「おかけになった電話番号は――」
このメッセージを聞くのは今日だけで何度目だろう。
近い時間帯に連続的にかけた分を除いたとしても、おそらく10回は超える。
急ぎの用でなければここまでイライラする事もないのだが、
急いでいるのに足踏みするような状況が続いてはイライラするのも当然だった。
それに、こういった状況を想定して、
わざわざGPSを利用した携帯電話を持たせているはずなのに――
「地底か。地底にいるのかあの自由人は。地底人からSOS信号でも送られたのか…!!」
「……なにを言ってるんだお前は…」
呆れと困惑が混じった表情を浮かべて、戸惑いながらもに言葉を投げるのは鬼道。
その鬼道の傍にいた一之瀬も、鬼道と同じようなことを思っているようで、
戸惑った様子で「どうしたんだよ?」とに尋ねる。
しかし、は諦めを含んだ深いため息をつくと、
有無言わせない口調で「なんでもない」と言い切った。
なんでもない――
わけがないのだが、下手にそこにつっこんだ日には、
数日に亘って2人の食事が嫌いな食べ物で埋め尽くされることが確実なので、
鬼道と一之瀬はへの疑問を飲み込むほか選択肢はなかった。
そんなの暴挙を受け入れるしかない状況に、困ったものだとため息をついている鬼道と一之瀬。
ところが、2人の考えを理解していながらもあえて気にかけることをしないは、
何事もなかったかのように一冊に纏められた書類の束を鬼道に手渡した。
「……これは?」
「もし、円堂の特訓に付き合うのであれば、その特訓法を使って欲しいの。
正直、円堂だけを鍛えるんじゃ能率悪いから、付き合う側も鍛えられるように――ってね」
「――それって、遠まわしには円堂の特訓に付き合わないってこと?」
「そんなつもりはないけど、
円堂が自主練習を始める時間帯ってバイトの時間と被るから付き合えないのよ」
の言葉を受けて「ああ」と納得の声を洩らす一之瀬。
すっかり忘れていたが、は雷雷軒でアルバイトをしているので、
練習後の時間をバイトに割かなくてはいけない日がある。
バイトがある日は否応なしに円堂の特訓には付き合えない以上、
円堂の特訓は別の人間に任せた方がいいことは確かだろう。
「色々と考えているんだなぁ」と一之瀬が感心していると、
の考えた特訓方法が書かれた書類を読み終えた鬼道が「わかった」とに返事を返す。
了承の意を表す鬼道の返答には「よろしくね」と言葉を返し、再度電話をとった。
「おかけになった電話番号は――」
「やっぱりこれは地底人に関わったわね」
「「…………」」
第30話:
地に潜むモノ、天に潜むモノ
「地底人…?」
「ええ、これはもう確実に地底人のSOS信号をキャッチして地底奥深くにいるとしか……」
真顔でだいぶ頭の痛いことを言ってよこすに、響木は残念そうな視線を向ける。
しかし、は至って真面目なようで、響木に不機嫌そうな視線を返した。
の地底人説も、相手が相手だけに全てを否定できないのだが、
もっと可能性の高い仮説を建てていた響木からすると、の仮説はかなりぶっ飛んでいるように思える。
相当頭がまいっているのかと心配になり、響木は自分の仮説をに伝えることにした。
「…電気の通っていない地域で携帯の充電が切れただけじゃないのか?」
「そうなることも想定して携帯はソーラー電池付です」
「………」
「もう否定できないでしょう。地底人説を」
駄目押しでは響木に言うが、響木はの言葉に答えなかった。
だが、この沈黙は肯定と受け取っていいだろう。
否定できる部分があれば、響木はちゃんと否定してくるはず。
なのに否定をしないということは、響木にはの地底人説を否定できる要素がないということだ。
勝った――とはは思っていない。
寧ろ、響木の仮説が真実であってくれた方がいい。
そうであってくれれば、連絡はつかないが、とりあえず人類の知識が及ぶところにはいる。
本当に地底人説が真実だとしたら、連絡が付く付かないうんぬんよりも――
まず、相手の安否が心配だ。
「でも…まぁ……どこにでも馴染むし、逞しいからなぁ……。
…安否の心配はいらないですかね…?」
「…かもしれん」
なんとも言えない沈黙が雷雷軒を支配していると、突然店の扉が勢いよく開かれた。普通の客ではないと直感的に判断したと響木は、無言で扉に目を向けると、
そこには心配そうな表情を見せている秋と夏未。
そして、その後ろには豪炎寺と鬼道に担がれている円堂の姿があった。
「監督!氷をください!」
「派手にやっちゃって…!」
「……とりあえず適当なところに座らせてやれ」
響木がそう言うと、豪炎寺と鬼道は円堂を適当な席に座らせる。
円堂のことはもちろん心配しているようだが、とりあえず2人も適当な席に腰を下ろす。
それとは対照的に、秋と夏未は心配そうに円堂に大丈夫かと声をかけていた。
そこへ氷嚢を手にしたが姿を見せ、「はい」と言って円堂に氷嚢を手渡すと、
