止まらず、
緑川から小暮、小暮から土方へと、ボールは地面に落ちることなく繋がる。そしてあっという間にボールはファイアードラゴン陣内奥へと運ばれ――
「流星ブレード!」
――ファイアードラゴン陣内へと攻めあがったヒロトが、ゴールめがけて必殺シュートを放つ。
試合開始時の時とは違い、相手の意表をついたヒロトのシュート――だったが、
根本的に力が足りていないのか、またしてもジョンスの大爆発張り手によって得点を阻止されてしまった。
しかしそれでも、パーフェクトゾーンプレスを攻略したという事実は大きいだろう。
鉄壁と呼ばれていた戦術を、前半戦の時点で攻略したのだ。
ファイアードラゴン側に与えるプレッシャーも少なからずあるはずだ――が、それは楽観が過ぎるというものだろう。
「(パーフェクトゾーンプレスが攻略される――それは蒼介 も想定済みのことのはず……)」
情報をかき集め、相手を深く研究、解析することで、相手の弱点や対抗策を見出す久遠。
そして、その答えを直接選手には教えず、対抗しうる力を練習の中で付けさせ、
答えは試合の中で自力で気づかせる――それも、久遠のやり方だ。
そして、そのやり方は――昔と、なんら変わっていなかった。
久遠の実力を知っている――それは蒼介も同様だ。
それだけに、これまでの試合でも用いているパーフェクトゾーンプレス を切り札としている可能性は極めて低かった。
ボールが地面にある時にのみ有効――という致命的な弱点を持つ以上、
世間に披露した時点でパーフェクトゾーンプレスは久遠によって攻略されている可能性は極めて高い。
そんな危険な可能性を抱える戦術 を切り札にするほど、ファイアードラゴンも策に窮してはいないだろう。
であれば、新たな戦術を用意してくるか、もしくは今まで温存していた戦術を用いるか――
または、戦術にはこだわらず、個々の能力を最大限に活かした臨機応変なプレーに切り替えるか――
――パーフェクトゾーンプレスを攻略したからといって、喜んではいられないことは確かだった。
しかし、そんな警告を出すよりも先に、試合は再開される。
ジョンスの豪腕によってフィールドへと返されたボールは、一気にイナズマジャパン陣内中腹にまで送られる。
それをペクヨンがダイレクトでチャンスウへとパスを出す――が、それを吹雪が阻んだ。
ペクヨンのパスをインターセプトした吹雪。
しかし、パーフェクトゾーンプレスをイナズマジャパンに攻略されたにもかかわらず、
彼がファイアードラゴンの強い警戒の対象になっていることは変わらないらしく、
すぐさま吹雪の前にはアフロディが立ちはだかる――が、それよりも先に吹雪は風丸へとパスを繋げた。
「――風神の舞ッ」
吹雪のパスを受けた風丸――の行く手を阻んだのは長い手足が特徴的なファイアードラゴンのDFコ・ソンファン。
しかし、彼のディフェンス技が決まるより先に、風丸は風神の舞でソンファンを突破し、
そのままファイアードラゴン陣内へと攻めあがっていく。
そして、フリーとなっていた豪炎寺へと風丸はパスを繋いだ。
風丸のパスを受け、更にファイアードラゴン陣内へと攻めあがる豪炎寺。
だがそれを、ファイアードラゴンでもっとも小柄なDFホン・ドゥユンが、
炎を引きずるような、強烈な勢いの後ろ回し蹴り――地走り火炎で止めにかかる。
その強力な必殺技に豪炎寺は成すすべなくボールを奪われる――が、
「豪炎寺くん!」
必殺技後の僅かな隙を突いて、ドゥユンからボールを奪取したのは吹雪。
アフロディのマークを振り切り、豪炎寺に追いついていた吹雪は、その勢いのまま豪炎寺と共に更に攻めあがっていく。そして――
「「クロスファイア!!」」
豪炎寺と吹雪が放つダブルボレーシュート。
それは火炎と氷雪、その2つの力が融合したような強烈な力を秘めた必殺シュート――クロスファイア。
ゴール間近でのこの強烈なシュートだけに、多くの人がイナズマジャパンの追加点を確信しただろう。…だがその人々の確信は、一つ――だが、重大な一点の誤認識によって大きく覆されていた。
ファイアードラゴンのゴールに突き刺さるはずだった豪炎寺と吹雪のシュート。
しかし、寸前のところで2人のシュートはゴールから逸れてしまい、追加点を上げることは敵わなかった。
シュートが逸れた理由――その原因は豪炎寺にあるのだろう。
未だ迷いの中にいる豪炎寺。だからこそ、なによりも正直にものを言うボールは、
