あの日の鬼ごっこ以降――
豪炎寺も円堂も、にサッカーをプレイすることを求めてこなくなった。
おそらく、春奈が彼らを説得してくれたからなのだろう。
を思って先輩である円堂たちに意見してくれた春奈に、心の底からは感謝した。
真実を話すのは当分先にはなるだろうが、近々手土産を持って礼を言いに行こう――そう決めていた。
だが、雷門イレブンが自分に構わなくなったもうひとつの理由をは知っていた。

 

「歯痒い限りですね…」

 

店の外に山積みになっている少年たち――雷門イレブン一行を見ては思わずポツリと洩らす。
その言葉を一蹴するように響木は不機嫌そうに「ふん」と鼻を鳴らし、
気持ちを切り替えるように再度食材の下ごしらえを始めた。
それを横で見た後、
再度は扉の向こうでワイワイと騒ぐ円堂たちに視線を向けた。
まだまだ、彼らは諦めていない。
響木が首を縦に振ってくれなかったことに対しては多少なり落ち込んでいるようだが、
それでもFFの決勝に出場することに関してはまったく諦めていない。
なんとしても新しい監督を見つける、というその気迫が遠目で見ても感じられる。
あの様子なら、何とかなるだろう――
そう思い、は視線を彼らから、作業をしていたまな板に戻した。

 

「楽しそうだな、
「……気にかけている選手が伸びれば、楽しくもなりますよ」

 

嫌味でも警告でもない鬼瓦の言葉。
なんの意図もなく、単に雷門イレブンを見るが楽しげに見えたから言っただけ。
それはわかっていても、ついついの言葉には棘が出る。
だが、鬼瓦に苛立っているわけではない。
自分の気持ちをセーブしきれなくなっている自分への苛立ちが原因だった。

 

「ゴッドハンドの坊や、強くなってるからな」
「…強くなってますよ。……みんな」

 

思わず口にしていた言葉に、は虚しさを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第15話:
ターニングポイントも彼のため?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな風がの髪を撫でる。
「落ち着け」――そう言っているかのようだ。
だが、余計なお世話だ。
自分は十分に落ち着いている。
冷静な言葉を口にできる。
きっと――

 

「鬼道、やめた方がいい。あまりにも無謀すぎる」
「………?」

 

電話から聞こえたのは驚いた様子の鬼道の声。
どうやら、冷静を通り越して、の声はだいぶ鬼気迫ったものになってしまったようだ。
驚きとも、戸惑いとも取れる鬼道の沈黙。
また自制できなかった自分の感情にため息をつきながら、
は「ゴメン」と鬼道に驚かせたことを謝った。
だが、鬼道を止めたことについては謝らなかった。

 

「影山総帥の非道は、お前も知っているだろう」
「ええ、知ってる。鬼道よりずっと――あの男の恐ろしさは」
「ならどうして止める。お前は総帥の非道を認めるというのか」

 

突き刺さる鬼道の真っ直ぐな言葉。
正義感の強い鬼道らしい――正論だ。
そうやって、真っ向から立ち向かえる勇気があれば――とは思わない。
の立場からすれば、鬼道の勇気は――ただの無鉄砲にしか思えないのだから。

 

「何かを守るためなら、それも致し方ないことよ。
…鬼道、総帥殿に逆らって、自分や仲間を守りきれると断言できる?」
「…それは……」
「はっきり言うけど、総帥殿を象とするなら、アンタは蟻。
蟻が象にいくら噛み付こうが、象には痛くも痒くもない。けど、象の足ひとつで蟻は簡単に殺される」

 

嫌なぐらい、適当な表現だとは思った。
権力者である帝国学園の総帥――影山零治。
彼にとって、子供である鬼道など取るに足らない存在。
ただ、鬼道は権力者の息子だ。
影山の手が伸びることが分かっていれば、
護衛なり警護なりをつけて対策を講じることもできる。
しかし、他の帝国メンバーは違う。
鬼道と同等の地位を持っているわけでもなく、財力を持っているわけでもない。
影山にしてみれば、彼らを始末するなど赤子の手をひねるぐらい簡単こと。
要するに、影山に逆らえば常に仲間の命を危機に晒すことになりかねないのだ。
そしていつか、取り返しのつかないことになる。
悔やんでも、悔やんでも――悔やみきれないほどのことに。

 

「…だが、俺はこの間違いを間違いのままにはしてはおけない。
俺は――総帥を止める。絶対にだ」

 

強い意思を秘めた鬼道の言葉。
だが、どう考えても正気の沙汰ではない。
影山は冷酷非道な人間だ。
自分の障害となったものは、なんであろうと排除する。
物であろうと、人であろうと――彼にとって障害は障害でしかない以上、
躊躇なくすべてを排除するだろう。
影山が鬼道を障害と見なしたとき――
その時が訪れることが何よりもには怖かった。
ネガティブすぎるのかもしれない。
神経質になりすぎているのかもしれない。
そうやっていくら不安を拭おうとしたところで、拭えるものではない。
これは現実に起こり得ることなのだから。

 

「やめて鬼道……お願いだから………っ」

 

恐怖で声が震える。
だが、当然だ。
大切な友達の死を想像して――
友達を失うことに恐怖を感じない人間などいるはずがない。
鬼道が思いとどまることを祈りながら、は鬼道の言葉を待つ。
もう二度と――は後悔したくなかった。

 

「安心しろ

 

子供を宥めるかのような穏やかな鬼道の声。
すぐには自分の願いは叶わなかったのだと悟った。
安心――できるわけがない。
いつ大切なものを失うかもしれないこの不安定な状況で。
安心など――

 

「俺は仲間を危険な目にあわせたりはしない。お前も――俺は悲しませない」

 

利口だった鬼道が変わり始めたのは、
が鬼道の前で本性を現したときから――だったようには思う。
自分の相手をするようになってから、鬼道はだいぶ利口ではなくなった気がする。
しかし、利口ではない鬼道が顔を見せるのはの前だけ。
公の場では、そんな態度をとることはなかった。
――だが、鬼道はいつのまにか変わった。
利口な選択を蹴ってしまうほどに。
これが、彼にとって良い選択なのか、悪い選択なのかは今の段階では分からない。
だが、の勘は8割方悪い選択だといっている。
勘は勘だが、の勘はよく当たる。
悪い予感も――良い予感も。

 

「……ハッ、子供1人でどうこうなる相手だと思ってるの?相手は冷血非道の影山よ?」
「ならんだろうな。子供1人なら」
「…お互い、だいぶ正気じゃないわね」

 

そう言っては自虐と自嘲が入り混じった笑いを洩らした。
あれほど影山に逆らわないように鬼道を引き止めていたのに、
鬼道の違わない強い意思を――柄にもなく信じてしまった。
鬼道なら必ず約束を守ってくれる。
――確証など、何一つとしてありはしないというのに。

 

「本番出たとこ勝負――決勝当日まではお互い大人しくしていた方がいいわね」
「お互いに――ラストチャンスというわけか」

 

の案のポイントを口にして鬼道は数秒黙ったが、
の案に乗ったようで、「わかった」と返事が返ってきた。

 

「――約束、破らせないわよ」
「もとより破るつもりなどないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 無駄にシリアス話でした(苦笑)
ブッこまなくてもいいような気がするのに、気付いたらブッこんでおりました…。
この話はスポポーンと記憶の中から抹消していただければ幸いです(笑顔)
ひ、必要以上に話の確信に絡むネタ……なような気もしますが(滝汗)
 と、当分ギャグ色薄めの話が続きますが、できるだけ早期復帰(?)を目指して頑張ります。