露呈した影山の不正。
それは、帝国スタジアムの天井に細工を施し、
試合開始早々に雷門イレブンメンバーに怪我を負わせ、
帝国の不戦勝をもぎ取ろうとするものだった。
影山の思惑通り、天井から降ってきた鉄骨は雷門イレブンを襲った。
しかし、試合を開始する直前に鬼道が円堂に送った指示によって、
雷門イレブンは誰一人として怪我を追わずにすんだ。
そして、鬼瓦の執念の捜査によって証拠を掴み、影山は警察に連行された。

 

不敵な笑みを残して――。

 

はじめから、これが終わりだとは思っていない。
寧ろ、これがはじまりだとは思っている。
この程度のことで大人しくなる影山なら――とうの昔に大人しくなっているはず。
だが、なっていないということは――影山の執念も相当のものということだ。

 

「雷門と帝国の決勝戦――中継で見ていたよ。
凄かったね、有人くんたちの気迫――と、横たわるの姿
「わ、わざわざ掘り返さなくていいですよ!!」

 

今回の影山の不正を暴くに当たっての影の功労者――
をからかうようにケタケタと笑うのは1人の男。
の怒鳴る姿がよっぽど面白いのか、その顔に浮かぶ笑顔は無邪気なものだった。
この悪意のない笑顔ほど始末に置けないものはない。
沸々と湧き上がる怒りを何とか押し止めながら、なんとかは平静を装う。
相手に対する礼儀――ではない。
相手の策略に落ちないために、冷静な思考を保っておかなくてはいけないからだ。
緊張した様子では黙っていると、
不意に男――『会長サマ』がフワリと笑った。

 

が蒔いた種だ。育てるも、枯らすも――お前の自由だよ。
もし、協力を求めるなら、等価たるモノさえ提示してくれればいくらでも協力するからね」
「……ありがとうございます…」
「俺は――表じゃ派手に動けないからさ」

 

ニッコリと微笑む男にはキョトンとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第18話:
私とキミたちの「目標」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地区大会決勝戦。
雷門と帝国の試合は見ごたえのある実にいい試合だった。
――一般的には。
もいい試合になるだろうと思っていたし、いい試合だと思った。
だが、の体は正直と言うか、正確なようで、試合開始から20分前後で視線がぐらつき、
前半戦後半では雷門側のベンチに横たわっている始末だった。
後半戦で円堂が本調子に戻ってからは、やっとも復活できたが、
勝利に沸く面々の輪に入っていける気力は皆無だった。
まったく解消されていないの素人サッカーへの拒否反応。
それが物語るところは、雷門イレブンのサッカーを本気では認めていないということ。
意識下では認めているつもりなのだが、
無意識下――の基準から見れば、彼らのサッカーのレベルは認められないようだ。
自己防衛のために身についた体質とはいえ、
我ながら面倒な体質になってしまったと今更ながらため息をつく。
かつてのスタンスであれば、
この体質は才能のある選手の選別のために一役買っていたが、今は見る選手の選り好みはできない。
天才だろうが凡人だろうが、雷門イレブンに所属する選手すべてを、は見ていかなくてはならない。
――となると、この体質はの寿命を縮めかねないのだ。

 

「(寿命を延ばすためにも…円堂たちには強くなってもらわないとね……)」

 

未だ無邪気に勝利に沸く雷門イレブン。
個人としては、現実を見て欲しいところなのだが、
とりあえず祝勝会が終わるまではその言葉を飲み込んでおくことにしていた。
廃部寸前だったサッカー部が、ここまでの大業を成し遂げたのだ。
これぐらいで収まっているのは、まだ可愛い方なのかもしれない。
考えれば、考えるほど凄い。あんなプレイをしていた面々が――

 

「お、おい!?御麟!!?」

 

突然、雷雷軒の厨房でフラリとぐらついた
と一緒に響木の手伝いをしていた円堂が、
慌てて支えてくれたおかげで大事には至らなかったが、
円堂がいなかったらおそらくは材料の内の何かをぶちまけていただろう。
支えてくれた円堂に「ありがとう」と礼を言い、は自らの力で立つ。
心配そうに自分を見る面々に「大丈夫よ」と言葉を返して、止めてしまった作業を再開した。

 

「大丈夫かよ御麟。体調悪いなら――」
「大丈夫って言ったでしょ。ちょっと嫌なもの思い出しただけよ」

 

まだ心配する円堂にきっぱりと問題ないと断言し、は慣れた様子で材料を切っていく。
これ以上変につっこんでは大変なことになりそうな予感のした円堂はそれ以上、聞くことはしなかった。
しかし、不意に思い出した場面で聞いた合点のいかない言葉が気になった円堂は、
不思議そうな表情を浮かべてに「なぁ」と切り出した。

 

「御麟と鬼道って知り合いなのか?」
「「「ええぇぇぇえぇ!?!?」」」
「なっ、おい円堂!それ、どういうことなんだ!?」
「鬼道が『にも感謝しないとな』って言ってたんだよ。
確か…御麟の名前ってだよな??」

 

雷門サッカー部全員+響木の視線がに集中する。
またしても集まってしまった注目に、
は居心地が悪そうな表情を見せると、ため息をついてから円堂の質問に答えた。

 

