繋がらないパス。
決まらない連携技。一瞬は不調なのかと不安に思ってしまうが、体調不良が原因ではないだろう。
その証拠に、新たな技を習得したものがいる。
技を習得するには万全の体調で挑まなければ習得はできない。
それを考えると、雷門イレブンのメンバーがミスを連発しているのは、体調不良が原因ではないはずだ。
――かといって、精神的な不調でもない。
次に試合をする事になった千羽山中は、これまで一点も得点を許していない、
無限の壁と呼ばれる鉄壁の守りのディフェンス技を要する強敵。
確実に気を許して勝てるような相手ではない。
それをメンバーは重々承知している以上、気が緩んでいるということはないだろう。
「…気合が空回りしてるわけでもないのよねぇ」
雷門イレブンの練習風景を眺めながら困ったような笑みを浮かべてそう言う。
この不穏な空気の中、笑みを浮かべたことにぎょっとしているのか、
秋たち――雷門サッカー部マネージャーたちの視線が一気にに突き刺さった。
「、あなた原因が何か分かっているの?」
「それはもちろん。これぐらい分からないとアドバイザーは勤まらないわよ」
「あの、御麟さん。みんなの調子がおかしい原因って……」
に集まる注目。
居心地が悪いわけでもなく、自分の仮説を確認するようには、
秋たちに向けていた視線を再度グラウンドで練習に励んでいる雷門イレブンに向けた。
相変わらずパスは通っていないし、
連携技――豪炎寺と染岡のドラゴントルネードもいつもの威力から比べるとかなり劣る出力。
「ああ、やっぱり」とは心の中で確信すると、
秋たちに視線を戻して彼女たちに答えを返した。
「イナビカリ修練場で向上した実力をまだ自分のものにできていない。
それに加えて相手の実力に関しても情報が古いままで相手の能力を把握できていない。
結果、すべてのタイミングがずれる」
「だから、パスも連携技も上手くいかないんだ…」
「…ま、それとは別に雷門イレブンには致命的な欠点があるんだけどね」
そう言い残しては春奈たちに背を向ける。
後ろで彼女たちが自分を引き止める声が聞こえる。
だが、あえては聞こえないふりをして振り向くことはしなかった。
欠点――欠いているものを指摘したところで、それはただの無いものねだりだ。
まぁ、近々調達できるかもしれないチャンスはあるが。
「みんなー!気合入れていくぞー!」
仲間たちを鼓舞するように声を上げたのは雷門イレブンのキャプテン――円堂。
彼のこの気合と情熱のおかげで幾多の危機的状況を雷門イレブンは打破してきた。
が、世の中、気合と情熱、それに加えて根性だけで渡っていけるものではない。
時に力押しではどうにもならないこともある。
千羽山戦うんぬんではなく、チームのタイミングを正すためには、
冷静にチームを見る必要があるはずだ。
「(このチーム……、司令塔がいないのよねぇ…)」
ゲームを組み立てるゲームメイカー――司令塔の欠如。
それが、の思う雷門イレブンの最大の欠点だった。
第22話:
夕日と河川敷のデジャブ
同じ穴の狢。
そういうことなのだろうか?
必要と思ったのか、その境遇への同情――
それとも、過去の自分への嫌悪感なのかはわからない。
色々と想像してみるが、正直彼を動かした原動力など案外どうでもいいことだった。
自分が口で説得するよりも、彼に任せた方が確実に分かりやすくて手っ取り早い。
やはり、同じフィールドに立つ人間でなくては分からないことというものがある。
ぐたぐたと御託を並べて自分が説得するよりも、
彼が手を打ってくるというのなら、彼に任せた方が誰にとっても最良だ。
「…なんだ」
「だってねぇ〜、豪炎寺がわざわざ立ち上がってくれるとは想像してなかったから」
ニコニコと笑顔を浮かべて夕日に染まった道を歩く。
そのの横に豪炎寺は立っており、同じく夕日に染まった道を歩いていた。
上機嫌なと、やや不機嫌そうな豪炎寺。
目的地は同じで、目的も大体同じだが、2人はたまたま出会っただけ。
なんのやりとりもなく、本当にただの偶然で行き会い、こうして同じ道を歩いていた。
「類は友を呼ぶってことなのかしらね」
どういう意図でがその台詞を選んだのかは豪炎寺には分からない。
だが、どんな意図にしてもの言葉は間違っていないように思えた。
豪炎寺自身、最近になってだが、近いものがあるように感じていたことは確かで。
同類意識があるからこそ、わざわざこうして歩いているのだろう。
――なら、自分の隣を歩く少女も、自分と同じ思いなのだろうか?
