響木たち大人組との予想は大当たりだった。
壁山と影野が遭遇した大人の影。
その正体は、元イナズマイレブンのメンバー――民山たち。
そして、彼らが内緒で校舎に侵入していたのは、
場寅や菅田が「アレ」と言っていたものを準備するためだった。
40年前、
イナズマイレブンが一丸となって作り上げたモノ。
それが――
「マジン・ザ・ハンド養成マシンだ!」
イナビカリ修練場に組み立てられた物々しいマシンは、
名前の通りにマジン・ザ・ハンドを習得するためだけに作られた特別なマシン。
作られた当初――響木はこのマシンを使ってマジン・ザ・ハンド習得まであと一歩――
おしいところまでたどり着いたが、習得するにはまで至らなかった。
だが、このマシンを使えば確実にマジン・ザ・ハンドに近づくことができる。
それだけははっきりとした事実だった。
「…、あなたこのマシンのことを知っていたならどうしてもっと早く――」
「そう責めるな。はこのマシンにちょっとしたトラウマがあってな」
「厳密に言うと響木さんのゲンコツですよ……!
ゴッドハンドゲンコツ…!!あのときは本気で死んだと…!」
「それだけの大事をしでかしたということだ」
毅然とした態度でぴしゃりと響木がに注意すると、
は不満げとも反省しているともとれる複雑な表情を浮かべながら
「反省してます…」と反省の言葉を口にした。
まず一番に「ゴッドハンドゲンコツってなんだ!?」
と、ほぼ全員がツッコミたかったが、それよりもまず確認するべきことがあった。
「さっき言っていた数年前にこのマシンを使ったという人は、
マジン・ザ・ハンドを習得することはできたの?」
真剣な表情でに尋ねるのは夏未。
必死な様子の彼女に、が返さなくてはいけない言葉――真実はあまりにも情けない。
YESかNO。白か黒。
はっきりとした答えであれば、たとえ否であったとしてもそれはそれで踏ん切りはつく。
だが、が口にしなくてはいけない言葉は、
どっちつかずな――どうにも士気を削ぎそうなものだった。
「……わからない…」
「「「…え?」」」
の言葉に、空気の流れがピタリと止まるのだった。
第35話:
正解不明の課題
ガコンガコンと音を立てて動作するマジン・ザ・ハンド養成マシン。
マジン・ザ・ハンド習得への活路を見出した円堂は、
響木の許可を得てマジン・ザ・ハンド養成マシンを使った新たな特訓を開始することになった。
何度も言うようだが、このマジン・ザ・ハンド養成マシンで特訓することによって、
マジン・ザ・ハンドに近づくことができることは間違いない。
ならば、過去の実績をあれやこれやと聞くよりも、自分の可能性を広げることが先決だ。
――そう判断した円堂は、からそれ以上話を聞くことをせずに、特訓を始めていた。
ほとんどのメンバーが円堂のサポートに回る中、
夏未だけがから事情を聞きだそうとしていた。
「わからないってどういうことなの?答えは『できた』か『できなかった』の二択でしょう?」
「…まぁ……そうなんだけど…。このマジン・ザ・ハンドに関してはちょっと特殊なのよ…。
そもそも、『できた』の基準がイマイチハッキリしてないんだから」
「『できた』の基準……。正解があやふやだということ?」
「そ、正解」
そう言っては何かを確かめるように、
マジン・ザ・ハンド養成マシンに挑戦する円堂に目を向ける。
一瞬、思い出したくない恐怖の映像が脳裏をよぎるが、
ブルブルと頭を振ってそれを振り払い、改めては思い出すべき過去の映像を思い出す。
今の円堂と同様に必死にマシンの動きについていこうとする少年。
の記憶の中の少年がこければ、円堂もこける。
少年がマシンの障害物にどつかれれば、円堂もどつかれる。
デジャブ感が漂っているが、決定的に記憶の中の少年と円堂には大きな違いがあった。
「あのマシンを使って技は完成したけど、
それがマジン・ザ・ハンドかどうか――ってなるとなんとも言えないのよ」
「……でも、技は完成したのね?」
「ええ。地底人曰く、あのマシンには大介さんの基本があるって言ってたから…
そこから正解にたどり着いたか、別の何かを見出したか…」
真剣な表情で取り組む円堂。
だが、の記憶の中の少年の表情は楽しげな笑顔だった。
追い詰められている円堂に対して、あのときの少年には一切の圧迫はなかった。
環境に違いがあったが故の違い。
――だが、そうとも言い切れない事実がある。
あの少年はいくら追い詰められようとも、
サッカーの練習で必死になったことなどなかったのだ。
「バケモノ…だものねぇ……」
「…?バケモノ??」
「地底人だもの。人外じゃない」
「…もう!こんなときになに変な冗談言ってるのよ!」
の言葉に夏未は怒るが、いたって真面目だったは
「冗談じゃないでしょ」と平然と言葉を返していると、
先程まで円堂の指導に付っきりだった響木がいつの間にかと夏未の前にまでやってきていた。
何か用があって来たのだろうとは「どうしたんですか?」と響木に尋ねると、
少し躊躇する様子を見せたが、最終的には何かを決心したようで、
響木は「アイツに連絡してくれ」とに頼んだ。
少しの沈黙のあと、は響木に「いいんですか?」と確かめるように尋ねると、
響木は躊躇なく「ああ」と肯定の言葉をに返す。
響木の決断を受け、は「わかりました」と響木に返事を返して修練場から出て行った。
の後姿を見送り、外と修練場をつなぐ扉が閉まったところで、
響木は円堂の指導に戻ろうと踵を返した。
「監督、監督との言っているその…地底人というのは一体何者なんですか!」
「……アイツは――」
ドゴォッ!!
