鬼道からの指示を受け、染岡へボールをパスする一之瀬。
一之瀬からのボールを染岡はダイレクトでゴールへと叩き込む。
円堂はなんとかボールに食らいつこうと跳ぶが、
指先を少し掠った程度で、ボールは難なくゴールへと吸い込まれていった。
染岡のシュート力も評価に値するが、それよりも面々の目を惹いたのは一之瀬の見事なアシスト。
染岡や土門の褒められた一之瀬は「サンキュー!」と素直に褒め言葉を受け取っていた。

 

「よかったー。もうすっかりとけこんでいますね、一之瀬さん」

 

連携の精度を上げる練習をするために再度センターまで上がっていく一之瀬たちを
見て安心したようにそう言ったのは、グラウンドの端に設置されているベンチに腰掛けている春奈。
その横には秋が座り、後ろにはが立っている。
秋も春奈同様に一之瀬が雷門サッカー部の一員としてとけこんでいることに安心しているようで、
彼らの姿を見つめる目には安堵の色が見えた。

 

「みんな、サッカーで分かり合えるから。パスが繋がれば、気持ちも繋がるのよ」
「パスで気持ちも繋がる――か…」

 

楽しそうにサッカーの練習を続ける一之瀬たちの姿を見ていると、秋の言葉がすんなりと頷ける。
サッカーの好きな彼らだからこそ、パスが繋がって、心も繋がっているのかもしれない。
個性がバラバラな雷門イレブンも、サッカーというスポーツによってつながり、纏まっている。
だが、ここまで強固なつながりとなると、サッカーだけが理由とはいえない。
おそらく、雷門イレブンにここまで強固な繋がりをもたらしているのは――円堂なのだろう。
そんな仮説に至り、は視線を円堂に向けようとすると、
不意にの目に留まったのは羨ましそうな視線を円堂に向けている秋だった。

 

「…ちょっと羨ましいな」

 

同じフィールドで戦っている者ほど――この繋がりは強い。
長い間サッカーと向き合っている秋はそれを知っているのだろう。
羨ましいという秋の言葉が意外だったのか、春奈は不思議そうな表情で「え?」と声を洩らす。
だが、秋の独り言にも近いその言葉の真意に勘付いているは楽しげにニヤリと笑った。

 

「乙女心複雑よねぇ〜」
「!?も、もう!御麟さん!!」
「??どうしたんですか?木野先輩。…それに、乙女心って…?」
「お、音無さん!なんでもないの!なんでも!」
「みんなと同じ気持ちを共有したいのに、
男子――というかプレイヤー特有の繋がりだから羨ましいって話」

 

悪意ゼロの笑みを浮かべては春奈にそう言うと、
春奈は「なるほど!」と言って納得した様子を見せる。
「羨ましいよねぇ」と春奈に言いながら、はチラリと秋の様子を盗み見ると、
秋は少し顔を赤くしてなんともいえない複雑そうな表情でたちを見ていた。

 

「(やっぱり木野さんは可愛いわねぇ〜)」

 

そんなことを思いながらは無邪気な笑みを見せている春奈の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第27話:
素敵な理想と厳しい現実

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また、試合続行不可能での勝利――か」
「今のところ、全試合酷い有様です。
決勝戦も同じ惨状が繰り返される可能性は否めません」

 

冷静そう響木に言ったのは
噛み砕けば雷門イレブンが世宇子イレブンに敗北する――
と、は言っているも同然なのだが、響木はの言葉を否定しなかった。
それどころか、この響木の沈黙はの言葉を肯定するものと受け取ってもいいだろう。
FF全国大会における世宇子中の全ての試合を見てきたが言うのだ。
世宇子に対する情報の少ない響木がの言葉を否定できる要素はそもそもない。
もし、仮にあったとしても――完全否定はできなかっただろう。

 

「…でも、その前にまずは木戸川清修戦ですね」
「なにか気になることでもあるのか?」
「まぁ、戦力的には武方三兄弟――三つ子のFWが使う連携技が、
脅威になるとは思いますが――それよりも、豪炎寺の精神状態が少々気に掛かりますね」

 

今朝まで知らなかったが、木戸川清修中とは去年まで豪炎寺が通っていた中学なのだという。
その木戸川清修と対戦する――要するに元チームメイトと戦うことになるということ。
豪炎寺は「サッカーはサッカーだ」と、
冷静な言葉を口にしていたが、あれでいて仲間想いな豪炎寺のことだ。
思うところがまったくないということはないはずだ。
仮に、豪炎寺が本当に思うところがなかったとしても――
木戸川イレブンが黙ってはいないだろう。
栄光を目の前にして自分たちを裏切った――
豪炎寺を目の前にしては。