「お前も――俺と同類か?」
「半分はね。でも、もう半分は雷門を勝たせるため。――自分の義務を果たすためよ」
寂しさを含んだ苦笑いを浮かべては豪炎寺に答えを返した。
義務。そんなものにはない。
正式なアドバイザー――仲間ならば、義務と言っても違和感はない。
だが、は外部の人間だ。
そんな彼女に、雷門を勝たせなくてはいけないという義務は発生するわけがない。
だというのに、彼女は雷門を勝たせることを義務だと言った。
その言葉から導き出される真実は、
彼女と自分たちの間に存在する一線を明確にするものだった。
「敵の敵は味方。味方の味方は味方よ。気楽に共同戦線と参りましょう?」
一線を引いているのは彼女の方なのに。
それをまったく気にした様子もなくは笑う。
本当に自分勝手なヤツだと豪炎寺は心の中でため息をつく。
だが、自分勝手なヤツだと分かった上で付き合っている。
今更腹など立つわけもないし、振り回されることを苦痛にも思わなかった。
「ああ」と豪炎寺が同意の言葉を返せばはこの上なく満足げな笑みを見せる。
自分の思う通りに豪炎寺が動いたから――ではない。
自分の意図を汲んで豪炎寺が動いてくれたことが嬉しかったのだ。
やはり彼はいい。
言葉を使わずとも、通じるものがある。
それがにとっては何よりも心地が良かった。
それ以上言葉を交わすことも無く、豪炎寺とは歩みを進める。
歩き慣れた道を進み、たどり着いたのはいつもの鉄橋。
鉄橋から下を見下ろせば、いつも使っていた河川敷のグラウンドが見えた。
オレンジ色の夕日に染まったグラウンド。
それをは感慨深く見つめた。
いつも、このグラウンドではドラマが起きる。
良いドラマも、悪いドラマも。
今回は良いドラマが生まれるはず――
そう思いながらは、言葉を交わしている兄妹――鬼道と春奈に目をやった。
「(あれでいて、熱くなると周り見えなくなるのよね…。あ゛〜…やっぱり同類ね……)」
おそらく、鬼道に慰めの言葉をかけたであろう春奈。
しかし、鬼道の表情はまったく穏やかではない。
それどころか悔しさに歪み、怒りの色すらあるように見えた。
冷静さがウリのはずの鬼道。だが、今の彼にその影は無い。
いつだったかの自分を見ているようでは思わず苦笑いを浮かべていると、
不意にほぼ自分の真横を何かが猛スピードで通り過ぎていった。
考えずとも理解できる真相故に「オイ」と文句を言いたくなったが、
鬼道の蹴りによって戻ってきた何か――サッカーボールには仕方なしに言葉を飲み込んだ。
サッカーボールを持って自分の横を通り過ぎていく豪炎寺に、
は不満を含んだ視線を向けるが、豪炎寺は気にしていない。
というか、のことなど既に眼中にないようだ。
想像していた展開ではあるが、こうもあっさり無視されてはやはり面白くない。
だが、この場面で意味もなく自分を優先して全てがおじゃんになっては困る。
踏ん切りをつけるようにはため息をひとつつくと、黙って豪炎寺の後に続いた。
「豪炎寺先輩!お兄ちゃんは別にスパイに来たわけじゃないんです!本当です!」
必死になって兄――鬼道は何もしていないと豪炎寺を説得する春奈。
確かに、なんの前置きもなしにファイアトルネードを放たれては、
鬼道に対して敵意があると思われるのも当然だ。
人のことを言えた立場ではないが、
心の中で「何か言おうよ」と言葉が大分足りない豪炎寺にツッコミを入れる。
だが、実際には豪炎寺の行動へのフォローも入れず、は黙って事の成り行きを見守っていた。
黙って2人の少年を見守りながら、
再度は人のことを言える立場ではないと再確認した。
「豪炎寺先輩!」
必死に豪炎寺を止めようとする春奈だが、彼女の制止は豪炎寺にはまったく意味を持っていない。
それに、鬼道の方も春奈の制止を必要とはしていないだろう。
不安な表情を浮かべて豪炎寺と鬼道を見る春奈。
そんな春奈を見たは苦笑いを浮かべると、安心させるようにぎゅっと後ろから抱きしめる。
驚いた様子で春奈はを見るが、はただ笑顔を浮かべるだけで何も語ろうとはしなかった。
豪炎寺とも鬼道とも親しいが笑顔を見せている。
おそらく安心してもいい。しかし、そう簡単に安心などできるはずがない。
豪炎寺と鬼道の間に流れる空気はあまりにも張り詰めすぎているのだから。
「こい」
「…ああ」
春奈の願いも届かず、豪炎寺と鬼道はグラウンドへと下りていく。
その途中、心配するなとでも言うかのように鬼道は春奈の肩をぽんと叩く。
だが、やはり春奈の不安は拭いきれるものではなかった。
不安げにグラウンドへと下りていく実兄と先輩を見つめる春奈。
完全にグラウンドへと下り、もう自分の声は届かない――と思った瞬間、
後ろから「不器用よねぇ」という暢気なの言葉が聞こえた。
「ボールを通さないと言葉が意味を持たないなんて――ねぇ?」
「…豪炎寺先輩は……お兄ちゃんと話したかった…?」