驚くような勢いで大きくゴールから逸れてしまった――それは、彼の迷いを知る者からすれば明らかで。
そして、今の豪炎寺に違和感を覚える者には――確信となる何かを与えたかもしれなかった。
しかし、そんな僅かな変化をおざなりに、試合は再開される。
またしもて強靭な力でボールをイナズマジャパン陣内の中腹ほどへと送り込んでくるジョンス。
そしてそれを受けたのはチャンスウ。さて、ここから彼はどのような戦略を展開するのか――と、
誰しもが身構えたが、チャンスウはその予想を簡単にひっくり返してきた。
「ならく落とし!」
ボールと共にジャンプし、高い打点からかかと落としの要領でボールを蹴れば、
地面に叩きつけられたボールは、チャンスウのマークについていた土方にぶつかる。
そのボールの――ならく落としの強烈な力は、パワーに優れた土方ですら耐えきれるものではなく、
わずかには堪えたものの、最後には土方は後方へと倒れこんでしまった。
だが恐ろしいことに、チャンスウの狙いはそれ以上のものだった。
「選手交替――」
久遠が選手の交代を言い渡す。
それを受けてベンチへと下がってくるのは土方――そして、倒れた土方に巻き込まれる形で転倒していた鬼道。
本人はなんともないような顔でいたが、鬼道の負傷を久遠はめざとく見逃さなかったらしく、
有無言わさずして鬼道をベンチへと戻し、怪我の治療をするように指示していた。
土方と鬼道がベンチへと下がり、その代わりにフィールドへと送られたのは栗松と虎丸。
土方のポジションに栗松が入り、鬼道のポジションに虎丸が入り、試合は再開される――かと思われたが、
すぐに試合は再開されず、イナズマジャパンはそこから更にメンバーのポジションを変更していた。
「(士郎くん…一体なにを考えて……)」
鬼道がいない今、フィールド上のイナズマジャパンメンバーに司令塔と呼べる存在はいない。
かといって、誰も何も考えずにいる――ということはないかもしれないが、
久遠の指示もなくポジションの交替をするという大胆な行動に出るものはいない。――久遠から「勝手」を許されている吹雪以外は。
豪炎寺と共にツートップを張っていた吹雪だが、
攻撃の最前線から一転してゴール前――一気に守備陣の底へと下がっていた。ディフェンスに回った吹雪に代わって、豪炎寺と共にファイアードラゴンのゴールを狙うのは虎丸。
そして、土方と交替したはずの栗松は鬼道のいたポジションに収まる形となっていた。
「監督!あの陣形では得点のチャンスが…!」
鬼道の懸念を一言で薙ぎ払った久遠。
貴重な得点源であるはずの吹雪を守備に下げるということは、転じて守勢に回る――という意思表示にも受け取れる。
この同点という次の一点が重要な意味を持つ場面で、守勢に回るというのは得策とはいえない。
それは誰から見ても明らかなのだが――
「吹雪も、なにか策あってのことだろう」
そう言って、久遠はフィールドへ対してポジションを改めるようには指示をせず、この吹雪のポジション変更を認めていた。
フィールドの上に立たない今の鬼道では、久遠に対して多くを言える立場でもなく、
久遠の言葉を――吹雪の考えを信じるほか、選択肢はなかった。
そうして、吹雪提案の新たなフォーメーションで試合が再開される。
チャンスウのスローイングからペクヨンがボールを受け、イナズマジャパン陣内へと駆け上がっていく。
その途中で風丸がディフェンスに入るが、フェイントを駆使しペクヨンは風丸をあっさりと抜き、更に攻めあがっていった。しかし、そのペクヨンの侵攻をイナズマジャパンディフェンス陣がやすやすと許すわけもなく、
壁山のザ・ウォールで行く手を阻まれたペクヨンはボールを奪われ、彼の快進撃はそこまでだった。
「栗松!」
「任せるでヤンス!」
ペクヨンから奪ったボールを、壁山はチームに合流したばかりの栗松へとパスする。
そしてそのパスを受けた栗松は、一気に攻勢に出ようと走り出す。
そして、彼の前に立ちふさがった顔が曼荼羅の様に色の分かれたDFファン・ウミャンも、
得意のまぼろしドリブルで一気に抜き去ろうとした――が、
強烈な後ろ回し蹴り――地走り火炎の前に、ボールを奪われてしまった。
栗松からボールを奪い、再度イナズマジャパン陣内へと攻めあがるファイアードラゴン。
だがそれは――普通ではなかった。
「さぁ!恐れおののきなさい!