「ええ、私の名前は。――で、鬼道とは友達よ」
「……そういや鬼道さん、雷門の情報には別ルートがどうこうって…」
「まさか御麟!お前、俺たちの情報を…!?」

 

土門の台詞を聞き、染岡が血相を変えて声を上げる。
他のメンバーも不安そうな表情でを見ているが、
は一切表情を変えずにはっきりと真実を口にした。

 

「話したわよ?客観的な感想やちょっとした情報はね。
でも、普通のことでしょ?自分の学校のサッカー部の印象や傍からでもわかる情報を教えるくらい」
「けどなぁ、正式に入部してないとはいえ、お前は俺たちのアドバイザー――」
「アドバイザーになってからはなんの情報も与えてないわよ。
一応言っておくけど、縁があってアンタたちの近くにいたけど、私はあくまで部外者だったこと、忘れないでちょうだいね」

 

そうなのだ。
なにかとは雷門イレブンの近くにいる印象があったが、
たしかについ先日まで、立ち位置的には常に部外者。
イナビカリ修練場でメンバーのデータを取ってみたり、
雷雷軒で彼らの話を聞いたりしていたが、それもあくまで部外者の立場から。
近くにいたせいか、なんだか仲間にも近い感覚を持っていたが、
がアドバイザーになったのは極々最近のことだ。
内部のものが情報をリークしたとなっては問題だが、
外部のものがリークしたとなると多少話は変わってくる。
しかもの場合、円堂たちよりも鬼道と仲が良かったようなので、
染岡もを責めるに責められなかった。

 

「まぁ、今後は内容考えて話すから心配しなくていいわよ」
「話すことには変わりないのか」
「代わりに帝国の情報もらってくるから、勘弁してよ」

 

やや厳しい表情で指摘してくる豪炎寺に、は苦笑いを浮かべて勘弁して欲しいと言うと、
豪炎寺は「好きにしろ」と言葉を返して、再度餃子に箸を延ばした。
この豪炎寺の様子を見る限り、の言う「話す」の意図を理解したらしい。
理解の早い豪炎寺には「ありがたや」と思いながら、餃子の餡作りを始めた。
――しかし豪炎寺と違い、の真意の理解が遅い他の雷門イレブンの目には疑るような色があり、
説明しないことにはずっと不信感を抱かれそうな雰囲気になっている。
信用を得なくともアドバイザーとしての仕事はいくらでもこなせるが、
常にこんな視線を受けていては不要なストレスばかりが溜まる。
それは勘弁願いたいは、ため息をついて簡潔に言葉を返した。

 

「友達とサッカーの話するぐらいいいじゃない」
「それは……そうだけどよ…」
「そもそも私が会うのは、帝国キャプテンの鬼道じゃなくて、ただの鬼道有人。
しかも、情報のやり取りをしにいくんじゃなくて、遊びに行くんだけなんだけど」

 

サッカー部に関する情報のやりとりをするために鬼道と会うわけではないとことをはっきりと告げると、
一番に食って掛かっていた染岡が口篭る。
彼の失速によって雷門イレブンのへの不信感も薄れ始め、
最後に染岡がやや不満げながらも「わーったよ」と言ってが鬼道と会うことを承認した。
一応程度に「どうも」とは染岡に礼を返したが、
やはりなにか符に落ちないようで、むすっとした表情を浮かべている。
しかし、それをいちいち取り合ってくれるほども暇人ではなく、
混ぜ終わった餡を餃子の皮で包む作業を始めた。

 

「話は変わるけど、他地区大会の優勝校は決まったの?」

 

作業の手は止めずは春奈に視線を向けると、
春奈は「えーと…」と声を洩らしながら自分の頭の中からへの答えを探す。
ポッと答えが見つかり、春奈は笑顔でを見ての質問に答えを返した。

 

「うん、全地区大会が終了したから決まってるよ。…でも、『推薦招待校』はまだ決まってないみたい」
「…そう。春奈、全国大会の出場校をリストアップしてメールで送っておいてくれない?名前だけでいいから」
「うん、任せて!」

 

の頼みに春奈は笑顔で応えると、も笑顔で「ありがとう」と春奈に礼を言う。
すると、の後ろから響木がからかうように「やる気だな」と声をかけてきた。
からかわれている事など百も承知なわけだが、
響木の言うとおりは柄にもなく雷門イレブンのサポートにやる気を出している。
でなければ、わざわざ春奈に全国大会の出場校のデータを送って欲しいなど言うわけがない。
否定するにも否定できない状況だが、
響木のからかいを無効にして、自分がからかう側に立つことはできる。
ニヤリと笑っては響木に「もちろんですよ」と切り返した。

 

「この間の決勝みたいなことは――もう勘弁ですからね」

 

雷門イレブンメンバーの額に青筋が走ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 やっとこ地方大会が終わりましたー!長っ!マジで長っ!
でも、真面目に書いていたらもっと長くなっていたことは確実です(汗)
個人的に夢主の立ち位置は間違っていなかったように思います。文章量的に(笑)
これからは部活や試合の部分にも顔つっこんでいかなくてはならないので、
ちょっくら厄介なことになりそうです(苦笑)試合の描写とかはしないつもりですが!(ヲイ)