びりびりと痺れる肌。
それは今イナビカリ修練場に響いた轟音からなる衝撃の強さを現していた。
足を止め、手を止め、
呼吸まで止まったかのように静まり返る面々。
反射的に音のした方へと向いてしまった視線。
人間の本能からなるそれは時に便利だが、今は便利とはいえない。
というより、余計だ。
顔を背けることもできるはずなのだが、怖い物見たさなのか、
それともこの先に起こりうる恐怖に既に萎縮しているのかは分からないが、
誰一人として――外と修練場をつなぐ扉から視線を逸らすことができるものはいなかった。
プシューという音と共に開かれる扉。
機械で制御しているのだから、いつもと開くスピードは変わらないはずなのに、
今に限ってはなぜかゆっくりと開かれているように感じた。
開かれた扉の向こうにゆらりと揺れる人影。
誰も「誰だ?」とは思わない。
空気をこれほど張り詰めたものにする事ができる人間は、極々限られているのだから。
「………」
無言で姿を見せたのは――言うまでもなく。
前髪で表情はうかがえないが、怒っていることは確定だ。
誰も何もいえずに沈黙を保っていると、不意にが静かに「すみません」と呟いた。
「…地底人を探しに少々ムー大陸に行ってきます」
そう言ったの表情は真剣そのものだった。
おそらく、本人も本気でそう言ったのだろう。
しかし、思考能力が若干マヒしていた面々でも分かるくらい――の発言は狂っていた。
「ま、待て!ムー大陸は架空の大陸だぞ!?どうしてそんなところへ行こうとする!!?」
「その前になんで地底人を探しに行かないといけないんだよ!?こんなときに!!」
「…止めてくれるな2人とも。この雷門の危機を救うためには、地底人――
もとい、あのフリーダム宇宙人を私は――捕まえないといけないのよ…!!」
長年の付き合い故の抵抗力だろうか?
逸早く正気に戻ったのは鬼道と一之瀬。
鬼道は羽交い絞めをし、一之瀬は腰に抱きつき、
2人は何とか修練場を出て行こうとするを止めようとする。
しかし、鬼道と一之瀬の制止など聞かず、は2人を引きずりながら前へと進み続けた。
だいぶ空気がおかしい状態になったところで、
やっと思考停止状態から復帰した響木が低い声で「中止だ」とに告げる。
すると、一之瀬たちを引きずっていたは、
電池の切れたロボットのようにピタリと動きを止める。
そして、急にバタンと倒れた。
「…旅立っていたか」
「……もうアイツは地底人ではないです。ツチノコです」
「「ツチノコ…」」
を下敷きにしたまま、
思い出すようにツチノコという言葉を口に出す鬼道と一之瀬。
探しても探しても見つからないのが伝説の生物――ツチノコ。
そんなツチノコクラスで見つからない存在とは一体どんな人物なのかと想像してみるが、
当然のようにまったく見当がつかないので二人は考えることをやめた。
そして、自分たちの欲しい答えを確実に持っているに事情を聞こうと視線を戻――
そうとしたが、不意に目に入った意外な人物に、思わず言葉を飲み込んだ。
「御麟、もしかしてこのマシン使ったのって――海慈さんなのか?」
キョトンとした表情で、とんでもない事をに言ってよこしたのは――円堂。
色々なことが一気にの頭の中を駆け巡り、最終的には――ごっ。
の頭は容量限界でクラッシュした。
■いいわけ
ちと疑問に思ったのですが、マジン・ザ・ハンドでイナズマブレイクって防げるんでしょうか?
使用キャラの属性やらレベルやら能力値うんぬんで結果は変わってくると思うのですが、
個人的に無印の時点でも防げないような気がします。風>山なので。
毎度のことですが、雷門イレブンの特訓は無茶が多いよ!!