ライオコット島の中央にあり、FFIの決勝戦が行われる――タイタニックスタジアム。
その上空――夜空に浮かんでいるのは、FFIに出場している10個の各国チームのエンブレム。
 ブラジル、イタリア、アルゼンチンなど、一般的にもサッカー強豪国と知られる国々のチームのエンブレムが並ぶ中、
僅かな異彩を放っているのは、日本代表・イナズマジャパンと、コトアール代表・リトルギガントのエンブレム。
特にコトアールは国の存在自体がマイナーもマイナーな上に、試合のデータ自体も少ないとかで、かなり謎の多いチームだ。
――ただ、そんなマイナーなチームよりも、メジャーなチーム――スター選手を擁するチームの方が、何倍も注目を集めているのだが。

 

「(ダークホース……か…)」

 

 アジア代表として登場したイナズマジャパン。
そのイナズマジャパンを「成長途上」と評価したのは、
かつてヨーロッパ選手権でMVPに選ばれた世界的名FW――にして、FFIのメイン解説を勤めるレビン・マーロック。
ただ、彼はそのあとにイナズマジャパンは「ダークホース」になりえると言い、個人的なイナズマジャパンへの注目を示唆していた。
 ダークホース――少し言い換えれば大穴。
つまりは、データ上では勝利が見込めない、負けて当然のチーム――
――だが、何らかの「よういん」を持てば、十分に勝者となりえる――という評価だ。
…ただこの評価、マーロックの客観的な評価であるのか――には些か疑問だったが。
 幼い頃――マーロックが現役であった時代に彼との面識があった
更に言えば、の方も現役・・だった――ためか、
最後に顔を合わせた日から約7年が経過しているにもかかわらず、
マーロックはのことを覚えていた。名前を聞いて、顔をほころばせるぐらいに。

 

「(――とはいえ、実力ふつうでは勝てないことには、違いないんだけど……)」

 

 マーロックの評価が何であれ、イナズマジャパンが他国のチームに対して、
実力ふつうに勝つことが難しいという事実に違いはない。
なんであれ、イナズマジャパンの実力が他国に劣っていることは事実――
――実力者マーロックが注目していると言ったところで、
イナズマジャパンを注目、まして警戒するチームはおそらくない――いや、あっては困る。
 卑怯と言えば卑怯――なのかもしれないが、
イナズマジャパンは基本的に対戦相手に格下に思われているからこそ、逆転できるのだ。
端から実力者として警戒され、対策をそれほど練られていないからこそ――
――イナズマジャパンコチラが相手を攻略するだけで試合を容易にひっくり返すことができたのだ。
だというのに、警戒され、対策を練られては――一仕事が増えるのだ。勝つために必要な要素を得るために。

 

「…しかし、ある意味で最悪のグループ分けよねぇ……」

 

 思わずの口から漏れた独り言――それは、決勝リーグに駒を進めるために
勝ち残らなくてはならない予選リーグのグループ分けに対するモノだった。
 FFI本選は、まず10のチームをAグループとBグループに分け、そのグループ内で総当たり戦を行う。
試合の勝敗ごとにポイントが与えられ、グループ内の試合が全て終了した時点で、
ポイントを多く獲得している上位2組が決勝リーグに進む。
そして、残った4チームでトーナメント戦を行い、勝ちあがったチームが優勝――となる。
なので、先ずの目標になるのが、予選の突破なのだが――

 

「(Bグループには申し訳ないけど、Aグループは強豪揃いすぎだっつの…!)」

 

 ワールドカップで4度の優勝を果たしている――イタリア。
予選大会にて無失点で本選まで駒を進めた――アルゼンチン。
近代サッカー生誕の地である――イギリス。
とにかく運動万能王国な――アメリカ。
――これら4つの国、日本を加えたのがAグループだ。
 …まぁ、Bグループもイタリアよりもワールドカップでの優勝回数の多いブラジル。
一番最近のワールドカップで優勝したスペイン、――と、強豪が肩を並べていることは事実だが――にしても、だろう。

 

「(強敵と戦えば戦うほど、イナズマジャパンは強くなる。
プラスに考えれば、大きく成長できる機会でもある――けど、それだけピンチが続くって事…!)」

 

 何度も言うようだが、イナズマジャパンの実力はAグループにおいて、最下位中の最下位だ。
要するに、全ての試合がピンチからの始まり――と、なる。
いつものこと――と、一蹴してしまえばそれまでだが、そんなピンチばかりを毎度毎度目の前にして、
ピンチを打破できる術を持ちならも、手をこまねくしかできない人間にとって――そのピンチは、ストレス以外のなんでもないのだ。
 好きなものも、連続的ずぅーと前にしていると、さすがに飽きる。
も、勝敗が最後までわからないハラハラドキドキする試合は大好き――だが、こうも続くと、さすがに心労が酷い。
イーブンによるハラハラならまだしも、ピンチからのハラハラだ。げっそりするのも当然ではないだろうか?

