ディスプレイに映し出されているのは、
FF全国大会に出場する事が決定している各地区大会で優勝した学校の情報。
すべての学校の情報を並べてみてみるが、
どの学校の情報を見てみてもの警鐘は響かなかった。
おそらく、どの学校も実力的な部分では雷門イレブンにとって脅威となるだろう。
だが、が気にしていることはそれではなかった。
未だに埋まらない推薦招待校枠。
何も分からないからなのか、本能的に何かを感じ取っているのか――
それはわからないが、この未だに埋まってすらいないこの白枠を見る度にの警鐘は鳴り響く。
それはもう、頭が痛くなるくらいに。

 

「…はぁ〜……毎日毎日頭痛い…」
「自分から仕掛けておいてなにを言っている」
ぅひゃあぁ!?

 

不意に背後に増えた気配に思わずは飛び上がる。
しかし、が飛び上がった原因はまったく自分に非があるとは思っていないようで、
飛び上がった勢いでイスから落ちて床に尻餅をついているに、若干呆れたような視線を向けていた。
その視線を受けたは苛立ちを隠そうともせず、
自分を見下ろす暗い紺青色の髪を持つ青年を睨んだ。

 

「気配を消して現れないで――って何度も言っているはずなんだけど」
「お前の言葉に従う義務はない」

 

確かに。
彼がの言葉に従う義務はない。
彼はの従者でもなければ後輩でもなく、ましてや部下というわけでもない。
寧ろ、彼の方がよりも偉い立場にいるのだ。
目上の者が目下の者の言葉に従うのはおかしい話。
だが、人が嫌がることをするなと言っているのに、やるのは人としておかしい話だ。
色々との頭の中で青年への悪態がズラズラとでてくるが、
不意に彼が延ばして来た手に思わず毒気が抜かれてしまった。

 

「…お説教なら間に合ってるわよ」
「だろうな」
「……ならなんなの」

 

素直に言葉が返せず、不機嫌を装いながらはぶっきらぼうに青年に言葉を投げる。
青年はの心の内を理解しているようで、少しも表情を変えずに一言だけ言った。

 

「俺はお前に協力する」

 

思っても見なかった青年の言葉にはきょとんとした表情を見せる。
「どうして?」と尋ねたかったが、驚きのあまりに口から言葉を出すことができず、
はただ青年を呆然と見つめるしかできなかった。
滅多に見ることのできないの間抜けな表情を見た青年は、
薄っすらと笑みを浮かべると、何も言わずに去って行く。
彼に笑われたことにより、の思考回路が再起動し、
は「なに笑ってるのよ!」と青年に向かって怒鳴るが、青年は聞こえない振りをして部屋を出て行った。
ぽつんと部屋に残されたは、
複雑な表情を浮かべて「あーもう…」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第19話:
「伝説」のイナズマイレブン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イナズマイレブンと練習試合……ねぇ?」

 

果てしなく興味がないといった様子で呟くの視線の先には数人の中年男性たちが立っている。
全員がサッカーユニフォームを身に着けているが、
どことなくサッカーのユニフォームを着る彼らの姿には違和感があった。
いつもと違う姿の人間を見ると、大抵興味を抱いたりするものなのだが、今のにそれはない。
それどころか、の興味は底辺を突き抜けて未だに低下中だった。
心の中で酷い試合になるだろうなぁ〜と思っていると、
やや不機嫌そうな夏未がの横に腰を下ろした。

 

「……は、場寅がイナズマイレブンだと知っていたの?」
「ええ、知ってたけど」
「………」
「そ、そんなに睨まなくたっていいでしょっ。
大体、最近まで夏未サッカーになんて興味なかったし…!」

 

自分の家の執事がイナズマイレブンだと知らなかった夏未。
それほど雷門家の執事――場寅と親しくもないのに、彼がイナズマイレブンであったことを知っている
面白くなくて夏未がを睨む気持ちも分かる。
だが、仕方ないではないか。
ここ最近までサッカーに少しの興味も持っていなかった夏未と、
幼い頃からサッカーに慣れ親しんでいたの間に、
サッカーに関する情報量に大きな差が生じてしまうことは。
そうは夏未に説明するが、それでもやはり夏未は少し不機嫌そうな表情をに向けている。
だがおそらく、未だに不満があるというわけではなく、
納得はしたが素直に納得するのが悔しいような恥ずかしいようなでムスッとしているだけだろう。
そんな夏未を下手に弄った日には、痛い目にあうことは確定なので、
はそれ以上夏未に触れることはせず、視線を自分の横に置いてあるバッグに移すと、
バッグの中から超小型のPCを取り出した。

