イナズマジャパンとナイツオブクイーンの両キャプテンの
実力ちからがぶつかり合ったPK対決――だったが、その勝敗はものの一瞬で決着した。
 イギリスに伝わる伝説的な王であるアーサー王が所有する、聖剣の名を冠したエドガーの必殺シュート――その名も「エクスカリバー」。
エドガーの必殺シュートは、その偉大な聖剣の名に恥じぬ強烈な力を秘めた一撃で。
アフロディ、南雲、涼野という、アジアでも屈指の実力を持つ三人が繰り出したカオスブレイク――
――あの強烈なシュートを止めた円堂の新たな必殺技・怒りの鉄槌を以ってしても、
エドガーのエクスカリバーのパワーを押し留めることは敵わなかった。
 ――要するに、この勝負はエドガーの圧倒的な勝利で幕を閉じたわけだった。
 自信満々で、ナイツオブクイーンにイナズマジャパンは勝利する――と言い切った
だが、その自信とは裏腹に、実際に勝利を勝ち取ったのはエドガー――ナイツオブクイーン。
円堂――イナズマジャパンは自身の力不足を無様に晒すことになった――にもかかわらず、
エドガーのシュートのパワーに圧倒され、ゴールの中でひっくり返っている円堂の姿を見るの表情は――この上なく、満足げだった。

 

「(ふふっ、大収穫ね)」

 

 エドガーの――世界にその名を轟かせるストライカーの必殺シュートを受けた円堂。
その強烈なシュートを受けた円堂が見せたもの――もまた、と同じく笑みだった。まぁ、だいぶその笑みを種類は違うが。
 とって、思いがけない――が、思惑通りの、これは「収穫」だった。
 なんとなくでも、この親善パーティーで世界イギリスの実力を知ることができれば上々――と、思っていたところを、
がエドガーを挑発したことによって、イギリスせかいきびしさをその身を以って、ガツンと知ることとなったイナズマジャパン。
 自身の不足を、勝利が絶望的であることを叩きつけられた格好――ではあるが、
イナズマジャパンにとってみれば、それは毎度のこと。
寧ろ、試合がはじまる前に、自分たちの不足を、不利を知り得たことは――
――ある意味でイナズマジャパンにとっては有利な展開といえた。
 世界の圧倒的な力を前に、怯むどころか「特訓だ!」と興奮に沸き立つイナズマジャパン。
それをナイツオブクイーンの面々は「おめでたい」と
呆れた様子でイナズマジャパンを見守っていた――が、やはりエドガーキャプテンだけは、反応が違っていた。

 

「――私の見立ては、間違っていなかったようですね」
「ふふっ、うちの寝ぼすけたちを叩き起こしてくれたこと――感謝するわ」

 

 円堂たちの闘志をたきつけるため、に利用された――それを理解しながらも、
エドガーは笑顔を崩すことなく、自分の言葉に対する確信――とも、に対する称賛とも言えるセリフを口にする。
それに対し、嫌味かんしゃの言葉を返せば――エドガーは、それを気に留めた様子もなく笑みを浮かべた。

 

「どうやら、ご自分の言葉を改めるつもりはないようだ」

 

 真っ直ぐにに向けられたエドガーの闘志。
騎士の静かなる闘志を受けたが、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべ「その必要もなくなったもの」と返せ――ば、
の横に控えていたアスが何処か嬉しそうな苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第149話 孫と孫の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ完全には昇っていない太陽が照らす砂浜に、一人で腰を下ろしているのは
だが、そのの両隣にはつい先ほどまで誰かが住まっていた形跡が残っていた。
 イギリス代表との試合を控え、個々で気持ちを整える時間が必要か――ということで、
今朝のFW組の早朝ランニングはいつもより早い時間で切り上げられていた。
そして、ランニングの終わったは明那と共に浜辺で練習――という名の
憂さ晴らしに興じていたのだが、その途中でやってきたのが――

 

「(円堂大介は生きている――か……)」

 

 ――夏未のボディガードとして、円堂大介の消息を追っていた勇だった。
 アジア予選中、ずっと連絡を取ることができなかった勇。
そんな彼が持ってきたのは、40年前の事故で亡くなった円堂の祖父――円堂大介が現在も生きているという情報。
数だけで言えば、勇が持ってきた情報は少ないが、にとっては確信を得るに値する重要な情報だった。