 

「豪炎寺が雷門イレブンに与える影響力も、円堂には及ばないながらも結構大きいですからね」
「豪炎寺は攻撃の起点だからな」
「1、2点の失点は覚悟しておかないといけないでしょうから――攻撃陣営には気張ってもらわないと」

 

強力なシュート技であるトライペガサスが、
今回の試合の切り札にはなりそうな気はする。
だが、あの技は諸刃の剣。
技の途中で妨害されたら、シュートを防がれたら――
目も当てられない結果が確定で待っているのだ。
イナズマ一号やイナズマブレイクにもいえることだが、
円堂が攻撃に加わるということは、ゴールを守る人間がいなくなるということ。
GKがいなくなったゴールなど「打ってください」と言っているようなものなのだから、
トライペガサスの失敗は、失点とイコールだと言っても過言ではないだろう。
失点のリスクを背負ってまでトライペガサスに頼るよりも――
円堂を必要としない豪炎寺たち個人の力を主軸とした方が安定した試合運びができる。
が、その攻撃の主軸になるであろう豪炎寺に若干の不安要素があるわけで――

 

「あ゛〜…雷門にもう1人GKがいれば…!
円堂がフィールドに上がればかなり攻撃的な布陣になるのに…!!」
「…円堂をリベロにか?」
「全然ありだと思いますよ?円堂、十分にキック力もコントロール力もありますから」

 

ノーリスクでトライペガサスやイナズマブレイクを打てる。
それはかなり魅力的――ではあるが、円堂以外にGKに適している人間はいないし、
今から全国区に通用するGKを育成するにはあまりにも時間が足りなすぎる。
要するに、の考えは単なる妄想――現実味に欠ける空論でしかないということだ。
だがそうは分かっていても、あまりにも魅力的な陣形に、
はどうにかできないものかと、あれやこれやと考えては見る。
――が、最後に至る結論はあまりにも分かりきったことだった。

 

「円堂以上のGKなんて――いませんよねぇ……」

 

全国区で見れば円堂に並ぶ、もしくはそれ以上のGKはいるだろうが、
雷門中という狭い区域に限ると確実に円堂レベルのGKはいない。
さすがに守りを捨てるなどという戦法は取れない以上、
雷門イレブンにおいて円堂がゴールを守るのは大前提と言うしかないようだ。
未練がましく「源田くん引き抜きたい…」などと洩らすに、
響木は少し怒った様子で「仕事をしろ」と注意の言葉を投げる。
響木の注意を受けたではあったが、
やはり雷門イレブンの超攻撃的布陣が忘れられないようで、
酷く残念そうな様子で「はぁ〜〜…」と深いため息をつくばかりだった。
だが、いつまでもそんな不景気な調子で厨房に立っていては、
いつか響木の逆鱗に触れると感じたは、腹を括って現実を見ることを決意した。
攻守のバランスの取れた今の布陣の方が安定した試合運びができる。
それは天才ゲームメイカーと呼ばれる鬼道を擁する雷門イレブンにとっては大きなプラス。
それにそもそも、雷門イレブンは決定力不足に悩んでいるわけではない。
十分な決定力を持っているのだから、
この大会においては攻撃的な布陣にこだわる必要などないのだ。
頭を切り替え、は今まで疎かにしていた下ごしらえの作業を再開する。
手際よく作業を進めながらは外から聞こえるざわめきに気付いた。
その数秒後にガラガラと音を立てて雷雷軒の店の扉が開かれたが、
は素のトーンで「いらっしゃい」と雷雷軒へとやってきた客――円堂たちを迎えた。

 

「……どうしたのよ?不景気な顔して」

 

覇気のない様子で雷雷軒に入ってきた円堂たちを不思議に思い、はどうしたのだと言葉を投げる。
すると、おずおずと宍戸が自分たちが沈んでいる理由――
木戸川清修の3TOP武方三兄弟のシュートを円堂が止められなかったことを説明した。
宍戸の言葉を説明を聞き、の頭の中から円堂をGKから外すという考えは綺麗さっぱり吹き飛ぶ。
現時点では――という状況ではあるものの、
武方三兄弟の攻撃を防ぐことができないのであれば、失点は1〜2点程度では済まないかもしれない。
これはいよいよ円堂の成長が求められる時期のようだ。
状況を整理するためにも、
武方三兄弟の必殺技についての情報を得ようとしただったが――

 

「ぁだッ?!」
「口を動かしてないで手を動かせ。奥から麺持ってこい」
「(殴らんでも…!殴らんでもいいでしょうに…!!)」

 

