連日のハードな練習。
それによって雷門イレブンの身体に蓄積した疲れを癒すため、
雷門サッカー部は日曜の練習を急遽中止することに決めた。
世宇子との決勝戦も近いこの時期の練習中止に異を唱えるものもいたが、
身体を休めることの重要性と、個人で突き詰めたい練習をするためだという意図を説明すると、誰も文句を言わなかった。
円堂のことを考えれば、響木とのその意図は納得できる。
キャプテンとして他のポジションの練習にも付き合わなくてはならない円堂。
しかし、サッカー部の練習がなく、個人練習だけを朝から晩まできるとなれば、
円堂はキーパーとしての練習を集中して行うことができる。
もしかすると、その練習でマジン・ザ・ハンドのヒントを得ることができるかもしれない。――そう、誰もが考えた結果の全員の同意だった。
「人の練習見てるなんて余裕ねぇ。『さすが』伝説に天才に魔術師ってところ?」
鉄塔広場で巨大なタイヤに向かっている円堂を、
遠目から見守っていた豪炎寺たちにかかったのはの嫌味。
の嫌味に対する抵抗力がある3人は、無表情、若干渋面、苦笑いと、
三者三様の反応を見せたが、誰一人としての嫌味をまともに受け取ることはしなかった。
豪炎寺たちから相手にされていないと空気で察したは少しつまらなそうな表情を見せたが、
すぐにこれ以上3人に嫌味をぶつけたところで意味がないと諦めたようで、何気ない様子で円堂に視線を向けた。
「…お前は円堂の監督か」
「いえ、ここは円堂の自主性を信じてみるわ」
「でも、円堂が心配でここ来ちゃったんだ」
円堂の自主性を信じると言いながらも、
円堂が心配で様子を見るためにこの鉄塔広場に足を運んだのであろうに、
一之瀬が苦笑いを浮かべながら「俺たちと一緒だね」と言うと、
はニッコリと笑って「三分の一は――ね」と切り返す。
その瞬間、3人の背筋にゾッと冷たいものが走った。
「さて、行きましょうか」
「「「………」」」
キラキラと輝く有無言わせぬの笑顔に、
三人は頷くほか選択肢はないのだった。
第32話:
避けて通れぬ奇才の根城
有無言わさずしてことを進めたに思うところがなかったわけではない。
寧ろ色々と言いたいことは物凄いあった。
しかし、今のの現状を見ては、
責めるよりも「よく決断した」と褒めてあげたくなってしまった。
「ー!もう、どーしたのっ!こんな親孝行なことして!!」
「………」
「そうよね〜、いっつもは私にプレゼントをくれると照れて黙っちゃうよのね〜。
もう!うちの子サイコー!!」
どんどんとテンションの上がっていくの母に対して、
娘のはどんどんとその表情を青くしていく。
恥ずかしいやら情けないやらで、もう精神的には立っているのもやっとの状態だろう。
だが、こんな精神的負担を背負ってでも、
は豪炎寺たちをこの場所――Deliegioの研究室に連れて来る必要があった。
「も本当に思い切ったことをしたね。いやー、今日は本当にお赤飯炊こうか。
あ、せっかくだから修也くん今晩うちでご飯食べていかない?俺とで頑張るよー」
「あの…それは……」
「あ、勝也先生からちゃんと許可もらうよ?…にぎやかなのは苦手ってわけじゃないよな」
「…はい、ありがとうございます。ご馳走になります」
そう豪炎寺が返事を返すと、の父親はこの上なく嬉しそうな笑顔を見せる。
「今晩はご馳走だな」と楽しそうに鬼道たちに笑いかけるが、
鬼道たちは引きつった笑みを浮かべてある方向を指差しており、
促されるままに2人の指差す方向に視線を向ける。
すると、そこには相変わらずハイテンションな自分の妻と、
真っ青を通り越して真っ白になりぐったりとしている自分の娘の姿があった。
「大丈夫、大丈夫。は逞しいから」
「で、でも、大丈夫なのかなぁ……。彩芽さん、の状態に気づいてないみたいだし…」
「『触らぬ神に祟りなし』ああなった彩芽は放っておくが一番なんだ。
心配無用だよ、ちゃんともわかってるから――自分が犠牲になるって」
「…秀信さん……」
「あ、別に俺がを犠牲にしてるわけじゃなくて、
初めからは彩芽の相手をするって腹を括ってることだからな?