 

「(コトアール代表・リトルギガント監督――荒矢大介・・)」

 

 円堂の元に送られてきた「頂点で待つ」のメッセージ。
勇と夏未がこのライオコット島にいるという事実。FFIに出場する各国代表チームの監督に情報。
――これらを総合すれば、コトアール代表の監督・荒矢大介が円堂大介氏ではないか――という仮説にはすぐに行き着く。
そしてその仮説を確信に変えたのは――

 

「ふぅ……!!」

 

 巨大なタイヤを、尻とへそに力を入れ、全力で止めて見せた――円堂。
そう、この円堂が特訓に使っているタイヤこそ、が荒矢氏が大介だと確信した理由だった。
 決起集会からの帰り道、たまたま出会った――荒矢氏。
荒矢氏が運転する軽トラックの荷台に乗っていたのは、円堂が使っているタイヤとその半分ほどのサイズのタイヤが数個。
どうにも車の修理うんぬんに使うためとは考え難く、そも一般人は使い古したタイヤなんてよほどの理由がなければ必要としない。
なのに超巨大なタイヤを、コトアールの代表監督が運んでいたのは――それがチームのためになるから、と考えるの自然だった。
 …まぁ、の見解は正直なところは――すべてはただの直感。
理由なんてものは、後付した証明でしかなかった。

 

「おっ、おはよう御麟!」
「……おはよう――円堂ッ」
「!?」

 

 笑顔で「おはよう」とに声をかけてきた円堂――だったが、
それにが返事と共に返したのは、弾丸のようなスピードのシュート。
そのスピードもさることながら、何よりものをいったのは、がシュートを放ったタイミングだろう。
 悪意も何もなく、ただ「おはよう」と声をかけただけであろう円堂に、ほぼ間髪を容れずにシュートを返した
お世辞にも、まともな人間のすることではない――と、自身も認識がないわけではない。
しかし、とて色々思うところがあってのこと。
別に円堂が憎いとか、腹立たしいとか、そんなことを思っての行動ではない。寧ろ、その真逆なのだが――

 

「ぅおっ」

 

 円堂の顔をスレスレのところで通り抜けていったボール――が、円堂の背後にまで迫っていたタイヤに当たる。
そして、タイヤに当たったボールは円堂の背に当たり、その勢いによって円堂が砂浜に転倒すれば――
――倒れた円堂の背の上をゆっくりと巨大なタイヤが数度行き来した。
 円堂の背に当たり、適当な位置に落ちたボールを拾い上げながら、
は「まだ起き上がらないでよ」と円堂に釘を刺し、揺れるタイヤに近づいていき――
――大きく息を吐き、ドンッとボールをタイヤにぶつけた。

 

「円堂、さすがにこれはもうちょっと危機感を持って使って欲しいんだけど」
「え、あ、もしかして今の……」
「数時間後に初戦を控えてるプレーヤーに、本気で危害加えるヤツなんているわけないでしょ」
「…わ、悪い……」
「それはなにに対する謝罪よ?私が危害加えてきたと勘違いしたこと?それとも――危機感の足りないことかぁ〜」
「痛い痛い痛いいひゃい!」

 

 うつぶせ状態から起き上がった円堂の前で膝をつき、軽いお説教モードの
しかし、円堂の謝罪にちょっとばかりに魔が差し、ぶにゅに片手で円堂の両頬を圧迫する。
まだまだ少年の円堂の頬は柔らかく、力を込めればまだ沈む――が、さすがにやりすぎると、
ただの前者になってしまうので、は少し名残惜しく思いながらも円堂の顔から手を離した。

 

「お〜…痛ったぁ〜…!」
「……円堂」
「ん?」
「前言撤回してもいいかしら?」
「前言?前言ってどれだ??」
「危機感持てって話」
「………なんでだよ?それって、持ってた方がいいものじゃないのか?」
「まぁ、このタイヤでの特訓に関してはそうなんだけど――
――下手に円堂が危機感持っても、円堂の良い所を抑圧するだけかなって」

