「まぼろしドリブル!」
鬼道、風丸との連携に加えて、自身の必殺技を駆使し、
栗松はついにナイツオブクイーンのディフェンス――アブソリュートナイツを突破した。
ボールを持つ相手に対して、連続的に襲い掛かる戦術――それがアブソリュートナイツ。
欠点などない――その名の通りのアブソリュート(かんぺき)な戦術に思えるが、
実のところ彼らのアブソリュートナイツは不完全なものだった。その不完全な点とは――
「戦術の柔軟性の低さと、有事における指示のタイムラグ――それが簡略化の代償、だったんだろうけど…」
「――それはイギリス側も承知してるみたいだぜ?」
「…………」
意地悪げに言う不動の言葉を聞きながら、
はフィールドの上で起こっている――想定外の事態に全力でげんなりしていた。
「なーんと!エドガー自らがディフェンスのために戻っていましたー!」
栗松がアブトリュートナイツを突破し、ゴール間近まで迫っていた豪炎寺にパスを繋ぎ、
豪炎寺はすぐに爆熱スクリューの体勢に入った――が、実況のマクスター・ランドの言った通りに、
自陣の底にまで戻っていたエドガーによって豪炎寺のシュートは阻止されてしまった。
その挙句に、ボールまで奪取され――
「エクスカリバー!!」
距離が伸びれば伸びるほどその威力が増すエクスカリバーを、
最もイナズマジャパンゴールから距離がある位置――敵陣の底から放たれるのだった。
第151話
できないことは
人間、時に落ちるときは底まで落ちるもの――だった。
最高威力のエクスかリバーを放たれ、それを壁山が止めたものの、身を挺した渾身のザ・マウンテン故に壁山は負傷。
その後、壁山に代わって染岡が入り、ほころびを見せていたアブソリュートナイツを崩し、
FFI本選におけるイナズマジャパンの初得点挙げ、ナイツオブクイーンとの点差を動転に戻した。
――が、その直後にナイツオブクイーンは新たな必殺タクティクス――攻撃型タクティクス「無敵の槍」を披露。
加えて、エドガーが新たな必殺シュート「パラディンストライク」まで披露してきたのだった。
因みに、当然というべき話だが――とり返した一点は、すぐにまた取り返されてしまっていた。
しかしこれは世間的には「よくやった」と称賛の声を浴びる結果だった。
解説のマーロックは「思ったよりも善戦している」とイナズマジャパン称賛の言葉を送り、
イギリス人サポーターからも「やるな」と好感がもたれているようだった。
しかし、それはあくまで外野の話。
未攻略の必殺タクティクスに、止められない必殺シュートと、
山積みの問題に当事者たちは気落ちしている傾向にあった。
「まぁそう落ち込むことないわよ――これでやっと相手も丸裸だもの」
「……それはもう相手に奥の手がないということか?」
「ええ、相手の雰囲気からいってまず間違いないわね。
それにエドガーくんしか突出している選手もいないし…
…――無敵の槍さえ攻略してしまえば、あとは地道に試合を進めれば、勝てる試合よこれは」
「……簡単に言ってくれるな…」
無敵の槍を攻略すれば勝てる――
――ある意味で当然ことを言い放ったに対し、鬼道はどこか呆れたような様子でため息をついた。
の言い分は最もなのだが、その攻略法がわからないからこそ鬼道たちは困っている――わけで、
それを知っていながらあのセリフをが言ったからこそ、鬼道は呆れを含んだため息をついたのだろう。
しかし、そんな鬼道の内心など、もわかっているわけで――不意にニヨリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「あらやだ。こちらわかっていらっしゃらないようですよ――不動司令?」
わざとらしいの声に不動が噴出し、それに反応してか鬼道たちの視線が一斉に不動に向く。
鬼道たちの視線を一身に浴びた不動の背にはこの上なく迷惑そうな、