 

「まともな試合になるのか……いささか不安ね」

 

中年男性と中学生。
おそらく、大人にはパワーが劣るだろうが、スピードとスタミナ。
そして、現役の勘がある分、雷門イレブンが試合を有利に進めることができるだろう。
伝説のイナズマイレブン。
しかし、それも今は伝説としてのみ語られる過去の産物。
イナズマイレブンの全盛期と、今の彼らを知っているからこそ、は不安だった。
輝きも、覇気も、誇りすらも失った彼らから、
雷門イレブンが学べるものがあるのかと。
過去を乗り越え、
再度サッカーと向き合うようになった響木からは学ぶものも多いだろう。
今の響木はただのラーメン屋の店主ではない。
今の響木は、イナズマイレブンのキーパー――響木正剛だ。
だが、それ以外のメンバーは全員――元イナズマイレブンのメンバーたちだ。

 

「……雷門家の人間として恥ずかしい…」

 

ポツリと洩らした夏未の言葉に不意に現実に引き戻され、はイナズマイレブン側のゴール付近に目をやる。
そこにはフィールドに尻をついて苦笑いを浮かべながら響木に謝っている場寅がいる。
状況から察するに、場寅がなんらかの失敗――おそらくはクリアミスをしたのだろう。
執事のミスは雷門家の落度――故に夏未はため息をついたのだろう。
頭を押さえる夏未を尻目に、は視線をフィールドからPCの画面へと戻した。
かつてのイナズマイレブンのプレーであれば、いくらでも見ていられたかもしれないが、
今の彼らの試合など見ていられるわけがない。
自分を守るためにも、の選択は賢明なもののはずだ。
そのの選択を肯定するかのように、
あたりを取り巻く空気と人々の口から漏れる言葉は間違っても活気のあるものではなかった。
本当に雷門イレブンにとって、実りの可能性が見込めない試合であれば、
はじめからはこの場所に足など運んでいない。
雷門イレブンにとって、実りの可能性が少しでも見えているからこそ、はこの場所に居た。
今の元イナズマイレブンのメンバーたちでは絶対に得られるものなどありはしない。
だが、全員が響木のように覇気を取り戻せば――
雷門イレブンは多くの実りを手にする事ができるだろう。

 

「(けど、一度消えた闘志に再度火を灯す――なんて、簡単じゃないのよね……)」

 

寝ても覚めてもサッカー漬けだった人間が、挫折によってサッカーをやめた。
それは、轟々と燃えていた炎に水がかけられた――再度、火を灯すのは困難な状態といっていいだろう。
だからこそ、イナズマイレブンが再起する可能性は極めて低い。
期待するだけ無駄――と思うところだが、
ゼロに近い可能性を100に近づける要因が二つあった。

 

「こんな魂の抜けた試合して、
おじさんたちが大好きだったサッカーに対して恥ずかしくないの?!」

 

元イナズマイレブンの浮島に強い口調で言い放ったのは円堂。
彼の目に宿っている怒りは、自分が思っていたイナズマイレブンと戦えなかったことではなく、
浮島たちが適当なプレー――覇気のかけらもないプレーをしていることへの怒りが見て取れた。
が円堂が浮島たちの闘志に火をつける可能性を見出したのは、
円堂が浮島たちの師である円堂大介の孫だから――ではない。
ただ単に、円堂の真っ直ぐすぎるサッカーへの情熱が、
彼らの挫折によって湿気ってしまったサッカーへの闘志を、
再度火の灯る状態へと変えてくれるのではないか――と思ったからだ。

 

あれほど頑なだった響木を、
サッカーの世界へ引き戻したように。

 

しかし、たった一人の少年の言葉で再起するようであれば、とっくの大昔に彼らは再起している。
最終的に、彼らの闘志に火を灯すことのできる存在は決まっている。
同じ栄光と挫折を味わった――仲間だけだと。