「んー…話したいというよりは、聞きたいことがあるって感じかしらね。
まぁとにかく、別に豪炎寺は喧嘩売りに来たわけじゃないわよ」
自分の想像とは大分違っていた真実に、驚きと安心感で言葉が上手く紡げない春奈。
そんな春奈の頭を少し乱暴に撫でながら、は春奈の不安を解消するように言葉を続けた。
「豪炎寺は鬼道に選択肢を提示しに来た。
それで、私はその選択肢を選んだ鬼道をサポートするためにきたの。
――鬼道にとって、悪い話じゃないわ」
「リスクもあるけどねぇ…」と心の中で言葉を付け足し、
は未だに少し不安げな表情を見せる春奈と共にボールを蹴りあう豪炎寺と鬼道を見守った。
やはりどちらも自分が期待しているプレイヤーだけある。
彼らが打ち合うボールはどれも見ていて心地がいい。
やはりここは鬼道に自分たちの提案にのってもらわなくては面白くない。
――まぁ、心配は無用だろうが。
「お前は円堂を正面からしか見たことがないだろう。
…あいつに……背中を任せてみないか」
つまりは、雷門イレブンに加わらないか?――ということ。
だが、鬼道の答えを気にするよりも先に、豪炎寺の言葉チョイスがのどツボにハマった。
豪炎寺に限ってストレートには誘わないだろうと思ってはいたが、円堂を持ち出してくるとは。
想像の範囲内ではあったが、実際に豪炎寺が言葉に出して、その言葉に鬼道が反応を示すと――
笑いを堪えることはできなかった。
「お姉ちゃん…??」
「プフっ…!やっぱり円堂は凄いわね…っ。………くふふふふ…っ!!」
改めて実感した円堂が持つ他者を動かす影響力。
そして、その影響力にどっぷりとはまってしまっている豪炎寺と鬼道。
やはり彼らも同類だ。
サッカーバカに惹かれる――サッカーバカだ。
豪炎寺も鬼道も――バカ。
それがの頭の中をぐるぐると回り、そう簡単に笑いのるつぼから逃げられそうにない。
痛くなってきた腹部に、そろそろ落ち着かなくては――そう思ったときだった。
不意にの両肩がガシリと掴まれた。
「「いつまで笑っている御麟()」」
「ッ!!」
完全に不機嫌な表情での肩をガシリと掴んだ豪炎寺と鬼道。
だが、それも当然。
この場面でが笑っているのは、確実に自分たちが原因だという確信がある。
――同類故に。
「なっ、そ、そんなに怒ることないじゃないっ。結構堪えたのに!」
「笑っていることに変わりないだろう」
「ああ、俺たちは笑っていること自体に腹を立てているんだ」
「――なら、堪えず大声で爆笑すればよかったわ」
3人の間に流れていた空気が凍りつく。
軽く氷点下を下回った空気に、どうにかしなくてはと春奈は思うが、
どうすればこの空気を改善できるかまったく検討がつかずオロオロとしていると、
不意にが申し訳なさそうな笑みを浮かべて「ゴメンね」と言って春奈の頭をぽんと撫でた。
「誰も本気でなんて怒ってないのよ?単なるじゃれあいみたいなものだから」
「…も、もう!心配させないで!」
「ホントにゴメンね。でも、イラッとしたことはしたのよ――全員」
そう言っては試すような視線を豪炎寺と鬼道に向ける。
それを受けた2人はふっと笑うと「ああ」と答えを返す。
若干、また悪い空気が流れるが、この程度はたちにとって「悪い」のうちには入らない。
この空気も、彼らにとっては「毎度」の空気だ。
「さて鬼道――この間の答え、聞いてもいいわよね?」
スッと消えていったの笑み。
代わりに浮かんだのは冷静――を通り越して冷酷とも取れるほどの冷ややかな無表情。
しかし、以前とは違い、明確な答えを持った鬼道に表情の揺らぎはなく、
自信に満ちた表情で「ああ」と切り出した。
「俺のサッカーはまだ終わっていない。俺は――なんとしても世宇子中に勝つ」
「――よね」
鬼道の答えを受け、満足げな笑みを浮かべる。
その笑みを鬼道も満足そうな表情で見ていた。
鬼道が自らの意思で決断した以上――は全力でその選択をサポートするまでだ。
まぁ、もうする事はほとんどないが。
「はい」と言ってが鬼道に差し出したのは一封の大きな茶封筒。
それを受け取った鬼道は驚いたような表情を見せているが、
はそれがどうしたと言わんばかりにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「話を通すべき場所全部に話は通した。
あとは鬼道の気持ちをお父様に伝えて完了――自信を持って伝えてきなさいな」
■いいわけ
だいぶ、まともな夢小説っぽくなってきたかなーと思います。
版権キャラとの絡みは増えても、恋愛要素は相変わらず皆無ですが(笑)
でも、個人的にこんな感じの空気感が好きなわけで…。言葉のいらん関係燃えます…!
今回の話はないというより、省きすぎてるって感じですが(笑)
そんなやりとりでも、本人たちの間では成立していれば燃えるからいいのです!
……いえ、それだとただの俺得夢小説でしかないので、どうにかします…(汗)