不機嫌そうなオーラが漂っている――が、だからといってがそれに怯む道理はない。
さてどう返してくるのか――と、楽しみにしていると、不意に不動は引きつり倒した笑みをに向けた。
「今のアンタの急なフリで、策が飛んじまったよ」
「あら、意外と繊細なのね、不動くんの脳味噌」
「悪いねェ、アンタのみたいに毛だらけじゃねーんだ」
不動にフリをかわされ、逆に振られる格好となった。
しかし、その程度は想像の範疇で、さらりと嫌味を返せば、更にそれに不動もさらりと戸惑った様子もなく嫌味を返した。
穏やかだが重い空気を纏いにらみ合いを続けると不動。
これは誰が見ても嫌味の押収合戦がはじまろうといている――し、当人たちもそれなりにやる気はある。
しかし、外野が思っているよりも、当人たちには割とやる気はなかったりする。
要するところ、これはただの説明役の押し付け合いなのだから。
「……どちらでもいいから説明しろ」
ほとんどのメンバーがと不動のやる気の程のを理解していない中、2人にやる気が無いことを読んでいたのは鬼道。
おそらく、2人にやる気が無い――と感じたというよりは、のやる気の無さを鬼道は感じ取ったのだろう。
鬼道もまた、との嫌味の押収戦を演じられる人間の一人なのだから。
しかし、たとえそうだとしても――鬼道にこの2人の相手は荷が重いようだった。
「いやねぇ。わかっていないのに命令形?」
「教えてもらうんなら、相応の頼み方ってもんがあるんじゃねーの?鬼道クン??」
「お前ら……ッ…!」
鬼道が口を開いたと思ったら、先ほどまでの睨み合いはどこへやら――あっという間に協力体制をとったと不動。
その変り身の早さは見事というほかなく、端から鬼道を責めるためだったのではないか――と思うほど。
だがあくまでこれは、と不動のその場の利害一致による変り身――端から鬼道をどうにかしようと思っていたわけではない。
…まぁ、2人とも前半戦の鬼道に対して思うところはあったかもしれないが。
「――不動、お前がわかっているならお前がどうにかして見せろ」
「!」
「久遠監督…」
不意に、厳格な声と共にイナズマジャパンの控え室に入ってきたのは久遠。
思いがけない人物の登場に全員が驚いている――が、それをたちの比ではない勢いで、
久遠は無視して、およそ一間も空けずに「御麟」との名を呼んだ。
「ミーティングを始める。円堂を連れて来い」
久遠の指示を受け、円堂を探して控え室を出た。
そう、前半戦が終わって以来、円堂は控え室に戻ってきていなかったのだ。
「(円堂の必殺技が重要――ではあるけど……)」
毎度――と言えば毎度の、必殺技うんぬんで悩んだ時の円堂がチームの輪から離れる、という行動。
まぁ、チームメイトと一緒にいたからといって名案が浮かぶわけでもなし、
寧ろ、シュートブロックができる仲間がいるという心のゆとりが円堂の成長の妨げになる――という可能性もある。
外的プレッシャーを糧に、飛躍的な成長を遂げる円堂だけに――これでいいのかもしれないのだが。
「(なーんか、好きになれないのよねぇ……)」
「おい、嬢ちゃん」
「ッ!?」
アレコレと考えていたに、不意に声がかかる。
急に声をかけられた――それも確かに驚きではあるのだが、が何より驚いたのはその声は、
が1mmたりとも考えていなかった人物の声(モノ)だったからだ。
「(円堂…大介――さんっ…?!)」
振り向いた先にいたのは黒いズボンに、青緑のジャケット、
そして不揃いの白髪を無理やり整える赤いキャップを被った老人。
以前、円堂が特訓用のタイヤを譲ってもらった人物であり、
イタリアエリアからたちをイナズマジャパンの宿舎まで送ってくれた人物であり――円堂の祖父・円堂大介だ。
孫の初陣――と思えば、大介がこの場に来ていても何の不思議はないのだが、
如何せんパニック状態の今のの思考では、現状を呑み込むだけで精一杯だった。