これが我ら火竜の圧倒的な進攻――必殺タクティクス・龍 踊り道中!」
チャンスウの声を合図に、ウミャンがボールをフィールドの中央へと送る。
そして、それをアフロディが受け、前へと進む――が、
それを南雲がボールを奪い取るようにして攻め上がり、今度は南雲からチャンスウが。
その様子はまるでひとつの玉をめぐって竜たちが乱舞しているかのようだった。
パスしあっている――というのではなく、
本当にお互いにボールを奪い合うような形で展開されるファイアードラゴンの第二の必殺タクティクス――龍踊り道中。
乱暴――な印象はあるが、それだけに敵陣へと攻めあがる勢いは凄まじく、
ファイアードラゴンの進攻はイナズマジャパンメンバーに制止をかける暇すら与えなかった。
玉を追いじゃれあうかのように、玉を奪い合いながら敵陣へと攻めあがる龍たち。
そして敵の牙城を目前にして、その玉追いの勝者となったのは――
「進化してるのは――君たちだけじゃない!」
そう、強い自信を持って言い放ち、フワリとボールを高く舞い上げたのは――アフロディ。
その動きは彼の必殺技ゴッドノウズを思わせる――が、わざわざ「進化してるのは――」と啖呵を切ったのだ。
そのままゴッドノウズを放ってくるような――ちゃちな真似をするはずはない。とすれば――
「ゴッド――ブレイク」
ゴッドノウズ同様、天高く舞い上がったボール――をよりも、アフロディは更に高い位置へと舞い上がる。
ゴッドノウズであれば、落ちてきたボールを蹴り放つところだが、
ゴッドノウズが進化したその技――ゴッドブレイクは、ボールが重力に従うか否かのところで、
アフロディの強力なかかと落としによってボールは蹴り放たれた。
膨大なエネルギーを纏い、
立向居の守るイナズマジャパンゴールへと襲い掛かるアフロディの新必殺技――ゴッドブレイク。
その強烈な勢いに、誰もがイナズマジャパンの失点を確信、覚悟した。
「――まさか…っ?!」
しかし、その確信を覆すことを――ゴールの死守を諦めていない者がいる。
それはイナズマジャパンの最後の砦である立向居――そして、先ほど守備へと交替した吹雪。アフロディの強烈なシュートを前にしてなお――二人の目に、諦めの色は宿っていなかった。
「――霧幻迷宮」
吹雪の背後に広がった霧――
ふと気づけば足元を、はっと気づけばその霧は――ゴールの周囲を完全に飲み込んでおり、
濃霧は吹雪を、そしてゴールと、ゴールを守る立向居の姿すらも覆い隠していた。
しかし、アフロディのシュートは真っ直ぐゴールを狙っていたのだ。
今更ゴールを隠されたところで、アフロディのシュートがゴールからそれることはない――のだが、
そもそもこの霧幻迷宮は相手のシュートの狙いをずらすことが本領ではないのだ。
あの必殺技の本領は時間稼ぎ――GKが最大限の力を発揮するために必要な時間を。
濃霧の中へと突っ込んでいったアフロディのゴッドブレイク――
しかし、その強烈な力を呑み込んでなお、ゴールを包む霧が晴れる気配はない。
アフロディのシュートが濃霧の中へと入ってから僅かの間をおいたところで――ついに、静寂を保っていた霧が大きく歪んだ。
「――ザ・ハンドォオオ!!」
霧を打ち払い姿を見せたのは――深い深い青を湛える紺碧の魔神。以前までのマジン・ザ・ハンドの時に姿を見せていた魔神とは細部の形状が異なり、
また魔神が纏う威圧感もまた別格のもの――
――その格の力を見せ付けるかのように、立向居の手には確りとボールが収まっていた。
■あとがき
全力で、原作とは色々違うことになってます。どこすこ版権キャラがオリジナル必殺技うんぬん覚えるっていうね!!
ただ、蒼介たちをFDメンツに組み込んだ時点で、原作通りに進めるのは無理だろうなーとは思ってたんですけどね(苦笑)
書くのには本気で死に掛けましたが、書き終わってみれば、意外と満足いく流れにできました――描写については聞かないで!(逃)