二度目の危機を前にして、ついに花開いた――いや、覚醒した円堂の魔神。
その威圧感と迫力は半端なものではなく、さすが円堂大介の残した幻のキーパー技のオリジナルだ。
だが、このマジン・ザ・ハンドを生み出した円堂大介を
超えた形で発現させた円堂にも賞賛の言葉を向けるべきだろう。

 

「(…いつかアイツと対決させてみたいものね)」

 

アフロディのゴッドノウズを、マジン・ザ・ハンドをもってして止めた円堂の姿を
見つめているの脳裏を掠めるのはいつも笑顔だったあの少年。
彼の使うマジン・ザ・ハンドもどきと、円堂のオリジナル版マジン・ザ・ハンド。
このふたつが衝突した場面を想像すると背筋がゾクゾクする。
ことが落ち着いたら、この夢の対決を実現させようと心に誓いながら、
はフィールドに立っている鬼道に視線を向けた。
の視線に気付いた鬼道は小さくコクリと頷くと、
円堂が投げたボールを受けとり、相手ゴールへと向かって駆け上がっていった。
真っ直ぐゴールを目指す鬼道の行く手を阻むように、
世宇子のディフェンダー――ディオが立ちはだかり、
鬼道からボールを奪おうと必殺技メガクェイクを発動させる。
必殺技の発動によって地面が盛り上がり、鬼道は身体のバランスを崩される。
だが、鬼道は体制を崩しながらもまだ諦めていなかった。
宙に浮いた身体をなんとか動かし、ヘディングでボールを豪炎寺へとつなぐ。
そして、鬼道からボールを受けた豪炎寺はファイアトルネードを放つ。
だが、豪炎寺がファイアトルネードを放った方向はゴールではなく、自分のほぼ真下だった。

 

「「ツインブーストファイア!!」」

 

豪炎寺の放ったファイアトルネードを鬼道がツインブーストの要領でシュートする。
それによって完成したのは、豪炎寺と鬼道の力が合体した必殺技――ツインブーストファイア。
鬼道によって放たれたシュートは迷いなくゴールへと向かう。
世宇子のキーパー――ポセイドンはツナミウォールでツインブーストファイアを止めにかかるが、
ツインブーストファイアの力がツナミウォールに競り勝ち、ついに雷門のシュートは世宇子のゴールを割った。

 

「やったぁ!!」

 

湧き上がる選手たちと観客の歓声。
大どんでん返しといえる雷門イレブンの反撃にスタジアムの興奮は一気に盛り上がった。
エースであるアフロディのシュートが止められ、
鉄壁の守りを誇っているポセイドンがゴールを割られた。
そして、極めつけが雷門イレブンの反撃に沸くスタジアム。
自信の喪失と、人々の歓声が、世宇子イレブンの精神と士気を崩壊させていく。
その様子は目に見えて明らかで、雷門イレブンの勝利を確信したはにやりと笑った。
雷門イレブンの快進撃が続く中、の耳に聞きなれたメロディーが流れる。
反射的に視線を音のする方へと向けてみれば、そこにはが普段使っているバッグがあり、
躊躇もなしにゴソゴソとバッグをあさって着信を告げ続ける携帯電話をとる。
そして、画面も確認せず「どう?」とは尋ねると、携帯から「王手だ」と答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第39話:
終わりは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久々に見られる試合だったわ」
「…後半しか見ていないからじゃないのか?」

 

秋や夏未たちが「おめでとう」と勝利を称える言葉を円堂たちにかける中、
鬼道と豪炎寺にかけられたの言葉はいつも通りに労いの「ね」の字も存在していなかった。
だが、そんな嫌味なの言葉に鬼道は皮肉を返し、
豪炎寺は鬼道の言葉を肯定するように薄い笑みを浮かべていた。
そんな二人の反応を見ては「さてね」と適当な言葉を返すと、
勝利に沸く円堂たちに視線を向けた。

 

「ザ・フェニックスからの連携は少し不安があったけど……杞憂だったわね」
「ああ、マジン・ザ・ハンドを完成させた円堂にはな」
「…ところで、言っておくが俺はまだ今回のお前の件を許したつもりはないぞ」
「な゛っ」
「俺も鬼道と同じく――だ」
「ちょっ、今のいい空気はどこへと消えた!?」

 

いなくなったはずの般若がその存在を鬼道と豪炎寺の背後で再度主張する。
急激に悪くなった空気に、慌てては待ったをかけるが、
この二人に限ってその主張が通ることなどありえるはずもなく、
またに豪炎寺と鬼道の厳しい視線がグサリと突き刺さった。
ちゃんと事情は説明したではないか。
不可抗力。不慮の事故だったと。
雷門イレブンの中でも物分りのいい2人だ。
そんなことはわざわざ説明しなくても理解しているはずだ。
だというのに、何故――