「…なーにをそんなに驚いとるんだぁ?」
「いっ、いえ…っ、ま、まさかここで、出場国以外の監督に声をかけられるとは思っていなくて……」
「ほう、お前さんワシが誰か知っとったのか」
「…いえ、あの時は確信まではなくて……後日調べて知りました。
――今更ですが、先日はキャプテンのことをも含め、ありがとうございました」
「なに、そんな畏まらんでいい。
これも縁だからな――ああそうだ、お前さんとこのキャプテンがそこに突っ立っとるぞ」
キャプテンが突っ立っている――
――円堂が突っ立っていると言われ、思わず赤キャップの男――荒矢の指す方に視線を向けた。
しかし通路の構造上、のいる位置から円堂の姿を見ることは無理らしく、円堂の姿を見ることは敵わなかった。
無意識に視線を元に――荒矢の居た方向に戻してみれば、今度は荒矢の姿が見えない。
思わず慌てて辺りを見渡してみれば、荒矢はが今来た道へと進んでいた。
こちらも向かず片手でヒラヒラと手を振り「じゃあな」と去って行く荒矢に、
は丁寧に「ありがとうございます」と言って頭を下げる。
が頭を下げてから十数秒が経過したところで、は頭を上げ荒矢に言われた方向へと歩き出す。
すると、数十秒も歩かない内に――
「――円堂」
「御麟?」
「ミーティング、はじめるわよ」
「あ、ああ…」
円堂に声をかけたに返ってきたのは、この上なく歯切れの悪い円堂の返事。
だがそれも、冷静を取り戻したの思考であれば、ある意味で想定内のことだった。
「歯切れが悪いわねぇ」
「ぇ、あ……わ、悪い…っ……」
「別に責めてはないわよ」
やや冷たく突き放つような言い方をしている――が、はなにも円堂を責めている訳ではなかった。
円堂と荒矢が接触した――のだから、そこでなんの波紋も起きずにことが済むなどとはも一切思っていない。
寧ろ――起きてくれた方がありがたいといえばありがたい。
その波紋は、円堂(・・)の原点ともいえる存在(モノ)が起こした波紋なのだ。
それを乗り越えられれば――おそらく、円堂は今の自分を大きく越え、成長するに違いないのだから。
思わずニヤつきそうになる頬を自ら正し、は円堂にそれが知れる前にきびすを返す。
そしてそのまま控え室へと戻ろうとする――が、
「ん?」
それよりも先にを引きとめたのは円堂の手。
無意識に振り返ってみれば、難しい表情をした円堂がの顔を見上げていた。
「止められないなら、止めなければいい――…そう、言われたんだ」
「…止められないなら……、、…止めなければいい――…まぁ、ご尤もな見解ね」
「ぇええっ?!」
これでもかの言うほどにあっさりと肯定の言葉を返したに、円堂は素っ頓狂は声を上げる。
しかし、そんな声も挙げたくもなるだろう。止められないのなら、止めなければいい――
――これは結局、止められないシュート――エドガーの必殺シュートを止めることを諦めろということなのだから。
「あっ、諦めろっていうのかよ!??」
「私なら、潔くそうするわね――最善は尽くすけど」
「さ、最善??」
「そ、最善――変な話、結果が良ければそれでいいのよ」
思ったよりも明確な円堂に対する荒矢の助言。
だが、個人としては、これは――今円堂が手にしようとしている技は、立向居こそ手にすべきモノに思えて仕方がなかった。
今更、円堂の見切り(このて)の力を伸ばすよりは、先にある剛の力こそ取り入れるべきと思うが――
「はぁ…まずは何より勝利(けっか)か」
「あのさ、なんかそれ、すっげー悪役みたいなんですけど…」
■あとがき
最近、妙に円堂さんとの絡みが多いですね(苦笑)でも、私が好きな上に、話的に円堂さんがスポットライト浴びてるようなかいでもあるのでね!(汗)
なので今後はちょっとずつ落ち着いていくかと思います(苦笑)…保障はできないけど!!
個人的に、夢主と不動さんが手を組んで鬼道さんをからかう構図が好きです(何の主張)