…俺も、あんな哀れなを見るのは心苦しいけど、彩芽がいないとこの施設の使用許可が下りないし、
が犠牲にならないと彩芽が邪魔になって有人くんたちの特訓が進まないし…」
そう言いながら相変わらずの様子の妻と娘に視線をやるの父。
心苦しい――と言っていたが、彼の顔に浮かんでいるのは幸せそうな笑顔。
見るからにの惨状を心苦しく思っているようには見えなかった。
一瞬、ツッコミを入れることも考えたが、そんなことをするよりも、
早々に特訓を開始した方がの寿命を延ばすことに繋がると考えた鬼道は、
の父親に特訓を開始するように頼んだ。
鬼道の言葉を受けて彼の意図を理解したの父は、
3人についてくるように言うと、部屋の奥にあるコンピューターの前にまでやってくる。
そして、イスに座ると慣れた様子でマウスとコンソールを操り、画面上に帝国イレブンの映像を表示させた。
「ツインブーストと皇帝ペンギン2号。最低限これは完成させて欲しいそうだよ」
「…ゼロから必殺技の構想を練るよりは、タイムロスが少ない…ということか……」
「どちらも強力な必殺技だ。習得すれば雷門の決定力が増すことは間違いない」
「…しかし……」
「?どうしたんだよ、鬼道?」
ツインブーストと皇帝ペンギン2号を習得することを――
いや、この2つの技を習得するために時間を割くことに躊躇する鬼道。
しかし、鬼道が躊躇するのも不思議はなかった。
確かに豪炎寺の言うとおり、ツインブーストも皇帝ペンギン2号も強力な必殺技ではある。
だが、この2つを生み出した帝国は、世宇子に手も足も出せずに敗退している。
世宇子に敵わなかった自分たちの技では――という懸念があるのだろう。
そんな鬼道の心のうちを察した豪炎寺ではあったが、
どう説得したらいいのかと頭を悩ませていると、
不意に「大丈夫だよ」との父親が笑った。
「あくまでこれは最低限。技の習得がゴールではなくスタートなんだ」
「必殺技の習得が……スタート…?」
「そう、だから一哉たちはまだスタートラインにすら立ってないんだ」
煽るように「悩むだけ時間の無駄だぞ〜」と笑いながら言うの父。
そんな彼を見て、3人は思う。
人がいいように見えて――やはり、の父親だと。
「鬼道、やるぞ」
「そうだよ鬼道、スタートラインにぐらい立たなきゃ――がうかばれないよ!」
「いや、まだ死んでないぞ一之瀬」
若干現実になりそうな縁起でもないことを笑顔で言ってよこす一之瀬に、
鬼道は思わずツッコミを入れる。それを受けて一之瀬は「冗談だよ」と苦笑い。
それを少し呆れた様子で豪炎寺がみていると、不意に一之瀬たちの背筋に冷たいものが走った。
「コラコラ、いつまで冗談言ってるのかな?に限界はないけど、おじさんには限界あるぞー?」
「!!ご、豪炎寺、一之瀬!
な、なな、なんとしても、ツインブーストと皇帝ペンギン2号を習得するぞ!」
「あ、ああ!」
「りょ、了解!」
■いいわけ
この話と33話の間に起きた大宴会(?)の話は書く予定はございません。
でも、母親と一之瀬が暴走して、夢主がギャーギャーとつっこんで、
鬼道は悟りの境地で、豪炎寺は全力で引いていればいいと思います。
して、父親はそんなカオスな状態を「アハハ」と笑顔で見守っているかと思います。…なんじゃこれ!