 

「………ごめんなさい?」
「何で疑問系なんだ」
「……えーと、この度は大変ご心配をおかけしまして――」
「明らかに誠意が感じられない」
「(…本当に時々この2人面倒くさい……)」

 

一之瀬や夏未たちには謝ったが、
ふと今までの自分の行動を思い出してみると、豪炎寺と鬼道の2人にはまだ謝っていない。
おそらく2人がに求めているのは謝罪、ついでに反省も求められているのだろう。
確かに、他の雷門メンバーよりも深く関わっている分、二人にかけた心配は大きかったと思う。
申し訳なく思っているし、心配してくれたこともありがたくは思っている。
だが、だからといって素直に鬼道たちに頭を下げるのはのプライド――ではないが、
なにかこう――言葉では言い表せないモノがの言葉に待ったをかけていた。
しかし、このまま謝らないわけにもいかない。
この空気――鉛のように思いプレッシャーがのしかかる感覚が
永遠に続いた日には、確実にの胃に穴が開く。
中学2年という将来のある身体に、今から穴など開けたくはなかった。
腹を括るようには深呼吸をひとつ。
不意に「不可抗力」という逃げの単語が脳裏を横切るが、それを綺麗さっぱり頭の中から捨てる。
そして、鬼道と豪炎寺に何も言わずに抱きついた。
突然抱きついてきたに鬼道も豪炎寺も驚いた表情を見せたが、
消えそうな「すみませんでした…!」と言うの声に、思わず顔を見合わせて笑った。

 

「お前が無事ならそれでいい」
「御麟、ありがとう」
「……ふたりもお疲れ様」

 

勢いでの口から漏れたのは労いの言葉。
色々なものを誤魔化すために2人に抱きついたのだったが、
豪炎寺と鬼道の間にいることによって、
2人から自分の顔が見ることのできない体制では本当に良かったと思った。
慣れない労いの言葉を口にしたおかげで、の顔は真っ赤になっていることだろう。
ほてる感覚の続く顔が否定したくとも、自分の顔が赤くなっていることを肯定していた。
おそらく、鬼道と豪炎寺も今のの状況を多少なり理解している。
でなければいつまでもこんな状況をよしとするわけがない。
の心情を察してくれる豪炎寺と鬼道に、
若干泣きそうになるだったが、不意に目があった顔に思考が停止した。

 

「達磨もビックリだな」
ひぎゃああぁあああぁぁぁぁ!?!!?!

 

鬼道と豪炎寺から離れ、猛スピードで後方へと下がる
そんなリアクションをとるに驚きながらも、
不意に背後に増えた気配に驚いて豪炎寺と鬼道は振り返ると、
そこには長い紺青色の髪をポニーテール風に結び、
黒いスーツをきっちりと着こなした見慣れない青年が立っていた。
が驚いている原因は確実にこの青年が原因なのだろうが、
原因となっている青年はのリアクションに少しも動揺を見せていない。
どうやら、この青年は鬼道よりもとの付き合いの長い存在のようだ。
顔は赤いのに、表情は青い
だいぶどうしようもない状態になっているが、そんなことは青年にとってはまったく関係ないようで、
呆れたような表情でを一瞥すると、真面目な表情で視線を響木に向けた。

 

「うちの阿呆がご心配をおかけしました」
「…お前には手間をかけたな」

 

頭を下げる青年に響木は労いの言葉をかけるが、青年は「いえ」と首を横に振る。
そして、カツカツと歩きの前にまでやってくると、
不機嫌この上ない表情でを見たかと思うと、何も言わずにを肩に担いだ。
突然青年に担がれ、は暴れて抵抗するかと思ったが、
初めから予想していたのか、端から諦めていたのかはわからないが、
とにかく大人しく青年の肩に担がれていた。

 

「響木さん、少々野暮用があるのでみんなで先に稲妻町に帰っててください。
……鬼道ー、晩ご飯までにはちゃんと帰るからー」
「…では、失礼します」

 

そう言ってを肩に担いで平然と去っていく青年を、
誰も止めることもできずに、ただ見送るしかできないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 終わりました!ついに終わりました!FF編完結しましたー!!
 エイリア編も間を空けずにこのまま突っ走ります!原作も間を空けてないので!
ストーリーがストーリーで、夢主のスタンス――というか私の趣味が趣味なんで、
エイリア編は絶好調でカオスります。挙句の果てに宣言通りのオリキャラ乱舞です。
そんなエイリア編連載になりますが、よろしくしていただけたら幸いです!