授業真っ最中。
それにもかかわらずの視線は携帯の画面に向いていた。
の携帯の画面に表示されているのは「マジン・ザ・ハンド」の文字。
薄っすらと甦ってきたかつての記憶に、は心の中で「ああ」と納得したような声を洩らした。
音を立てずに携帯を閉じ、は視線を前へ戻す。
教壇の上で教師が日本の歴史について説明しており、
それを生徒たちは黙って聞き、教師が書いた黒板の文字を黙々とノートに書き写していた。
至っていつも通りの授業風景に見えるが、からするといつも通りとはいえない。
不安げな表情でうつむいている円堂。
その円堂を気にかけて様子を見ている秋と豪炎寺。
そして、も円堂と秋たちのことを気にしてちらちらと視線を向けていた。
極々小さな変化だ。
このサッカー部一同の変化に気付いているものなどいはしないだろう。
だが、変化は変化なわけで、にとっては気にかかるものだった。
「(…かといって、こればっかりは円堂がどうにかしないといけないことだし……)」
悩む円堂の手助けはたちでもできる。
だが、解決となるとそれは円堂本人にしかできないことだ。
そして、彼への手助けが必ずしも彼のためになるとはいえない。
苦悩した末に得たものほど、心強いものはない。
円堂の今後を思えばこそ、
ここでの干渉は彼の成長の妨げになるのではないかとは思い始めていた。
もし、支えになってくれる人間が豪炎寺や鬼道――チームメイトならばまだいい。
仲間同士での支え合い――チームの団結力を高めることに繋がる。
だが、はあくまで「部外者」だ。
部外者が干渉して問題を解消しても、なんのプラスにもなりはしないだろう。
歯痒い――とは思わない。
自分がいなくとも円堂は自身の力と仲間の力でこの難局を乗り越えることができるはず。
不安がないといえば嘘になるが、
新たなステップに進んだ円堂の姿を想像して胸踊っていることも確かだった。
「(アイツへの連絡は……一応しておこう…)」
そう心の中で思いながらはペンを取った。
第29話:
課題「マジン・ザ・ハンド」
教室の掃除を終え、急いでサッカー部の部室にやってきた一之瀬と土門を迎えたのは、
どんよりとした空気で机を囲んでいる円堂たち。
一度も見たことのない円堂の沈んだ様子に、思わず土門は「珍しい空気だな…」と言をもらした。
円堂、豪炎寺、鬼道、。部室にいるのはこの4人だけ。
他のメンバーはどうしたのだろうかと一之瀬が「練習は?」と問うと、鬼道が染岡と風丸に任せてあると答えた。
その言葉を聞き、再度一之瀬と土門は円堂に視線を向ける。
彼らの目に映ったのは、やはり覇気のない沈んだ様子の円堂。
染岡たちに練習の指揮を任せたのは正解だ。
こんな円堂を見ては一年組の志気を著しく下げることになる。
彼らの志気が下がれば、自然とチーム全体の士気を下げることにもなる。
チームの団結力が武器ともいえる雷門イレブンにとって、それはなんとしても防がなくてはならないのだ。
「一之瀬から聞いたぞ。だいぶ根が深そうだな、ゴッドハンドのこと」
どんよりとした空気を変えるためにか、土門がからかうように円堂に言葉を投げる。
だが、今の円堂には「そうなんだよー」と苦笑いを返すことすらできないようで、
土門の言葉を肯定するかのように、机にごっと音を立てて突っ伏した。
その円堂の反応を前にした土門は、
ぎょっとした様子で「本当に深いな…」と言葉を洩らした。
「鬼道、雷門で世宇子の力を目の当たりにしているのはお前だけだ。
奴らのシュートにゴッドハンドは通用すると思うか?」
「…分からな――」
「おそらく通用しないわね」
鬼道の言葉を遮って言い放ったのは。
だが、誰もの言葉に驚いている様子はない。
おそらく、初めからその言葉が出ることを覚悟していたのだろう。
彼らがゴッドハンドが通用しないという答えを覚悟していたように、
もこの反応を見越していたようで、驚いた様子もなく言葉を続けた。
「世宇子のシュートは数回しか見ていないけど、どれも強力だった。
個人的な見解としては、トライアングルZよりも威力があったように思う。
今のまま――ゴッドハンド一本じゃ、まず勝ち目はないわね」
冷静に言葉を続けたの口から出てきたものは、
薄っすらと見えていた希望の光すらも覆い隠すような絶望的な見解だった。
いずれ世宇子と当たることを想定していたは、
世宇子の試合を全て観戦し、ある程度の分析もしていることを円堂たちは知っている。
それ故に、の言葉はどこまでも重く、現実味を帯びていた。
否定のしようのないの言葉に全員が暗い気持ちになっていると、
不意に土門が少し明るい表情で机と円堂の顔に挟まれているノートを指差した。
「なぁ、円堂のおじいさんの特訓ノートになら、
ゴッドハンドよりもすごいキーパー技のヒントがあるんじゃないのか?」
土門が見出した希望に一之瀬も表情を少し明るくする。
しかし、円堂たちの表情はそれほど明るくなってはいない。
それでも、土門の問いに答えるように円堂はノートを取ると、パラパラとページをめくり始めた。
「…??なにこれ?読めないよ??」
「でも、円堂は読めるんだ」
理解し難い文字と図が書かれたノートを見た一之瀬は、
不思議そうな様子で首をかしげていると、土門が問題ないと告げる。自分には読めないが、円堂には読めていると聞き、
感心したような納得したような様子で「へぇ〜」と一之瀬が声を洩らすと、
不意に円堂が「ここだ」と言ってとあるページを指出した。