 

「はぁ〜……そろそろ余裕の勝利が恋しくなってきた…」

 

 いつかの日に飽いた勝利が、
これほど恋しくなる日が来るとは――夢にも思っていなかっただった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第145話
くるくるブレイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 FFI開会式の翌日。
初戦――イギリス代表チーム・ナイツオブクィーンとの試合を2日後に控えたイナズマジャパンは、
宿舎の前に設けられた専用のサッカーグラウンドで、対イギリス戦に向けて練習をはじめていた。
 そして、イナズマジャパンの練習には――
――青いイナズマジャパンのユニフォームに身を包んだ、見慣れない顔が二つ並んでいた。

 

「――鬼道!」

 

 風丸たちディフェンス陣の間を縫うようにドリブルで駆け抜け、前線に上がっている鬼道にパスを出したのは、
水色の長い髪に右目に当てられたアイパッチが印象的な、帝国学園サッカー部所属のFW――佐久間次郎。
帝国の参謀と呼ばれた彼は、帝国のキャプテンであった鬼道との連携が抜群で、
次々に行く手を阻むディフェンス陣を突破していた。

 

「佐久間さん、いい動きしてますね」
「ああ。アイツのプレーには、仲間の思いがこもってるからな」

 

 佐久間のプレーに関心の言葉を漏らした春奈に、彼の力の根源について語ったのは――
――浅黒い肌とピンク色の坊主頭が印象的な、雷門中サッカー部所属のFW――染岡竜吾。
佐久間同様、一度はイナズマジャパンメンバーの選考から外れた染岡だったが、
イナズマジャパン――日本の代表として世界の大舞台で戦うことを諦めず、練習を重ねた結果、
こうして晴れてイナズマジャパンのユニフォームに袖を通す日がやってきたのだった。
 離脱した吹雪と緑川に代わって――というところで、多少なり複雑な思いはあるかもしれないが、
何より無念なのは吹雪たちの方だと理解しているらしい染岡たちは、
彼らの――そして、それでも代表になれなかった仲間たちの思いを背負い、円堂たちと共に勝利を目指していた。
 因みに、この吹雪と緑川の抜けた穴を埋める人選基準だが――正直、そんなものはない。
久遠の判断によってテストも何もなく決定していた。変な話、その選考は出来レースですらなかった。

 

「(霧美ィ……)」

 

 今は遠き北国で、義理の弟をあらゆる手段で特訓しているであろう――霧美。
吹雪たちの後釜は、ほぼ彼女が決定したに近い。
それというのも、九郎に佐久間を、幸虎に染岡を特訓するよう頼んでいたのが――霧美、らしいのだ。
 沖縄に発つ時点で、染岡たちがイナズマジャパンの輪の中にいたこと自体――色々おかしかった。
久遠ぐらいの監督になれば、一日も経たずに必要な選手を選ぶことは容易――かもしれないが、
沖縄の地で候補を選ぶ、という選択肢もあったはず。
なのに選手の可能性も吟味せずに新たな選手を選ぶというのは、久遠にしては些か乱暴なのだ。――冷静になってみれば。
 緑川が無理をしていたことは、霧美も知っていた。
そして、吹雪がチームを離脱せざるを得ない状況を作ったのは、他ならぬ霧美。
――であれば、その2人の後釜の育成を視野に入れて行動する程度、霧美にはわけもない。
たちの中で、最も人材運用に長けているのが――霧美なのだから。
 霧美の手配――九郎や幸虎との特訓によってか、染岡と佐久間の実力と円堂たちの実力の間に大きな開きはなく、
沖縄での特訓によって実力の調整は、の想像を遥かに上回って簡単に終わっていた。
そして余った時間ぶんを、更なる実力アップとチームとの連携強化に費やし、
染岡たちは既存の選手たちにも劣らないチームの一員として、イナズマジャパンに馴染んでいた。

 

「(次に結果を出すのは私――なのかね)」

 

 アジア予選は、霧美はもちろんのこと、明那にも半ばおんぶに抱っこだった気がしないでもない
まだ本気を出す場面ではなかった――にしても、だいぶらくをしていたことは事実。
そのしっぺ返し――ではないが、霧美が抜けた穴を塞がなくてはならないことに変わりはない――
――その結果は、試合が始まるまで出ないのがもどかしいところだが。

 

「みんなー!ちょっと集まってー!」

 