 

 危機感がない――それは非常によろしくないことだ。
危険が近くにあってもそれに気づくことができない――それが危機感がないということ。
気づいても、回避できない危険というのもある――が、多くは気づいていれば、ある程度回避できる危険が多数。
であれば、まったく危険に気づけない――危機感を持っていないというのは非常に危険な状態と言える。
 しかし、それはあくまで円堂カレが一人であった場合の話だ。

 

「…俺のいいところ?」
「ええ、その向こう見ずなところ」
「…え……向こう見ずって…褒め言葉、か??」
「褒め言葉よ、私的には。何も考えずに前へ進んで行く――羨ましい限りよ」
「……なんかバカにされてる気がする」
「してないわよ。考えなしで動けるのは、自分に相応の自信があるからできること――
それに対して、私が考えて行動するのは、失敗に対して臆病だから――こっちの方がカッコ悪いでしょ?」

 

 すくと立ち上がり、難しい表情で座り込んでいる円堂に手を差し伸べる
差し出されたの手を、円堂は難しい表情のまま取りそのまま立ち上がった。
 しかし、立ち上がったところで円堂の頭の中をめぐっている考えはまとまってはくれないらしく、
の手を握ったまま円堂は考え込みはじめてしまう。
まさか、円堂が考え込むとは思っていなかったは、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
 多くの必殺技を編み出した名プレーヤーにして、40年前伝説のイナズマイレブンの監督を務めた名監督――
――その2つの肩書きを持つ円堂大介の孫が、今の手を掴んで頭を悩ませている円堂守。
そして、は円堂大介の先輩にして、日本代表のアドバイザーを勤めた木崎理一の孫――
――両祖父の間にあった交友はおそらく浅いものではない。
おそらく、その子供に孫にまで交友が続くぐらいに。だがそれは――

 

「(ただの妄想だ…)」

 

 40年前――影山が主導した事故によって円堂大介が死ななければ、の話。
だが、その強烈な過去があったからこその今とも言えなくはない以上、
の脳裏をよぎった想いはただの妄想――自分と円堂が幼馴染であったなら、なんていう話は。
 なんとも馬鹿げた想像に、内心で自嘲しながらも、は未だに自分の手を掴んでいる円堂の手を軽く振りほどく。
半ば無意識に近かったのか、手を振りほどかれた円堂の表情は驚きに揺れていた――が、
それをはあえて取り上げず、釘を刺すように「無理しないでよ」とだけ言ってその場をあとに――しようとしたのだが、
それよりも先に円堂が「御麟!」とを呼んだ。

 

「俺は、御麟の方がカッコいいと思う!」
「………はい?」
「だって御麟は考えて――失敗の可能性を知った上で前へ進んでるんだろ?
だったら、何も考えてない俺よりカッコいいって!」
「……………」

 

 考えていた答えがやっと出たのか、自信満々といった様子でに対して言ってよこす円堂。
そんな円堂の自信満々の返答を受けたと言えば――半ば固まっていた。
 円堂の言い分は間違っていない。向こう見ずとは悪く言えば無鉄砲――考えなしだ。
だが、慎重に考え、失敗の可能性も加味した上でなお、前へ進むと選択したのであれば、それは真の勇敢な選択――と、言える。
確かに、確かにそうは言えるのだが、としては、まだそこまで自分の精神は十全ではないんじゃないか――というのが本音で。
 …だというのに、円堂の太陽のような笑顔を前にそう言われてしまうと、
不思議と「そうなんじゃないか」とどこからともなく――根拠のない自信が湧いてくる。
胸の奥底から湧く自信それ。懐かしいその感覚に、は思わず――
 ――頭を抱えてうずくまった。

 

「御麟!?」
「(あーダメだぁ…。円堂が最強すぎるー…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 夢主と円堂さんのお話でした。ほぼ。…エドガーさん?ゴメン、前回の続きみたいな気分でした。
 ぶっちゃけ、円堂さんと夢主が幼馴染だったらーみたいな話は考えたことあります。
ただ、二期の構成が死ぬほど難しそうなので、書きたいところだけピックアップして書きたいですね(笑)