 

「お前たち!何だそのざまは!」

 

すっかり諦めムードの漂っていた元イナズマイレブンのメンバーに檄を飛ばしたのは響木。
驚いた様子を浮島たちは見せていたが、真剣な響木の様子に無意識のうちに黙って響木の言葉を聞いていた。

 

「俺たちは伝説のイナズマイレブンなんだ。
そしてここに、その伝説を夢に描いた子供たちがいる!俺たちにはその思いを背負う責任があるんだ!
こいつらの思いに応えてやろうじゃないか!本当のイナズマイレブンとして!」

 

稲妻のように浮島たちの心に走った響木の言葉。
それは、あっという間に「元イナズマイレブン」を本物のイナズマイレブンへと変えた。
彼らの目に灯る闘志は並みのものではない。
それは、流石イナズマイレブンといったところで、の体にゾクリと何かが走った。
復活したイナズマイレブンのメンバーが見せるのは、
見事なテクニックとチームプレー。そして、数々の技だった。
次々に披露される技の中でも特に目を引いたのは、
浮島と備流田の二人によって放たれたシュート――炎の風見鶏。
初回は円堂が反応しきれずボールに触れる事すら叶わなかったが、
ゴッドハンドで止めたら――と想像すると思わず楽しくなってしまう。
早く二本目を打たないかなーとが思っていると、
円堂が審判を勤めている鬼瓦に突然タイムを要求していた。
思わず心の中で「サッカーにタイムないし」とつっこんでしまったが、
ふと円堂の行動の意図が読めると、また楽しい気分になってきた。

 

「あった!炎の風見鶏だ!」

 

秘伝書を手に浮島たちが使った技を自分たちのものにしようと、円堂たちは輪を作って話し合いを進めている。
その話し合いの輪には加わることはせず、ベンチからその様子を見守っていた。
興味がないというわけではないが、率先的に彼らにアドバイスやらをしていくつもりはない。
あくまで、求められれば応える――そのスタンツでいくつもりではいた。
大々的には動けない――そんな事情があるの横に、なんの事情もない影野がいる。
彼は土門の加入によってベンチ入りする事になった控えの選手。
基本的に交代などしないので自分は試合に出られないし、
もしくは自分は技に絡まないから――話に加わる必要はないとでも考えているのだろう。
残念なものの考え方には心の中でため息をつく。
自分の才能も限界も知り得ていないというのに――自分の可能性を潰している影野。
自分の評価が期待に至るかうんぬんではなく、は勿体無いと思った。

 

「…なんで話に加わらない?」

 

不意に声が聞こえて反射的に声の聞こえた方に視線を向けると、そこにいたのは浮島。
彼の顔を見て自分にかけられた言葉ではないと早々には理解すると、
何も言わずに影野との距離を置くと何事もなかったかのようにPCに視線を戻した。
影野との間に腰を下ろした浮島は、
影野に控えだからといって気を抜くなと教えていた。
サッカーはピッチの11人で戦っているわけではない。
いつでも交代できるように体も心も準備しておかなくてはいけない。
――いつかその存在を示すために。
浮島の言葉を聞いた影野の雰囲気が変わる。
炎の風見鶏を放てるような浮島がかつて控えの選手だった。
それは今控えの選手である影野にしてみれば、希望の光にも見えただろう。
「亀の甲より年の功」そんな言葉を思い出し、は心の中で笑みを浮かべる。
やはり、イナズマイレブンは偉大な存在だ。
こうも簡単に雷門イレブンの可能性を広げたのだから。

 

「(らしくもないわね……羨望なんて…ね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 ビックリするくらいキャラとの絡みが少ない話でしたね!
まともに絡んだのは夏未お嬢様だけですよ!…オリキャラとも絡みましたが。
このオリキャラは次回も絡みますよー。つか、FF編が終わるまで時々出てきます。
エイリア編でもちょっくら顔出すと思います。個人的に一番顔出すのはFFI編だといいなと考えてます。
FFI編では立場と周りが面白おかしいことになるので、ギャグでネタ生産したいです。
ああっ…!早くFFIネタで遊びたい…!!でも、無理だ…!!