円堂の向かいの席に腰を下ろしている鬼道に視線を向けた。
「多少の打撲は想定してたけど――なにをどうしたらここまでのことになるかな」
「…強度不足でロープが切れたんだ」
「……必殺技使ったわね?」
呆れた表情では必殺技を使ったであろう豪炎寺に視線を向けた。
の読みは正しかったようで、
豪炎寺は申し訳なさそうな表情で「ああ」との言葉を肯定する。
豪炎寺の肯定を聞き、は盛大にため息をつくと、豪炎寺に向けていた視線を円堂に戻した。
「円堂、無茶と特訓の区別ぐらいつけなさい」
「…別に俺は無茶なんて――」
「ちゃんと区別して特訓してたら、こんなことにはならないと思うんだけどなァ」
「いててててて!!!」
ニッコリと笑顔で円堂の頭をぐりぐりと攻撃する。
打撲によって傷ついた円堂の身体に、
の攻撃は十分な威力を発揮したようで、円堂は痛みを訴えながらジタバタと暴れた。
そんな円堂を見て、彼を心配した秋と夏未が制止するようにの名を呼ぶ。
すると、さすがにこの2人にやめるように言われてはやめないわけにはいかないようで、
は仕方なさげに円堂の頭から手をどけた。
「あんまり無茶を続けるようであれば、自主練禁止令も考えるわよ。
試合する前から身体壊したら元も子もないんだから」
「……わかったよ…」
円堂の行動をたしなめるの言葉に、円堂は不服そうに了解の言葉を返す。
明らかにの言葉に従うつもりがないことが、その円堂の態度から分かる。
しかし、今ここで念を押したところで意味はない。
心の中でため息を付きながらも、表面上には毅然としたものを貼り付けては厨房へと戻った。
若干悪くなった空気の中、この空気を解消するように口を開いたのは響木だった。
「マジン・ザ・ハンド――あれを習得しようとしていると聞いたが」
「…!やっぱり監督知ってるんだ!ねぇ、監督はできた?!」
「俺はマスターできなかった」
すっかり響木はマスターできたのだろうと思っていた円堂は驚いた様子で「えっ」と声を洩らす。傍にいる豪炎寺や鬼道たちも、響木の返答は予想外だったようで、意外そうな表情を見せている。
だが、心配無用だとでも言うかのように響木は小さな笑みを浮かべると、円堂に視線を向けた。
「だが、お前ならやれるかもしれん。…頑張れよ」
響木の励ましに、円堂は元気よく「おう!」と返事を返す。
やっと雷雷軒を支配する空気から嫌な色が消えると、店の扉が開き、新たな客の来店を知らせた。
が営業モードで「いらっしゃいませ」と言うよりも先に、
店へやってきたのが刑事――鬼瓦だとわかると、
はそのままの調子で「いらっしゃいませ」と言葉を投げた。
鬼瓦の口から伝えられた影山の過去。
円堂や豪炎寺たちにははじめて伝えられる情報だったが、鬼道とにとっては既知のこと。
特に目新しい情報はなかった。
雷門サッカー部の前顧問兼監督であった冬海の身柄を捕らえたというが、
影山にとって捨て駒でしかなかった冬海が重要な情報を握っているわけもなく、
ただボンヤリとだけ影山の考えている計画の「点」が見えただけ。
明確な答えが見えない影山の計画に円堂たちが頭を悩ませていると、
その考えを断ち切るように「パンパン」と手を打つ音が響いた。
「総帥殿の心配よりも、アンタたちは世宇子戦の心配しなさい。
悩んだところで、解決の糸口なんて見つからないんだから」
「…そうだな、の言うとおりだ。
影山のことは俺に任せて、お前さんたちは世宇子との決勝に集中するんだ」
不安を煽らないよう鬼瓦は自信を持って円堂たちに心配するなと言うが、
円堂たちは少し釈然としない様子ではあったが、
最終的には自分たちが悩むべきは世宇子への対抗策を見つけることだと考え付いたようで、
鬼瓦に「わかりました」と返事を返していた。
円堂たちの返事を聞き、は心の中でホッと胸を撫で下ろす。
今の円堂たちに影山のことで悩んでいる暇などない。
世宇子対策のことでならともかく、影山のことで悩んでも答えなどない。
所詮自分たちは子供で、相手は権力を持った大人なのだ。
勝敗など、戦う前から影山の勝利で決まっている。
そんなわかりきった戦いのために頭を悩ませてもなんのプラスはない。
ただ時間を無駄にするだけだ。
「(…放っておいても、あの男はいずれ雷門イレブンの前に姿を見せる)」
嫌な確信には心の中でため息をつくばかりだった。
■いいわけ
若干変なネタに走りました。でも、後悔はしていません。必要だったんです。――たぶん。
地底人ネタは今後もついてまわります。おかげで夢主が暴走しがちです。ぅわー…ですね!(笑顔)
一応、地底人本人が本編に登場する予定はFF編ではないのですが、
エイリア編になったら出てくるかもしれないです。いや、出ます。脳内シナリオでは必要なので。
あはは、続々とオリキャラが増えてゆくー。でも、もっと増えるんだ。今後。