「仕事をしろ」と言われた矢先に、
仕事を放棄して円堂たちとの会話に興じようとしたのだから怒られても仕方がないとは思う。
だが、なにも頭にげんこつをくれるまでしなくてもいいのではないだろうか。
雷門イレブンが雷雷軒に来ると確かに仕事は疎かになりがちだが、
普段は割りと真面目に仕事に取り組んでいる。
少しぐらい大目に見てくれてもバチは当たらないだろうと思いながらも、
それを口には出さずには響木に命じられた通りに、店の奥へラーメンの麺を取りに向かった。
麺の入った大きなトレーをひとつ取り、はすぐにそれを響木に手渡すと伝票に目を向け、
円堂たちが注文したメニューを確認すると、
口を開かずにテキパキと自分に任されている作業をこなしていく。
自分の作業が終わってから数分後、
円堂たちのメニューが全てテーブルに出揃ったところで、は響木をじっと見つめた。
すると、響木は少し呆れた様子で頷く。
それを受けたは、カウンター席に座っている宍戸と風丸に、
武方三兄弟の必殺技の威力のほどを尋ねた。

 

「トライアングルZ――あんな凄い技、見たことないですよ」
「今まで対戦した中で、最強の技――と評価してもいいと思う」
「…となると、帝国のデスゾーンや皇帝ペンギンをも凌ぐと認識してもいいのかしら?」
「単純なパワーの比較なら、デスゾーンの方が劣るだろうな」
「…ふむ、相手もトライペガサス級の決定力を持っている――と考えていた方がいいかもしれないわね」

 

パワーはデスゾーンより上で、皇帝ペンギン二号と同等――
ならばトライアングルZは、トライペガサスと同等の決定力を持っていると考えておいた方がいいだろう。
予想していた以上に、木戸川戦でDF陣は大変なことになりそうだ。
失点を抑えるためにも、相手に攻め入られないように守りにも力を入れなくてはならないのだから。

 

「…なんとしても、円堂にはトライアングルZ――とやらを止められるようになってもらわないとね」
「大丈夫!今日は初めてだったから驚いただけさ!試合では絶対に止めてみせる!」

 

自信満々の様子で言い切る円堂だが、実際にトライアングルZの威力を
目の当たりにした鬼道や風丸たちの表情には不安げなものがある。
加えて、現場に居合わせていなかったまでもが、不安げな表情で円堂を見ていた。
不安に耐え切れなかったのか、風丸が確かめるように円堂に言葉を投げた。

 

「本当にできるのか?」
「おう、大丈夫だ」
「根拠は?」

 

風丸の問いに、円堂は相変わらず自信満々の調子で返事を返す。
だが、裏付けのない自信故に誰の不安も解消できておらず、
円堂の並々ならぬ自信の根本を確かめるべく鬼道が円堂に根拠を問うと、
円堂は表情を変えずにきっぱりと言い切った。

 

死に物狂いで練習する!

 

あまりにもどキッパリと言ってよこす円堂に、景気よくずっこける風丸と宍戸。
鬼道も納得半分、呆れ半分といった様子の表情で
「凄く単純な理論だな…」と否定とも肯定とも取れない言葉を返していた。
確かに、円堂は練習すればするだけ実力に響いてくるタイプではあるが、
この短期間でどれほど成長するか――それを考えるとすんなりと「頑張れ!」と応援はできない。
ただ、この短期間では新たな必殺技を取得する方がよっぽど無理な話なので、
円堂の選択は正しいと言えば正しい。
円堂の言葉を肯定して応援するべきなのだろうが、
どうにもには円堂のやりかたを肯定できなかった。
どうにか円堂に多少色々を考えて特訓するように説得したかったが、
先人の言葉に思わずは言葉を飲み込んでしまった。

 

「サッカーで唯一嘘をつかないのは練習だ。練習で得たものしか、試合には出てこない」
「確かに、それは正論ですね」
「よーし!明日から特訓だぁー!」

 

特訓に燃える円堂を尻目に、
は「練習メニュー組んでやらないとなぁ…」と心の中で思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 前回に引き続き、秋ちゃんと絡んでみました。やはり秋ちゃんかわゆい!
春奈も夏未お嬢様も可愛いけど、秋ちゃんもやっぱり可愛いです!愛でたい!いや、愛でる!
今後の話でもちょいちょい秋ちゃんをいじっていく予定です(笑)
もちろん、夏未お嬢様だっていじっちゃうよ!春奈とはラブラブして鬼道に睨まれます!俺得!