 グラウンドに響く秋の声。
確か彼女は久遠に呼ばれて練習から外れていたはず――戻ってきた上に、
メンバーの集合をかけるということは、久遠から何らかの指示を受けてきたのだろうか?
 選手たちと一緒になっても秋の元へ集合する。
秋の周りに全員が集まったところで、秋は「親善パーティーに招待されました」と、若干よくわけの判らないことを言った。

 

「「「親善パーティー?!」」」
「ナイツオブクィーンからの招待よ」

 

 親善パーティー――その主催者は、イナズマジャパンにとって初戦の相手であるイギリス代表。
試合の前に親睦を深めたい――とは、なんとも友好的な話に聞こえるが、
おそらく本当の目的は親睦を深める、なんて話ではないだろう。

 

「(舐められてるわねぇ〜)」

 

 揺るがぬ強者としての余裕からなる――品定め。
自分たちが全力を以って戦うにふさわしいか否かを、フィールドの上で戦う前に吟味しておこう――
――そんな考えからの話、とはの憶測だ。経験から成る。
 しかし、イギリス側の思惑が何であれ、久遠がその招待を受ける――
――と、決めたのであれば、イギリスの実力を知るには都合がいい、という判断なのだろう。
まぁ、パーティーというイベントの性質上、相手のサッカーの実力を目の前には出来ないが、
言葉を交わすことで彼らの気質や、サッカーに対する熱意や知識の程を図ることは出来るはずだ。

 

「――さん」

 

 あれやこれやと考えていたに、ふとかかったのはを呼ぶ秋の声。
急な秋の呼びかけに冷静をつくろえず、が驚きの感情を引きずったまま「ん?」と秋に聞き返すかのよう答えると、
秋は苦笑いを浮かべながら「監督から」と切り出した。

 

「私たちの正装ふくを手配して欲しいって」
「…私たち――ってことは、秋ちゃんたちもパーティーに呼ばれてるの?」
「うん。ほら、『是非みなさんで』って」

 

 そう言って秋が渡してきた手紙――イギリス代表からの招待状に目を通してみれば、
秋の言うとおりに「是非みなさんで」と選手はもちろんのこと、
監督やマネージャー陣についても招待しているような表現をしていた。

 

「…監督は?」
「監督は用事があるから出席できないって」
「そう、なら用意するのは選手の分とマネージャー――………正装?」
「お?なんだ御麟、お前正装がどんな服かし――」
「――男子には興味ないです」
「「「?!」」」

 

 「正装」という言葉に対して疑問符をつけた
そこに食いついたのは、先ほど自分が疑問符をつけ、立向居の説明でそれなんであるのか(微妙に間違えて)理解した綱海。
知らないのであれば自分が説明してやろう――
――と、言わんばかりに口を開いた綱海だったが、そのセリフを途中で遮ったのは無感情なの声。
 の発言が無感情であること自体は、それほど珍しくない――のだが、口にしたセリフがセリフだけに、空気が止まった。
 男子に興味がない――そりゃ、ないだろう。
男子の正装など、男子の正装は、およそタキシード一択。
しかも、個々の差別化のバリエーションも多くはないし、「そんなところにまで気を使っているんですね」なお洒落上級者のものだ。
早い話が、男子の正装は礼儀であって、魅せるもの――ではないのだ。
であれば、女子が興味を向けないのも当然と言えば当然だが――の場合、たぶんそういうことじゃない。

 

「よーし!行こう!今すぐ行こう!あ〜苦労が報われた〜!」
「え、ちょっ…?!御麟さんっ!?!」
「ま、待ってお姉ちゃん!!練習!練習まだ途中だよ!!」
「…そうね、でも――春奈たちの正装ドレス選びの方がじゅ――ぎょふッ

 

 明らかに頭のネジがぶっ飛んだ方向に暴走している――の後頭部に、
強烈な勢いでジャストミートしたのは、鬼道が放ったサッカーボール。
倒れるほど――の衝撃ではなかったらしく、後頭部に直撃を食らいながらもは立ってはいるが、その動きは完全に停止していた。
 だが、不意にがゆらり…と動き出す。
その異様な雰囲気に、全員がの動向を見守っている――と、
思いがけずはケロリとした表情で「悪かったわね」と謝った。

 

「ここ数日の鬱憤が変な方向に――
――しても、随分迅速に人の頭にシュート決めてくれたわね、鬼道?」
「……………霧美さんから忠告を受けていた」
「――――」

 

 鬼道の発言に、胃酸が逆流した気がしないでもないだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 夢主の思考がくるくる回るだけのお話でした。あ、あと次回予告(笑)
次は夢見さんにはたまらないパーティー回話なのですが、作者的には期待を裏切られた格好となっております(吐血)
いえ、あれはあれで楽しかったんですけどねー(逃)