「ゴッドハンドよりもすごいキーパー技。名付けて『マジン・ザ・ハンド』。
…じいちゃんによれば、最強のキーパー技をあみだしたんだって」
「おぉ〜、なんか凄そうじゃん」
やっと見えてきた希望に土門は嬉しそうに感想の言葉を洩らす。
しかし、相変わらずの調子の円堂は、真剣な表情でノートの赤色でマークされている部分を
「ここポイントって」と言いながら指出した。
円堂大介の特訓ノートに書かれている文字はかなり難解で、
円堂以外には理解することは不可能に近いが、
図に関してはなんとなくのニュアンスで理解することができた。
円堂の指す部分に描かれているのはおそらく人。
そして、その人の絵の胴体の右上に描かれた赤い丸。
それが意味するところは――
「胸?」
「心臓ってことじゃないのか?」
「…他には書いていないのか?」
憶測は出るが少なすぎるヒント故にあくまでそれは憶測でしかない。
憶測を真実に近づけるために鬼道は更に情報はないのかと円堂に尋ねるが、
やはりと言うかなんと言うかで円堂の口から出た答えは
「書いてない」という、振り出しに戻されるような答えだった。
しかし、鬼道の表情にはそれほど落胆の色は見られない。
初めから過度の期待はしていなかったということもあるのかもしれないが、
円堂から以外もヒントを得られると思っているらしい。
スッと視線を円堂から自分の斜め左の席に座っているに移し、
鬼道は「お前は何か知らないのか?」とに言葉を投げた。
「申し訳ないけど、うちのデータベースに大介さんの記録がないのよ。
……まぁ仮にあったとしても、重要機密レベルのセキュリティーが掛かってるだろうから、私じゃ見れないんだけど」
「?なんでそんなに警戒が厳しいんだよ??」
「…総帥殿が大介さんやイナズマイレブンの記録を隠蔽してるからよ」
「……なるほどな、影山にとって円堂のおじいさんの情報は都合が悪いはずだもんな…」
の説明に納得した様子で頷く土門。
円堂や豪炎寺も納得しているようだったが、
唯一鬼道だけが納得のいっていないようで、渋い表情でを見ていた。
そんな鬼道を面倒とも不愉快にも思っていないは、
鬼道に「なによ」と言葉を促すと、鬼道は静かにに疑問を投げた。
「どうしてお前は円堂大介がゴッドハンド以外のキーパー技を使っていたこと知っているんだ」
「……言うまでもない先人から、昔聞いたのよ。円堂大介の幻のキーパー技がある――ってね」
にやりと笑ってがそう言うと、
ついに光を見出したのか円堂が明るい表情で「もしかして!」と立ち上がる。
だが、円堂がに真実を確認するよりも先に部室の扉が開き、
ウォーミングアップを終えた一年組と風丸たちが練習をはじめようとやってきた。
絶好調といった様子で優勝――世宇子に勝つことを宣言する一年生たちを前に、
円堂は自分の疑問を飲み込んだようで、いつも通り――とはいかないものの、
笑顔を見せると「よし、やろうぜ!」と答えた。
そして、何事もなかったかのように「打倒世宇子」を掲げ、
部室を風丸や染岡、壁山や栗松たちと共に部室から飛び出して行った。
「円堂、壁にぶち当たったな」
「ああ」
「誰でもレベルアップすればするほど大きな壁にぶつかる。
乗り越えてもっと上のレベルにいくか、そこで沈むか…。
あの諦めの悪いやつがそんな簡単に沈むとは思えないが……」
「俺たちでバックアップしていこうよ。木戸川戦の時の壁山と栗松みたいにさ。
きっとそういうのも――ここがポイントってことなんじゃない?」
綺麗に纏めた一之瀬に、土門は肩を組んでからかうように
「綺麗に纏めたと思っただろ〜」と茶化すと、一之瀬は笑顔で「まあね」と返事を返す。そんな2人のやりとりを豪炎寺と鬼道は穏やかな表情で眺めていたが、
不意に聞こえた「暢気ねぇ」という呆れを強く含んだの声に表情を強張らせた。
「切羽詰ってもらわないと困るのは全員に言えることなんだけど?」
「…それだけ、俺たちと世宇子の間に大きな実力差があるということか?」
「ええ、そういうこと。……鬼道も知ってるでしょう?世宇子のでたらめな強さは」
「………」
の言葉に鬼道は言葉を返さなかったが、その鬼道の沈黙は肯定を表していた。
豪炎寺や一之瀬たちの表情が厳しいものに変わる。
円堂だけではなく、自分たちも大きなレベルアップが求められている。
そうなると、円堂のフォローにばかりにはまわってはいられないだろう。自分自身のレベルアップと円堂のフォロー。
それの両立が上手くできるのかどうか――若干の不安が少年たちの胸を掠めたが、
その原因を作り出した少女はなぜか自信ありげな表情を浮かべていた。
「強者故の弱点っていうのもあるし――
アンタたちのポテンシャルなら、勝てない相手じゃないわよ」
彼女の言葉に根拠がないことは分かっている。
だが、なぜかその言葉が心強く思えてしまうから不思議だ。
全員の心中を代弁するように、一之瀬は「らしいや」と苦笑いを浮かべた。
■いいわけ
円堂をちょっと離れた位置から見守る豪炎寺と鬼道が好きです。
一之瀬は近いようでちょっと違う位置から見ているくらいがいいと思います。
土門?土門もちょっとこの3人とは違う位置から円堂含め、全体を見ていればいいと思います。
スパイとして雷門に送られた過去を持つので、洞察力があると思うのです土門は。
故に、一之瀬の「わー!」って感じにヒヤヒヤしていればいいと思います(笑)
土門は苦労人でいいと思うんだ(穏笑)一之瀬と秋ちゃんのことで(笑)